2017年7月5日水曜日

ES細胞

 京都大ウイルス・再生医科学研究所の末盛博文准教授は7月4日、厚生労働省と文部科学省の承認を受けた再生医療用の胚性幹細胞(ES細胞)について、今年10月にも作製を始め、2017年度末には希望する医療機関に提供できるとの見通しを発表した。
 京大は、不妊治療などを手掛ける足立病院(京都市中京区)の協力を得て、廃棄が決まった受精卵をES細胞の作製に利用する。
 不妊治療の患者には、説明と同意を得る手続きを行った上で、不要になった受精卵を提供してもらい、10月にも作製を開始する。来年2月ごろから提供できる見通しという。
 ES細胞は人工多能性幹細胞(iPS細胞)のように、さまざまな細胞になる能力を持つ。海外ではES細胞を使って網膜の変性症や脊髄損傷、パーキンソン病、糖尿病、心疾患の臨床試験(治験)が進められている。
 末盛准教授とともに記者会見した足立病院の畑山博院長は「(受精卵を)捨てることに悩む患者はたくさんいる。一つの選択肢を示すことができる」と述べた。

時事通信より

2017年6月28日水曜日

「手足口病」2年ぶりに流行の兆し

夏風邪の一つである「手足口病」が2年ぶりに流行の兆しを見せています。
 「手足口病」は手や足、口の中に水ほうができるウイルス性の感染症で、幼い子どもを中心に感染が広がります。
 国立感染症研究所によりますと、今月18日までの1週間に全国の医療機関から報告された患者の数は、1医療機関あたり2.07人と10週連続で増加しました。去年の同じ時期のおよそ6倍で、香川県や高知県などではすでに警報の発令基準である5人を超えています。
 手足口病の流行は2011年、13年、15年と奇数の年に起きていて、夏場にピークを迎えることから、厚生労働省は手洗いの徹底など予防を呼びかけています。

「男性更年期障害」と「うつ病」の見分け方

 体調が優れない、イライラする、よく眠れない―。こうした症状がある中高年男性は更年期障害を疑った方が良いかもしれない。男性も女性と同様に更年期があり50代前後で心と体に変化が訪れる。症状を放置しておくと身体機能の低下だけでなく、うつ病やメタボリック症候群、生活習慣病などのリスクも高まるため、早期発見、早期治療が不可欠だ。
 男性更年期は「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」とも呼ばれ、加齢により男性ホルモンである「テストステロン」が減少することで、さまざまな症状が出る。国内での潜在的な患者は約600万人で、60代以上で2割、50代以上で1割が罹患(りかん)しているという。中には30代で発症するケースもある。
 更年期障害は「うつ病」と誤解しやすく、特に男性更年期は認知度の低さから、更年期の症状に苦しんでいても分からないということも少なくない。
 うつ病か、更年期かはテストステロンを検査することなどで判別できるという。男性向けエイジングケアを手がけるメンズヘルスクリニック東京(東京都千代田区)ではテストステロン値を測定する「男性力ドック」を実施している。
 テストステロンのチェックのほか、身長や体重など体組成の測定、筋肉量や血管年齢、動脈硬化、骨密度など男性ホルモンに関連する全ての項目を検査し、精神面の診察も含めた総合的な視点で健康状態を検査する。一連の検査時間は約1時間で費用は約3万円。全国から月100人程度が受診するなど関心も高まっている。
 男性更年期と分かれば対策も取りやすくなる。ストレスや睡眠不足でホルモン量は低下するため、食事や睡眠、運動といった生活習慣の見直しや男性ホルモンの補充などで症状の改善が期待できるという。
 男性の更年期障害は「うつ病」など精神的な病気と症状が似ていて区別がつきにくい。「男性力ドック」など専門的な検査で判別することが可能だ。男性は「家庭」や「社会」、そして「生物」としての“役割”があり、男性力の維持が求められている。
 男性力ドックは筋年齢や骨年齢、性機能年齢、ホルモン年齢などを問診し、「心」「体」「性」の側面から男性力を数値化して、総合的に更年期や健康状態を判断する。
 男性ホルモンは20歳前後をピークに減少する。更年期障害は4050代が多いが、2030代で来院する患者もいる。また、男性ホルモンが多い、少ないで更年期障害になるわけではない。問題は“変化量”だ。テストステロンが大きく減少した時に症状が出やすい。変化量を継続的に見ることも重要だろう。

