2010年10月24日日曜日

予防接種3ワクチン

厚生労働省の予防接種部会は10月、インフルエンザ菌b型(ヒブ)、小児用肺炎球菌、子宮頸がんの3種類のワクチンについて、公費で接種が可能な予防接種法の定期接種に位置づけるべきだとする緊急の意見書をまとめ、同省に提出した。
ヒブなどの3ワクチンは有効性、安全性も高く、国民の要請も強い。まずは国の補助事業として早期に接種を促進するなど、将来的な定期接種化に向けた動きを加速させてほしい。
同部会は年末をめどに提言をまとめる予定だったが、今年度補正予算の議論に反映させるため緊急に意見集約した。3ワクチンは、世界保健機関(WHO)が接種を勧告し、米、英など先進7カ国で定期接種のプログラムとして実施していないのは日本だけという。

2010年10月23日土曜日

不健康な四つの習慣

ノルウェーのオスロ大学の研究で、喫煙、運動不足、飲酒、偏った食事という四つの不健康な習慣の重複が、死亡リスクの大幅な増加と関連していることがわかった。
これまでの複数の研究で、(1)喫煙(2)運動不足(3)多量飲酒(4)重要度は劣るが野菜や果物の少ない食事—は、心血管疾患(CVD)、がん、早死などのリスク増と関連していることがわかっている。しかし、これら不健康な習慣の影響を調べた研究のほとんどは、各習慣の独立した影響を検討したものばかりである。
しかし現実には、複数の不健康なライフスタイル要因が併存している可能性がある。このような行動に対する公衆衛生上の影響を理解するには、一つの行動だけでなく、習慣の重複が健康に与える影響を調べる必要がある。
今回の研究では、1984~85年に18歳以上の参加者4,886例に聞き取り調査を行った。不健康な習慣一つにつき1点を加算して、健康習慣スコアを算出した。不健康な習慣は、(1)喫煙(2)果物と野菜の摂取が1日3回未満(3)1週間の運動時間が2時間未満(4)1週間の飲酒量が女性の場合は14単位超(1単位はアルコール8g)、男性の場合は21単位超—とした。
平均20年間の追跡期間中に1,080例が死亡したが、死因の内訳はCVD(431例)、がん(318例)、そのほか(331例)であった。
スコアが4点であった者は、0点であった者と比べて、CVDまたはがんで死亡するリスクが約3倍、そのほかの疾患による死亡リスクが4倍で、全死亡リスクは12歳年上の人と同等であった。また、不健康な習慣の数が一つ増えるごとに、全死亡と各疾患による死亡リスクが増加した。
ライフスタイルをわずかでも改善できれば、相当の効果が得られることが分かっている。今後の公衆衛生政策では、人口全体で健康的な食生活とライフスタイルを向上させるための効率的な方法について考える必要があるようだ。

2010年10月22日金曜日

乳児期の母親の愛情

米国のデューク大学の研究で、乳児期に母親から十分な愛情を受けた人は、成人後のストレス処理能力が高いことが分かった。
幼少期の経験が成人後の健康に及ぼす影響に関心が高まっているが、多くの研究は本人の記憶に頼っており、被験者を幼少期から成人期まで追跡した研究は少ない。今回の研究では、米ロードアイランド州の出生コホートにおける482例の分析を行った。
研究では、生後8カ月の定期的な発達検査において、心理学者が母親と乳児の交流の質を客観的に評価した。各セッションの終わりには、母親が小児の発達テストにどのように対処するか、また小児の成績にどのように反応するかについて質問票に記入した。母親の小児に対する愛情と注意のレベルは、「低い」から「非常に高い」までの範囲で分類した。
その後の追跡調査では、不安、敵意などの具体的な要素と全般的な苦痛レベルを示す有効な症状チェックリストを用いて、平均34歳時点で被験者の精神的な健康度を評価した。
生後8カ月の評価では、10例に1例(46例)の親子の相互反応において、母親の小児に対する愛情レベルが低いと分類された。大半(85%,409例)の母親の愛情レベルは正常と分類された。残りの6%(27例)の母親は、愛情レベルが非常に高いと判定された。
チェックリストの特定の要素を分析したところ、生後8カ月の時点で母親の愛情レベルが最も高いと評価された者は、不安、敵意、全般的な苦痛のレベルが最も低いことが分かった。
母親の愛情レベルが低い~正常に分類された者では、高いレベルに分類された者と比べて、不安スコアに7ポイント超の差が認められた。両群を比較すると、敵意スコアは3ポイント超、全般的な苦痛スコアには5ポイント超の差があった。
このパターンは、チェックリストの全要素にわたって観察され、母親の愛情が豊かであるほど成人期の苦痛レベルは低かった。
今回の研究結果から、人生のごく初期の経験が成人の健康に影響を与える可能性があるとする主張が裏付けられた。母親の高いレベルの愛情により、安心ときずなの形成が促進される可能性がある。その結果、苦痛レベルが低下するだけでなく、有効な社会的スキル、ストレス対応スキルなど生活全般にわたる処理能力を発達させることができ、成人後に安定した人生が可能になるだろう。

