2010年9月30日木曜日

コレステロール

日本脂質栄養学会が、「コレステロール値は高めの方が長生きで良い」とする指針をまとめた。
これまでの常識を覆す内容だが、コレステロールは下げなくてもいいのか?
コレステロールには、LDLとHDLがある。全身の組織に運ばれるコレステロールがLDL、全身から回収される余分なコレステロールがHDLで、それぞれ「悪玉」「善玉」と呼ばれる。
生活習慣病の専門家が集まる日本動脈硬化学会は、LDLが高すぎると心臓病の要因になるため、食生活の改善や薬の服用により下げるべきだとしている。
同学会は2007年、高脂血症(脂質異常症)と診断されるコレステロールの基準値を、男女ともLDL140(ミリ・グラム/デシ・リットル)以上、またはHDL40(同)未満と定めた。
これまでの国内外の研究から、LDLが高くなるにつれて動脈硬化が進み、心臓病の発症率が上がることが分かっている。心臓病を起こしやすくなるLDL140以上を妥当と判断した。
だが、日本脂質栄養学会の指針をまとめた富山大学和漢医薬学総合研究所は「心臓病だけでなく、がんや肺炎などすべての死亡原因を含めると、現在の基準値の140より高い方が死亡者が少ない」と反論する。指針では新たな基準値を示していないが、その根拠となる研究報告を複数紹介した。
神奈川県伊勢原市の男女約2万6000人を8年間追跡した研究では、男性はLDL100~160で死亡率が低く、100未満で上昇した。女性はLDLによる影響は少なかったが、120未満で死亡率が上昇した。また、全国の脳卒中患者1万6850人を調べた別の調査では、高脂血症の人の方が脳卒中による死亡率が低く、症状も軽かった。
コレステロールは細胞の膜やホルモンを作る大事な成分。食事や薬でむやみに数値を下げるのはよくないとの意見もある。
LDLの数値には、男女差もある。女性は閉経するとコレステロールが急激に上がるが、動脈硬化の進行や心臓病の発症には影響しない。少なくとも女性にコレステロールの基準値は必要ないとの意見もある。
今回の指針をきっかけに、男女の差や個人の病気のリスクに合わせた治療が必要になるかもしれない。

2010年9月29日水曜日

たばこの誤嚥

子どもが、たばこを食べてしまったら。そんなとき、どうすればいいのか。まずは、落ち着こう。たばこ1本に、乳幼児の致死量に近いニコチンが含まれてはいるが、そのニコチンが、すぐに全部吸収される訳ではない。いくつか、医学的な理由がある。
1) ニコチンは吐き気を催す作用があるため、多くの場合、胃に入ったたばこは、割とすぐ吐き戻される
2) ニコチンは塩基性なので、酸が多い胃の中では葉からニコチンが溶け出しにくいなど。
つまり、たばこを食べてしまった場合でも、胃の中にとどまっている間はそれほど怖くない。胃から腸に移動してしまうと、ニコチンの吸収がとても速まる。腸の中は酸がないため、急速にニコチンの吸収が進むからだ。
食べてしまってから、30分ぐらいは様子を見て、具合が悪くなさそうならそのまま様子を観察し、4時間以上すぎても顔色が悪い、興奮している、息が苦しそうなどの症状がないなら、まず問題はない。念のため、翌日にでもかかりつけ医に相談するといいだろう。もちろん、異常な症状がでたら、すぐに病院へ行こう。
この、様子を見る間に、絶対にしてはいけないことがある。
「水や牛乳は飲ませない!」
吐かせようとして水などを飲ませると、たばこが比較的安全な胃から、危険な腸に押し流されてしまう。動物実験でも、たばこを食べた後に水を飲むと、血中のニコチン濃度が急上昇することが確かめられている。

さらにさらに危険なのは、水に溶けたニコチン。吸い殻をジュースの空き缶に入れる喫煙者がいるが、幼い子どものいる家庭では、決してしてはいけない。吸い殻に含まれるニコチンは、30分も水につけるとほぼ全量、溶け出る。水に溶けたニコチンは、葉を食べるよりずっと吸収が速い。
子どもがジュースと思いこんで、ニコチン汁を「ぐいっ」と飲み干してしまう。こんな事故はまれではない。ニコチン汁を誤って飲んでしまったら、すぐに救急車を。大量のニコチンは、呼吸を止めてしまう。適切な人工呼吸が、命を救う決め手となる。

2010年9月28日火曜日

人間ドック

2009年に人間ドックを受診した人のうち「異常あり」という結果が出た人は90・5%と、前年に引き続き過去最高を更新したことが日本人間ドック学会の調査でわかった。
約301万人を対象に調査。異常があった人の割合が高かった項目は、高コレステロール(26・5%)、肥満(26・3%)、肝機能異常(25・8%)の順だった。人間ドックで見つかったがんの内訳をみると、胃がん(28・1%)、大腸がん(17・6%)、肺がん(7・9%)と続いた。

2010年9月27日月曜日

服薬指導

脳卒中患者の多くが薬剤の服用を途中で止めていることが新しい研究で判明した。
今回の報告では、脳卒中患者の25%が、脳卒中を起こしてから3カ月以内に1種類以上の予防的薬剤の服用を中止していることが判明。このことから、医療従事者は患者や介護者の服薬指導にもっと時間をかける必要がわかった。
研究では、脳卒中または一過性脳虚血発作で米国の106カ所の病院を受診した患者2,598人のデータを収集。75.5%は処方薬をすべて継続していたが、脳卒中から3カ月後の時点で、患者の20%は薬剤の少なくとも半分しか服用しておらず、3.5%は全く服用していないことがわかった。
服用を継続していた患者の理由としては、ほかにも重篤な疾患がある、適切な保険に加入している、薬剤の数が少ない、服用理由を理解しているなど、さまざまであった。長期的な服薬コンプライアンス(遵守)は以前から問題になっているといい、患者の教育や脳卒中患者向けの追跡プログラムの必要性を専門家は指摘している。

