2011年4月30日土曜日

抗うつ薬と動脈硬化

抗うつ薬を服用している男性は、心臓発作や脳卒中の発症をもたらすアテローム性動脈硬化症のリスクを高める可能性のあることが、米エモリー大学の研究でわかった。抗うつ薬は、脳に血液を送る頸動脈の厚さの増大(約5%)に関連しているという。
米エモリー大学は、中年男性双生児513例のデータを収集。被験者の16%が抗うつ薬を服用しており、その60%が選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を、またそれ以外はより古い抗うつ薬を服用していた。
抗うつ薬が血管に及ぼす影響を検討するために、頸動脈の厚さ(頸動脈内膜中膜厚)を測定した結果、抗うつ薬を服用している一方の兄弟は服用していないもう一方の兄弟に比べて肥厚が大きかった。服用した抗うつ薬による違いはみられず、またうつ病自体と頸動脈肥厚との関連は認められなかった。
年齢や糖尿病、血圧、喫煙歴、コレステロール、体重などの因子について調整後もこの状態は同じであった。内膜中膜厚の増大と抗うつ薬服用は明らかに関連しており、同薬を服用し、抑うつ状態がより重症の患者ではこの傾向がさらに強まるようだ。
抗うつ薬と心疾患との間に関連性がある理由は不明としながらも、抗うつ薬によってもたらされるセロトニンやノルエピネフリンなどの脳内化学物質濃度の上昇が血管を硬くし、臓器への血流量の低下、動脈硬化症の危険因子である血圧の上昇につながるとみている。
今回の知見は非常に予備的なものであるため、この研究をもとに患者が抗うつ薬服用に懸念を抱いたり、服用を中止したりすべきではない。抗うつ薬使用とアテローム性動脈硬化症の因果関係の有無を調べるにはより厳正な研究が必要である。

2011年4月29日金曜日

ヨガで心房細動予防

ヨガによって心房細動(AF)が半減することが、米カンザス大学病院の研究でわかった。週3回のヨガにより、生活の質(QOL)も改善し、不安や抑うつに絶えず悩まされる患者の不安や抑うつレベルも低下するという。
心房細動は血液が凝固し脳卒中の原因ともなる不整脈で、米国では多くの高齢者にみられる。治療には、病原となる異常を排除する侵襲的手術、または副作用のある治療薬のいずれかが用いられる。
これまでの研究では、ヨガによる血圧やコレステロールの低下、より弾性のある動脈などの便益がわかっているが、心房細動に限定して検討された研究は今回が初めて。今回の研究では、25~70歳の心房細動患者49例が、指導者のもとで行われる週45分のヨガプログラムに週3回、3か月間参加した。
ヨガには、呼吸運動、さまざまなポーズ(アーサナ)、瞑想およびリラクゼーションが含まれていた。被験者は教育用DVDを渡され、自宅で毎日練習するよう勧められた。研究の結果、運動は行っていたものの、ヨガは行っていなかったクラス開始前の3か月間に発生した心房細動は平均3.8回であったのに対し、3か月間のヨガ練習期間中は平均2.1回であった。

2011年4月28日木曜日

震災関連死

東日本大震災の発生から1か月半、避難所の寒さや衛生状態の悪さから持病が悪化するなどして亡くなる震災関連死の疑い例が、岩手、宮城、福島3県で少なくとも300人近くに上ることが、読売新聞の災害拠点病院などのアンケート調査でわかった。
避難所の劣悪な状況はあまり改善されておらず、専門家によると、関連死が拡大する速度は、阪神大震災や中越地震の時と比較にならないようだ。
調査は、災害拠点病院と主な2次救急指定病院に、これまでに被災した影響で持病悪化や新たな発症で亡くなった患者数を聞いたところ、大半は高齢者とみられる。
死因について138人について回答があり、肺炎などの呼吸器疾患43人、心不全などの循環器疾患40人、脳卒中などの脳血管疾患11人。
石巻赤十字病院は、3月中に1日30-50人の急患が搬送された。半数が避難所の被災者で、意識もなく心停止状態で運ばれてくる高齢者が多かった。同病院は、こうしたケースも関連死の疑い例とみている。
震災関連死は、自治体が地震との因果関係を認定すれば、弔慰金の支払い対象となる。認定作業は審査会を設置して行われるが、医師の死亡診断書や警察の検視などが重要な判断材料となる。
1995年の阪神大震災では仮設住宅の孤独死、2004年の中越地震では車中泊によるエコノミークラス症候群が問題となった。阪神大震災では、発生から10年間で919人が認定された。兵庫県内の死者6402人の14%を占めている。東日本大震災の死者は、警察庁の集計で1万3000人を超えたが、関連死は含まれていない。3県の災害対策本部は、いずれも関連死を把握しきれていないとしている。
震災関連死は地震に伴う持病の悪化や発作などが原因による死亡。明確な基準は定められていないが、自治体が認定する。阪神大震災でわが国の災害史上初めて、避難所生活や必要な医療が受けられないことで病気が悪化した関連死も死者に加えられた。