2010年10月21日木曜日

生殖医療

「インドでの代理出産プログラムをご提供」。インターネットで「インド、代理出産」と検索すると、こんな文言の並ぶウェブサイトにたどり着くらしい。"生殖ツアー"関連業者の広告だ。費用予想約700万円。先進国の不妊夫婦らの間では"安い費用"で済むインド女性に人気があり、同国では代理出産が外貨獲得のための重要産業になっているとされる。
これを可能にした技術こそ「体外受精」。今年のノーベル医学生理学賞受賞者に、1978年に世界初の体外受精児を誕生させ、同技術を開発したロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)が決まった。
この技術開発を機に現在に至る「生殖革命」が始まったが、今日の世界的な状況を見ると同技術は不妊治療の枠を超えて利用され、負の側面があることも否定できない。生殖革命が無秩序に進めば人類自体を変化させる恐れすらあり、各国はその影響を注視することも求められるだろう。
こうした中、日本では50人に1人が体外受精で誕生しながら、これらを規制・管理する法律が全くなく、どこまで利用可能とするかの議論も尽くされていない。野田聖子自民党衆院議員(50)も第三者からの提供卵子を使った体外受精での妊娠を公表したばかりだ。国会は法制化に向け、生殖補助医療について本格的な討議を行うべきだ。
体外受精は当初、卵管の通過性が悪いことが原因で妊娠できない女性が対象だったが、技術発展などに伴い対象範囲も拡大。第三者提供の卵子や精子を使った体外受精や、第三者の女性が妊娠・出産する「代理出産」も、もたらした。
ただ、生殖技術の利用は(1)女性の身体的リスクが大きい(2)親子関係が複雑になる-などの問題が存在するほか、海外では生殖の商品化も進行。米国の一部では人種や美ぼう、学歴などの特性を記したカタログによって精子や卵子が売買されているほか、金銭目的の代理出産も行われている。
韓国では男女産み分けのために体外受精が行われるなど「命の選別」も進む。遺伝子操作が認められれば、望みの特性を持つ「デザイナー・ベビー」を産んだり、"スーパー人類"が誕生する可能性すらある。
日本では、エドワーズ氏の成功から5年後、東北大で初の体外受精児が誕生。一部クリニックでは提供卵子の利用や代理出産も実施されている。
政府は2003年、代理出産禁止や卵子提供制限などを柱とした法案を提出しようとしたが、自民党内の反対で頓挫。代理出産を限定的な範囲で事実上容認する民法特例法案を議員立法で提出する動きはあるが、親子関係をどう規定するかも含め、政府による法整備の動きは止まったままだ。
憲法13条の幸福追求権から導き出される「産む権利」と「生命の尊厳」などとのバランスをどう図っていくのか。根源的問題も含めた議論が求められている。

2010年10月20日水曜日

カナダの禁煙法

トロント大学臨床評価科学研究所の研究で、公共スペースや職場に加えてレストランなども禁煙とする禁煙法の施行により、心血管疾患による入院が39%、呼吸器疾患による入院が33%減少したことがわかった。
これまでの研究では,禁煙法の施行が心血管疾患、特に心筋梗塞のアウトカムにどのように影響するかについて検討されることが多かった。しかし、呼吸器疾患による入院への禁煙法の影響について調査した研究は少ない。
今回の研究では、1996年1月~2006年3月の10年間にわたり住民対象研究を行い、トロントで施行された禁煙法が、心血管疾患(急性心筋梗塞,狭心症,脳卒中)と呼吸器疾患(喘息,慢性閉塞性肺疾患,肺炎,気管支炎)による入院に与える影響について調査した。
トロントでは1999~2004年に、フェーズ1~3の3段階に分けて段階的に禁煙法を施行。入院の減少が最大だったのは、公共スペースや職場に加えてレストランでの喫煙が禁止されたフェーズ2施行後3年間であった。この期間に急性心筋梗塞、呼吸器疾患、心血管疾患による粗入院率はそれぞれ17%、33%、39%低下した。
今回の結果は、受動喫煙への曝露は健康に有害なため、曝露量を減らすための法制化が必要とするこれまでのエビデンスと一致している。さらに、どのような状況下で禁煙法が最も効力を発揮するかについて、さらなる研究が必要なようだ。

