2011年5月31日火曜日

人工膵臓

1型糖尿病患者の血糖コントロールを向上させる人工膵臓について、日常生活に模した臨床試験を行った英国の研究で、血糖コントロールの改善と夜間危険性の高い低血糖リスクが低減したことがわかった。
クローズドループ・システム(closed loop system)として知られる人工膵臓は、既存の糖尿病管理法であるインスリンポンプと持続的血糖モニターを合体させ、コンピュータ制御で血糖状態に応じたインスリン量を計算し、補充を行うもので、実現化を目指すプロジェクトがいくつか進行している。
英ケンブリッジ大学代謝科学研究所は今回、午後7時に自宅で夕食を取る設定と、午後8時半に飲酒を含む夜間外食をする設定の2タイプの生活シナリオを準備。日ごろインスリンポンプ療法を用いている1型糖尿病患者24例を半数ずつ2つのシナリオに割り付け、夜間の血糖状態を評価した。
自宅食は60グラムの炭水化物を含む中用量の食事とした。対象の半数には夜間人工膵臓を装着、残り半数はインスリンポンプを継続させ、数週間後に交替させた。夜間外食は100グラムの炭水化物を含む高用量の食事とし、予測しない低血糖を起こしうるアルコール(白ワイン)を一緒に摂取させた。食後、対象の半数には人工膵臓を装着し、残り半数はインスリンポンプを継続してもらった。いずれの設定も夜間に2度の血糖値測定を行った。
その結果、自宅食設定では人工膵臓によって血糖値が目標域に収まる全時間が15%(中央値)延長することが判明。外食設定でも血糖値が良好に保たれる時間が28%(同)延長していた。2つの設定を合わせると、血糖が良好に管理コントロールされる時間は22%(同)延長していた。夜間就寝中の低血糖は、人工膵臓装着者では真夜中以降の発現は確認されなかった。重篤な低血糖は4例発生したが、うち3例は装置装着前に補充されたインスリンに起因するものと考えられた。
自己免疫疾患である1型糖尿病では、血糖値をモニタリングしながら微妙なバランスを保つようインスリンを補充する必要があり、有効な人工膵臓は患者の人生を飛躍的に改善させることが期待される。
人工膵臓はまだ揺籃期ではあるが、今回の研究結果は良いニュース以上のものであり、クローズドループ・システムの進化といえるだろう。

2011年5月30日月曜日

瞼裂斑

紫外線が原因の1つとされる疾患で白目の一部が黄色く濁り、シミのような症状が出る瞼裂斑(けんれつはん)。同症状の有病率は約6割、潜在的なものも含めると約8割に達する一方で、認知度はわずか0・7%にとどまっている。眼の不快症状にも影響する身近な眼疾患であるという認識を持つことが重要。同症状のある人では白内障発症のリスクが高いことも最近の研究で明らかになってきているため、早い時期からの正しい紫外線対策が求められる。
瞼裂斑とは、黒目のすぐ脇の白目部分に生じる黄色や褐色がかった隆起性の病変で、ありふれた病変のため眼科医のなかでも非常に軽視されており、カルテへの記載もない場合が多い。だが、研究的にも臨床的にも瞼裂斑は重要な病気であることが認識され始めているという。
紫外線関連疾患として白内障や翼状片は広く知られているが、いずれも大人になってから発症する。一方で、瞼裂斑は早い人で10代から起こる。
瞼裂斑の成因は、たん白糖化最終産物の沈着やD-アミノ酸を含むたん白質の凝集物などが挙げられ、充血や局所的なドライアイの原因になることも少なくない。このほか、翼状片の前駆病変となる可能性もある。
若いうちからの紫外線対策が瞼裂斑に関してはとくに重要。正しい紫外線対策が瞼裂斑、さらには白内障の予防につながる。UVカットコンタクトレンズとサングラスの併用が最も有用である。

2011年5月28日土曜日

加齢性難聴

カネカは、信州大学大学院医学研究科の研究チームと共同で、健康機能食品素材として知られる還元型コエンザイムQ10(CoQ10)に加齢性難聴に対し進行抑制効果のあることを確認した。老化モデルマウスを用いた実験で同素材配合のエサ摂取群と含まないエサ摂取群を、音刺激を脳波で調べる方法により比較。同素材摂取群に顕著な障害低減効果がみられた。また幼若期から摂取させると、老化度合の遅くなることが示されたとしている。
実験では、老化促進モデルマウスSAMP1を用いた。生後1カ月の幼若期、成熟期(7カ月目)、高齢期(13カ月目)それぞれに還元型CoQ10を0・3%混ぜ合わせたエサに調整し、自由摂取させた。また同素材を含まない通常のエサを摂取する対照群と、聴性脳幹反応法(音刺激により惹起させる脳幹の脳波測定法)と呼ばれる難聴の診断に使われる方法により、19カ月まで追跡し比較した。
同素材を摂取した成熟期マウスでは13カ月齢、高齢期も調べた全てのマウスの19カ月齢でそれぞれ中低音域の聴力を維持することが確認された。
また幼若期から摂取させたマウスでは、13カ月齢で高音域を良好に聞き分け、中低音域もほぼ良好な聴力を維持。19カ月齢でも若干障害はでるものの、各音域の聴力を保っていた。さらに老化の進行自体が抑制されている新知見も得られた。
一方、対照群では、13カ月齢から中低音域障害が起こり、19カ月齢にいたるとほぼ聴力を失ってしまった。
CoQ10は、酸化型をヒトが摂取すると体内で還元型に変換される。ところが加齢や病気の発症により、この変換力が低下する。還元型CoQ10素材は、同社が世界に先駆け開発したもので、これまでにモデルマウスの実験で老化を遅延させる機能がわかっている。
同社では、難聴という加齢にともなう問題に還元型CoQ10のもつ機能が対応し得る可能性が示唆されたとして、抗加齢分野でのエビデンスを積み、さらなる検証データの追求を進める考え。

