2014年8月6日水曜日

ノロウイルス

急性胃腸炎に起因した死亡は世界で年間約145万例と推定されており,全ての年齢層でその主要な原因とされているのがノロウイルスである。米疾病対策センター(CDC)は,200814年に報告されたノロウイルスに関する175件の調査を実施。日本を含む48カ国の急性胃腸炎患者約19万例という過去最大規模のデータの解析から,急性胃腸炎の約2割はノロウイルスが原因であることが示唆された。
2008年に報告された19902008年発表の研究では,急性胃腸炎の散発例の12%がノロウイルスと関連するとの解析結果が示された。
 また最近,分子診断の普及により,急性胃腸炎に対するノロウイルスの影響に関する報告が相次いでいる。今回の研究では,より幅広い地域・国の最新データを用いてノロウイルスに起因した急性胃腸炎の割合を明らかにした。
 175研究のうち26研究は高死亡率に分類される発展途上国からの報告で,それらは主に5歳未満,異年齢,あるいは入院患者を対象としていた。最終的に,日本を含む48カ国の187,336人が解析の対称となった。
その結果,急性胃腸炎患者にノロウイルス感染者が占める割合は18%だった。また入院患者,市中患者,外来患者に分類して解析したところ,同割合は入院患者17%に比べて市中患者24%や外来患者20%で高い傾向が認められた。
 さらにノロウイルスが原因の急性胃腸炎が占める割合は,高死亡率の発展途上国14%に比べて低死亡率の発展途上国19%や先進国20%で高い傾向にあった。
 一方,年齢層別では5歳未満で18%,5歳以上で18%,全年齢では19%で,年齢層による感染率の違いは認められなかった。

急性胃腸炎患者にノロウイルス感染例が占める割合は発展途上国よりも先進国で高いことが示された点について,低所得国では多様なバクテリアや寄生性病原体による急性胃腸炎の罹患率が高いことが背景にあるのではないかと考察された。また,ノロウイルスは,水質改善や食品衛生によって管理することができないとし,ワクチン開発の重要性が強調された。

2014年7月21日月曜日

サッカーの効用

サッカーは60歳以上の男性の健康に多大な恩恵をもたらす可能性がある。こんな研究結果がデンマーク、コペンハーゲン大学の研究でわかった。
 今回の研究の被験者は、6375歳の運動をしていない男性27人。被験者を、サッカーをする群、筋力トレーニングをする群、トレーニングをしない群のいずれかに割り付け、トレーニングを行う2群は週2回、1時間のトレーニングを1年間行った。被験者は全員、試験開始時、4カ月後、12カ月後に身体検査を受けた。
 その結果、サッカー群の被験者では、心機能、筋力、骨密度が有意に改善した。運動をしていなかったころに比べて、サッカーのトレーニングやプレーを行った後には、最大酸素摂取量が15%、インターバル運動の能力が50%、筋の機能が30%改善し、大腿骨頚部の骨密度が2%増加した。
今回の結果は、サッカーは運動していない高齢男性などにとって、効果的で変化に富む、高強度のトレーニングであることを示す強力なエビデンスである。サッカーを始めるのに遅すぎるということはない。サッカーは高齢男性の体力や心臓の健康に寄与し、転倒や骨折のリスクを最小限に抑える。また日常生活においても、心肺機能と筋力が向上するため、活動的に過ごせるようになる。