2010年10月19日火曜日

花粉症

気象情報会社「ウェザーニューズ」は、来春のスギとヒノキ(北海道はシラカバ)の花粉飛散量予測を発表した。全国平均で今年の5倍、近畿だと10倍、関東は7~8倍とみている。シラカバ花粉は今年と同等か多くなる見込み。
今夏の記録的猛暑と日照時間の長さから、雄花生産量が多くなるとみられるという。花粉症は無関係と思っていた人も来春は油断できなくなりそう。早めの対策が必要なようだ。
今春と比べた各地域の予測は以下の通り。
北海道1~2倍▽東北北部5~6倍▽東北南部2~3倍▽関東、甲信、北陸、東海7~8倍▽近畿10倍▽山陰2~3倍▽山陽5~6倍▽四国6~7倍▽九州2倍。

2010年10月18日月曜日

受動喫煙

ロンドン大学の研究で、健康な成人では、受動喫煙が精神健康度の低下や精神科入院リスクと関連することがわかった。
受動喫煙が身体に有害であることを示す文献は増えている。しかし、受動喫煙のメンタルヘルスへの影響についてはほとんど解明されていない。
今回の研究では、1998~2003年にスコットランドの健康調査に参加した精神疾患の既往がない非喫煙者5,560人(平均年齢49.8歳)と喫煙者2,595人(同44.8歳)を対象に調査した。参加者に精神健康調査票(GHQ-12)に回答してもらい、スコアが3点以上の場合を「精神健康度が低い」とみなした。また、平均6年間の追跡期間中の精神科入院について記録した。非喫煙者の受動喫煙は、唾液中のコチニン(ニコチンの代謝産物で、ニコチン曝露の信頼性の高い生化学的マーカー)を用いて評価した。
その結果、参加者の14.5%で精神健康度が低かった。受動喫煙量の多い非喫煙者(コチニン濃度0.70~15μg/L)では、コチニンが検出されなかった者と比べて精神健康度低下がみられる者が多かった。
平均6年間の追跡期間中、41人が精神科に入院していた。喫煙者と受動喫煙量の多かった非喫煙者は、いずれも受動喫煙量が少なかった非喫煙者に比べてうつ病、統合失調症、せん妄などにより精神科に入院する傾向が強かった。
動物実験のデータでは、たばこはネガティブな気分を引き起こす可能性があることが示唆されており、ヒトでの研究でも喫煙とうつ病の潜在的な関係が示されている。これらの知見を考慮すると、今回のデータはニコチンへの曝露がメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることを示唆する他のエビデンスと一致する。

2010年10月17日日曜日

HDLコレステロール(HDL-C)

タフツ大学(ボストン)分子心臓病学研究所の研究グループは、HDLコレステロール(HDL-C)値が高い人では心疾患リスクが2分の1~3分の1になるだけでなく、発がんのリスクも大幅に低くなるとの研究結果を発表した。
今回の研究は、総症例数が14万5,743例の大規模試験となり、追跡期間の中央値は5年で、発がんの報告件数は8,185例であった。
研究の結果、HDL-C値が10mg/dL高くなるごとに発がんリスクが36%低くなることがわかった。これはベースラインのLDLコレステロール(LDL-C)値や年齢、BMI、糖尿病、性、喫煙状況を含む他の危険因子とは独立したものであった。
HDL-C値を高める最良の方法は健康的なライフスタイルを選択すること、すなわち定期的に運動し、健康的な食事を取り、飲酒は適度に抑え、禁煙することである。心疾患リスクが高いとされる人には、HDL-C値を上昇させる薬剤がある。
この研究は、HDL-Cが喫煙、肥満、炎症など、心疾患とがんの双方に関与することが知られているすべてのライフスタイル・危険因子の重要なマーカーである可能性を示している。低いHDL-C値は、慢性疾患リスクのマーカーと考えられるため、そのような患者にライフスタイルの改善を強調する動機付けになるだろう。