2010年9月26日日曜日

大脳白質病変

MRIで発見される大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクと有意な相関を示すため、その予測因子となり得ることが、イギリスSt George’s University of London臨床神経科学部の研究でわかった。
研究グループは、1966~2009年11月23日までのデータベースを検索し、MRIを用いて大脳白質の高信号域が脳卒中、認知機能低下、認知症、死亡に及ぼす影響を評価した研究や、大脳白質の高信号域をカテゴリー別に分けてこれらの疾患のリスクを予測した試験を抽出した。
46の研究が抽出され、そのうち大脳白質の高信号域と脳卒中のリスクを評価したものが12試験、認知機能低下のリスクを検討したのは19試験、認知症は17試験であり、死亡については10試験が検討を行っていた。これらの試験の内、解析は22の試験(脳卒中9試験、認知症9試験、死亡8試験)ついて実施した。
脳卒中のリスクについては、9試験の解析で、大脳白質病変の存在は脳卒中の発症リスクを3.5倍に高めていた。
認知症のリスクについては、9試験の解析で、大脳白質病変の存在は認知症の発症リスクを1.9倍に高めていた。
死亡率との関連については、8試験の解析で、大脳白質病変により死亡のリスクが2.0倍に増大していた。
大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクの予測因子である。すなわち、診断中に発見されたMRI上の大脳白質病変は脳卒中のリスクの増大を示している。この研究結果が、脳卒中や認知症のリスク因子の詳細なスクリーニングに道を開くことになるかもしれない。

2010年9月25日土曜日

カルシウム・サプリメント

サプリメントとしてのカルシウムの使用により、心筋梗塞のリスクが有意に増大することが、ニュージーランド・オークランド大学の研究でわかった。カルシウムは高齢者の骨格系の健康維持を目的としたサプリメントとして一般的に用いられている。ところが、カルシウム・サプリメントは心筋梗塞や心血管イベントのリスクを増大させる可能性があることが示唆された。
研究グループは、カルシウム・サプリメントと心血管イベントのリスク増大の関連の評価を目的に解析を行った。
1966年~2010年3月までのデータを用いて、100例以上、平均年齢40歳以上、試験期間1年以上のカルシウム・サプリメント(≧500mg/日)に関する試験を抽出した。
解析の結果、心筋梗塞の発症はカルシウム・サプリメント群が143例と、プラセボ群の111例に比べリスクが有意に31%増加していた。
また、別の試験解析でも、心筋梗塞を発症した296例のうち、166例がカルシウム・サプリメント群で、プラセボ群は130例であり、リスクはサプリメント群で有意に27%増加していた。
これらの研究により、カルシウム・サプリメントは心筋梗塞のリスクを有意に増大させることが明らかとなった。この大きいとは言えない心筋梗塞のリスク増大も、カルシウム・サプリメントの使用の拡大に伴って、膨大な疾病負担をもたらす可能性がある。骨粗鬆症の治療におけるカルシウム・サプリメントの役割の再評価が急務であろう。

2010年9月24日金曜日

喫煙と結腸直腸がん

コネティカット大学保健センター総合がんセンターの研究で、喫煙は結腸直腸の扁平腺腫(前がん性ポリープ)と強く関連しており、それが喫煙者における結腸直腸がんの早期発症につながっている可能性があることがわかった。一般に扁平腺腫は、結腸直腸がんの検診時に発見される典型的な隆起性のポリープよりも発見しにくく、病理学的に悪性度が高い。
結腸直腸ポリープは、結腸または直腸の内壁に形成される腫瘍である。大半の結腸直腸がんは、腺腫と呼ばれる結腸直腸の腫瘍性ポリープから移行すると推測されている。扁平な非隆起性の腺腫は、隆起性の腺腫よりも悪性度が高いと考えられる。このため結腸直腸ポリープの切除は結腸直腸がんの予防に重要で、推奨されている。複数の研究から、ポリープ切除は結腸直腸がん発症の減少につながることが示されている。
扁平病変の半数超は、高解像度結腸内視鏡で発見されるが、その危険因子はほとんど解明されていない。いくつかのスクリーニング研究から、喫煙は結腸直腸がんの重要な危険因子であることが示されている。今回の研究の目的は、結腸内視鏡によるスクリーニングを受けた平均的リスク集団において、喫煙が扁平腺腫の危険因子であるか否かを調べることであった。
結腸内視鏡検査は、ポリープががん化する前に発見し切除できるため、結腸直腸がんの主要なスクリーニング法として推奨されている。現在、驚くほど高解像度の新世代内視鏡が開発されている。高解像度化により結腸が鮮明に描出され、より多くの情報が得られる。つまり解像度が高ければ、内視鏡医が小ポリープ、早期がん、扁平病変を発見する精度が高まる。
今回の研究は、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校医療センターで、結腸内視鏡による結腸直腸がんスクリーニング検査を受けた患者を対象とした研究。
人口統計学的データ、既知の結腸直腸がんの危険因子、投薬情報、結腸直腸がんの家族歴と食事、運動、飲酒、糖尿病、胆嚢切除術の既往が記録された。
患者は、現在または過去の喫煙、1日当たりの本数、喫煙年数、禁煙年数、過去の喫煙パターンの変化について質問を受けた。これらの数値を用いて、喫煙曝露を算出。患者600例(平均年齢56歳,男性252例,女性348例)を、(1)非喫煙者群(313例)(2)多量喫煙者群(115例)(3)少量喫煙者群(172例)―に分類した。
全患者に結腸内視鏡検査が施行され、組1人の内視鏡医が、高解像度の広角結腸内視鏡を使用してすべての検査を行った。全ポリープが写真で記録され、組織学および形態学的分類(扁平または隆起性)のために採取された。サンプルからランダムに選ばれた腺腫について、2人の経験豊富な内視鏡医が形態の決定に当たった。
全部で428個のサンプル(非喫煙者群313個,多量喫煙者群115個)が分析され、127例の患者にさまざまなサイズの扁平腺腫が1個以上認められた。扁平腺腫と関連していたのは、(1)多量の喫煙(2)年齢(3)男性―であった。さらに進行扁平腺腫と関連していたのは、(1)多量の喫煙(2)BMI(3)男性(4)赤身肉の消費―であった。多変量解析を行ったところ、結腸直腸の進行性扁平腫瘍の形成を唯一予測したのは多量の喫煙であった。
この知見から、喫煙は結腸直腸の扁平腺腫の重要な危険因子であることが示唆された。喫煙はあらゆる扁平腺腫と関連しているだけでなく、直径6mm超の扁平腺腫のみを有する患者の危険因子でもあった。これらの患者には、隆起性の腺腫は存在しなかった。このことは、喫煙者では非喫煙者よりも若年で、しかも進行した結腸直腸がんが多く発見されることの理由を説明している。
このような腺腫を発見するには、特殊な高解像度結腸内視鏡が必要となるため、今回の知見は重要。大半の腺腫は結腸の右側に発見されたことから、喫煙者の場合には、色素内視鏡などの高度な撮像装置を用いて、右側に注意することが発見に役立つと見られる。色素内視鏡は内視鏡技術の1種で、内視鏡検査時に大腸内壁に特殊な色素液または染色液をスプレーし、色覚をより向上させたものである。
さらに、今回のデータは、医師が喫煙者に対して、そのリスクや結腸直腸がんスクリーニングについてカウンセリングを行ううえでも役立つだろう。