2014年7月20日日曜日

Helicobacter pylori

Helicobacter pyloriH. pylori)保菌率の高い高齢者と接する機会の多いリハビリテーション(以下リハビリ)職員のH. pylori陽性率が就労年数に伴って上昇していることが,第20回日本ヘリコバクター学会学術集会のシンポジウム「H. pylori感染症の問題点を探る」で報告された。筑波記念病院(茨城県つくば市)副院長の池澤和人氏(消化器内科)が同施設の職員を調べた結果導いたもので,まれと認識されていた成人期のH. pylori感染の可能性を示唆する調査結果として注目される。
高校の卒業式や成人式でH. pylori感染を診断,治療するという試みが各地で行われているが,これはH. pyloriの感染ルートは小児期の唾液を介した家庭内感染が主であり,成人期の感染は少ないとの知見に基づく方策といえる。一方で,プライマリケアに携わる看護系スタッフや内視鏡検査医などが,一般に比べて感染率が高いとの報告もあり,成人後の感染成立が否定できないことを示すデータとして検証が望まれていた。
 池澤氏は,H. pyloriを保菌している可能性が高い高齢入院患者と濃厚に接触しているリハビリ職員において,就労年数がH. pylori感染率に及ぼす影響について調査を行った。
 同施設の40歳未満の職員のうち,リハビリ職員209人および非リハビリ職員22人の尿中抗体を用いてH. pylori診断を行った。過去の除菌歴,腎疾患の既往および尿蛋白陽性者は除外したという。
 今回の研究に同意したリハビリ職員173人(男性98人,女性75人;平均年齢27.5歳,平均就労年数4.4年)のH. pylori陽性率は16.2%(男性14.3%,女性20.0%)であった。
 就労期間から12年,34年,56年,6年超の4群に分けて陽性率を見ると,それぞれ5.0%,12.0%,17.6%,28.6%であり,就労が長期の群で有意に陽性率が高かった。職種別では,患者の唾液・胃液の曝露を受けやすい言語聴覚士の感染率が26.3%と高かったが,作業療法士16.3%,理学療法士15.3%との間に有意差は認められなかった。
 一方で,対照とした非リハビリ職員(薬剤師12人,放射線技師10人、平均年齢27.2歳,平均就労年数4.5年)のH. pylori陽性は1人(4.5%)のみだった。リハビリ職員と非リハビリ職員との間には陽性・陰性例ともに両親・祖父母との同居期間に差はなく,今回の検討には肉親からの影響は少ないと考えられた。

 若いときにH. pylori陰性の診断を受けても,就労環境によっては成人感染することを示唆する結果であり,今後は陰性者のサーベイランスを行い,追跡する必要があるようだ。

2014年7月15日火曜日

動物性蛋白質で脳卒中予防

中国は,日本を含む3カ国で実施された研究で,食事からの蛋白質摂取と脳卒中リスクの関連について検討。その結果,適度な蛋白質摂取により脳卒中リスクが低下すること,また植物性蛋白質に比べて動物性蛋白質,特に魚の摂取が脳卒中予防に有効である可能性が示唆された。
食事からの蛋白質の高摂取が血圧および血清脂質値低下作用に関連することが動物実験で示されたことなどから,1980年代以降,複数の研究でこの関連性が検討されてきたが,一貫した結果は得られていない。
今回,こうした関連性に加え,脳卒中のサブタイプや蛋白質の種類,摂取量の違いによる影響の有無について検討するため,日本を含む3カ国で行われた研究のメタアナリシスを実施した。
症例数は計254,489例で,4件が米国,2件が日本,1件がスウェーデンで実施された研究であった。
解析の結果,蛋白質摂取量の高摂取群では低摂取群に比べて,補正後の相対リスクが20%低下していた。
 脳卒中のサブタイプ別に見ると,蛋白質の高摂取によるリスク低減効果は脳内出血で最も高く,蛋白質の種別で見た脳卒中リスクの低減効果は植物性蛋白質の12%に対して動物性蛋白質では29%と高かった。
 また,5件の研究を対象に蛋白質の摂取が用量依存性に脳卒中リスクに関連するか否かを検討したところ,蛋白質摂取量と脳卒中リスクとの間に非線形関係は認められなかったものの,蛋白質摂取量が20g/日増加するごとに脳卒中リスクは26%低下することが示唆された。

 研究者らは「食事からの適度な蛋白質摂取は脳卒中リスクを低下させる可能性がある。さらなる臨床試験での検証が必要だ」と結論。さらに,蛋白質の種類別で脳卒中リスク低下に差が見られた理由として,今回のメタアナリシスの対象となった7件の研究のうち,魚の高摂取国である日本の2研究と動物性蛋白質の摂取源として主に魚が摂取されていた1研究における脳卒中リスクの低下が顕著であったことから,「赤肉を魚に替えることで脳卒中リスクを低減できる可能性がある」との見解を示している。