2011年5月21日土曜日

スクリーンタイム

テレビ視聴やゲーム遊びなどのスクリーンタイムの長い子どもは、よく運動をする子どもに比べ眼の動脈が狭窄(狭小化)していることが、オーストラリアの研究で報告された。研究を実施したシドニー大学は、網膜血管を見れば、身体の他の部位、特に心臓で起きていることわかると述べるとともに、成人では網膜動脈の狭窄が高血圧および心疾患リスクの増大を示すシグナルとなると指摘している。
今回の研究では、シドニーに住む6歳児1,492人を対象に、運動をしている時間と座った姿勢で娯楽をする時間を追跡するとともに、眼底の脈管構造(vasculature)のデジタル写真を撮影して血管幅の平均値を算出。全体では、小児のスクリーンタイムは平均1.9時間、運動する時間は36分であったが、屋外で過ごす時間が1日平均30分未満の小児に比べ、1時間以上の小児は血管幅が広かった。スクリーンタイムを1時間半以上過ごす小児はさらに網膜血管に有害な影響のみられる比率が高いことがわかった。1時間のスクリーンタイムによって生じる狭窄は、収縮期(最大)血圧に10 mmHgの上昇をもたらすレベルに相当するものであった。
どのくらい運動をすれば十分なのかについては、今回の研究結果からは明確ではないが、1日1時間のスクリーンタイムを運動に置き換えれば、網膜血管への好ましくない影響を最小限に留めるのに有効と考えられるようだ。
今回の研究は、運動不足の影響について新しい方法で検討したもの。網膜血管に影響を及ぼしているのは、テレビやパソコンの使用ではなく、あくまで運動不足である点を親は認識する必要があろう。

2011年5月20日金曜日

カルシウムサプリメント

骨の劣化予防のためにカルシウムサプリメントを摂取する女性では、心疾患リスクが高いことが、ニュージーランドのオークランド大学の研究でわかった。
カルシウムサプリメントの利用については専門家の間でも見解の一致をみておらず、今回の結果は、サプリメント推奨に大きな影響を及ぼす可能性が高い。
また、研究結果から、カルシウムサプリメント利用の再考が勧められる。食品によるカルシウム摂取には心疾患リスク増大は認められていないことから、カルシウムは食事から摂るよう推奨される。
同研究グループによる最近の分析では、ビタミンDを併用せずにカルシウムサプリメントを利用する女性は、心臓発作リスクが27~31%高いことがわかった。
今回の分析では、米国政府支援による大規模研究「女性の健康イニシアチブ(WHI)」参加女性のうち、登録前にカルシウムサプリメントを摂取していなかった1万6,718人を対象に検討。その結果、カルシウムサプリメントとビタミンD摂取群に割り付けられた女性には、心血管障害(特に心臓発作)リスクに13~22%の増大がみられた。対照群には変化がなかった。さらに約3万人の女性を対象とした未発表の13研究のデータを追加すると、カルシウムサプリメント摂取により心臓発作リスクが25~30%、脳卒中が15~20%増大した。
カルシウムが動脈硬化に関連していることを考えれば、この結果は生物学的には理にかなったものだと言える。しかし、今回の研究からは明確な結論を導くことはできない。骨が脆弱で、カルシウムを摂取する十分な理由のある女性は、恐れずに摂取すべきであろう。いずれにしろ、カルシウムサプリメントとビタミンDの併用による有害性については、さらに研究を重ねる必要がある。

2011年5月18日水曜日

アルツハイマー病

青森県弘前大の研究グループは、アルツハイマー病の原因とされる、たんぱく質だけを攻撃する抗体を開発し、発症予防の可能性があることを突きとめた。
アルツハイマー病は、原因とされるたんぱく質が脳に沈着、凝集し、記憶障害を起こすと予想されている。
研究グループでは、このたんぱく質だけに反応する抗体を作り出すことに成功し、実験で週1回ずつ計36週にわたり、記憶障害発症前のマウスに投与し、投与しないマウスと比較したところ、記憶学習能力が保たれていることが分かったという。この結果、アルツハイマー病の原因が、このたんぱく質にあることも裏付けられたとしている。
マウスの段階だが、アルツハイマー病は予防可能な病気と考えていいのかもしれない。