2011年4月27日水曜日

不妊治療とストレス

ロンドンのカーディフ大学心理学科・不妊治療研究グループは、体外受精(IVF)など生殖補助医療を受けている女性を対象に治療前の精神的苦痛と治療成績とを検討した。その結果、不妊治療の前に不安や落ち込みなどのストレスを感じても、治療成績とは関連しないことがわかった。
妊娠可能年齢人口の9~15%が不妊症で、その半数以上が治療を受けている。
不妊症女性の大半は、精神的苦痛が自然妊娠または不妊治療の成功を妨げる要因の1つだと信じている。しかし、このような考え方は主に、気を楽に持てば妊娠するものだという言い伝えに基づいており、確かなエビデンスもない。そのため、多くの医師はこの関連性について懐疑的な見方を示している。
そこで今回の研究では、ストレスと不妊治療の成績との関連性を調査するために、不妊治療を受けている女性(計3,583例)を対象とする14の研究について解析した。これらの研究では、不妊治療の開始前に参加女性の不安やストレスを評価し、治療結果との関連性が前向きに検討されている。
解析の結果、不妊治療実施前の精神的苦痛は、妊娠の有無とは無関係であることが分かった。
今回の研究から、不妊や治療にストレスを感じても、妊娠成功率には影響を及ぼさないことが確認された。

2011年4月26日火曜日

アルコールの健康被害

世界保健機関(WHO)は,100カ国以上の加盟国におけるアルコール摂取と健康被害に関するエビデンスやデータを発表した。それによると、健康が損なわれるまでアルコールを摂取すること、すなわちアルコールの有害摂取(harmful alcohol use)を低減させ、生命を守るために、これまで以上に政策を強化する必要があるようだ。
アルコールの有害摂取により世界で年間250万人が死亡し、多数の疾患や外傷が発生している。また、その影響は特に若年世代や発展途上国の人々に広く及んでいる。
今回のWHOの報告書には、世界各国のアルコール消費量の推移や飲酒パターン、飲酒に起因した疾患の罹患率および死亡率、社会負担などに関するデータやエビデンスのほか、それらを低減させるための効果的な政策や介入方法がまとめられている。
WHO非感染性疾患・精神保健部門によると、多くの国はアルコールの有害摂取が引き起こす深刻な健康問題を認識しており、疾病負担や社会負担を回避し、なんらかのケアが必要な国民への対策を講じてきた。しかし、アルコールの有害摂取に関連した死亡や疾患を減らすには、いっそうの対策が必要であるようだ。
報告書によると、世界の全死亡件数の4%がアルコールに関連した原因による死亡であるという。これらの死亡の大半はアルコールの有害摂取に起因した外傷やがん、心血管疾患、肝硬変による死亡である。
また、全世界で男性の死亡の6.2%、女性の死亡の1.1%がアルコールに関連しているほか、毎年32万人の若年者(15~29歳)がアルコール関連の原因で死亡しており、これは同年齢層の全死亡件数の9%に相当する。
しかし、報告書によると、アルコールの有害摂取による死亡や疾患、障害を回避するための有効な政策を展開している国は少ないようだ。
WHOがアルコール政策に関する報告書をまとめるようになった1999年以降、少なくとも34カ国がなんらかのアルコール政策を採用した。酒類の販売制限や飲酒運転の取り締まりも強化されてきたが、最も有効な予防策がどれであるかについてははっきりしていない。また、大半の国々では依然、アルコール政策や予防プログラムが不十分なことも指摘されている。
2010年5月、加盟国193カ国が参加したWHOの総会で、アルコールの有害摂取を減らす世界戦略が承認された。同戦略では、(1)アルコール飲料に対する課税の強化(2)アルコール飲料の販売店の削減(3)アルコール飲料の購入可能年齢の引き上げ(4)飲酒運転の規制強化—などを有効性の証明された対策としている。
また、有害な飲酒パターンを変えることを目的とした医療現場でのスクリーニングや介入、アルコール関連疾患の治療、アルコール飲料の販売規制や禁止、有効なアルコール政策を推進するための啓発活動を併せて奨励している。
報告書によると、2005年における全世界の15歳以上の若年者および成人が消費する酒量は、アルコール換算で1人当たり平均6.13Lであった。また、飲酒量を地域別に見ると、2001年から2005年にかけて北米および南米、欧州、東地中海沿岸、西太平洋ではほぼ横ばいで推移していたが、アフリカや東南アジアでは大幅に増加していた。
なお、アルコール消費国は広域にわたっているが、飲酒人口の割合は非飲酒人口の割合を下回り、2005年のデータによると、全男性の約半数、全女性の3分の2を非飲酒者が占めていた。特に、イスラム教徒の多い北アフリカや南アジアでは非飲酒者の占める割合が高く、高所得・高消費国では低かった。