2014年7月12日土曜日

地中海食

魚、ナッツ、全粒穀物、野菜、果物を豊富に含む地中海食を摂っている小児はそうでない小児に比べて過体重や肥満になる可能性が15%低いことが、スウェーデン、イェーテボリ大学の研究で示された。これは年齢、性別、経済力、国にかかわらず同じだったという。
 研究では、ベルギー、キプロス、エストニア、ドイツ、ハンガリー、イタリア、スペイン、スウェーデンの小児9,000人超の体重と食習慣を検討された。被験者の体重と体脂肪は研究開始時と2年後に調べた。地中海食を習慣にしているのは、スイスの小児が最も多く、次にイタリアの小児が続いた。キプロスの小児が最も少なかった。
 研究者らは、「肥満予防に対するその有益な効果を考えれば、地中海式の食事は、欧州の肥満予防戦略の一環として強力に推進すべきである」と述べている。

2014年7月11日金曜日

新たな健診の検査基準

201444日、日本人間ドック学会・健康保険組合連合会が、「新たな健診の基本検査の基準範囲―日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」を発表。この発表をめぐる報道が臨床現場に混乱をもたらしている。そこで、NPO 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)の理事長である桑島 巌氏のコメント転記する。

 今回の基準値は、いわば健康な人の検査値の分布範囲というべきもの。将来の疾病発症について言及しているものではない。つまり、疾病発症予防のために各専門学会が定める“基準値”とは異なるものである。したがって、各専門学会の基準値に変更はないことをご理解いただきたい。
 しかし、一部メディアにおいて、基準値が変更されたと誤認を招く報道があり、患者さんおよび臨床現場を混乱させている。また基準値緩和という表現も多く見られる。これは本来治療しなければならない患者さんの受診回避という、重大な問題を引き起こしかねないと警鐘をならす。

 桑島氏は、データについて正しい解釈をすること、そして患者さんの誤解を正していくことが重要であると述べた。

 以下、NPO 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)の見解を引用する。

J-CLEAR ホームページより転載

 本年4月に,日本人間ドック学会・健康保険組合連合会 検査基準値及び有用性に関する調査研究小委員会が,「新たな健診の基本検査の基準範囲―日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」を発表しました。 この発表があたかも健康基準を緩和したかのような事実誤認の表現として一部マスコミなどで報道されていることに対し,当機構として遺憾の意を表するとともに以下のような見解を表します。

•このたび日本人間ドック学会が発表した基準値は,あくまでも2011年に人間ドックと健診を受けた人のデーターから,その時点で健康と考えられる人の血圧,コレステロールの分布範囲を示したものであり,将来の脳卒中や心筋梗塞などを発症する可能性に対する安全基準に言及した数値ではありません。
•日本動脈硬化学会や日本高血圧学会が発表しているコレステロールや血圧の基準値は,脳卒中や心筋梗塞などの発症予防のための基準値であり,世界や日本で行われてきた一般住民の科学的な長期的追跡調査の結果から導きだされたものです。 単年度の人間ドックや健診受診者の血圧やコレステロールの分布範囲からは,将来の心血管疾患の発症を予測する数字は,もとめられるものではありません。
•今回の報道に関して,メディアの方々には,脳卒中や心筋梗塞という取り返しのつかない疾患を未然に防ぐという予防医学の視点での科学的根拠にもとづいた正確な報道をされることを期待します。