2011年5月17日火曜日

長寿の秘けつ

くよくよ悩まず陽気に過ごし,あまり働きすぎない。これは長寿のための適切なアドバイスのようだが,カリフォルニア大学リバーサイド校(UCR)心理学の研究で,そうではないどころか,その逆であることが分かった。
今回の結果のように,研究者やマスコミが当然と思い込んでいることがしばしば覆されるのには,本当に驚かされる。また,最も意外だったのは,幼児期に見られた性格上の特徴と社交性により,数十年後の死亡リスクを予測できたこと。
今回の研究は,1921年にスタンフォード大学で心理学の教鞭を執った故Louis Terman教授らが,当時10歳前後であった頭脳明晰な小児1,500人以上を追跡した研究が基になっている。対象児は生涯追跡され,家族歴と家族関係,教師と親による性格の評価,趣味,ペットの有無,仕事上の成功,学歴,兵役の経験など膨大な情報が収集された。その後も研究者らが調査・収集してきたデータを検証し,取捨選択・補足して今回の結果に至った。
疾患に罹患しやすい人や回復が遅い人,早世する人がいる一方で,同じ年齢でも元気な人がいるのは明らかで,これまでに,不安,運動不足,神経を使う仕事,向こう見ずな性格,無信仰,交際嫌い,社会集団の崩壊,悲観主義,医療アクセスの悪さ,A型性格の行動パターンなど,あらゆる危険因子が同定されていたが,長期にわたり十分に検討された因子はなかった。つまり,同一人物を生涯にわたり追跡した研究は存在しなかった。
そこで今回の研究では,Terman教授らの研究の参加者を対象に,健康と長寿に関する因子を追跡することを計画した。
その結果,幸福と健康に関する新たな理解が得られた。中でも特に意外であったのは,参加者のうち,小児期に最も陽気で最良のユーモアセンスを持ち合わせていた人が,あまり陽気ではなく,冗談を言う性格でもない人と比べ,平均的に短命であったとする知見である。つまり,用心深く粘り強い人ほど,良好な健康状態を維持し,長生きしていた。
その理由の1つとして例えば,陽気で能天気な小児は,その後の人生において健康を危険にさらすような行動を取りやすい点を指摘している。今回の研究によると,楽天的であることは危機的状況では時に役に立つが,なんでもうまくいくという考え方に偏り過ぎると,日常生活でかえって危険を招く可能性がある。そうした考え方の人は,健康や長寿に重要な事柄に対しても軽視しがちであるという。一方,用心深く粘り強い性格は,長期にわたってプラスに働くとされる。幸福は健康の真の源ではないことが分かった。幸福と健康とは,両立し合うもののようだ。
今回の知見の多くは,世間一般の通念と矛盾するところが多い。例えば,以下のような知見が得られている。
 (1)結婚は男性の健康にとってプラスになるかもしれないが,女性にとってはさほど関係ない。堅実な結婚をした男性,すなわち婚姻生活を長く維持できた男性は,70歳以上まで生きる傾向にあったが,離婚男性で70歳以上まで生きた人は3分の1に満たなかった。さらに,一度も結婚歴のない男性は,再婚した男性よりも長生きし,離婚男性と比べた場合,その傾向は有意であったが,堅実な結婚を維持した男性ほど長生きしなかった
 (2)女性の場合,離婚が健康に及ぼす影響は,男性よりもはるかに小さい。離婚後に再婚しなかった女性と堅実な結婚を維持した女性の寿命は同等であった
 (3)「働きすぎず,ストレスをつくらない」というのは,健康と長寿のためのアドバイスとしてふさわしくない。研究の参加者のうち,最も健康で長生きしたのは,仕事に熱心に打ち込んだ者であった。男女とも,のんびり気楽に過ごした人より生産的な生活を維持した人の方が明らかに長生きしていた
 (4)公教育の開始が早過ぎること,つまり6歳未満で1年生になることは,早世の危険因子である。遊ぶ時間を十分に持ち,級友とかかわり合えることは小児にとって非常に重要である
 (5)ペットと遊ぶことは長寿に関係しない。ペットから安らぎを得ることは時々あるが,友人の代用にはならない
 (6)退役軍人は長生きできない場合が多いが,意外なことに,戦争による心理的ストレス自体が主要な健康リスクであるとは言えない。むしろ問題は,従軍後に不健康な生活習慣に陥ることである。戦争という衝撃的な体験の意味を見いだし,安全な世界を再度実感できた者は,たいてい健康な生活に戻る
 (7)愛されている,気遣ってくれる人がいると実感している者では幸福感を抱きやすいが,そのことは長寿には影響しない。健康的な人になるか,不健康な人になるかは,その人のかかわる集団によって決まることが多い
健康的な生活を始めるのに遅過ぎるということはない。最初の第1歩は,健康的な生活を送るためにしなければならないことのリストを捨て,過剰な心配の連鎖をやめることだ。食事においてω-6脂肪酸とω-3脂肪酸をどのように取るかなど,健康と長寿に役立つとされる細々としたことを考え過ぎると,重要な道筋からかえってそれることになる。自分にとっての健康的な生活パターンを長期的視点から思い描くことができれば,今からそのパターンに近づけることができるようだ。
変化は少しずつ積み重ねていくものととらえるべきである。一夜にして自分自身を大きく変えることはできないが,小さな行動の変化を段階的に積み重ねていくことで,やがては長寿への道を開くことができるのかもしれない。

