2014年8月6日水曜日

ノロウイルス

急性胃腸炎に起因した死亡は世界で年間約145万例と推定されており,全ての年齢層でその主要な原因とされているのがノロウイルスである。米疾病対策センター(CDC)は,200814年に報告されたノロウイルスに関する175件の調査を実施。日本を含む48カ国の急性胃腸炎患者約19万例という過去最大規模のデータの解析から,急性胃腸炎の約2割はノロウイルスが原因であることが示唆された。
2008年に報告された19902008年発表の研究では,急性胃腸炎の散発例の12%がノロウイルスと関連するとの解析結果が示された。
 また最近,分子診断の普及により,急性胃腸炎に対するノロウイルスの影響に関する報告が相次いでいる。今回の研究では,より幅広い地域・国の最新データを用いてノロウイルスに起因した急性胃腸炎の割合を明らかにした。
 175研究のうち26研究は高死亡率に分類される発展途上国からの報告で,それらは主に5歳未満,異年齢,あるいは入院患者を対象としていた。最終的に,日本を含む48カ国の187,336人が解析の対称となった。
その結果,急性胃腸炎患者にノロウイルス感染者が占める割合は18%だった。また入院患者,市中患者,外来患者に分類して解析したところ,同割合は入院患者17%に比べて市中患者24%や外来患者20%で高い傾向が認められた。
 さらにノロウイルスが原因の急性胃腸炎が占める割合は,高死亡率の発展途上国14%に比べて低死亡率の発展途上国19%や先進国20%で高い傾向にあった。
 一方,年齢層別では5歳未満で18%,5歳以上で18%,全年齢では19%で,年齢層による感染率の違いは認められなかった。

急性胃腸炎患者にノロウイルス感染例が占める割合は発展途上国よりも先進国で高いことが示された点について,低所得国では多様なバクテリアや寄生性病原体による急性胃腸炎の罹患率が高いことが背景にあるのではないかと考察された。また,ノロウイルスは,水質改善や食品衛生によって管理することができないとし,ワクチン開発の重要性が強調された。

2014年7月21日月曜日

サッカーの効用

サッカーは60歳以上の男性の健康に多大な恩恵をもたらす可能性がある。こんな研究結果がデンマーク、コペンハーゲン大学の研究でわかった。
 今回の研究の被験者は、6375歳の運動をしていない男性27人。被験者を、サッカーをする群、筋力トレーニングをする群、トレーニングをしない群のいずれかに割り付け、トレーニングを行う2群は週2回、1時間のトレーニングを1年間行った。被験者は全員、試験開始時、4カ月後、12カ月後に身体検査を受けた。
 その結果、サッカー群の被験者では、心機能、筋力、骨密度が有意に改善した。運動をしていなかったころに比べて、サッカーのトレーニングやプレーを行った後には、最大酸素摂取量が15%、インターバル運動の能力が50%、筋の機能が30%改善し、大腿骨頚部の骨密度が2%増加した。
今回の結果は、サッカーは運動していない高齢男性などにとって、効果的で変化に富む、高強度のトレーニングであることを示す強力なエビデンスである。サッカーを始めるのに遅すぎるということはない。サッカーは高齢男性の体力や心臓の健康に寄与し、転倒や骨折のリスクを最小限に抑える。また日常生活においても、心肺機能と筋力が向上するため、活動的に過ごせるようになる。