2011年4月24日日曜日

喫煙とALS

ハーバード大学公衆衛生学部の研究で、喫煙と筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症リスクとの間に関連が認められることがわかった。
ALSは運動神経の変性疾患で、米国では毎年5,500例が新規に診断されている。ALSを治癒させる方法はなく、数少ない治療薬の効果も限定的である。ALS症例の約90%は散発性で、原因は不明だが、環境因子が関係している可能性も指摘されている。
今回の研究の結果、
ALS発症率は加齢とともに上昇し、すべての年齢群で女性より男性で高かった。試験開始時点で喫煙歴を有していた人のALS発症リスクは一度も喫煙したことがない人と比べて高いことが分かった。ALS発症リスクは、現役の喫煙者で42%、喫煙経験者では44%高かった。
ALSの発症リスクは、pack-yearsで表す喫煙量(1日に吸うたばこの箱の数と喫煙年数をかけた数字)が増すほど高くなった。pack-yearsに換算しない1日の平均喫煙本数と喫煙期間をそれぞれ独立して調べたところ、両者ともALS発症リスクとの間に正の相関が認められた。ALS発症リスクは、1日当たりの喫煙本数が10本増えるごとに10%、喫煙期間10年ごとに9%上昇した。しかし、これらの相関は、一度も喫煙したことがない者(never-smokers)を除外すると有意ではなくなった。喫煙者の中では、喫煙開始年齢が低い人ほど、ALS発症リスクが高かった。たばこの煙がALSリスクに影響を及ぼす機序に関しては、これまでの研究で複数示唆されている。例えば、たばこの煙に含まれる一酸化窒素(NO)やそのほかの化合物(タバコ栽培の際に使用された農薬の残留物など)あるいは酸化ストレスによる直接的な神経損傷などである。さらに、たばこの煙に含まれる化学物質は、フリーラジカルや過酸化脂質を産生する。また、喫煙者では主要な抗酸化物質であるビタミンCが不足しやすい。喫煙による燃焼生成物の副産物であるホルムアルデヒドに曝露されると、ALSリスクが上昇することが2008年に報告された。喫煙とALSとの関係についての理解を深めることは、他の危険因子のさらなる発見につながり、この疾患の本質解明に役立つであろう。