2011年5月16日月曜日

大量飲酒と膵がん

米国がん協会(ACS)疫学研究で、大量飲酒者,特に蒸留酒を1日3杯以上飲む人では,非飲酒者と比べて膵がんで死亡するリスクが有意に高いことがわかった。
是正可能なライフスタイル因子である飲酒は,口腔,咽頭,喉頭,食道,肝臓,大腸,乳房などのがんと因果関係があることが知られている。膵臓との関連では,大量の飲酒が急性または慢性の膵炎を引き起こすことが知られているが,膵がんについては決定的な関連は示されていない。
そこで,今回の研究では,ACSが支援しているがん予防研究のデータ(30歳以上の米国人成人約100万人を対象)を用い,飲酒と膵がんの関連について検討した。
全参加者(男性45万3,770例,女性57万6,697例)のうち,男性の45.7%,女性の62.5%が非飲酒者だった。男性のみと男女混合の解析を行ったところ,非飲酒者と比べて飲酒量が1日3杯の群と4杯以上の群で膵がんによる死亡リスクが有意に高いことが分かった。女性のみの解析では,1日4杯以上の群で同リスクが有意に高かった。
また,アルコール飲料の種類別に見ると,母集団全体では,非飲酒者に比べてウイスキー,ブランデー,ジン,ラム酒などの蒸留酒を1日3杯以上飲む人で,膵がんによる死亡リスクが高いことが分かった。喫煙非経験者または喫煙経験のある非喫煙者に限って解析すると,蒸留酒を1日2杯以上飲む人で同リスクが高かった。しかしこれらの関連は,ビールとワインでは認められなかった。
喫煙非経験者(男女混合)の膵がんによる死亡リスクは,1日3杯以上の飲酒者で非飲酒者より36%高かった。喫煙経験のある非喫煙者では,喫煙歴などで調整後も同リスクは16%高かった。
今回の研究により,飲酒量,特に大量飲酒が,米国のがん死因で4番目に多い膵がんの独立した危険因子であるとするこれまでの仮説が強く裏付けられた。

2011年5月15日日曜日

がん患者増加

米国がん協会(ACS)は,肺がんや乳がん,大腸がんなどライフスタイルや経済発展に伴う行動様式の変化に関連するがんは,今後,広く予防策を講じなければ,発展途上国で増加の一途をたどるとの見通しを発表。全世界では,2030年までにがん患者,死亡者数が倍増すると予測している。
国際がん研究機関によると,2008年における全世界の新規がん患者数は1,270万人で,そのうち560万人は先進国,710万人が発展途上国で発生している。2008年のがん死亡者数は,全世界で760万人と推定され,内訳は先進国で280万人,発展途上国では480万人であった。世界のがん疾患負担は,2030年までにがん患者数2,140万人,がん死亡は1,320万人と,約2倍に膨らむと見込まれている。
患者数や死亡者数の増加は,人口増加や人口の高齢化など人口動態の変化によるものだけでなく,喫煙や不健康な食生活,運動不足など経済発展に伴うライフスタイルや行動様式の変化により,さらに悪化する可能性がある。
今回の報告では,先進国と発展途上国のがん罹患率の比較から,両者で発生しているがんの種類の違いが浮き彫りになっている。
先進国において,2008年に最も多く発生した上位3つのがんは,男性では前立腺がん,肺がん,大腸がん,女性では乳がん,大腸がん,肺がんだった。一方,発展途上国においては,男性では肺がん,胃がん,肝がん,女性では乳がん,子宮頸がん,肺がんだった。
発展途上国ではライフスタイルの変化によって,肺がんで死亡する患者が増加している。欧米のほとんどの国で男性の肺がん死亡率は低下しているが,中国やアジア,アフリカの一部の国では上昇しており,これらの国々では,早期からの喫煙習慣で喫煙率が上昇し続けている。
女性の肺がん率は,米国においては頭打ちとなっているが,多くの国で上昇しており,その傾向はスペインやフランス,ベルギー,オランダで顕著である。特に若年女性の罹患率が上昇していることから,これらの国々における女性の肺がんは,大規模な介入を実施しなければ,今後数十年にわたり増え続ける可能性が示唆された。
大腸がんの罹患率は米国では減少しているが,スペインや東南アジア諸国の多く,東欧諸国など歴史的にはリスクが低かった国々において,急激に上昇している。
今回の報告の中には,がんが大きな問題となっているアフリカについて,特別セクションが盛り込まれた。国際がん研究機関によると,アフリカにおける2008年のがん新規患者数は68万1,000人,がん死亡は51万2,400人だった。人口の高齢化や人口増加,さらに喫煙や不健康な食生活,運動不足など,経済発展や都市化に伴う行動やライフスタイルの変化により,2030年までに新規患者数は128万人,死亡は97万人に倍増すると見込まれている。
報告書は,アフリカでは資源不足やHIV/エイズ,マラリア,結核といった感染症など,差し迫った公衆衛生上の問題が山積していることから,がんの社会負担が増大しているにもかかわらず,がん対策の優先順位は低いと指摘している。
アフリカでは,がん検診制度などの医療サービスが欠如し,初期症状に対する市民や医療従事者の理解度が低いために,がんが進行した段階で診断されることが多い。
また,がん診断後の生存率も先進国に比べて低い。例えば,乳がんの5年生存率は,米国では90%であるのに対して,ガンビアやウガンダ,アルジェリアでは50%以下である。
喫煙は世界のがん死亡原因の20%を占め,最も予防効果の高い危険因子だが,アフリカのがん死のうち,喫煙によるものは6%にすぎない。喫煙の影響が少ないことは,アフリカではまだ喫煙がそれほど流行していないことや,女性の喫煙率が低いことを反映したものと考えられる。しかし,経済発展に伴うライフスタイルの変化や,たばこ産業によるアフリカを対象としたマーケティングの拡大などにより,多くのアフリカ諸国ではたばこ消費量が増加している。特に,10歳代の喫煙率の増加は重大な懸念材料である。
Global Youth Tobacco調査によると,アフリカの一部では,少年の喫煙率が成人の喫煙率より高い国もあるとされている。
アフリカの大半の国々は,たばこ規制枠組み条約を批准しているが,ガイドラインに沿って禁煙プログラムを実施している国はほとんどない。
2008年における760万人のがん死亡例のうちおよそ260万人,すなわち1日当たり7,300人の死亡は,喫煙や食生活,感染症や飲酒など,既知の危険因子を回避することで,予防可能であったという。
がん征圧に向けた知識を世界各国や地域の能力および経済の発展段階に応じた方法で応用することにより,次の20~30年間にがん死亡を減らすことができるかもしれない。そのためには,政府や公衆衛生機関,援助資金供給者,民間部門が,国や地域レベルでのがん征圧プログラムを世界規模で開発,導入する必要があろう。