VDT作業

近年では,モニター画面を注視して行うVDTVisual Display Terminal)作業の普遍化,24時間化が進み,長時間のVDT作業による筋骨格系障害が増加している。この度「VDT作業による障害の予防には体を動かす能動的休憩が重要であり,慢性化した障害や疼痛には「新経絡療法」が有用である。」と日本産業衛生学会で報告された。
VDT作業による負担の特徴として①座り続ける(姿勢の負担)②体の大部分はほとんど動かさずに指のみが高度な反復運動を行う作業(手指の負担)③絶え間なく注意を必要とする精神的負担④スクリーン上に再生された質の悪い文字を見るための視覚的な負担−などを挙げられる。これらの負担が,腰痛や頸肩腕障害などの筋骨格系障害の増加につながるという。
 ヒトの片腕の重さは体重の58%で,キー入力やマウス操作などで腕を宙に浮かして保持した場合,腕の重さを支える肩の筋肉に大きな負担がかかる。これがVDT作業による頸肩腕障害の大きな原因で,予防のためには腕の重さを支えるアームレストが重要である。
 アームレストは,キーやマウス操作時に前腕を幅広く支持し,肩甲帯や手首の負担を軽減。手前方向に傾斜があれば,肩が上がることもない。座位では腰に負担がかかり,前かがみになるとなおさらであるが,アームレストにより前かがみ姿勢を避けることもできる。
固定座位には単一の理想的な姿勢というものはなく,最適に設計された椅子においても,1日中同一の姿勢で座ると腰背部の痛みが起こる。同じ姿勢を長時間継続することが問題で,循環障害や筋疲労から筋肉性腰痛につながる。腰椎の固定による椎間板栄養障害からは椎間板ヘルニアを発症することもある。
 自然な姿勢の交代が可能な座面傾動椅子(座ると座面がモーターで前後にゆっくりと傾動する)などの導入により姿勢の負担は軽減されるが,費用がかかるという面もある。椅子より安価な傾動クッションも有用である。同クッションは3層構造と硬質ボードにより体動の促進が可能。
 2時間のVDT作業で傾動クッションの有無により①眼の疲労,頸肩腕,腰背,臀部,下肢の疼痛および眠気②体幹の動揺③総入力文字数と誤入力文字率−について差があるかどうかについて調べた研究がる。
 その結果,眼の疲労,頸肩背中,臀部,下肢の疼痛,眠気についてはクッションありで有意に低下した。特に腰痛では顕著で,クッションにより半減した。体幹傾動時の最大張力についても,クッションありで有意に低下していた。総入力文字数については有意な差は認められなかったが,誤入力文字率については有意差が認められた。傾動クッションは,体幹部の傾動促進によりVDT作業による腰痛などの症状や誤入力を軽減することが示唆された。
VDT作業障害の予防に有用なアームレスト,座面傾動椅子,傾動クッションなどを導入できない環境では,最長でも1時間に1回の休憩を入れ,作業中に使っていない筋肉を意識して動かすべきである。
 VDT作業障害に対する基本的な対策は能動的休憩(作業しながらの休憩)である。VDT作業で使用している筋肉を休め,作業中に使っていない筋肉を動かすことが重要だ。できるだけ大きな筋肉を動かすことが望ましく,歩くことが一番適している。
VDT作業が当たり前になった現代の産業現場では疼痛性疾患が多発しており,環境が改善しても慢性化した頸肩腕障害や腰痛は治らないため,作業改善と作業関連疾患に有効な疼痛治療の必要性がある。最近30年間の研究では,腰痛などの慢性疼痛に対して,鍼治療の科学的有効性と優位性が確立されている。
 鍼治療より手軽な新経絡療法(鍼ではなく棒で押す治療)を提案した。経絡というツボのネットワークを刺激して全身のエネルギーの流れを調整し,疼痛,自律神経障害などの治療を行う新経絡療法には①設備が不要で安全,容易,有効な医療技術②作業関連性筋骨格系障害の治療に従来治療より優位性がある③産業医,保健師でも習得でき,容易に使用可能−という特徴がある。

 新経絡療法は疼痛疾患だけでなく中枢性疾患にも有効で,不眠,めまい,パニック障害などの治癒も報告されている。また,同療法は低コスト,低副作用で鎮痛効果が高く,産業保健に適した治療法である。新経絡療法の産業保健への導入が望まれる。

2014年7月9日水曜日

ペットによる睡眠障害

側にいてくれると,ぐっすり眠れるような気がするが,意外とそうでもないらしい。
ある要因で夜の安眠を妨げられる人が増えているようだ。
その要因とは犬や猫,鳥などのペット。
あるクリニックの2002年の調査では睡眠センター来院者のうち,ペットを飼っていて夜間ペットに不都合な思いをさせられていた割合は1%に過ぎなかった。しかし,2013年の812月に110人の患者を対象に行った調査では,その割合は10%に増加していた。
不眠を訴える患者のほとんどは,ペットが自分の睡眠を耐え難いほど妨げているとまでは考えていないようだが,時にいらだちを感じる人が増えていることが分かった。また,患者が感じるいらだちの程度は,家族の人数と飼育するペットの数の多さに関連していた。
ペットのぬくもりを近くに感じながら安らかに眠っている飼い主も多いだろうが,ペットが原因で睡眠を妨げられている人が増えていることが分かった。
なお,調査からは睡眠中のいらだちは,ペットの「いびき」「クンクンとぐずる」「うろうろ歩き回る」といった行動と関連していたことも明らかにされている。ある男性は毎朝6時きっかりに大声で鳴くオウムを飼っていたとの例も紹介されている。
今回の調査結果を踏まえ、睡眠専門医は,夜間にいらだちで眠りが妨げられるといった睡眠上の問題を訴える患者には,ペットのことを尋ねた上で,睡眠の改善に関する支援を行うべきである。