2011年4月23日土曜日

放射能汚染

汚染された食品の放射性物質の量は、調理や加工で減らせる場合があるらしい。
農産物の汚染経路は、〈1〉大気中の放射性物質が表面に付く〈2〉土壌に降り積もった放射性物質が根を通じて吸収される――の2通りある。いま見つかっているのは、〈1〉の表面汚染だ。
国内外の研究成果をみると、葉もの野菜の表面についた放射性ヨウ素、放射性セシウムとも、水洗いをすると10~30%程度は落ちることがわかっている。葉の裏表、茎にも付くため、水を入れたボウルやたらいの中で、野菜を振るように洗うと良い。水洗いの後で、さらにゆでて、そのゆで汁を捨てると、40~80%は除去できるようだ。
ブロッコリーなどの花蕾類や、根から吸収した野菜の場合はどうか。除去率のデータは少ないが、ゆでて、ゆで汁を捨てればある程度の低減が見込めるようだ。放射性物質はゆで汁に溶け出ると考えられるためで、熱で減るわけではない。
牛乳は、乳製品への加工で放射性物質の量を減らせる。加工過程で、放射性ヨウ素、セシウムは液体の乳清部分に残り、バターやチーズにはほとんど移行しない。そもそも放射性ヨウ素は8日間で放射線を出す力が半分に減るため、乳製品の加工・貯蔵過程で少なくなる。加工法の違いで、牛乳から乳製品への放射性物質の移行率を下げる研究もある。
水道水の放射性ヨウ素汚染に活性炭を使う試みがあるが、効果は薄いとみる専門家が多い。イオン交換樹脂で除去できたとする実験もあるが、放射性ヨウ素を確実に取り除ける家庭用浄水器があるかどうかは、これから検証する必要がある。
放射性物質がどの程度、食品に移行するかは、食品の種類や環境中の濃度、天候などによっても異なる。海産物も含め、食品への汚染を長期にわたり監視し続ける態勢が必要なようだ。

2011年4月22日金曜日

中国の喫煙コスト

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)保健・加齢研究所の研究で、中国で喫煙による健康被害が急増しており、2000年から2008年にかけて喫煙に関連した直接コストは154%、間接コストは376%増加したことが分かった。
中国では2010年時点の喫煙者は3億人以上に上り、同国はたばこの最大の消費国かつ生産国であり、中央政府の歳入の7%はたばこ産業の利益と税金からもたらされているという。
今回の研究では、2003年および2008年に行われた中国の国民保健サービスの調査データを用いて同国における喫煙に関連したコストを推算した。調査データには被験者の喫煙状況、医療サービスの利用、そのコストに関する情報が含まれた。今回の研究では喫煙による数年後の影響を検討するため、35歳以上の成人のみを解析対象とした。
その結果、喫煙に関連したコストは2003年の171億ドルから2008年には289億ドルにまで増加していた。これは、同国のGDPの0.7%に相当した。
喫煙を直接的な原因とする医療コストは、2003年の42億ドルから2008年には62億ドルに増加していた。一方、介護や喫煙の影響による疾患および早死を原因とした生産性の低下などでもたらされる間接コストは、2003年の129億ドルから2008年には227億ドルに増加していた。
さらに、2000年のデータとの比較では、直接コストは2003年に72%、2008年に154%増加。間接コストは2003年に170%、2008年に376%増加していた。この原因として、急激な経済成長に伴い高価でハイテクな医療機器の導入が進んだほか、賃金や医療費の上昇などが影響したのではないかと考えられる。
中国の経済が成長を続け、喫煙率の低下が見られなければ、喫煙による将来の経済コストはさらに膨れ上がることが予想されため、強力な喫煙管理規制が迅速に施行されるべきであると思われる。