2011年5月14日土曜日

肺がんの予測マーカー

足指の爪のニコチン値は喫煙歴とは独立した肺がんの強い予測因子であると,米カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループが発表した。
同グループは,男性の医療専門家の追跡調査で1988〜2000年に肺がんを発症した210例とマッチさせたコントロール630例を対象に研究を実施。1987年に採取した足指の爪サンプルのニコチン値と肺がんとの関係を検討した。
その結果,足指の爪の平均ニコチン値は症例群が有意に高値だった。ニコチン値の最低五分位と比較した最高五分位の肺がんの相対リスクは単変量解析で10.50,喫煙歴の報告から喫煙指数を補正した多変量解析でも3.57と有意に高かった。

2011年5月12日木曜日

ベリー類

ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)の研究で、ベリー類の摂取によってパーキンソン病(PD)の発症リスクが低減され,さらに男性ではリンゴやオレンジなどフラボノイド含有率の高い食品の摂取によって低減効果が高まることがわかった。
研究では,男性4万9,627例と女性8万171例を対象に,質問票とデータベースを用いて算出したフラボノイド摂取量と,PD発症リスクとの関係を分析。この研究には20~22年間に及ぶ追跡調査を伴っている。なお,フラボノイド摂取量に関しては,含有率が最も高い紅茶,ベリー類,リンゴ,赤ワイン,オレンジ(果物と果汁)を対象に,品目別に分析された。
その結果,研究期間中にPDを発症したのは782例だった。そのうち,男性におけるフラボノイド摂取量の最高位20%では,最低位20%よりもPD発症率が約40%低かった。一方,女性ではフラボノイド摂取量とPD発症率との相関関係は認められなかった。しかし,フラボノイドに関するサブ解析によると,男女とも主にベリー類によるアントシアニンの習慣的な摂取と,PD発症率低下との間に有意な相関関係が認められた。
この研究は,フラボノイドとPD発症リスクとの相関関係についてヒトを対象に分析した初めてのもの。今回の結果から、フラボノイド,特にアントシアニンを含む一連の食物に,神経保護作用があることが示唆された。

2011年5月11日水曜日

コーヒーの効能

コーヒーの摂取により脳卒中のリスクが低下する可能性があることが、スウェーデンのグループの研究でわかった。
これまでの研究では,コーヒーの摂取と脳卒中発症との関係は一貫していない。同グループは,スウェーデンの心血管疾患やがんの既往のない女性3万4,670例を前向きに追跡し,コーヒー摂取と脳卒中発症との関係を検討した。
平均10.4年の追跡で1,680例に脳卒中の発症が確認された(脳梗塞1,310例,脳出血154例,くも膜下出血79例,不明137例)。他の危険因子を調整した結果,コーヒーの摂取は脳卒中全体,脳梗塞およびくも膜下出血の有意なリスク低下と関係していた。脳出血については有意なリスク低下は見られなかった。
1日のコーヒー摂取1杯未満を参照(1.00)とした脳卒中全体の相対リスクは1〜2杯が0.78,3〜4杯が0.75,5杯以上が0.77だった。コーヒー摂取と脳梗塞の関係は喫煙,BMI,糖尿病または高血圧歴,アルコール摂取によって変わることはなかった。

2011年5月10日火曜日

加糖飲料

インペリアルカレッジ(ロンドン)公衆衛生学部が,2,500人を超える英国人および米国人のデータを用いて横断的研究を行った結果,加糖飲料の過剰摂取が血圧上昇と直接的に関連することが分かった。
心疾患は世界で最も多い死亡原因で,高血圧はその主要な危険因子として知られている。例えば,血圧値が135/85mmHgの人では,115/75mmHgの人と比べて心筋梗塞や脳卒中のリスクが2倍高い。
今回行った研究では,1日当たりの加糖飲料の摂取量が1缶(355mL)増えるごとに,収縮期血圧(SBP)が平均で1.6mmHg,拡張期血圧(DBP)が同0.8mmHg上昇することが示された。また,体重や身長などの因子で調整した後も,この差は統計学的に有意であった。
今回,加糖飲料の過剰摂取が血圧を上昇させる機序については検討されなかった。しかし,研究者らは、加糖飲料の摂取によって血中尿酸値が上昇し,一酸化窒素(NO)活性が低下することで,血圧の上昇がもたらされるのではないか」と考察している。
また,加糖飲料の摂取と血圧上昇との関連は,糖分だけでなく塩分を過剰に摂取している人でも強かったことから,塩分の過剰摂取により高血圧リスクが高まることは既に知られているが,糖分の摂取量についても注意すべきことが示唆された。
今回の研究では、国際研究(INTERMAP)に参加した米国人および英国人2,696人(40~59歳)のデータを用いて加糖飲料,ダイエット飲料,糖類(フルクトース,グルコース,スクロース)と血圧値との関連について検討した。これらのデータには,平均3週間の追跡期間中に4回行われた24時間以内に摂取した飲食物に関する調査への回答,2回採取された尿サンプル,8回測定された血圧値のデータが含まれた。
その結果,加糖飲料の摂取は血圧に直接的な影響をもたらすことが分かった。一方,ダイエット飲料の摂取と血圧低下との関連が認められたが,一貫したデータは得られず,その関連も弱かった。
さらに,加糖飲料を多く摂取する人には,栄養の偏った食事を摂取する人が多い傾向が認められた。1日に1本以上の加糖飲料を摂取している人では,摂取しない人に比べて糖分摂取量が多いだけでなく,摂取カロリーが平均で1日当たり397kcal高く,食物繊維やミネラルの摂取量は少なかった。
加糖飲料を大量に摂取する人では健康的な食事を取っている割合が低いようだ。このような人は食品からのカリウムやマグネシウム,カルシウムの摂取量が少ない。今回の研究結果だけで加糖飲料が血圧を上昇させるとは断定できないが,加糖飲料を飲むなら適量にすることが勧められる。

