2010年10月21日木曜日

生殖医療

「インドでの代理出産プログラムをご提供」。インターネットで「インド、代理出産」と検索すると、こんな文言の並ぶウェブサイトにたどり着くらしい。"生殖ツアー"関連業者の広告だ。費用予想約700万円。先進国の不妊夫婦らの間では"安い費用"で済むインド女性に人気があり、同国では代理出産が外貨獲得のための重要産業になっているとされる。
これを可能にした技術こそ「体外受精」。今年のノーベル医学生理学賞受賞者に、1978年に世界初の体外受精児を誕生させ、同技術を開発したロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)が決まった。
この技術開発を機に現在に至る「生殖革命」が始まったが、今日の世界的な状況を見ると同技術は不妊治療の枠を超えて利用され、負の側面があることも否定できない。生殖革命が無秩序に進めば人類自体を変化させる恐れすらあり、各国はその影響を注視することも求められるだろう。
こうした中、日本では50人に1人が体外受精で誕生しながら、これらを規制・管理する法律が全くなく、どこまで利用可能とするかの議論も尽くされていない。野田聖子自民党衆院議員(50)も第三者からの提供卵子を使った体外受精での妊娠を公表したばかりだ。国会は法制化に向け、生殖補助医療について本格的な討議を行うべきだ。
体外受精は当初、卵管の通過性が悪いことが原因で妊娠できない女性が対象だったが、技術発展などに伴い対象範囲も拡大。第三者提供の卵子や精子を使った体外受精や、第三者の女性が妊娠・出産する「代理出産」も、もたらした。
ただ、生殖技術の利用は(1)女性の身体的リスクが大きい(2)親子関係が複雑になる-などの問題が存在するほか、海外では生殖の商品化も進行。米国の一部では人種や美ぼう、学歴などの特性を記したカタログによって精子や卵子が売買されているほか、金銭目的の代理出産も行われている。
韓国では男女産み分けのために体外受精が行われるなど「命の選別」も進む。遺伝子操作が認められれば、望みの特性を持つ「デザイナー・ベビー」を産んだり、"スーパー人類"が誕生する可能性すらある。
日本では、エドワーズ氏の成功から5年後、東北大で初の体外受精児が誕生。一部クリニックでは提供卵子の利用や代理出産も実施されている。
政府は2003年、代理出産禁止や卵子提供制限などを柱とした法案を提出しようとしたが、自民党内の反対で頓挫。代理出産を限定的な範囲で事実上容認する民法特例法案を議員立法で提出する動きはあるが、親子関係をどう規定するかも含め、政府による法整備の動きは止まったままだ。
憲法13条の幸福追求権から導き出される「産む権利」と「生命の尊厳」などとのバランスをどう図っていくのか。根源的問題も含めた議論が求められている。

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