2010年9月23日木曜日

コーヒーでがん予防

ユタ大学の研究で、コーヒーの飲用が頭頸部がんの予防につながる可能性があることがわかった。
がんリスクに対するコーヒーの効果については、一貫したデータが得られていないが、今回、ユタ大学が集めた9件の研究結果を分析した結果、コーヒーを1日4杯以上飲む人(常飲者)は、コーヒーを飲まない人に比べ、口腔がんと咽頭がんリスクが39%低いことが明らかになった。
一般に、コーヒーを飲む人は多い。また、頭頸部がんは発生率が比較的高く生存率が低いため、今回の研究結果は公衆衛生上大きな意義を持つ。
昨年12月、ハーバード大学の研究では、コーヒーの消費と致死的な進行性前立腺がんリスクが逆相関することがわかった。コーヒー消費量が最も多い男性では全く飲まない男性と比べ、進行性前立腺がんリスクが60%低かった。
また、インペリアルカレッジの別の研究では、コーヒーと神経膠腫(脳腫瘍)リスクの低下が相関することがわかった。この研究報告では、1日に5杯以上のコーヒーまたは紅茶を飲む人でがんリスクが低下した。
今回の研究では、リスク低下は口腔がんや咽頭がんに関して示されたが喉頭がんでは示されていない。このことは、コーヒーの効果には特異性があることを示唆している。今後、頭頸部がんとコーヒーの関連についてさらに研究を重ねる必要があるだろう。

2010年9月22日水曜日

魚好きな子

魚をよく食べる子供や、朝食をしっかり食べる子供ほど抑うつ的な気分になりにくいことが、長崎大病院精神科神経科の調査で分かった。
調査は、長崎県の長崎市、五島市、西海市の小学4年生~中学3年生約5000人を対象に4年前から実施。生活習慣とこころの状態をアンケート形式で尋ね、詳しい分析を進めている。
抑うつ気分は、子供自身が現在の心身の状態を3段階で評価した。元気がない、意欲がわかないなどの気分の落ち込みや、眠れない、泣きたい気分があるなど、身体的症状があるかどうかを尋ねた。
その結果、魚を食べるのが好きな子供(3246人)では、抑うつ傾向がある子供は約7%にとどまったが、嫌いな子供(1123人)では、抑うつ傾向が約12%に見られた。
野菜の好き嫌いでも同様の比較をしたが、好きな子供の抑うつ傾向は約8%、嫌いな子供は約10%で、魚の効果がより顕著だった。
青魚の魚油に多く含まれるEPAやDHAなどオメガ3系多価不飽和脂肪酸は、近年、うつ病などの気分障害に効くという研究が国際的に多く発表され、注目を集めている。うつ病の患者の血液を調べると、これらの脂肪酸の濃度が低下していたという報告もある。
今回の大規模調査でも、魚油に気分を安定させる高い効果があることが分かった。魚油は安全で副作用の心配がないため、子供や妊婦の気分障害の治療や予防に活用できるかもしれない。
しかし近年、日本では国民1人あたりの魚の摂取量は減少を続けている。特に若い世代の魚離れが顕著で、20歳未満では過去10年で20%以上も減少している。
調査では、他にも生活習慣と抑うつの関係を比較した。抑うつ傾向がある割合は全体平均で約9%だったが、朝食を週3日未満しか食べない群(86人)では約22%、インターネットを毎日2時間以上する群(82人)では約17%、携帯電話で毎日2時間以上メールをする群(156人)では約14%と、抑うつ傾向の割合が高かった。

2010年9月21日火曜日

エチゼンクラゲ

エチゼンクラゲと、越前ガニの殻から取り出される物質に放射線の一種である電子線をあてて、新しい医療・美容用素材を合成する技術の開発に、関西電子ビーム、日華化学など4社と、県立大海洋生物資源学部のグループが着手した。
たびたび漁業被害をもたらす“海の厄介者”と、福井を代表する味覚ながら食べた後は捨てるしかないごみを、有効利用するのが目的。早ければ2011年度末までに実用化のめどをつけたいとしている。
利用をはかるのは、クラゲのたんぱく質の大半を占めるコラーゲンと、カニやエビの殻を構成するキチンから作られるキトサン。
コラーゲンは保湿効果が高く、化粧品や健康食品など幅広い分野で商品化されている。キトサンも、安定した分子構造や抗菌効果といった特徴から、手術用縫合糸、衣料用繊維、健康食品などに使われている。
グループが手掛ける新素材は、コラーゲンとキトサンの特性を併せ持ったゼリー状物質「ハイドロゲル材」。やけどやけがの患部にはり付けて早期回復を促す「創傷被覆材」、肌の栄養補給やニキビ予防といった効果を狙う「美容マスク」などへの応用をはかる。
クラゲからコラーゲンを抽出する技術は、県立大などが既に開発。グループはこれらの技術を応用し、コラーゲンとキトサンを寒天状の化合物に混ぜた後、専用施設で電子線ビームを照射して固め、ハイドロゲル材を生成する研究を行う。
電子線を利用すると、加熱しなくても化学反応を早く進めることができ、減菌作用もあるという。