2011年5月9日月曜日

パイロット

ブリティッシュ・ミッドランド航空(ロンドン)が,英国の民間航空会社に勤務するパイロット約1万5,000人を対象に心血管疾患(CVD)の危険因子の保有率について後ろ向き研究で検討した結果,パイロットでは一般人口に比べて喫煙者や肥満者が大幅に少なく,CVD危険因子の保有率が低かった。
今回の研究は航空機の乗務員を対象にCVD危険因子の保有率について検討した最大規模のもの。英国でパイロットの免許を行使する際に求められる医学的適正の認定書を保持する1万4,379人(女性805人)を対象に,BMI,過体重および肥満,喫煙,高血圧,糖尿病などのCVD危険因子の保有率を調べ,一般人口の保有率と比較した。
その結果,平均BMIは一般人口に比べてパイロットで大幅に低かった。しかし,男性パイロットでは,過体重(BMI 25~30)の割合は一般人口と同様に加齢とともに増加し,25歳未満および35~64歳の年齢層では一般人口よりも高い傾向が認められた。一方,女性パイロットでは,過体重の割合は一般人口よりも低い傾向が認められた。
全パイロットにおける肥満(BMI 30超)の割合は,一般人口に比べて大幅に低かった。例えば,25~34歳の年齢層における肥満の割合は,一般人口の21.0%に対してパイロットでは8.3%であった。
パイロットの喫煙率を見ると,最も喫煙率が高い年齢層は,男性が25~34歳(10%),女性が25歳未満(8%)であった。ただし,全体の喫煙率は一般人口の約3分の1とはるかに低かった。
高血圧の割合は,25歳未満および35~44歳では一般人口よりも高く,45~54歳および55~64歳では一般人口よりも低かった。
なお,糖尿病に罹患している場合は民間航空会社のパイロット免許は保持できないため,今回検討の対象となったパイロットで糖尿病と判明したのは男性で0.2%,女性では皆無であった。
さらに,パイロットは一般的に社会経済的地位が高いとされているため,社会経済的因子の影響を調整するために一般人口のうち,所得が最高五分位の集団と比較した。その結果,同集団と比べても,パイロットでは喫煙率と肥満率が大幅に低かった。
近年,世界中の航空当局の間で,民間のパイロットにおける心血管リスクプロファイルを重視する傾向が強まっているという。
今回の研究結果では,喫煙と肥満という2つの重要なCVD危険因子の保有率が,英国のパイロットでは一般人口よりもはるかに低いことが示された。過体重の割合はパイロットで高かった原因として(1)坐位時間が長い職務内容(2)不規則なシフト勤務パターン(3)外泊の機会が多いために食事内容が不健康になりがちである—などが考えられた。

2011年5月8日日曜日

2型糖尿病

インスリン抵抗性および2型糖尿病の発症には、免疫システム反応のゆがみが関与している可能性が新しい研究でわかった。カナダ、トロント総合病院では、肥満およびインスリン抵抗性患者が有し、非インスリン抵抗性の肥満者はもたない免疫システム抗体を同定。また、免疫システムを改変する薬剤が高脂肪食を与えられたマウスでの正常な血糖値維持に役立つことを発見した。
2型糖尿病では、身体がインスリンを効果的に利用できないため、膵臓はインスリン産生を増加させるが、結果的に必要な量のインスリン産生ができなくなる。原因はまだ明らかではないが、家族間でみられることから遺伝的要因があると考えられる。体重増加と強く関連しているが、過体重のすべての人が発症するわけではなく、研究者らは別の因子を探索している。
過剰な体重が炎症に関連し、これが免疫システム反応のゆがみの原因と考えられる。腹部脂肪が拡大するとスペースがなくなり、脂肪細胞がストレスを受けて炎症を生じ、ついには細胞が死に至り、マクロファージ(大食細胞)がこれを掃除する。免疫系システム細胞のT細胞やB細胞も、ストレスや細胞の死に反応する。B細胞は外部からの異物に対する抗体を作るものだが、肥満の場合、脂肪に対する抗体を作り、それが脂肪細胞を攻撃してインスリン抵抗性とし、脂肪酸の処理を妨げる。この脂肪細胞に対する猛攻が、2型糖尿病だけでなく、脂肪肝、高コレステロール、高血圧にも関連しているという。
今回の研究では、インスリン抵抗性でないマウスに高脂肪食(60%が脂肪)を与えた。6週間目、7週間目に、マウスに抗CD20抗体(非ホジキンリンパ腫治療薬リツキシマブ:B細胞表面のCD20 に結合し、B細胞を破壊する)を投与。投与マウスはインスリン抵抗性を発症せず、血糖値も正常だったが、対照群のマウスはインスリン抵抗性となった。
また、32人の肥満者(半数はインスリン抵抗性)から血液試料を採取。インスリン抵抗性者が有する抗体セットは、非インスリン抵抗性者の抗体と異なっていた。肥満で非インスリン抵抗性の人が有する保護的抗体をもとに、2型糖尿病ワクチンが開発できる可能性がある。ただし、用いられたマウスは雄で、被験者も男性であったことから、この知見が女性にも当てはまるかどうかは不明」としている。さらに、抗CD20抗体は免疫システムを低下させ、重大な副作用を生じる可能性がある点も指摘。他の治療薬があるので、この薬剤が2型糖尿病に用いられるかどうかは確信できない。しかし、免疫システムの構成成分が2型糖尿病発症に寄与しているならば、別のよりよい治療法につながるかもしれない。