2010年10月16日土曜日

受動喫煙

他人のたばこの煙を吸わされる「受動喫煙」が原因で死亡する人は、国内で少なくとも年間約6800人に上るとの推計を、厚生労働省の研究班が発表した。2009年の交通事故による死者4914人を大きく上回る。
受動喫煙との因果関係がはっきりしている肺がんと虚血性心疾患の死者だけを対象にしており、実際にはもっと多い可能性がある。受動喫煙でこれらの病気にかかる危険性が1.1~1.4倍に高まるとした研究や、受動喫煙にあう人の割合を調べた全国調査などから死者数を推計した。
煙にさらされる場所を職場と家庭で分けると、職場が約3600人で多かった。まずは自分で環境を選ぶことができない労働者を守る対策から強めるべきなようだ。
男女別では、非喫煙者の割合が高く、家庭での受動喫煙にあいやすい女性が約4600人と、男性より被害が大きいこともわかった。

網膜培養

光を感知する機能を保ったまま目の網膜を組織ごと培養することに、自然科学研究機構生理学研究所の研究グループがマウス実験で成功した。網膜疾患治療薬の研究などへ活用が期待できるという。
生体から取り出した網膜などの神経組織はこれまで、組織ごと培養することができなかった。細胞ごとにばらばらにすると培養できたが、光を感知する機能が失われてしまっていた。
研究グループは、通常は菌を増やす際に使う機械で培養皿を揺らし続ける方法で今回の網膜を培養。網膜は4日間健康な状態を維持したという。
光の感知が難しくなることから起きる網膜疾患の治療に向け、光を電気信号に変換できる遺伝子を、培養した網膜内に入れることにも成功した。

2010年10月13日水曜日

体重増は乳がん高リスク

20歳の時より体重が増えた女性ほど、閉経後に乳がんを発症するリスクが高いとの研究結果を、東北大の研究グループが、約2万人の女性を追跡調査しまとめた。
閉経後に、肥満が乳がん発症リスクを高めることは分かっていたが、体重増加も関係すると判明。乳がん予防には、急激な体重増加を避けて、適正な体重を保つことが非常に大事なようだ。
研究グループは1990年、宮城県内に住む40~64歳の女性2万1183人を対象に健康状態や生活習慣を調査。その後、2003年までの約13年間にわたって追跡したところ、期間中に256人が乳がんを発症した。
体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った体格指数(BMI)を調査時点と20歳の時について計算。その間の体重の変化と乳がんとの関係についても調べた。
調査時のBMIが高いほど閉経後の乳がん発症リスクが高く、20歳の時のBMIが高いほどリスクは低かった。20歳の時から調査時点までに体重の増加量が多いほど、閉経後に乳がんを発症するリスクが高かった。

2010年10月12日火曜日

双極性障害(躁うつ病)

今年9月、日本イーライリリー株式会社は、双極性障害の一般市民における認知調査の結果を発表した。調査は10歳代から70歳代の一般市民に行われ、有効回答1294のうち1270サンプルを解析している。
まず、双極性障害について知っているかという質問に対し、対象者の72.9%が「聞いたことがない」と回答した。それに対し、うつ病は87.8%が「病気あるいは治療法まで知っている」と回答しており認知度の差が大きいことがわかる。
疾患の特徴については、双極性障害を「自殺の可能性が高い」「再発しやすい」と回答したのは、それぞれ19.7%、8.1%に留まり、疾患に対する正しい情報が浸透していない事がわかる。
さらに、「双極性障害の患者さんが隣に引っ越しても良い」「結婚して家族の一員なっても良い」については、それぞれ59%、54.7%が否定的な回答を示しており、市民が患者に対して社会的距離を置く傾向にあることがわかった。
疾患に対する誤解と社会的距離の拡大を引き起こす大きな要因は、情報の不足と考えられる。さらに中途半端な情報は、誤解と社会的距離の更なる拡大を示す。市民に対し、早急に適切かつ十分な啓発が必要であると考えられる。また、精神科医に対しても双極性障害治療の難易度に対応できるトレーニングが必要である。
双極性障害の生涯有病率は、0.6%であり稀有な疾患とはいえない。一方、この疾患の再発率は90%以上といわれ、生涯にわたる薬物療法等の治療が必要である。さらに、25~50%の患者が自殺を試みたとの報告もあり、そのリスクはうつ病を超えるといわれる。しかし、現在、日本で使用できる薬剤は、躁病治療薬である炭酸リチウム(リーマス)、気分安定薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケンほか)とカルバマゼピン(テグレトール)だけであり、その選択肢は狭い。有望な新薬の登場が今後待ち望まれている。