日刊工業新聞より

2017年6月17日土曜日

プール熱

首都圏で、のどの炎症や結膜炎などの症状が出る咽頭結膜熱(プール熱)が猛威を振るっている。5日から11日までの週の患者報告数は、東京など4都県で軒並み増加し、警報レベルの地域が続出している。東京都は「過去10年で最も高い値」と指摘。患者が増加傾向の自治体は、手洗いの徹底やタオルの共有を避けるといった感染予防の徹底を求めている。【新井哉】
 東京など4都県がまとめた5日から11日までの週の小児科定点医療機関当たりの患者報告数は、埼玉で前週比11%増の1.28人、東京で6%増の1.16人、千葉で6%増の1.02人、神奈川で27%増の0.85人となった。
 埼玉県では、秩父を除く全保健所管内から患者の報告があり、県内16保健所のうち10保健所管内で前週の報告数を上回った。春日部(2.67人)、越谷市(2.25人)、朝霞(1.93人)の保健所管内で多く、同県は「報告数は3週連続で増加し、過去4年で最も多い」としている。
 東京都の患者報告数は5週連続で増えた。中野区と荒川区(共に4.0人)、台東(3.0人)の保健所管内で警報基準値(3.0人)に達しており、都は今後も増加する可能性があると指摘。神奈川県も「鎌倉保健福祉事務所三崎センター管内(4.5人)で警報レベルを超えた」としている。
 6週連続で増えた千葉県では、習志野(2.9人)や柏市(2.11人)の保健所管内で多かった。
 咽頭結膜熱は、アデノウイルスによる急性ウイルス性感染症で、のどの炎症や発熱、結膜炎の症状が出る。プールでの感染も多いことから「プール熱」とも呼ばれ、主に夏場に流行する。感染経路は主に接触感染や飛沫感染だが、タオルやドアの取っ手、エレベーターのボタンなど患者が触れたものを介してうつり、保育園、幼稚園、小学校などで小児の集団発生も少なくない。

CBnewsより

卵アレルギー

 日本小児アレルギー学会は16日、離乳食を始めるころの生後6カ月から、乳児にごく少量の鶏卵を食べさせることで、卵アレルギー発症の予防になるとの提言を医療関係者向けに公表した。家庭で独断で実施するのではなく、必ず専門医に相談してから始めてほしいと指摘している。
 卵アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーの中で最も多く、有症率は10%といわれる。アレルギーは卵を口にした場合、湿疹や頭痛、呼吸困難などの症状が起きる。
 鶏卵を食べることで卵アレルギーの発症を抑える研究は、国立成育医療研究センターなどのチームが昨年末、英医学誌ランセットに発表。少量を食べ続けることで体が慣れ、免疫反応が抑えられたとみられる。
 学会の提言では、生後6カ月の乳児がMサイズの卵100分の1程度を3カ月間、1歳児で卵半分を取り、皮膚の状況を管理する。ただ摂取は予防のためであり、すでに卵アレルギーの発症が疑われる乳児に摂取を促すことは「極めて危険」と警告している。
 食物アレルギーはかつて、離乳早期に原因となる食品は食べさせるべきではないとされていた。近年、ピーナツアレルギーの発症予防でも、乳児に摂取を始めることで予防につながるとの海外の研究報告がある。
 同学会食物アレルギー委員会の海老沢元宏委員長は「赤ちゃんは湿疹が当たり前という誤解を払拭したい」と話していた。