2014年7月8日火曜日

A群溶血性レンサ球菌感染症

A群溶血性レンサ球菌は、上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こします。日常よくみられる疾患として、急性咽頭炎の他、膿痂疹、蜂巣織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱がります。これら以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などを起こします。また、菌の直接の作用でなく、免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことが知られています。さらに、発症機序、病態生理は不明ですが、軟部組織壊死を伴い、敗血症性ショックを来たす劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群)は重篤な病態として問題です。ここでは、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べます。
<疫学>
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎はいずれの年齢でも起こり得ますが、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な臨床像を呈する症例は少ないです。感染症発生動向調査のデータによると、冬季および春から初夏にかけての2 つの報告数のピークが認められています。近年、全体の報告数が増加する傾向にありますが、迅速診断キットの普及などで診断技術が向上したことによる可能性もあります。
 本疾患は通常、患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭、学校などの集団での感染も多いです。感染性は急性期にもっとも強く、その後徐々に減弱します。急性期の感染率については兄弟での間が最も高率で、25%と報告されています。
<症状>
潜伏期は25日ですが、潜伏期での感染性については不明です。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴います。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがあります。
 猩紅熱の場合、発熱開始後12 24 時間すると点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現します。針頭大の皮疹により、皮膚に紙ヤスリ様の手触りを与えることがあります。特に腋窩、ソケイ部など皮膚のしわの部分に多く、これに沿って線が入っているようにみえることもあります。顔面では通常このような皮疹は見られず、額と頬が紅潮し、口の周りのみ蒼白にみえる(口囲蒼白)ことが特徴的です。また、舌の変化として、発症早期には白苔に覆われた舌がみられ、その後白苔が剥離して苺舌となります。1週目の終わり頃から顔面より皮膚の膜様落屑が始まり、3週目までに全身に広がります。
 合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもあります。
<治療・予防>
治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬ですが、アレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、またセフェム系薬剤も使用可能です。いずれの薬剤もリウマチ熱、急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に投与することが必要です。
予防としては、患者との濃厚接触をさけることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も励行します。接触者に対する対応としては、集団発生などの特殊な状況では接触者の咽頭培養を行い、陽性であれば治療を行います。
本疾患は適切な抗生剤治療が行われれば、ほとんどの場合24時間以内に他人への伝染を防げる程度に病原菌を抑制できることもあり、登校登園については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられます。


2014年7月7日月曜日

ヘルパンギーナ

ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性発疹を特徴とし、夏期に流行する小児の急性ウイルス性咽頭炎で、いわゆる夏かぜの代表的疾患です。
疫学>
我が国では毎年5 月頃より増加し始め、67月にかけてピーク を形成し、8月に減少、910月にかけてほとんど見られなくなります。国内での流行は例年西から東へと推移します。患者の年齢は4歳以下 がほとんどで、1歳代がもっとも多く、ついで2340歳代の順となります。
<症状>
 24 日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径12mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現します。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴います。発熱については2 4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれん伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがありますが、ほとんどは予後良好です。
 まれに無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがあります。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきですが、項部硬直は見られないことも多いです。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要です。鑑別診断として、ヘルペスウイルスによる歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられます。
<症状から疑い診断>
下記の症状や所見から当該疾患が疑われます。
  1. 突然の高熱での発症
  2. 口蓋垂付近の水疱しんや潰瘍や発赤
<治療・予防>
通常は対症療法のみで、発熱や頭痛などに対しては解熱・鎮痛剤などを用いることもあります。時には脱水に対する治療が必要なこともあります。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要ですが、後者の場合には特に循環器専門医による治療が望まれます。
 特異的な予防法はがありませんが、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどです。

本症では、主症状から回復した後も、ウイルスは長期にわたって便から排泄されることがあるので、急性期のみの登校登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行阻止効果は期待ができません。本症の大部分は軽症疾患であり、登校登園については手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられます。