2011年4月21日木曜日

小児の高脂血症

シカゴのウェストバージニア大学の研究で、焦げ付き防止加工された調理器具や防水加工された布地の製造過程で使用されるペルフルオロアルキル酸化合物が高濃度に血中から検出された小児では、総コレステロール(TC)値とLDLコレステロール(LDL-C)値が高い傾向にあることがわかった。
ヒトは飲用水、ほこり、食品パッケージ、母乳、臍帯血、大気、就業被ばくを介してペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などペルフルオロアルキル酸から合成される化合物に曝露される。最近の全米調査でも、ほぼすべての血液標本からPFOAとPFOSが検出されている。
ペルフルオロアルキル酸は、耐熱焦げ付き防止調理器具や、布地・室内装飾品に通気性防水性を与えるフッ素重合体の製造過程で使用されている。
PFOAとPFOSはまた、食料製品パッケージ、布地やじゅうたんの工場処理、衣類に汚れを付きにくくする加工処理に使用されるコーティング成分が分解される際にも発生する。
動物実験ではペルフルオロアルキル酸に曝露されると、まず肝臓が影響を受けることが明らかにされており、コレステロール値が変動するなどヒトにも影響を及ぼす可能性が示唆されている。
今回の研究では、飲用水中にPFOAが混入していたオハイオ川中流域の小児1万2,476例(年齢0~17.9歳,平均11.1歳)の血液サンプルから,TC値,LDL-C値,HDLコレステロール(HDL-C)値,トリグリセライド値を測定された。
測定の結果、小児の平均PFOA濃度は69.2ng/mL、平均PFOS濃度は22.7ng/mLであった。12~19歳の参加者ではPFOA濃度が全国平均を上回っていた(29.3ng/mL対3.9ng/mL)が、PFOS濃度についてはそのような差は認められなかった(19.1ng/mL対19.3ng/mL)。
血中PFOA濃度とTC値やLDL-C値との間には正の相関が認められ、血中PFOS濃度とTC値、LDL-C値、HDL- C値との間にも相関が認められた。
血中PFOA濃度が最低5分位の小児と比べ、最高5分位の小児ではTC値が4.6mg/dL、LDL-C値が3.8mg/dL高かった。血中PFOS濃度でも同様に、最低5分位の小児と比べ、最高5分位の小児ではTC値が8.5mg/dL、LDL-C値が5.8mg/dL高かった。
今回観察された傾向は、特にPFOAの濃度が低い群で顕著に見られた。また、全体的には、PFOA濃度よりもPFOS濃度による影響の方が大きいことが推測された。
ペルフルオロアルキル酸全般にいえることかもしれないが、特にPFOAとPFOSについては、血中脂質値に影響を及ぼすと考えられ、全米平均の曝露レベルにおいてさえ、なんらかの影響が生じている可能性がある。

2011年4月20日水曜日

自転車で体重抑制

ハーバード大学公衆衛生学部の研究グループは閉経前の女性を16年間追跡。自転車の利用や速歩によって体重増加が抑制できることが分かった。この関連は、特に過体重や肥満の女性で顕著に見られ、用量依存的効果があるようだ。
米国成人の66%が過体重または肥満で、小児と青年の16%は過体重、さらに小児と青年の34%が将来過体重になるリスクを持つとされる。これまで、歩行と体重増加を検討した研究はかなり実施されているが、自転車に関するものは少ない。また多くが男性を対象としている。そこで今回の追跡調査では、閉経前女性を対象に自転車の利用と体重管理の関係が評価された。
今回の研究では、閉経前の女性1万8,414人を1989から2005年まで追跡し、 体重がこの期間に5%増加したかどうかが確認された。
開始時(1989年)における1日当たりの活動量を調べたところ、1日30分以上速歩をしている女性は39%にすぎず、自転車に乗っている女性も1.2%にとどまった。
追跡の結果、1989年から2005年にかけて速歩および自転車に費やす時間が増加した者ほど体重増加が抑制され、1日当たりの時間が30分増加するごとに、速歩で−1.81kg、自転車で−1.59kgの体重増加の抑制が認められた。一方、時速3マイル未満の低速歩行では、このような変化は認められなかった。
開始時に自転車に乗らないと回答した女性のうち、2005年までに自転車に乗る時間がたとえ1日に5分であっても増えた者では、体重増加が抑制され(−0.74kg)、対照的に、1989年に15分以上乗っていたが2005年時にその時間が減少した女性では体重が増加した(+2.13kg)。
また、追跡期間中に体重が5%増加する確率を算出したところ、正常体重の女性では2005年に毎週4時間以上自転車に乗っている者で低かった。一方、過体重および肥満の女性では2005年時に毎週2~3時間自転車に乗っている者で低かった。
今回の研究から、自転車に乗ることは、速歩と同様に体重増加の抑制に有効であることが分かった。しかし、米国では16歳以上の通勤・通学人口のうち自転車に乗るのは0.5%程度にすぎず、そのうち女性は23%にすぎないのが現状。自転車は、わざわざジムに行かなくても、日常生活の中で、例えば通勤、通学時や買い物に行く際などに車の代わりとして用いることができる。また、自転車は交通手段であって、目的地に着くことが重要となるため、意識せずに運動が行える良い方法である。