産経新聞より

「寝コリ」を防ぐには

◆眠っている間に筋肉がカチコチになる「寝コリ」
「眠ると翌朝には体がスッキリ!」と過ごせていた日々は過去の話。
歳を重ねると、眠ってもコリが解消されない。それどころか、寝起きに肩周りや背中がガチガチに固まっている感じがする。そんな「寝コリ」状態になることもよくあるものです。
 実はこれを放置してそのまま過ごしていると、疲労が蓄積されて慢性的なコリとなってしまう可能性があります。どうにか手を打たないといけないのですが……そもそも、1日の疲労のバロメータともいえる筋肉のコリは、なぜ解消されなくなってしまったのでしょうか? 以下で、その原因から考えていきましょう。
◆あなたの不調の原因かも? 寝コリ度チェック
「寝コリ」というとまずイメージとして起床時の肩こりが挙げられるかと思います。まさしくそうなのですが、こうした筋肉のこり固まった自覚症状だけではなく、筋肉のコリが及ぼす体調不良も含まれます。
 次の項目で、当てはまる数が多いほど要注意。眠っていても心身リラックスができずに体に力が入り、寝コリが生じやすくなっている可能性大です!
●睡眠中にリラックスできている? 寝コリ度チェック
□睡眠時間は少なくないのに、起床後もとても眠い
□仕事をしていても午前中に睡魔に襲われることが多い
□朝の洗顔やうがい、着替えといった簡単な動作で体のどこかが痛んだり、体が固く感じて違和感がある
□怖い夢や嫌な感覚の残る夢を見る
□睡眠時、歯ぎしりを指摘されたり、歯の食いしばりの自覚があったりする
□起床後、胃腸の不調を感じることが多い
□出勤時や午前中の外出時に脚の疲労を感じる
□快晴の日の明るさは、眩しすぎて不快に感じる
□以前は違和感がなかったが、枕や布団が体にしっくりこない気がしてきた
◆眠っていても体がこってしまうのはナゼ!?
私達が日中、体を動かしたり思考をめぐらせて頭を使ったりしているとき、五感から多様な刺激を受けています。脳で瞬時にそれらを処理して、パソコンで仕事をしたり、駅まで急いで走ったりと活動状態を維持していることになります。
 眠っても体がこってしまう場合に考えられる大きなポイントは、布団に横になり重力からある程度解放されていても、力を抜くことができないというものです。よく伺うのは「体の力の抜き方がわからない」「自分では脱力しているつもりなのですが……」ということです。
 そして、睡眠中も内臓が活発に働いていたり、リラックスを促す神経系が優位にならず、活発に活動する体制のまま就寝時間を迎えていたりといったことが挙げられます。すると、質の良い睡眠をとることができず、しかも筋肉のコリが生じるほど体に悪影響を及ぼしてしまうことが起こり得るのです。
◆「寝コリ」になるNG習慣とサヨナラしよう!

1.帰宅後の室内照明はなるべくリラックス色に
夕暮れ時の空はオレンジ色ですが、その頃、体は入眠に向けてリラックス状態へ移行していきます。しかし、街も帰宅時の電車内も電気が明るくなかなか夕焼け色を感じることができません。せめて、帰宅後は間接照明などを使い、目から入る光刺激も抑えることができると、リラックスを促す神経系が優位になりやすいです。リラックスして入眠することが寝コリ予防につながります。
2.パソコン・スマホを使う時の明るさ
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で夕焼け色の照明にしたとしても、その中でパソコンやスマホを使うと、部屋の明るさとのギャップで自律神経系のバランスが崩れ、睡眠の質が低下する恐れがあります。パソコンやスマホを使用する際は、書類や本の文字が無理なく読める程度の明るさを目安にしましょう。
 できれば、パソコンやスマホの画面の明るさを抑えるように設定して使用すると目の筋肉の負担も軽減され、快眠の妨げも防止できるかと思います。
3.帰宅したらひと呼吸おく時間をつくる
とはいえ、可能な限りパソコンやスマホはいじらないにこしたことはありません。明るさからの刺激で神経が休まらない以外にも、思考回路がOFFにならないために心の緊張が解けないといったことが寝コリの原因になり得るからです。
 多忙な人は、ほんの10分くらいでも良いので、なるべくリラックスできる服装、かつ姿勢(ソファでくつろぐなど)で、目を閉じてみましょう。この時、好きなアロマの香りや音楽を流したり、温かい飲み物(できれば白湯やハーブティーなど)を口にしながら気持ちを落ち着かせることができると良いですね。
4.くつろぎの飲酒・夜食にも要注意
のんびりした気分になりたい時、嫌なことを忘れたい時にお酒の力を借りるという人もいるかと思います。しかし、深酒してしまうと逆効果です。夜食にもいえることですが、睡眠中に内臓が休まらないとその反応で筋肉が緊張を起こすことがあり、それが翌朝の背中や首のコリ、胃腸の不調となって表れます。
5.合わない寝具はタオルで調整
起床時に首・肩こりを感じると寝具の影響かとすぐに買い替えを検討する人がいます。ですが、一時的に筋肉のコリが生じていることが原因かもしれないため、少し枕の高さを低くするべく重ねたタオルを代用したり、腰部にバスタオルを敷くなどほんの僅かな高さ調整を試みてみましょう。 
6.1日の中で楽しかったこと・良かったことを思い出す
ストレスが多い日々を送っている人は「今日もツライ1日だった」と思うかもしれません。ツライことがあると睡眠中に歯のくいしばり・首や肩に力が入るといったことが起こりやすくなります。
 また、悪夢を見やすくなる人は、夢の影響で身体が強張ったりもします。帰宅後、バスタイム中やその後に今日1日の中で、少しでも良かったと思えることを振り返ったり、興味ある雑誌や本を眺めてみるというように、頭の中のコリも和らげてから就寝時間を迎えるようにしましょう。