2014年7月20日日曜日

Helicobacter pylori

Helicobacter pyloriH. pylori)保菌率の高い高齢者と接する機会の多いリハビリテーション(以下リハビリ)職員のH. pylori陽性率が就労年数に伴って上昇していることが,第20回日本ヘリコバクター学会学術集会のシンポジウム「H. pylori感染症の問題点を探る」で報告された。筑波記念病院(茨城県つくば市)副院長の池澤和人氏(消化器内科)が同施設の職員を調べた結果導いたもので,まれと認識されていた成人期のH. pylori感染の可能性を示唆する調査結果として注目される。
高校の卒業式や成人式でH. pylori感染を診断,治療するという試みが各地で行われているが,これはH. pyloriの感染ルートは小児期の唾液を介した家庭内感染が主であり,成人期の感染は少ないとの知見に基づく方策といえる。一方で,プライマリケアに携わる看護系スタッフや内視鏡検査医などが,一般に比べて感染率が高いとの報告もあり,成人後の感染成立が否定できないことを示すデータとして検証が望まれていた。
 池澤氏は,H. pyloriを保菌している可能性が高い高齢入院患者と濃厚に接触しているリハビリ職員において,就労年数がH. pylori感染率に及ぼす影響について調査を行った。
 同施設の40歳未満の職員のうち,リハビリ職員209人および非リハビリ職員22人の尿中抗体を用いてH. pylori診断を行った。過去の除菌歴,腎疾患の既往および尿蛋白陽性者は除外したという。
 今回の研究に同意したリハビリ職員173人(男性98人,女性75人;平均年齢27.5歳,平均就労年数4.4年)のH. pylori陽性率は16.2%(男性14.3%,女性20.0%)であった。
 就労期間から12年,34年,56年,6年超の4群に分けて陽性率を見ると,それぞれ5.0%,12.0%,17.6%,28.6%であり,就労が長期の群で有意に陽性率が高かった。職種別では,患者の唾液・胃液の曝露を受けやすい言語聴覚士の感染率が26.3%と高かったが,作業療法士16.3%,理学療法士15.3%との間に有意差は認められなかった。
 一方で,対照とした非リハビリ職員(薬剤師12人,放射線技師10人、平均年齢27.2歳,平均就労年数4.5年)のH. pylori陽性は1人(4.5%)のみだった。リハビリ職員と非リハビリ職員との間には陽性・陰性例ともに両親・祖父母との同居期間に差はなく,今回の検討には肉親からの影響は少ないと考えられた。

 若いときにH. pylori陰性の診断を受けても,就労環境によっては成人感染することを示唆する結果であり,今後は陰性者のサーベイランスを行い,追跡する必要があるようだ。

2014年7月15日火曜日

動物性蛋白質で脳卒中予防

中国は,日本を含む3カ国で実施された研究で,食事からの蛋白質摂取と脳卒中リスクの関連について検討。その結果,適度な蛋白質摂取により脳卒中リスクが低下すること,また植物性蛋白質に比べて動物性蛋白質,特に魚の摂取が脳卒中予防に有効である可能性が示唆された。
食事からの蛋白質の高摂取が血圧および血清脂質値低下作用に関連することが動物実験で示されたことなどから,1980年代以降,複数の研究でこの関連性が検討されてきたが,一貫した結果は得られていない。
今回,こうした関連性に加え,脳卒中のサブタイプや蛋白質の種類,摂取量の違いによる影響の有無について検討するため,日本を含む3カ国で行われた研究のメタアナリシスを実施した。
症例数は計254,489例で,4件が米国,2件が日本,1件がスウェーデンで実施された研究であった。
解析の結果,蛋白質摂取量の高摂取群では低摂取群に比べて,補正後の相対リスクが20%低下していた。
 脳卒中のサブタイプ別に見ると,蛋白質の高摂取によるリスク低減効果は脳内出血で最も高く,蛋白質の種別で見た脳卒中リスクの低減効果は植物性蛋白質の12%に対して動物性蛋白質では29%と高かった。
 また,5件の研究を対象に蛋白質の摂取が用量依存性に脳卒中リスクに関連するか否かを検討したところ,蛋白質摂取量と脳卒中リスクとの間に非線形関係は認められなかったものの,蛋白質摂取量が20g/日増加するごとに脳卒中リスクは26%低下することが示唆された。

 研究者らは「食事からの適度な蛋白質摂取は脳卒中リスクを低下させる可能性がある。さらなる臨床試験での検証が必要だ」と結論。さらに,蛋白質の種類別で脳卒中リスク低下に差が見られた理由として,今回のメタアナリシスの対象となった7件の研究のうち,魚の高摂取国である日本の2研究と動物性蛋白質の摂取源として主に魚が摂取されていた1研究における脳卒中リスクの低下が顕著であったことから,「赤肉を魚に替えることで脳卒中リスクを低減できる可能性がある」との見解を示している。