2010年9月20日月曜日

食べるワクチン

アルツハイマー病の原因とされるたんぱく質を含むピーマンを食べると、この病気の予防につながる効果があることが、東京大学のマウスの実験でわかった。「食べるワクチン」として臨床応用が期待されている。
アルツハイマー病の患者の脳には、アミロイド・ベータというたんぱく質が沈着・凝集し、老人斑ができている。これが認知機能の低下などを起こすと考えられている。

免疫の働きを利用し、素早く大量の抗体を作り出してこのたんぱく質を除去させるため、米国でアミロイド・ベータをワクチンとして注射する臨床試験が行われたことがあるが、過剰な免疫反応による副作用が問題となり、中止になった。
東京大学では、注射でなく食べて腸から吸収すると、副作用が起こりにくいことに着目。アミロイド・ベータの遺伝子を組み込んだピーマンを作り、その青葉を青汁にして、アルツハイマー病を発症するように遺伝子を操作したマウスに与えた。何も与えなかったマウスは発症して1年ほどで死んだが、青汁を与えたマウスは16か月以上生存、脳に老人斑は見られなかった。副作用も少なかったという。

子宮頸がんワクチン

若い女性に増えている子宮頸がんの本格対策として、政府が、予防ワクチンの接種費用を、来年度から公費で助成する方針を打ち出した。
子宮頸がんは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスの感染が原因で起きる。
HPVは主に性交渉を通じて感染するが、10歳代前半でHPVワクチンを接種すれば、6-7割の感染を防ぐことができる。
子宮頸がんを予防する効果は極めて大きいと期待され、世界で接種が拡大している。日本でも昨年10月、このワクチンの安全性と有効性が政府に承認された。
公費助成により、HPVワクチン接種が国内でも広く普及するだろう。厚生労働省は今後、助成額や対象年齢などを詰め、来年度予算案に盛り込むという。
現在、HPVワクチンは任意の接種。期間を置いて計3回繰り返す接種の費用約5万円は、原則全額を自己負担する。はしか、ポリオのワクチンのように、定期接種の対象にはなっていない。
厚労省の6月末の集計では国内114自治体が、負担軽減のため公費助成している。ただ、全自治体の1割足らずだ。助成額も半額以下という所が少なくない。医学関連学会、患者団体などから、国の助成を求める声が出ていた。
子宮頸がんは国内で年に約1万5000人が発症すると推計され約3500人が死亡している。特に近年は、20-30歳代に患者が急増している。
10代前半の特定の年齢全員に接種費用を助成すると、年に約200億円の予算がかかるとの試算もある。だが、ワクチン接種で多くの女性の命が救われることを考えると、多額ではない。
ただ、どんなワクチンにも、わずかながら副作用がある。HPVワクチンの重い副作用はほとんど報告されていないが、他のワクチンと同じく、副作用への迅速な対応と、補償制度の充実策も十分詰めておくことが欠かせない。
がん検診の重要性も忘れてはならない。ワクチン接種の主な対象となるのは、10代の女性にとどまる。しかもワクチンは、がんを100%防げるわけではない。
子宮頸がんの検診を受ける人はまだ2割程度という。多くの女性が定期的に検診を受け、異変があれば、早期に適切な措置を受けられるような体制が必要。
検診費用の公的助成も一部に限られる。これも国の助成の強化を検討すべきだろう。

2010年9月18日土曜日

はしか

はしか(麻疹(ましん))の予防接種率が伸び悩んでいる。国は接種率95%以上で人口100万人当たりの感染者が1人未満になる「排除」の状態を目指している。だが、09年度の接種率は1歳の定期接種では93・6%と目標に近いものの、13歳と18歳を対象にした追加接種では、それぞれ85・9%、77・0%にとどまった。幼少期のはしか感染には、難病発症の可能性があり、はしかの早期根絶には接種率の向上が鍵を握っている。
はしかウイルスが原因で発病する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という難病がある。SSPEは特に学童期に発症することがある中枢神経疾患。一度感染したはしかウイルスが脳に潜伏後、SSPEウイルスに変異して数年後に発病。原因は不明で治療法はなく、ゆっくりと神経症状が進んで意識がなくなり、やがて死に至る。発生頻度は、はしか患者10万人に1人とされる。
国立感染症研究所によると、はしか患者は高校や大学で流行した07年に子どもだけで計3133人、08年は成人も含めて計1万1012人に上った。今年の患者数も8月4日現在計326人で、人口100万人当たり約2・7人と流行が続いている。
はしかは接触や飛沫、空気のいずれでも感染する。はしかウイルスの直径は100-250ナノメートル(ナノは10億分の1)で、飛沫核の状態で空中を飛び、それを吸い込むことで感染するため、マスクでの予防は難しい。唯一の予防方法は、ワクチン接種ではしかに対する免疫をつけておくことだ。
予防接種をしない人が増えると感染が広がる。はしかワクチンは通常、1回接種すれば95%以上の人に免疫ができる。毎年、95%程度の接種率を保てば、患者発生はほぼゼロに抑えられるという。また、はしか患者が20万-30万人いれば、そのうち数人がやがてSSPEを発病する。だが患者が1000人を切れば、この病で亡くなる人がいなくなることにつながるという。