2010年10月11日月曜日

血管の若返り

若いラットの骨髄を老ラットに移植することで、全身の血管の機能を若返らせることに国立循環器病研究センターや愛媛大、兵庫医大のチームが成功し。
チームによると、ヒトに応用できれば、へその緒にある臍帯血や、若いときに採取した自分の骨髄細胞を保存することで、年をとってから血管の機能を若返らせることができる可能性がある。人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、移植する骨髄細胞を作ることも考えられる。
チームは生後4週の若いラットから採った骨髄を、生後50週の老ラットに移植。30日後、血液中の約5%の細胞が若いラット由来となり、60日後の死亡率が半分以下となった。
調べると、移植したラットでは血管の密度が増え、機能が向上。人為的に脳梗塞を起こしても障害の範囲が小さく、周囲の血管の数も移植をしていないラットに比べ約1・5倍多かった。
血管の老化が原因となる脳血管性認知症や多発性脳梗塞などの治療や予防につながり、高齢化社会を迎えている日本にとって重要な成果といえる。

2010年10月10日日曜日

心機能と脳容量

心機能を示す心係数が標準レベルかどうかにかかわらず、心機能低下と、脳容量の減少や情報処理速度の低下といった脳の加速度的なエイジングとが関連していることが明らかにされた。米国ボストン大学神経学部が、約1,500例を対象に行った調査で明らかにした。
心血管疾患を有する成人では、心機能不全が神経解剖学的および神経心理学的な経年変化と関連しているとされる。理論上、全身性の低灌流が脳灌流を途絶させ、無症状性の脳損傷を引き起こしているとされるためで、研究では、心機能が、脳MRIで認められる以前の変化を捉える指標となり得るのではないか、また虚血やアルツハイマー病の神経心理学的マーカーの代替となるのではないかと仮定し、本調査を行った。

おもな結果は 
・被験者の平均年齢は61±9歳、54%は女性だった。 
・心係数は、総脳容量と情報処理速度の間に、それぞれ正の相関関係がみられた。 
・一方で、心係数は、側脳室容量との間には、負の相関関係がみられた。 
・臨床的に心血管疾患が認められた人を除いた後も、心係数と総脳容量には有意な関連が認められた。
・事後比較の結果、心係数低値群と心係数中間値群の脳容量は、心係数高値群に比べ、有意に小さかった。

本研究より、心機能と脳容積の低下に正の相関関係があることが明らかになった。
これまで、慢性心不全患者や冠動脈バイパス術を受けた冠動脈疾患患者において、無症候性脳梗塞や深部白質病変が進行していることが知られていた。これらの無症候性脳障害が、心疾患患者の抑うつ状態や認知機能低下の背景となると考えられている。
本研究の新規性は、これらの臨床的に明らかな心疾患が発症する前の症状のない地域住民においても、心機能と脳容量に有意の関連を認めた点である。 
心機能で3群に分けたときに、最高3分位(心機能良好群)だけが、他の2群に比較して脳容積が高かったが、中間3分位群と最低3分位群では有意差がない。 このことは、心機能と脳容積に直線関連ではなく、正常範囲内においても心機能のわずかな低下が脳容積の低下と関連することを示している。
この脳・心臓器連関の機序はよくわからない。 何らかの加齢変化や合わせ持つ心血管リスクに加え、より直接的機序として、ごくわずかの心機能低下による脳血流の長期にわたる減少により、脳萎縮が進行する可能性がある。 