2017年6月13日火曜日

寝ぼけは認知症の始まり?

認知症とは、物忘れがひどくなる「記憶障害」、時刻や自分のいる場所が分からなくなる「見当識障害」、物や言葉などが分からなくなる「失認」、着衣などができなくなる「失行」など、さまざまな認知機能の障害が生じる疾患の総称である。これらの症状は認知症の中核症状と呼ばれている。
 認知症はその原因別に幾つかに分けられる。最も多いのはアルツハイマー型で患者の約半数を占める。次いで多いのがレビー小体型と脳血管性で、この3つで認知症の約8割を占める。つまり、レビー小体型認知症は決して稀な疾患ではないのだが知名度は高いと言えない。
 それには理由があって、レビー小体型は比較的最近発見された認知症だからである。最近と言っても日本人研究者がその存在を最初に提唱してからかれこれ40年にもなる。ところが長らく欧米で認められず、1990年代に入ってようやく国際会議で診断基準が定められたという経緯がある。
 そのレビー小体型認知症では、「レム睡眠行動障害」という特殊な睡眠障害が60%もの患者さんで認められる。一般的には中高年の0.51%でみられる程度なので、レビー小体型認知症では高率に合併することが分かる。
 レム睡眠行動障害とは何かというと、夢体験が夢の中だけに留まらず行動化してしまう睡眠障害である。例えば、誰かと喧嘩したり、何物かに襲われたり、犬に噛みつかれそうになって蹴飛ばしたり、などの夢の内容そのままに、寝言で怒鳴ったり、手足を振り回したりしてしまうのである。
 私たちは夢の大部分をレム睡眠中に見る。レム睡眠は睡眠段階の一つで、寝ついてから約90分~120分おきに現れる。レム睡眠中には大脳の活動は比較的活発で鮮明な夢を見ることが多いのだが、逆に体の筋肉は弛緩して全く動かない。
 ナゼ、レム睡眠行動障害ではレム睡眠中に激しい体の動きが出てしまうのであろうか?
 脳幹部と呼ばれる部位にはレム睡眠中に筋肉の動きをオフにするスイッチがあり、健康な人のレム睡眠中にはその「オフスイッチ」の作用で夢行動はおろか寝返りすらできない。ところが、レム睡眠行動障害ではその「オフスイッチ」にトラブルが生じているらしい。