 ■12年度までの麻疹ワクチン定期接種対象者 
第1期 1歳以上2歳未満
第2期 小学校入学前年度の1年間にあたる子ども
第3期 中学1年生に相当する年齢
第4期 高校3年生に相当する年齢
 ※第3、4期は08年度から5年間の期限付き措置
 ※定期接種期間中は無料。厚生労働省は2回接種することを勧めている

2010年9月17日金曜日

睡眠時無呼吸

中高年男性の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は心不全発症の予測因子であると、米ボストン大学などのグループが発表した。
同グループは、一般的な地域住民のサンプルとして40歳以上の男性1,927例と女性2,495例を登録。8.7年間追跡し、OSAと心不全および冠動脈性心疾患(CHD)との関係を検討した。
その結果、OSAは男性における有意な心不全の予測因子で、1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数を示す指数(AHI)が30以上の男性はAHI 5未満の男性と比べ、心不全の発症率が約1.6倍高かった。女性では、OSAは心不全の予測因子ではなかった。また、CHDに関してはOSAは70歳以下の男性においてのみ有意な予測因子で、それより高齢の男性および女性では年齢に関係なく、OSAはCHDの予測因子ではなかった。

2010年9月16日木曜日

食事による白内障予防

ウィスコンシン大学は、女性1,808例について調査を行い、ビタミン、ミネラル類を多く含む食物を摂る女性では、白内障発症リスクが低いということがわかった。
加齢とともに罹患率が上昇する白内障は、世界的にも最大の失明の原因となっている。白内障は眼病による視力障害としては、米国で最も一般的な原因である。
今回の研究では被験者の日常の食事と栄養摂取量が検討された。
対象者では核性白内障が多く、454例(29%)が少なくとも片方の眼に水晶体混濁があり、282例(16%)がいずれかの眼の水晶体を摘出したと回答した。全体では736例(41%)が水晶体撮影により核性白内障が明らかになった、あるいは水晶体を摘出したと答えている。
今回の結果から、食事指針に従い健康的な食事をしていた女性では、核性白内障の発病率が低いことがわかり、その関連は本件で調査の対象となった他の危険因子や予防要因よりも強力であることが示唆された。
健康的な食生活、禁煙、肥満の回避といったライフスタイルの改善が、米国人高齢女性における白内障手術を減らし、経済的負担を低減させるかもしれない。

2010年9月15日水曜日

規則正しい生活と安眠

ハイファ大学の研究で、退職を迎えた高齢者の不眠改善と安眠促進には、規則正しい日常生活を送ることが重要だということがわかった。
規則正しい生活とは、テレビ視聴や読書といった日常的な活動の時間や頻度、長さが安定していることである。これは、掃除、体操、社会活動など、毎週の決まった予定についても同様に当てはめることができる。
今回の研究の対象は、ロシア語を話す高齢者96人(58~89歳、平均年齢75歳、女性72%)で、82%は1人住まい、75%は普通または良好な健康状態であった。また睡眠薬の服用は週1回が5%、週1~2回が7%、週3回以上が23%だった。
日常生活における規則性は、熟練した面接調査者が評価し、96人中、89人のデータが最終分析の対象となった。
解析の結果、平均総睡眠時間は6時間、平均睡眠効率は78%、平均睡眠潜時(入眠までにかかる時間)は37.5分であった。日常生活が安定し、規則正しいライフスタイルの高齢者では、睡眠効率が高く、睡眠潜時も短かった。一方、ライフスタイルが不規則な場合には、睡眠の質が低下し、併存症も多い傾向にあった。
また、買物、公共交通機関の利用、医療受診といった動機のある活動よりも、入浴、身支度、食事といった基本的活動のほうが、睡眠の質との関連性が強かった。
今回の研究から、規則正しいライフスタイルが睡眠の質を維持するうえで予防因子となることがわかった。今後の縦断的研究によって、規則正しいライフスタイルと睡眠パターンの質との因果関係が解明されることが望まれる。

2010年9月14日火曜日

運動による脂質代謝促進効果

マサチューセッツ総合病院心臓病学・心血管研究センターの研究で、運動により血中の化学物質がどのように変化するかを測定し、運動によって産生される代謝物について調べた結果、健康状態の良好な人では、不良な人に比べ脂質代謝産物が明らかに増加していることを見出した。
運動により汗をかき、心拍を速めることは、疾患を予防し、ひいては寿命を延長させることが知られている。しかし、運動によってこうした効果が得られる理由については、いまだ解明されていない。
エネルギーを消費するすべての体内活動からは代謝物が生じる。代謝物は、血液検査により測定可能であるが、血液には何百種類もの代謝物が含まれ、これらは個人の健康状態を示す化学的情報になる。
今回の研究では、健康状態の良好な人と不良な人とでは運動後の血中代謝物変化が異なるのか否かを検討すべく、参加者がトレッドミルで身体活動を行う前後と最中に血液を採取し、血液中に含まれる200種類を超える代謝物について測定した。
その結果、運動後の血中では脂質、糖、アミノ酸の代謝物が増加し、インスリン分泌や血糖管理に重要なナイアシンアミドや、酸化ストレスの指標となるアラントインも増加していた。また、健康状態の良好な集団では脂質代謝物が98%増加しているにもかかわらず、不良な集団では60~70%しか増加していないことも明らかになった。また驚くべきことに、ボストンマラソンを完走した健康状態のきわめて良好な集団では、1,128%という顕著な増加が見られた。
以上の結果から、健康状態の良好な人では、健康状態の不良な人と比べてカロリーを効率的に燃焼することができるような生化学的変化が循環血中に認められることが示唆された。

2010年9月13日月曜日

コンタクトレンズこすり洗いの手順

ソフトレンズ
<1>清潔な手でコンタクトレンズを目からはずして保存液ですすぎ、利き手と反対の手のひらの上にレンズを載せ、クリーナーや消毒剤を数滴落とす
<2>利き手の人さし指の腹をレンズにあて、軽く押さえながら手のひらの上でレンズを一定方向にやさしく動かし、表面を20~30回こする(円を描くように動かすと、コンタクトレンズが破損する恐れがある)
<3>ひっくり返して反対側も同じように洗う
<4>最後に保存液か消毒剤でよくすすぐ