2014年7月12日土曜日

地中海食

魚、ナッツ、全粒穀物、野菜、果物を豊富に含む地中海食を摂っている小児はそうでない小児に比べて過体重や肥満になる可能性が15%低いことが、スウェーデン、イェーテボリ大学の研究で示された。これは年齢、性別、経済力、国にかかわらず同じだったという。
 研究では、ベルギー、キプロス、エストニア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、スペイン、スウェーデンの小児9,000人超の体重と食習慣を検討された。被験者の体重と体脂肪は研究開始時と2年後に調べた。地中海食を習慣にしているのは、スイスの小児が最も多く、次にイタリアの小児が続いた。キプロスの小児が最も少なかった。
 研究者らは、「肥満予防に対するその有益な効果を考えれば、地中海式の食事は、欧州の肥満予防戦略の一環として強力に推進すべきである」と述べている。

2014年7月11日金曜日

新たな健診の検査基準

201444日、日本人間ドック学会・健康保険組合連合会が、「新たな健診の基本検査の基準範囲―日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」を発表。この発表をめぐる報道が臨床現場に混乱をもたらしている。そこで、NPO 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)の理事長である桑島 巌氏のコメント転記する。

 今回の基準値は、いわば健康な人の検査値の分布範囲というべきもの。将来の疾病発症について言及しているものではない。つまり、疾病発症予防のために各専門学会が定める“基準値”とは異なるものである。したがって、各専門学会の基準値に変更はないことをご理解いただきたい。
 しかし、一部メディアにおいて、基準値が変更されたと誤認を招く報道があり、患者さんおよび臨床現場を混乱させている。また基準値緩和という表現も多く見られる。これは本来治療しなければならない患者さんの受診回避という、重大な問題を引き起こしかねないと警鐘をならす。

 桑島氏は、データについて正しい解釈をすること、そして患者さんの誤解を正していくことが重要であると述べた。

 以下、NPO 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)の見解を引用する。

J-CLEAR ホームページより転載

 本年4月に,日本人間ドック学会・健康保険組合連合会 検査基準値及び有用性に関する調査研究小委員会が,「新たな健診の基本検査の基準範囲―日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」を発表しました。 この発表があたかも健康基準を緩和したかのような事実誤認の表現として一部マスコミなどで報道されていることに対し,当機構として遺憾の意を表するとともに以下のような見解を表します。

•このたび日本人間ドック学会が発表した基準値は,あくまでも2011年に人間ドックと健診を受けた人のデーターから,その時点で健康と考えられる人の血圧,コレステロールの分布範囲を示したものであり,将来の脳卒中や心筋梗塞などを発症する可能性に対する安全基準に言及した数値ではありません。
•日本動脈硬化学会や日本高血圧学会が発表しているコレステロールや血圧の基準値は,脳卒中や心筋梗塞などの発症予防のための基準値であり,世界や日本で行われてきた一般住民の科学的な長期的追跡調査の結果から導きだされたものです。 単年度の人間ドックや健診受診者の血圧やコレステロールの分布範囲からは,将来の心血管疾患の発症を予測する数字は,もとめられるものではありません。
•今回の報道に関して,メディアの方々には,脳卒中や心筋梗塞という取り返しのつかない疾患を未然に防ぐという予防医学の視点での科学的根拠にもとづいた正確な報道をされることを期待します。