2011年5月7日土曜日

避難生活

精神的負担などから睡眠不足が続くと交感神経が緊張状態となり、血圧の上昇を招く。さらに脱水などから血が固まりやすくなり、脳卒中や心筋梗塞の原因となる。
インフルエンザや感染性胃腸炎などの感染症も要注意。また、がれきの撤去や家屋の片づけの際、乾燥したヘドロが空気中に舞い、細菌や化学物質を吸い込むことで肺炎を発症する恐れもある。
粉じんが多い場所を避け、マスクを着用するよう心がけねばならない。
精神面の影響も心配されている。プライバシーが保たれないことや、余震などによるストレスが大きい。避難者同士で炊き出しなどの作業をすることを通じて、自然と愚痴を言い合えるような運営の工夫が欠かせない。

2011年5月6日金曜日

子宮頸がんワクチン

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種について、3回の接種を標準スケジュールの初回接種0・2・6ヵ月ばかりでなく、0・3・9ヵ月や0・6・12ヵ月で行っても、効果は非劣性であることが、米国・ワシントン州シアトルで行われた無作為化非劣性試験で確認された。
研究グループは、2007年10月~2010年1月にかけて、ベトナム21ヵ所の学校に通う11~13歳の女生徒903人について、オープンラベルクラスター無作為化試験を行った。研究グループは被験者を無作為に、HPVワクチンを「標準接種(0・2・6ヵ月)」「0・3・9ヵ月」「0・6・12ヵ月」「0・12・24ヵ月」のスケジュールで接種する4群に割り付けた。
3回目接種後1ヵ月に血清抗HPVの幾何平均抗体価(GMT)を調べ、標準接種に対する非劣性試験を行った。各接種群GMT値の標準接種群GMT値に対する割合を調べ、95%信頼区間の下限値が0.5以上であれば非劣性が認められると定義した。
結果、標準接種群の3回接種後のGMT値は、HPV-16が5808.0、HPV-18が1729.9だった。それに対し、9ヵ月スケジュール群のGMT値はそれぞれ5368.5と1502.3、12ヵ月スケジュール群はそれぞれ5716.4と1581.5と、いずれも標準スケジュール群に対する非劣性が認められた。
一方で、24ヵ月スケジュール群については、3692.5と1335.7で、標準スケジュール群に対する非劣性は認められなかった。
このベトナムの青年期女児において、HPVワクチン投与は標準または選択スケジュールにおいても、免疫原性、忍容性ともに良好であった。標準接種法(0・2・6ヵ月)と比較して、2つのスケジュール法(0・3・9ヵ月、0・6・12ヵ月)は、抗体濃度について非劣性であった。

2011年5月5日木曜日

低用量アスピリン

低用量アスピリン療法は上部消化管出血リスクを、非投与群との比較で約2倍に増大すること、またそのリスクは、クロピドグレル、経口抗凝固薬、NSAIDs、経口ステロイド大量投与との併用でさらに上昇することが、スペイン薬剤疫学研究センターの研究により明らかにされた。心血管イベントの2次予防として現在、低用量アスピリン単独ならびにクロピドグレル併用療法は標準療法として行われている。しかし臨床試験により、各療法の上部消化管出血リスク増大との関連および併用によるさらなるリスク増大のエビデンスが示されていた。研究では、一般集団における同療法またその他胃粘膜に対し有害作用を有する薬剤の影響について評価を行った。
研究グループは、英国プライマリ・ケアを担う開業医により約300万人の患者データを抽出し、コホート内症例対照研究法にて解析を行った。
2000~2007年に上部消化管出血リスクと診断された40~84歳の患者2,049例をコホート群とし、対照群は年齢、性、暦年をマッチさせた20,000例で、上部消化管出血と低用量アスピリン(75~300mg/d)、クロピドグレル、その他併用薬との関連、相対リスク(RR)を評価した。
その結果、低用量アスピリン療法(75~300mg/日)は上部消化管出血リスクを約2倍に増加させることがわかった。 
さらに、アスピリン単独群に比較して、クロピドグレル併用で2倍、抗凝固療法で2倍、非ステロイド系消炎鎮痛剤で2.5倍、ステロイドで4倍も増大することがわかった。
これまでに、一般集団における抗血小板薬の併用療法も含めた十分な消化管出血リスクの検討はなされていなかった。
上部消化管出血は一般集団の1000名あたり、年間0.5-1件発生すると推定されている。 したがって、アスピリン投与で年間1-2名、クロピドグレルや抗凝固療法の併用で2-4名発生することになる。 
アスピリンを含めたNSAIDs潰瘍の治癒および予防については、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択治療とされている。わが国では、昨年7月よりPPIランソプラゾール15mgが、「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制」に対する適応が追加されている。