ハードレンズ
<1>清潔な手でレンズをはずし、レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ。利き手と反対の手のひらの上に、レンズの内側を上にして載せ、クリーナーを4~5滴落とす
<2>利き手の人さし指の腹をコンタクトレンズの内側にあてて軽く押さえ、手のひらの上でレンズを前後左右に動かしながら泡立てるように約30回こする
<3>利き手の親指、人さし指、中指の3本でコンタクトレンズを挟み、レンズの内側を親指の腹で泡立てるように優しく30回ほどこする
<4>レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ

2010年9月12日日曜日

コンタクトレンズ使用上の注意

▽取り扱う前は手指を石けんで洗う
▽こすり洗いをすること
▽レンズの洗浄はレンズの使用前と後に必ず行う
▽レンズケースは毎日しっかり洗い、自然乾燥させる
▽レンズケース内の消毒液は毎日新しいものに交換する
▽ソフトコンタクトレンズのケアに水道水を使用しない(ソフトレンズは水を含むため微生物が付着しやすい)
▽化粧はコンタクトレンズを装着してから行う(化粧品は石けんで落ちにくく、化粧品を扱った手でレンズを扱うと、レンズに汚れが付く)
▽定期検査を受ける

2010年9月11日土曜日

コンタクトレンズ(2)

角膜感染症が増えている背景の一つに、ケア用品の進歩や多様化がある。ソフトレンズはかつては煮沸消毒が中心だったが、近年は洗浄、すすぎ、消毒、保存が1本でできる消毒剤が主流になっている。その為、ケア方法が簡便になることで、誤ったケアをする人が増えている。量販店には専門医がいるとは限らず、説明不足も問題となる。
消毒剤の効果には限界があり、どのレンズでも毎日のこすり洗いが重要。感染の温床になるレンズケースも毎回よく洗って乾かし、3カ月に1度の交換が必要。漬けおきタイプの洗浄液でも、こすり洗いを併用しないと蓄積した汚れや化粧品の汚れは落ちない。
全国調査では、毎日こすり洗いをする人は18%に過ぎず、毎日消毒する人も30%にとどまった。2週間で交換するレンズや1日使い捨てレンズを1カ月以上使っていた人もいた。
ケアの仕方を誤解している人も少なくない。定期検査に来ないと、正しいケア方法を知る機会も減ってしまうため、3カ月に1度の定期検査を心がけたい。また、レンズケアに自信のない人には、1日使い捨てのレンズを薦める。

2010年9月10日金曜日

コンタクトレンズ(1)

コンタクトレンズの使用者は年々増え、国民の1割を超す1500万人以上と言われる。これに伴う目の病気も増加傾向にあり、使用者の7~10%に発生していると推測されている。中でも細菌などによる角膜感染症は、重症化すると視力低下の要因にもなる。こすり洗いなど、毎日の適切なケアが大切。レンズの汚れなどにより角膜の表面に傷ができると、細菌などが入り込みやすくなる。治っても視力に影響を残すことがある。
コンタクトレンズの主流はハードレンズからソフトレンズに移り、利用者は約7割を占める。ハードレンズは目にトラブルがあると痛みを感じるが、ソフトレンズは角膜と密着しているため、まぶたの刺激を和らげ痛みを抑える効果があり、病気に気付きにくい。また、利用者は低年齢化しており、10代や20代のトラブルも増えている。
コンタクトレンズは直接目に触れるため、医師の処方が必要な高度管理医療機器。角膜を覆うため、レンズの汚れや酸素不足で、角膜に傷がつきやすくなる。
コンタクトレンズによる目の病気は、角膜の表面に小さな傷がつく点状表層角膜症、深くまで傷が達する角膜浸潤や角膜潰瘍、上まぶたの裏側(結膜)にブツブツができる巨大乳頭結膜炎などがある。
近年問題になっているのが、細菌やカビなどによる角膜感染症。目の痛みや充血などを起こし、失明する恐れもある。中でも増えているのが、他の細菌を餌にして増殖するアカントアメーバと呼ばれる微生物によるもので、特効薬がなく治りにくいのが特徴。
日本眼感染症学会などがまとめた全国調査の中間報告(07年4月~08年8月)では、コンタクトレンズ使用が原因と考えられる角膜感染症で入院した患者は233人(平均年齢28歳)。水回りなどに存在する細菌・緑膿菌やアカントアメーバが、角膜の病巣部のほか、レンズケースからも多く見つかった。

2010年9月9日木曜日

歯磨きの頻度と心疾患

ロンドン大学の研究チームが、スコットランド健康調査に参加した成人1万1,000例のデータを解析した結果、歯磨きを1日2回以上行う人に比べて2回未満の人では心疾患発症リスクが高まることがわかった。
この20年間で心疾患と歯肉疾患の関連性について関心が高まっている。身体の炎症(口腔と歯肉を含む)が血栓の形成に重要な役割を果たすことは確認されているが、今回の研究は、歯磨きの回数が心疾患の発症リスクに関係するか否かを調べた初の試みである。
今回の研究では、喫煙や身体活動度、口腔衛生習慣などのライフスタイルに関するデータを解析した。歯科の受診頻度(6か月ごとに少なくとも1回、1~2年ごと、めったに行かないか全く行かない)と、歯磨きの頻度(1日2回、1日1回、1日1回未満)を被験者に質問した。
また看護師が、同意を得た被験者から心疾患の既往歴と家族歴、血圧に関する情報を収集し採血を行った。採血の目的は、身体の炎症の程度を明らかにすることであった。インタビューで得たデータを2007年12月までのスコットランドにおける入院と死亡のデータと関連付けた。
その結果、歯科受診の頻度が6か月に1回と回答した群の62%と歯磨きの頻度が1日2回と回答した群の71%は、口腔衛生習慣がおおむね良好であった。
社会階級や肥満、喫煙歴、心疾患の家族歴などの確立された心疾患危険因子でデータを調整したところ、歯磨きの頻度が低い被験者では1日2回の被験者に比べて心疾患発症リスクが70%高かった。口腔衛生状態が不良な被験者はC反応性蛋白(CRP)やフィブリノーゲンなどの炎症マーカーも陽性であった。
今回の結果から、口腔衛生と心血管疾患発症リスクとの関連性が明らかになった。今後さらなる研究を行い、今回観察された口腔衛生習慣と心血管疾患との関連が、実際の因果関係であるのか、単なるリスクマーカーにすぎないのかを確認する必要があるようだ。