 また、レム睡眠行動障害のほかにも、レビー小体型認知症では嗅覚異常や、手足の震えや筋肉が硬くなり動きが遅くなるパーキンソン症状がよくみられる。
 しかも、レビー小体型認知症では、記憶障害などの中核症状が出現する何年も前から嗅覚異常やレム睡眠行動障害が出現することが多い。パーキンソン症状も中核症状と相前後して、発症のごく早期から認められる。アルツハイマー型など他の認知症でもパーキンソン症状やレム睡眠行動障害がみられることがあるが、かなり病状が進行してから出現するのが普通だ。レビー小体型認知症でのこのような症状の出現順序は特徴的で診断にも大いに役立つ。
 確かなことはまだ明らかにされていないが、これらの特徴はレビー小体型認知症の発症の仕組みとの関係が強く疑われている。
 レビー小体型認知症では、脳内の神経細胞内にあるα-シヌクレインというタンパク質の固まりが異常に蓄積して神経変性(細胞死)をもたらす。このα-シヌクレインは脳内のさまざまな部位に蓄積するのだが、脳の「下から上に向かって」蓄積することが症状の出現順序に関連しているのではないかという仮説が提唱されている。
 その仮説によれば、まず脳の下部にある嗅球と脳幹部にα-シヌクレインが蓄積して細胞を障害する。嗅球が障害されると嗅覚異常が生じ、「オフスイッチ」がある脳幹部が障害されるとレム睡眠行動障害が出現する。実際、認知症を発症していないレム睡眠行動障害の患者さんの脳を死後に調べると脳幹部にα-シヌクレインが蓄積していることが確認されている。
 次いで、蓄積が脳の真ん中辺りにある中脳に拡がり、体の動きをコントロールする神経伝達物質ドーパミンを産生する部位が障害されるとパーキンソン症状が出現する。最終段階で大脳皮質など脳の「最上部」に幅広く蓄積すると中核症状が明らかになるというわけである。今では、α-シヌクレインの蓄積によって神経が変性死するレビー小体型認知症やパーキンソン病、そのほかいくつかの神経疾患は、共通した病因を持つ疾患としてα-シヌクレイノパチーと総称されている。
 α-シヌクレインが脳の「下から上に向かって」蓄積するという仮説の真偽は検討されている最中だが、臨床特徴ともよく合致するため幅広く受け入れられている。
 この仮説が正しいとすれば、パーキンソン病と同様に、レム睡眠行動障害もまたレビー小体型認知症と親戚のような関係にあるとも言える。ただ、レム睡眠行動障害の患者さん全員がα-シヌクレイノパチーを発症するわけではないので、レム睡眠行動障害にもα-シヌクレインの蓄積が原因のものとそれ以外のものがあるようだ。ただし残念ながら、現在の脳画像や血液検査などの診断技術では両者の区別は難しい。
 そのため、レム睡眠行動障害と診断された患者さんは将来的にα-シヌクレイノパチーを発症するのではないかととても不安になる。実際のところ、レム睡眠行動障害に罹るとその後どのくらいの確率でα-シヌクレイノパチーを発症するのだろうか。また、レム睡眠行動障害が出現してからα-シヌクレイノパチーの発症までにどれくらいの期間がかかるのだろうか。
 いくつかの長期調査が行われているが、非常に厳しい結果が出ている。レム睡眠行動障害を発症してから5年後には患者さんの1530%、10年後には4070%、10年以上では5090%が何らかのα-シヌクレイノパチーを発症すると報告されている。数値に幅があるのは調査によって結果が異なるためである。
 これらの調査は主に欧米の研究施設で行われたもので、重症例が集まったため厳し目の結果が出ている可能性がある。実際、日本国内での診療場面ではもう少し発症頻度が低いようだとの指摘もある。とはいえ、中長期的にα-シヌクレイノパチーが現れてこないか慎重な経過観察が必要であることには違いがない。
 そのためにも、悪夢を見て大声を上げたり手足をばたつかせるなどレム睡眠行動障害を疑わせる症状が何度も出てきたときには専門の医療機関に受診して正しい診断を受けていただきたい。定期的な診察を受けることで早期発見も可能となる。レム睡眠行動障害を目撃した家族は「いい年をして寝ぼけてる」などと笑い飛ばすこともあるが、レビー小体型認知症の危険信号の場合もあるので注意が必要なのである。
 オノ・ヨーコさんがレビー小体型認知症を患っていることは悲しいことだが、有名人が闘病していることをカミングアウトしてくれることで人々の関心が集まり研究分野が活発になることも少なくない。レム睡眠行動障害とα-シヌクレイノパチーの関係についての研究はまだ歴史が浅いため、今後の研究の進展に期待したい。

三島和夫先生(睡眠専門医)より