2010年10月8日金曜日

心外膜脂肪と心房細動

心外膜脂肪量が、発作性・持続性心房細動のリスク因子であり、心房細動の発症と強く関連していることが、米国Loyola大学メディカルセンターの研究で明らかにされた。心外膜脂肪は炎症性の性質を有する内臓脂肪組織である。炎症と肥満が心房細動に関連することは明らかになっているが、心外膜脂肪と心房細動との関連については明らかになっていなかった。
研究では、患者273例について、CTを用いて心外膜脂肪量の測定を行った。被験者の内訳は、心房細動患者197例(発作性126例、持続性71例)と、洞調律76例(対照群)だった。
研究の結果、心外膜脂肪量は、心房細動群101.6±44.1mLで、対照群の76.1±36.3mLに比べ、有意に多かった。
発作性心房細動群の心外膜脂肪量は93.9±39.1mLで、対照群の76.1±36.3mLに比べ、有意に多かった。
持続性心房細動群の心外膜脂肪量は115.4±49.3mLで、発作性心房細動群の93.9±39.1mLに比べ、有意に多かった。
心外膜脂肪量は、心房細動発症について、年齢、高血圧、性別、左房肥大、心臓弁膜症、左室駆出分画、糖尿病、BMIとは独立したリスク因子だった。
本研究は、心臓周囲の脂肪量が、これまで明らかにされていたリスクや左房負荷とは独立して心房細動のリスクとなることを示した興味深いものである。
また、異所性脂肪が周辺臓器の局所環境を変え、心血管リスクを増強する可能性を示唆している。
これまでに、心臓周囲、特に冠動脈周囲の脂肪が、肥満とは独立して冠動脈疾患のリスクになることが知られている。 心臓周囲の脂肪は内分泌・炎症機能を有し、直接的に心筋や冠動脈に影響を与える可能性が指摘されている。
これまでの疫学研究では、心房細動の新規リスクとして、内臓型肥満や炎症反応が報告されていたが、本研究では局所脂肪量を定量測定し、心房細動のリスクとの関連を明らかにした点に新規性がある。
しかし、どのような局所機序により心臓周囲の脂肪が心房細動のリスクとなるかは不明である。 
左房負荷の指標である左房系と独立して心房細動心臓周囲の脂肪量は左房径の拡大と正相関を示していることから、脂肪細胞のから直接的炎症性サイトカインの分泌が左房リモデリングを進行させている可能性があるが、今後、自律神経を含めた機序の検討が待たれる。

2010年10月7日木曜日

緑色葉菜

過去の研究を分析した結果、緑色葉菜の摂取が有意に2型糖尿病発症リスクを低下させることがわかった。世界人口の6.4%が2型糖尿病と推定され、米国でも国民の過体重が増えるにつれ2型糖尿病率が上昇している。研究者らは疾患発症に果たす食生活の役割を理解しようと努めている。
今回、英レスター大学の研究グループは、食生活と2型糖尿病罹患率についての6件の研究を検討した。その結果、緑色葉菜の摂取量が最も少なかった人(1日0.2サービング)に比べ、最も多かった人(1日1.35サービング)では、2型糖尿病発症リスクが14%低かった。毎日の緑色葉菜摂取の増加は2型糖尿病リスクを有意に低下させるようだ。
この結果は、食生活の因子が2型糖尿病リスクの減少にどれだけ大切かということを単に再認識させるもので、この点については、いかなる薬物療法よりもはるかに多くのエビデンス(科学的証拠)があるようだ。
緑色葉菜は、糖尿病だけでなくすべて慢性疾患のリスクを軽減する食生活成分の1つである可能性をもつが、緑色葉菜だけに依存するようにという教訓ではないということを忘れてはいけない。