2010年9月8日水曜日

内臓脂肪と脳容積

ボストン大学神経学科の研究で、腹部の脂肪と脳の総容積低下との間に有意な関連性があることがわかった。
中年では、肥満は認知症とアルツハイマー病のリスクを高めているようだが、皮下脂肪と内臓脂肪のほうが体重よりもリスクを反映しているようである。
今回の研究では、700例超を対象に脳MRIと、皮下脂肪および内臓脂肪を定量化するための腹部CT検査を行った。
その結果、腹囲や皮下脂肪組織、内臓脂肪組織が多い程、脳の総容積は低下していた。さらに今回のデータでは、内臓脂肪が脳の総容積と最も強く関連していた。
今回の研究により、肥満と認知症の関連の根底にある機序の理解が進み、新たな予防法につながるかもしれない。

2010年9月7日火曜日

子宮移植

東京大や慶応大などの研究チームが、サルの子宮をいったん体外に出した後、移植し、再び体内で働かせることに成功した。サルで実験を重ね、将来は先天的に子宮がない女性や、がんで子宮摘出した女性も出産できるよう人での子宮移植を目指すという。
研究チームは、今年1~2月、カニクイザル2匹を開腹して子宮を取りだし、約2時間後に元のサルにそれぞれ移植した。1匹は現在も元気で、移植後すでに2回、月経があり、子宮が機能していることが確認できた。もう1匹は移植の翌日、死んだ。
カニクイザルは体重3.5キロと小さいため、子宮周辺の細い血管を結合する手術が難しかったが、最近開発された髪の毛の50分の1~30分の1の細い手術針を使い、血管の結合に成功した。今後、子宮を移植したサルに体外受精させて胎児が育つか検討するほか、他のサルの子宮を移植できるかどうかなども調べるそうだ。
人の子宮移植は、サウジアラビアで2002年に例があるが、血管の結合部に血栓ができ移植した子宮が機能しなくなったという。
今回の研究で、初めて霊長類で成功したことで、人間への応用の可能性がでてきたと言える。

2010年9月6日月曜日

友好的なウイルス

人は、腸管下部にその人独自の友好的なウイルス(friendly viruses)と呼べる集合体を有することが、新しい研究によって示された。
米ワシントン大学医学部ゲノム科学・システム生物学センターは、女性の一卵性双生児とその母親を対象とした研究で、一卵性双生児であっても腸管下部にそれぞれ異なるウイルスの“指紋fingerprint”があることを発見した。また、ウイルスの80%以上はこれまで発見されていなかった新しいものであった。
研究によれば、これらの友好的なウイルスは、自身では消化できない特定の食事の成分の消化を助けるなど多くの便益をもたらす腸内細菌の活動に影響を及ぼすと考えられた。さらに、ウイルスは疾患に立ち向かったり、治療後の回復に関与しており、消化管内の微生物叢の全体的な健康の指標として機能する可能性もあるという。

2010年9月5日日曜日

アルツハイマー病診断基準

1984年に作成されて以来、25年間で初めて改定されることになるアルツハイマー病診断基準の草案が、米ホノルルで開催されたアルツハイマー協会アルツハイマー病国際会議で発表された。
初期段階のアルツハイマー病の同定方法の開発は、この疾患の早期診断には必須であり、新しい治療法につながる可能性がある。
診断基準を改定する理由の1つには、アルツハイマー病は症状が出現する何年も前に始まるという新しい理解であり、疾患の同定が早いほど、その発現を遅らせる可能性が高まるという。アルツハイマー病の同定方法には、遺伝子解析、PETやMRIスキャン、β(ベータ)アミロイド代謝異常、脳脊髄液に認められるタウ蛋白などのバイオマーカーがある。また、アルツハイマー病とレビー小体型など他のタイプの認知症との相違に対する理解も進んでいる。
今回の改定案では、症状が出現する前のアルツハイマー病同定に有用な前臨床段階の疾患、アルツハイマー病の最初の徴候である軽度の認知障害を考慮に入れるとともに、診断に役立つ可能性のある推奨されている特定のバイオマーカーについて検討している。
アルツハイマー病の診断には除外診断法が用いられてきたが、今回の新しい診断基準は、初期のアルツハイマー病に感受性を示すバイオマーカーが実際にあるという事実に基づいたものである。

2010年9月4日土曜日

あせも

暑さが続くこの時期、あせもに悩まされるのは子供だけではない。生活環境の変化で、近頃は大人のあせもも増えているという。あせもは大量の発汗によって汗腺が詰まり、炎症を起こす症状をいう。大人にも増えている背景には、クールビズでオフィスの温度が高めに設定されていることなどがあるとみられる。
今年は特に、かゆみや炎症を抑えるクリームなど、あせもケア商品の売れ行きが好調なようだ。あせもケア用品はほかにも、スプレーやローションなど様々なタイプが出ている。ただ、効果の面では大きく分けて〈1〉主に初期症状向けでかゆみ・炎症を抑える〈2〉粉状の成分(酸化亜鉛)入りで患部を乾かして治す、の二つに分類できる。
あせもができやすい個所は、男性はワイシャツの首まわりやベルトをしている腰、女性は下着やストッキングが当たる部分など。手でかくと症状が悪化する。かゆみ止め成分の入った市販薬を塗り、かかないようにすれば、数日から1週間で治る。予防策としては、通気性の良い服装で、汗をこまめにふき取るのが一番。