2011年4月19日火曜日

交通騒音と脳卒中

デンマークがん学会がん疫学研究所で、デンマークに住む成人を対象に道路交通騒音と脳卒中発症リスクとの関連を検討した結果、騒音にさらされると脳卒中リスクが上昇し、この関連は特に64.5歳以上の高齢者で顕著であることがわかった。
今回の研究は、コペンハーゲンとオーフスに住む5万1,485例(50~64歳)を対象に、既往歴や居住歴などに関するデータを収集した。全被験者の平均追跡期間は10.1年であった。
解析に当たっては、大気汚染の程度や鉄道と飛行機の騒音のほか、喫煙、食生活、アルコールおよびカフェインの摂取などの交絡因子の影響が考慮された。騒音の評価には交通量や車両の速度、道路の種類(高速道路または幹線道路など)と路面状態、道路と住居の位置関係などが考慮された。
さらに、脳卒中を発症した1,881例(3.7%、平均追跡期間6.0年)を対象に、道路交通騒音への曝露による脳卒中の罹患率比(IRR)を検討した。その結果、生活習慣や大気汚染曝露などで調整した後の全例のIRRは1.14であった。
年齢別の検討では、64.5歳未満の者では有意なリスクの上昇は認められなかったが、64.5歳以上の高齢者では道路交通騒音10dB上昇に対するIRRが1.27と有意に上昇していた。
また、自動車の騒音にさらされると脳卒中リスクが上昇することもわかった。過去の研究ではこのような騒音が血圧の上昇や心筋梗塞の発症リスクに関連することが示唆されている。
騒音と脳卒中リスクとの関連について確実な結論を導くにはさらなる研究が必要だろう。これらの間に因果関係があると仮定すれば、全脳卒中の8%、65歳以上の高齢者では19%が交通騒音の影響を受けたと推定できる。今回の研究の対象は主に都市部の住民で、交通騒音にさらされているすべての人々を代表してはいないが、デンマークの人口が550万人で、毎年1万2,400人が脳卒中を発症していることを踏まえると、デンマークでは毎年600例が交通騒音による脳卒中を発症していると推定できる。
さらに、関連が特に高齢者で強かった点について、高齢者では睡眠が分断される傾向があり、睡眠障害が現れやすい。騒音と脳卒中リスクとの関連が主に高齢者で認められたのは、このためとも考えられる。

2011年4月18日月曜日

鉛・カドミウム曝露

米国立小児保健・ヒト発育研究所の研究で、小児期に鉛への曝露レベルが高い女児では思春期の発来が遅れ、この関連は曝露量が多いほど顕著に見られるということがわかった。これまでの先行研究では、重金属への曝露が正常なホルモン産生パターンを妨害し、場合によっては生殖機能の発達に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。今回の研究では、女児700人超(6~11歳)の血液サンプルと尿サンプルのデータを検証。血中の鉛やインヒビンBなどの生殖ホルモンと尿中のカドミウムの濃度を測定した。インヒビンBは女児において、思春期発来の前に徐々に増加することが知られている。今回の研究では、血清中のインヒビンBの濃度が35pg/mLを超える場合に“思春期発来”と定義した。研究の結果、すべての年齢群で、鉛の曝露レベルが低度の女児よりも高度の女児で、血清中のインヒビンBが35pg/mLを超える割合が低い傾向にあった。一方、尿中のカドミウム単独ではこのような有意な関連は認められなかったが、鉛だけが高濃度の場合や鉛とカドミウムがともに低濃度の場合と比べて、鉛とカドミウムの濃度がともに高い女児ではインヒビンBがより低いことが分かった。米疾病対策センター(CDC)によると、カドミウムは腎、肺、骨を障害し、がんリスクを上昇させる。この結果から、鉛が単独か、もしくはカドミウムと協働して、女児が初潮を迎えるに当たって必要となる卵巣でのホルモン産生を抑制するのかもしれないと推測される。さらに、鉛曝露に関連した思春期発来の遅延は、鉄欠乏の影響を受けることも分かった。今回の研究では、鉛の曝露レベルが中等度~高度の女児では鉄分が欠乏していると、インヒビンBの濃度が極端に低かった。つまり、たとえ鉛の曝露レベルが中等度であっても、鉄分が欠乏している女児では、曝露レベルが高度の女児よりもインヒビンBの濃度が低いこともあるという。鉛曝露リスクが高い女児に対して、鉄分不足のスクリーニング検査を行う必要があろう。鉛への曝露は、子供が成長し、思春期を迎えるに当たって懸念すべき重大な課題であることが示された。このことは、小児が有鉛ガソリンや塗料、産業性汚染物質に曝露されている諸外国や米国のいくつかの地域にとって憂慮すべき問題である。米環境保護局(EPA)によると、鉛の曝露源として最も多いのは、劣化しつつある鉛ベース塗料や鉛汚染粉じん、鉛汚染住宅土壌である。