糖尿病とアルツハイマー病

糖尿病あるいはインスリン抵抗性のある患者では、アルツハイマー病につながる脳神経変性プラークの発生リスクが上昇することが、日本の久山町(福岡県)研究で明らかになった。
報告によると、空腹時インスリン値が最も高い群では、最も低い群に比べ、脳神経間でのプラーク沈着の発生リスクが6倍高かったという。
久山町研究は、1961年に始まった世界有数の疫学調査で、40歳以上の全住民が参加している。80%で剖検が行われていることが大きな特徴で、生活習慣と疾患の影響やゲノム疫学など多くの分析が行われている。
九州大学神経病理学が行った今回の分析では、1988年の健康診断でブドウ糖負荷後2時間血糖値測定、空腹時血糖値およびインスリン値測定、インスリン抵抗性の評価が行われた住民の中で、1998-2003年に剖検が行われた135体について、アルツハイマー病の病理分析を行った。アルツハイマー病による脳組織破壊は、神経変性プラーク沈着、および神経原線維のもつれ(tangle)の有無で評価した。
得られたデータを年齢、性別、血圧、コレステロール、ボディ・マス・インデックス(BMI)、喫煙、運動、脳血管疾患の有無で調整したところ、食後2時間での高血糖および空腹時インスリン高値、インスリン抵抗性の上昇が神経変性プラークの発生のリスク増大に関連していることが判明した。神経原線維のもつれの発生と糖尿病の危険因子との間には関連は認められず、空腹時血糖値と神経変性プラークのリスク増大との関連もみられなかった。
空腹時インスリン値を低値群、中間群、高値群の3群に分けて、神経変性プラークプの発生リスクとの関連をみたところ、中間群では低値群の2倍、高値群では3倍、プラークの発生リスクが増大しており、直線的な関連が認められた。インスリン抵抗性についても、高値群では低値群の5倍、神経変性プラークの発生率が高かった。アルツハイマー病の病理的リスクは、糖尿病の関連因子との直線的な関係で増大すると言える。また別の分析で、アルツハイマー病に関わる遺伝子ApoE4と高血糖、インスリン抵抗性、空腹時インスリン値、神経変性プラークプの発生との間に最も強い関連が認められたという。
今回の結果から、現段階でアルツハイマー病の予防法については明らかになっていることはないが、2型糖尿病については予防したほうが良い理由は多数ある。2型糖尿病の大半は日常的な運動と食事で予防できるものだ。それがまた、アルツハイマー病のリスクを管理することにもつながると言える。

2010年10月5日火曜日

睡眠と寿命

十分な睡眠を取らないと、寿命が縮む可能性があるという。新しい研究で、不眠症や睡眠時間の短い男性は14年の間に死亡する確率の高いことがわかった。
不眠症は非常に重い有害作用を有する可能性がある治療の必要な疾患であり、最善の治療選択のためにもっと力を注ぐ必要があると言われている。女性にも同様の影響がみられる可能性もあるが、今回の研究では追跡期間が10年と短く、死亡率に有意差を認めることはできなかったという。
以前の研究でも睡眠の寿命に対する影響が検討されているが、今回の研究は自分がどのくらい眠っているかという被験者自身の感じ方(間違っている可能性もある)と、実際の検査室での睡眠量をともに考慮している点がユニークである。
研究では、ペンシルベニア州中心部から1,700人強の被験者を集め、男性(平均年齢50歳)を14年間、女性(平均年齢47歳)を10年間追跡。被験者は質問に回答するとともに、睡眠検査室で1泊の検査を受けた。
研究期間中、男性の5人に1人、女性の5%が死亡。この男女差は、男性よりも女性の寿命が長いことと、女性の追跡期間が短かったことによるものと思われる。睡眠時無呼吸の罹病率などの因子による誤差のないよう統計結果を調整してもなお、不眠を訴え、検査室でも睡眠が6時間未満であった男性は、「安眠型」の人に比べて14年間に死亡する確率が高かった。安眠型の男性で研究期間中に死亡したのは約9%であったのに対し、不眠の男性は51%が死亡。全体では、女性の8%、男性の4%が不眠症を訴え、検査室でも十分な睡眠を取ることができなかった。
睡眠障害が動脈血栓や免疫系の乱れに寄与するといういくつかのエビデンス(科学的根拠)があるという。今回の研究は、睡眠不足が直接的に男性の早期死亡の原因となることを明確に立証したわけではなく、他の因子が関与している可能性もある。女性の場合は寿命が長いため、さらに長期的な研究を実施する必要があるようだ。