2014年7月6日日曜日

筋力低下から骨折への悪循環

整形外科では、変形性関節症や骨粗鬆に伴う、椎体の圧迫骨折による疼痛を訴える高齢者が多い。高齢者は、心疾患や呼吸器疾患のために運動が制限されることが多く、筋力低下は避けられない。筋力が低下すれば関節に負担がかかり、痛みの元となる。そして、痛いから動かない。動かないからますます筋力が低下して、痛みが増すという悪循環の中で、日常生活動作が低下して、さらに骨粗鬆化も進んで、転倒骨折の頻度が高くなるという結果を招いている。骨粗鬆症を予防することは、整形外科診療の中で非常に重要な治療のひとつであると考えている。
日常できる予防法
骨粗鬆症の治療手段は医師によってさまざまであるが、普段の食事からカルシウムやその吸収を助けるビタミンDを積極的に摂取すること、そして、何にも増して重要なのが、日ごろから運動を心がけることである。太陽に当たることは、摂取したビタミンDを人間にとって役に立つように活性化させると同時に、運動することは、骨に縦の力を加えて骨形成を促進させる。さらに筋力を鍛えることによって、関節への負担が減り、また関節周囲の靭帯を柔らかくして、関節の拘縮を予防することができる。その結果、転倒による骨折の頻度を低下させることも可能だ。
薬物療法

核家族化が進み、高齢者世帯が増えている現在、栄養バランスの取れた食事をすることが困難なケースが多くなっている。そこで、副作用が少なく、飲み忘れを気にすることなく長期に服用できる、活性型ビタミンD3製剤の処方が第1選択となる。

2014年7月5日土曜日

はしか(麻しん)

はしかの患者が国内で急増しています。国立感染症研究所のまとめでは、4月初めまでで、既に昨年1年間の患者数を上回り、さらに拡大する恐れがあります。
重症化しやすい上に、感染すると有効な治療薬がないため、感染研ではワクチン接種の徹底を呼びかけています。
「はしかとは、どのような症状が出るのですか。」
感染すると約10日間の潜伏期間を経て、発熱や鼻水、せきなど風邪のような症状が出てきます。その後、39度前後の高熱と発疹が1週間以上続き、口の粘膜にブツブツも現れます。免疫力の低下が数週間続くので、ほかの病気にもかかりやすくなります。
「重い症状に苦しむ人も多いそうですね。」
はしかは重症化しやすく、感染者の3割が合併症を起こすと言われています。合併症の半数は肺炎で、ほかに中耳炎、脳炎、心筋炎などを起こすこともあります。栄養状態が悪かったり、別の病気を治療中で免疫力が低下していたりすると、重症化しやすく、死に至ることさえある危険な病気です。

「どのように感染するのですか?」
はしかは感染力が強く、同じ部屋にいるだけで空気中に漂うウイルスを吸い込んで感染する空気感染を起こします。せきやくしゃみなどによる飛沫感染や、ウイルスが付いたものに触り、口から入って感染することもあります。高熱や発疹が出ていない初期に最も感染力が高いため、感染に気づかずに行動し、多くの人に広げてしまうのも問題なのです。
「今年は流行しているそうですね。」
感染研によると、昨年1年間の患者数232人を4月初めの時点で既に追い抜き、5月8日現在で患者数は324人に達しました。今年初めにフィリピンなどはしかの流行国に渡航した人が帰国後に発症する例が散発し、その後、海外から持ち込まれたウイルスが国内で感染を広げています。
「治療法はないのですか?」
有効な治療薬はありません。感染を予防するワクチン接種しか打てる手立てがありません。

「ワクチンはどのようなものですか?」
はしかの単独ワクチンと、はしかと風疹の混合ワクチン(MRワクチン)があります。1回の接種で95%の人が免疫を獲得し、2回接種すればほぼ全員が免疫を得ることができるため、2回接種が推奨されています。国の予防接種法に基づき、06年度から1歳児と小学校入学前1年間の幼児の2回接種制度が始まりましたが、今年の患者の19%は1~4歳が占め、その多くが予防接種を受けていなかったなど接種が徹底されていないことがわかっています。
「副作用が心配です。」
ワクチン接種後に最も多く見られるのは発熱です。発疹やじんましんが出る人も数%おり、発熱に伴うけいれんを起こす人も約0・3%見られます。まれに、脳炎・脳症が100万~150万人に1人以下の頻度で報告されていますが、ワクチンとの因果関係がはっきりしていないケースも含まれています。重いアレルギーのある人は、ワクチンに含まれる成分でアレルギー反応が起きる可能性もあるので、医師に相談してください。
「予防接種はどこでどのような場合に受けられますか?」
内科、小児科などがある医療機関で免疫があるかどうか調べる抗体価検査やワクチン接種が受けられます。妊婦が感染すると流産や早産の原因となりますが、妊娠中は受けられません。予防接種法に基づく子どもの接種は自治体の補助がありますが、その他の場合は原則、全額自己負担になります。周囲ではしかが流行しているようなら、近くの医療機関に相談してみると良いでしょう。