2011年4月17日日曜日

ワクチン同時接種

他のワクチンと同時接種後の死亡報告が相次ぎ、3月上旬から一時見合わせていた小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンについて、4月から接種が再開している。心疾患など重い持病がある乳幼児については単独接種も検討し、同時接種が必要な場合には医師の判断で実施することになった。専門家検討会で、追加報告された2例を含む計7例の死亡例を検証。このうち6例で解剖が行われ、死因は感染症や乳幼児突然死症候群などの可能性が高いと報告された。いずれも接種と死亡との明確な因果関係は認められず、ワクチンの安全性に特段の問題はないと判断した。米国など海外の使用実績でも、10万人に0・1~1人の割合で接種後の死亡報告があるが、死因は感染症などが大半を占め、国内の死亡割合と大きな違いはなかった。

2011年4月16日土曜日

ヒブ、肺炎球菌ワクチン

接種後に乳幼児が死亡したとの報告が相次ぎ、予防接種の実施を見合わせていたインフルエンザ菌b型(ヒブ)、肺炎球菌の2ワクチンの接種が4月から再開している。専門家の検討会が、報告分については死亡と接種に明確な因果関係はないと判断した。死亡例の報告は3月に7件あった。いずれもヒブや肺炎球菌と、三種混合などのワクチンを同じ日に接種していたが、検討会では、国内外の事例を考慮しても「単独接種に比べて重い副作用の増加は認められない」と、同時接種の安全性に問題はないと認めた。ただ、重い持病のある子どもの場合は、医師が慎重に判断するべきだと指摘した。この2ワクチンは、子どもの細菌性髄膜炎などを予防する。昨年11月、市区町村がこれらのワクチンの接種と公費補助をする場合に国が半額負担する事業が始まった。死亡例の報告が相次いだのを受け、厚労省は3月4日から接種を見合わせていた。

2011年4月15日金曜日

高度受動喫煙と乳がん

喫煙女性だけでなく、高度の受動喫煙にさらされている女性も乳がんのリスクが高いということが、米ウエストバージニア大学の研究グループによってわかった。同グループは、50〜79歳の女性7万9,990例を対象に、閉経後女性の生涯にわたる能動喫煙および受動喫煙への曝露と浸潤性乳がんとの関係を検討した。平均10.3年間の追跡で3,520例に浸潤性乳がんが確認された。解析の結果、喫煙経験のない女性と比較した過去の喫煙者と現喫煙者の乳がんのリスクは伴に高かった。多い喫煙本数、長い喫煙期間、10歳代での喫煙開始が有意なリスク上昇と関係していた。最もリスクが高かったのは50年以上喫煙している女性で、喫煙による乳がんリスク上昇は、禁煙後20年まで続いた。また、高度(小児期に10年以上、成人期に自宅で20年以上、成人期に職場で10年以上)の受動喫煙への曝露によって乳がんのリスクは、受動喫煙への曝露がなかった女性と比較して高かった。しかし、受動喫煙への曝露が少ない女性では有意な関係はなく、累積曝露に対する明らかな用量反応は見られなかった。