2010年10月4日月曜日

骨粗鬆症治療薬

ボナロンやフォサマック、アクトネルやベネットなどの骨粗鬆症治療薬を使用すると、食道がんリスクが増大する可能性のあることが、英国の研究グループにより報告された。研究を率いた英オックスフォード大学は、現在のところ、これらの薬剤の長期使用に関するリスクとベネフィット(便益)の全体像はつかめておらず、今回の結果は、そのほんの一部にすぎないと述べている。
食道癌は稀な癌であり、たとえリスクが2倍になったとしても1人当たりのリスクが低いことに変わりはない。また、この結果が真に薬剤の影響を反映するものであるとは限らない。よってこの報告がすぐに臨床現場に直接影響を及ぼすものではない。
今回の研究では、英国一般診療研究データベース(GPRD)を用いて、1995~2005年に診断を受けた食道癌患者約3,000人、胃癌患者2,000人強、大腸癌患者1万人強のデータを収集し、年齢および性別をマッチさせた上記疾患のない人と比較。その結果、上記薬剤を10回以上処方された人または5年以上処方を受けている人は、同薬を服用していない人に比べ食道癌リスクが2倍(1,000人あたり2人の割合)であったほか、胃癌および大腸癌のリスク増大もみられたという。
同じデータベースを用いたつい最近報告された別の研究では、これらの薬剤による食道癌の増加は認められなかったが、今回の新しい研究では、追跡期間が2倍長く、統計学的パワー(検出力)が得られたという。
米国食品医薬品局によると、これらの薬剤の使用により、食道内膜のただれや炎症、食道の狭窄および穿孔、食道癌などのいくつかの有害作用が報告されているという。食道癌の発症率は低いものの、同薬が慢性疾患に広く利用されていることから、この結果が裏付けられれば多数の患者に影響があるだろうと述べ、医師および患者への注意を促している。

2010年10月2日土曜日

減量薬のリスク

欧米で広く使用されている減量薬メリディア(日本では2009年承認申請却下)と、致死的でない心臓発作および脳卒中リスクとの関連が新しい研究で示された。ただし、同薬の使用により死亡率が増大することはないようだ。
リスクが高いのは心疾患または脳卒中の既往のある人、つまり初めから同薬を使用すべきでない人である。2010年1月以降、同薬には心疾患のある人は使用しないようにという警告が表示されている。
今回の研究では、2型糖尿病または心疾患のある過体重または肥満の高齢成人約1万1,000人を、メリディア群またはプラセボ(偽薬)群に無作為に割り付け、約3.4年間追跡。Meメリディア群では11.4%に心臓発作、脳卒中または心臓障害による死亡がみられたのに対して、対照群では10%とリスクは16%増加していた。また、メリディア群では非致死的心臓発作および脳卒中のリスクがそれぞれ28%、36%高いこともわかった。
減量するのは、肥満による心臓発作や脳卒中のリスクを下げるのが目的。減量薬によってそのリスクが高まるのであれば本末転倒である。従来の食事や運動による減量が有用であり、薬剤の必要性は疑問視される。

2010年10月1日金曜日

認知症

読書やクロスワードパズルなどの脳を刺激する活動について、アルツハイマー病発症後の観点に立つと賛否両論であることが新しい研究でわかった。今回の研究では、このような頭の体操を好んで行う人は加齢による思考力や記憶力の低下が緩やかであった一方、いったん認知症の徴候が現れると、急速な知能の低下がみられたという。
これまでの研究では、認知力を鍛える活動が高齢者の認知症の発症を防ぐのに有用であるといわれていた。このことについて検討すべく、米ラッシュ大学メディカルセンター(シカゴ)は、約1,200人の高齢者を12年近く追跡。各被験者が行っている脳を刺激する活動については5段階の「認知活動」尺度を用いて評価した。登録時には全被験者とも認知症は認められず、研究終了時は614人が認知力正常、395人に軽度認知障害、148人にアルツハイマー病が認められた。
この研究の結果、健常人が認知活動(ラジオを聴く、テレビを見る、本を読む、ゲームをする、美術館に行くなど)を多く行うことによって、数年間にわたり認知力低下のみられる比率が減少することが判明。認知活動尺度が1ポイント上がると、6年間の知能低下率が52%減少した。しかし、認知症を発症した人の場合は逆の結果がみられた。知能を刺激する活動を好む人は、疾患が現れた後に急速な知能低下がみられ、認知活動尺度が1ポイント上がるごとに低下率が42%加速されたと、研究グループは報告している。
この相違は、認知症患者の脳にみられるプラーク(老人斑)および神経原線維のもつれ(tangle)と呼ばれる神経変性病変の蓄積によって説明できるらしい。これまでの研究で、脳を刺激してもこのような病変の蓄積を防ぐことはできないが、病変があっても正常な認知力をいくらか長く保てることがわかっている。このため、初めて認知症と診断された時点では、知的な活動を続けてきた人ほど、実際はプラークや神経原線維のもつれが多く重症であり、その時点から急速に認知力が低下するのだそうだ。