2011年5月3日火曜日

肥満高齢者

肥満高齢者に対しては減量と運動の介入をワンセットで行うことが、どちらか単独の介入をするよりも身体機能の改善が大きいことが、米国・ワシントン大学医学部老年医学・栄養学部門の研究の結果、わかった。肥満は加齢に伴う身体機能低下の増大や高齢者の虚弱を引き起こすとされるが、肥満高齢者に対する適切な治療については議論の的となっているという。
研究は、1年間にわたり減量、運動介入の単独もしくは併用の効果を評価することを目的に行われた。107例が、対照群、体重管理(ダイエット)群、運動群、体重管理+運動(ダイエット+運動)群に無作為に割り付けられ追跡された。
試験を完了したのは93例(87%)だった。身体機能は、ダイエット+運動群が21%増で、ダイエット群12%増、運動群15%増よりも変化が大きかった。なおこれら3群は、対照群(1%増)よりはいずれも変化が大きかった(P<0.001)。
また、最大酸素消費量の変化は、ダイエット+運動群が17%増で、ダイエット群10%増、運動群8%増と比べ改善が認められた(P<0.001)。
機能状態については、ダイエット+運動群が10%増で、ダイエット群4%よりも変化が大きかった(P<0.001)。
体重の減量は、ダイエット群10%、ダイエット+運動群9%で認められた。しかし運動群や対照群では減量が認められなかった(P<0.001)。
ダイエット+運動群では筋力、平衡感覚、歩行機能について一貫した改善が認められた(すべての比較のP<0.05)。

2011年5月2日月曜日

長時間労働と心疾患

心疾患の危険因子(リスクファクター)に長時間労働を加える時が来たのかもしれない。同僚よりも長時間働くと、心臓発作が起きる可能性が有意に増大することが、英国の事務職を対象とした新しい研究でわかった。労働時間が定期的に1日11時間以上の人は1日7~8時間の人に比べて心疾患を発症する可能性が67%高かったという。
英ロンドン大学ユニバーシティカレッジの社会疫学教室では、低リスク集団に属する英国の公務員約7,100人を対象に、1991年から2004年まで追跡調査し、心疾患の徴候のある被験者を選別した。被験者の約70%が男性で、大多数(91%)が白人であった。研究終了時までに約2.7%が冠動脈疾患を発症した。被験者は、自宅に持ち帰ったものを含め、仕事に費やす時間数を報告した。
研究の結果、半数以上(54%)が1日7~8時間、21%が1日9時間、15%が1日10時間、10%強が11時間以上働いていた。労働時間が1日11時間強の被験者では心疾患リスクが高まると同時に、その一部は他のリスク全般が高まったという。
長時間働く人は、運動や健康的な食事、医師の診察を受ける時間が少ない。より多くのストレスに曝され、睡眠時間が短く、心血管リスクの一因となる行動をとっている可能性がある。

2011年5月1日日曜日

子ども初の脳死判定

4月12日、交通事故による重症頭部外傷で関東甲信越地方の病院に入院していた10歳以上15歳未満の男子が法的に脳死と判定された。脳死判定と臓器提供を家族が承諾した。13日朝に臓器摘出手術が行われ、待機患者に移植された。
15歳未満を含め、本人の意思が不明でも拒否していない場合は家族の承諾で脳死での臓器提供ができるようにした改正臓器移植法が2010年7月に施行されて以降、15歳未満の脳死判定は初。書面や口頭で拒否の意思表示はなかったことを家族に確認したという。
移植ネットは家族のコメントを発表、「息子は将来は世の役に立つ仕事をしたいと言っていた。臓器提供があれば命をつなぐことができる人たちのために身体を役立てることが、彼の願いに沿うことだと考えた」などとしている。
2回の脳死判定は12日午前7時37分に終了し、死亡と宣告された。警察は午前8時49分から13分間、検視をした。
本人が18歳未満の場合、虐待を受けた疑いがないことを確かめる必要がある。移植ネットによると、今回は提供病院で委員会や対応マニュアルを作るなど態勢が整っていることや、院内の倫理委員会が臓器摘出を承認したことを確認した。
移植ネットによると、4月8日に主治医が家族に回復は困難との見通しを示した後、臓器提供の機会があることを知らせた。同日、脳死とされうる状態と判断した。
9日には両親らの希望を受け、臓器移植コーディネーターが家族に臓器提供に関し約2時間説明。11日に再度説明をした後、午前11時33分に家族から脳死判定と臓器摘出の承諾書を受け取った。
心臓は大阪大病院で10代の男性、両肺は東北大病院で50代の女性、肝臓は北海道大病院で20代の男性、膵臓と一方の腎臓は藤田保健衛生大病院で30代の女性、もう一方の腎臓は新潟大病院で40代の男性に移植された。小腸は医学的理由で断念された。
従来は意思表示カードなどの書面で提供意思を示した15歳以上でなければ脳死での臓器提供はできなかったが、09年7月、提供数増加を目的に提供条件を緩和した改正法が成立した。