2010年9月3日金曜日

妊娠ストレスと喘息リスク

ハーバード大学の研究で、妊娠中のストレスが出生児の喘息リスクを高める可能性があることがわかった。
以前の研究では妊娠中の母親のストレスが胎児の免疫系の発達に影響する可能性が示唆されていた。
今回の研究では、ストレスの多い環境下にいる母親から生まれた乳児と、ストレスの低い母親から生まれた乳児の臍帯血中の免疫機能マーカーが比較検討された。
被験者は、都市部在住の妊婦で、そのうち20%が法定貧困レベルを下回っており、父親ないし妊娠中の母親に喘息またはアレルギーの既往歴があった。家庭(家庭内暴力を含む)、地域(コミュニティーの暴力)での生活におけるさまざまなストレス因子について詳細に質問し、557家族から回答が得られた。
研究では、出産時に採取した臍帯血から免疫細胞を分離して、多数の因子(粉塵、ゴキブリなどアレルギー源、ウイルス性および細菌性刺激物質)で刺激し、さまざまなサイトカインの産生を分析した。これは、環境に対して乳児の免疫がどのように反応するかの指標となる。
その結果、所定の刺激物質に対するサイトカインの放出パターンは、母親のストレスレベル(自己報告)によって異なることが示唆された。
ストレスの高い母親の胎盤で認められたサイトカインの産生パターンにより、出生児の免疫機能が確認できるが、胎児が成長すれば,喘息とアレルギーの発症リスクのマーカーとなるかもしれない。
今回の研究の結果は、母親の心理的ストレスが児の免疫反応プログラミングに関与していることと、この影響が妊娠中から始まっていることを示唆している。
今回検討した乳児が成長すれば、これらの因子が喘息とアレルギー発症にどのように関与しているか確認することができるだろう。

2010年9月2日木曜日

ブロッコリー

米ミシガン大学薬学部製薬科の研究で、ブロッコリーに含まれる化合物が、がん幹細胞を抑制し、乳がんの予防または治療に役立つ可能性があることがわかった。
今回の研究では、乳がんのモデルマウスにブロッコリー抽出物から得られたさまざまな濃度のスルフォラファンを注入し、その後に腫瘍のがん幹細胞数を算定した。その結果、スルフォラファン投与後にがん幹細胞は大幅に減少したが、正常な細胞にはほとんど、または全く影響がなかった。
さらに、スルフォラファンを投与したマウスのがん細胞では、増殖能が低下していた。また、ヒト乳がんの培養細胞にも同様の実験を行った結果、スルフォラファンによって、がん幹細胞が減少することが示された。
今回の研究で使用されたスルフォラファンの濃度は、ブロッコリーまたはブロッコリーの芽を摂取することで得られる濃度よりも高かった。以前の研究から、ヒトはがんに影響を及ぼすうえで必要な濃度のスルフォラファンをブロッコリー抽出物から吸収することが可能だとされているが、副作用についてはわかっていない。ブロッコリー抽出物にはカプセルのサプリメントがあるが、含有濃度はさまざまであるという。
また、ヒトでの臨床試験はまだ行われていないため、現時点では患者の食生活にスルフォラファンのサプリメントを追加することは推奨されていない。
米国がん協会(ACS)によると、米国では2010年の1年間に19万4,280人が乳がんの診断を受け、4万610人が死亡すると予測されている。

2010年9月1日水曜日

熱中症対策

残暑厳しい折、熱中症患者がいまだ少なくない。体温調節機能が弱い高齢者や乳幼児の発症が目立つが、最近は、若い世代でも暑熱適応の低下がみられる。暑い所と空調の効いた涼しい部屋を行き来すると、急激な気温変化に対応するために自律神経が疲れてしまう。その結果、夏バテなどの体調不良を起こし、熱中症にかかりやすくなる。
熱中症は、高温多湿などの環境で、体が暑さに適応できないために起こる障害の総称。めまいや吐き気、だるさやけいれん、意識障害など様々な症状が出る。閉めきった暑い部屋や車中でも発症する可能性がある。
熱中症にかかりやすい、猛暑の時には、無理をせず、外出時間をずらしたり、短縮したりするなどの工夫が大切。また、炎天下の外出時には、自衛策を講じる。日差しを遮る帽子や日傘に加え、最近登場している暑さ対策グッズを活用する手もある。
水を含ませて首に巻き、首を冷やすスカーフが人気。熱中症にかかる危険性をブザーで知らせる「携帯型熱中症計」や体を冷やすスプレーもあり、親子連れからビジネスマンまで幅広い世代に売れているという。
乳幼児の外出に使うベビーカーにも注意が必要。気温35度の日には、路面の照り返しもあって、ベビーカーの座面の温度は39度にもなる。座面を路面から離して高くしたり背板に断熱シートを入れたり、暑さ対策をしたベビーカーもある。
こまめな水分補給や暑さ対策をしても、寝不足や下痢、二日酔いなど体調次第で熱中症は起こりうる。熱中症の症状が疑われる場合には、涼しい場所に避難させ、服を脱がせて体を冷やす。厚生労働省の「職場における熱中症予防対策」によると、まず、意識を確認し、「意識がない」「返事がおかしい」「全身が痛い」などがあれば、救急車をすぐに呼ぶ。意識がはっきりしても、水分を自力で取れないなら、すぐ医療機関へ。飲めるなら、水分と塩分を取らせて、回復しなければ医療機関に搬送する。
「応答が鈍い」「言動がおかしい」など中枢機能の異常は命にかかわる緊急事態。すぐ救急車を呼び、体に水をかけてあおぎ、首やわきの下、脚の付け根に氷などを置いて急いで体温を下げる。おかしいと思ったらすぐ対処することが大切。