2014525 読売新聞より)

2014年7月4日金曜日

冷房対策

これからのシーズン、通勤電車の中は、冷房が入るようになります。梅雨時の湿気対策と、暑さ対策のためです。家を出るときは薄着ですが、電車や会社では、冷房対策が必要になり、上着を持ち歩く人もいるでしょう。周りの環境に合わせて、洋服で体調管理をすることが重要になってきます。
登山をされる方は、気候の変化にうまく対応するために、服装を工夫する方法をよくご存じだと思います。都会で仕事をするサラリーマンやOLも、同じような工夫が求められています。
漢方医学では、病気を治すために、単に薬を服用することだけではなく、服装や食事、生活上の注意点まで指導します。例えば、風邪の場合は、発熱で体がほてっていても厚着をしていただき、汗が出てきたら、下着を何度も取り換えて、汗で体が冷えるのを予防します。冷たい飲み物を飲まないように、また手を洗うときも冷たい水は使わないように指導します。
これからの季節、冷房対策としては、首回りを冷やさないように心がけることです。首回りに冷たい空気が当たると、ゾクゾクと寒気がして体調を崩しやすくなります。のど風邪を引いてしまう方もいるでしょう。暑い時期ですが、ストールやマフラーなどを活用すると良いと思います。

足もと、お腹も冷やさないように
職場では、机の位置によって足もとが冷える場合があります。「頭寒足熱」のごとく、足もとを冷やすのは健康には良くありません。下半身を冷やすと、お腹の調子が悪くなり、トイレも近くなります。こんな場合は、レッグウォーマーや膝掛けなどを使用しましょう。
暑い中の外出から家に帰った時、どうしても、冷たい飲み物を一気にお腹の中へ入れてしまいます。しかし、体の中から、冷えないようにすることも大切です。食事のときも同様に、食べる順番を工夫しましょう。最初に、お腹に入れる食べ物や飲み物は、かならず温かいものにして、お腹の中を冷やさないようにします。一度、冷えてしまった消化管を温めるためには、たくさんのエネルギーが必要になります。お腹の中を冷やすことは、夏場に体調を崩す一因になります。
人は皆、環境に大きく左右されます。環境によって体調を崩したり、気分が落ち込んだります。しかし、人は自分の力で、環境をうまくコントロールすることもできます。服装や食事の取り方など、簡単な方法で、季節に振り回されるのではなく、季節を楽しむことができるようになります。ぜひ、日本の四季を楽しんで、健康で元気な毎日をお過ごしくださいますように。


2014年7月2日水曜日

睡眠

「早寝早起きは健康のもと」。健康の常識の一つになっているが、気をつけたい「落とし穴」もある。
年齢を重ねると、自然に早起きになる。この傾向は、特に男性で顕著だ。早く起きた分、睡眠時間を確保しようと、早く寝ようとするが、床に入ってもなかなか寝付けないこともある。実は、睡眠開始の2~3時間前は最も寝付きにくい時間帯なのだ。
夜中に何度も目を覚ます人は、寝床に早く入り過ぎている可能性がある。寝床に長くいるのに、眠りが浅い場合、むしろ遅寝早起きにして、眠くなってから寝床につくと良い。夜にしっかり寝るには、〈1〉日中はしっかり光の下で過ごす〈2〉昼間に適度な運動をする〈3〉昼寝をし過ぎない――などが重要だ。寝酒は、眠りを浅くしてかえって逆効果になる。

睡眠時間は、年齢によっても変化する。25歳で平均7時間、45歳で同6時間半、65歳で同6時間と、健康な人では20年ごとに30分ほど減る。自分にあった睡眠をとることが大切だ。