VDT作業

近年では,モニター画面を注視して行うVDTVisual Display Terminal)作業の普遍化,24時間化が進み,長時間のVDT作業による筋骨格系障害が増加している。この度「VDT作業による障害の予防には体を動かす能動的休憩が重要であり,慢性化した障害や疼痛には「新経絡療法」が有用である。」と日本産業衛生学会で報告された。
VDT作業による負担の特徴として①座り続ける(姿勢の負担)②体の大部分はほとんど動かさずに指のみが高度な反復運動を行う作業(手指の負担)③絶え間なく注意を必要とする精神的負担④スクリーン上に再生された質の悪い文字を見るための視覚的な負担−などを挙げられる。これらの負担が,腰痛や頸肩腕障害などの筋骨格系障害の増加につながるという。
 ヒトの片腕の重さは体重の58%で,キー入力やマウス操作などで腕を宙に浮かして保持した場合,腕の重さを支える肩の筋肉に大きな負担がかかる。これがVDT作業による頸肩腕障害の大きな原因で,予防のためには腕の重さを支えるアームレストが重要である。
 アームレストは,キーやマウス操作時に前腕を幅広く支持し,肩甲帯や手首の負担を軽減。手前方向に傾斜があれば,肩が上がることもない。座位では腰に負担がかかり,前かがみになるとなおさらであるが,アームレストにより前かがみ姿勢を避けることもできる。
固定座位には単一の理想的な姿勢というものはなく,最適に設計された椅子においても,1日中同一の姿勢で座ると腰背部の痛みが起こる。同じ姿勢を長時間継続することが問題で,循環障害や筋疲労から筋肉性腰痛につながる。腰椎の固定による椎間板栄養障害からは椎間板ヘルニアを発症することもある。
 自然な姿勢の交代が可能な座面傾動椅子(座ると座面がモーターで前後にゆっくりと傾動する)などの導入により姿勢の負担は軽減されるが,費用がかかるという面もある。椅子より安価な傾動クッションも有用である。同クッションは3層構造と硬質ボードにより体動の促進が可能。
 2時間のVDT作業で傾動クッションの有無により①眼の疲労,頸肩腕,腰背,臀部,下肢の疼痛および眠気②体幹の動揺③総入力文字数と誤入力文字率−について差があるかどうかについて調べた研究がる。
 その結果,眼の疲労,頸肩背中,臀部,下肢の疼痛,眠気についてはクッションありで有意に低下した。特に腰痛では顕著で,クッションにより半減した。体幹傾動時の最大張力についても,クッションありで有意に低下していた。総入力文字数については有意な差は認められなかったが,誤入力文字率については有意差が認められた。傾動クッションは,体幹部の傾動促進によりVDT作業による腰痛などの症状や誤入力を軽減することが示唆された。
VDT作業障害の予防に有用なアームレスト,座面傾動椅子,傾動クッションなどを導入できない環境では,最長でも1時間に1回の休憩を入れ,作業中に使っていない筋肉を意識して動かすべきである。
 VDT作業障害に対する基本的な対策は能動的休憩(作業しながらの休憩)である。VDT作業で使用している筋肉を休め,作業中に使っていない筋肉を動かすことが重要だ。できるだけ大きな筋肉を動かすことが望ましく,歩くことが一番適している。
VDT作業が当たり前になった現代の産業現場では疼痛性疾患が多発しており,環境が改善しても慢性化した頸肩腕障害や腰痛は治らないため,作業改善と作業関連疾患に有効な疼痛治療の必要性がある。最近30年間の研究では,腰痛などの慢性疼痛に対して,鍼治療の科学的有効性と優位性が確立されている。
 鍼治療より手軽な新経絡療法(鍼ではなく棒で押す治療)を提案した。経絡というツボのネットワークを刺激して全身のエネルギーの流れを調整し,疼痛,自律神経障害などの治療を行う新経絡療法には①設備が不要で安全,容易,有効な医療技術②作業関連性筋骨格系障害の治療に従来治療より優位性がある③産業医,保健師でも習得でき,容易に使用可能−という特徴がある。

 新経絡療法は疼痛疾患だけでなく中枢性疾患にも有効で,不眠,めまい,パニック障害などの治癒も報告されている。また,同療法は低コスト,低副作用で鎮痛効果が高く,産業保健に適した治療法である。新経絡療法の産業保健への導入が望まれる。