2017年6月28日水曜日

「手足口病」2年ぶりに流行の兆し

夏風邪の一つである「手足口病」が2年ぶりに流行の兆しを見せています。
 「手足口病」は手や足、口の中に水ほうができるウイルス性の感染症で、幼い子どもを中心に感染が広がります。
 国立感染症研究所によりますと、今月18日までの1週間に全国の医療機関から報告された患者の数は、1医療機関あたり2.07人と10週連続で増加しました。去年の同じ時期のおよそ6倍で、香川県や高知県などではすでに警報の発令基準である5人を超えています。
 手足口病の流行は2011年、13年、15年と奇数の年に起きていて、夏場にピークを迎えることから、厚生労働省は手洗いの徹底など予防を呼びかけています。

「男性更年期障害」と「うつ病」の見分け方

 体調が優れない、イライラする、よく眠れない―。こうした症状がある中高年男性は更年期障害を疑った方が良いかもしれない。男性も女性と同様に更年期があり50代前後で心と体に変化が訪れる。症状を放置しておくと身体機能の低下だけでなく、うつ病やメタボリック症候群、生活習慣病などのリスクも高まるため、早期発見、早期治療が不可欠だ。
 男性更年期は「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」とも呼ばれ、加齢により男性ホルモンである「テストステロン」が減少することで、さまざまな症状が出る。国内での潜在的な患者は約600万人で、60代以上で2割、50代以上で1割が罹患(りかん)しているという。中には30代で発症するケースもある。
 更年期障害は「うつ病」と誤解しやすく、特に男性更年期は認知度の低さから、更年期の症状に苦しんでいても分からないということも少なくない。
 うつ病か、更年期かはテストステロンを検査することなどで判別できるという。男性向けエイジングケアを手がけるメンズヘルスクリニック東京(東京都千代田区)ではテストステロン値を測定する「男性力ドック」を実施している。
 テストステロンのチェックのほか、身長や体重など体組成の測定、筋肉量や血管年齢、動脈硬化、骨密度など男性ホルモンに関連する全ての項目を検査し、精神面の診察も含めた総合的な視点で健康状態を検査する。一連の検査時間は約1時間で費用は約3万円。全国から月100人程度が受診するなど関心も高まっている。
 男性更年期と分かれば対策も取りやすくなる。ストレスや睡眠不足でホルモン量は低下するため、食事や睡眠、運動といった生活習慣の見直しや男性ホルモンの補充などで症状の改善が期待できるという。
 男性の更年期障害は「うつ病」など精神的な病気と症状が似ていて区別がつきにくい。「男性力ドック」など専門的な検査で判別することが可能だ。男性は「家庭」や「社会」、そして「生物」としての“役割”があり、男性力の維持が求められている。
 男性力ドックは筋年齢や骨年齢、性機能年齢、ホルモン年齢などを問診し、「心」「体」「性」の側面から男性力を数値化して、総合的に更年期や健康状態を判断する。
 男性ホルモンは20歳前後をピークに減少する。更年期障害は4050代が多いが、2030代で来院する患者もいる。また、男性ホルモンが多い、少ないで更年期障害になるわけではない。問題は“変化量”だ。テストステロンが大きく減少した時に症状が出やすい。変化量を継続的に見ることも重要だろう。

日刊工業新聞より

2017年6月17日土曜日

プール熱

首都圏で、のどの炎症や結膜炎などの症状が出る咽頭結膜熱(プール熱)が猛威を振るっている。5日から11日までの週の患者報告数は、東京など4都県で軒並み増加し、警報レベルの地域が続出している。東京都は「過去10年で最も高い値」と指摘。患者が増加傾向の自治体は、手洗いの徹底やタオルの共有を避けるといった感染予防の徹底を求めている。【新井哉】
 東京など4都県がまとめた5日から11日までの週の小児科定点医療機関当たりの患者報告数は、埼玉で前週比11%増の1.28人、東京で6%増の1.16人、千葉で6%増の1.02人、神奈川で27%増の0.85人となった。
 埼玉県では、秩父を除く全保健所管内から患者の報告があり、県内16保健所のうち10保健所管内で前週の報告数を上回った。春日部(2.67人)、越谷市(2.25人)、朝霞(1.93人)の保健所管内で多く、同県は「報告数は3週連続で増加し、過去4年で最も多い」としている。
 東京都の患者報告数は5週連続で増えた。中野区と荒川区(共に4.0人)、台東(3.0人)の保健所管内で警報基準値(3.0人)に達しており、都は今後も増加する可能性があると指摘。神奈川県も「鎌倉保健福祉事務所三崎センター管内(4.5人)で警報レベルを超えた」としている。
 6週連続で増えた千葉県では、習志野(2.9人)や柏市(2.11人)の保健所管内で多かった。
 咽頭結膜熱は、アデノウイルスによる急性ウイルス性感染症で、のどの炎症や発熱、結膜炎の症状が出る。プールでの感染も多いことから「プール熱」とも呼ばれ、主に夏場に流行する。感染経路は主に接触感染や飛沫感染だが、タオルやドアの取っ手、エレベーターのボタンなど患者が触れたものを介してうつり、保育園、幼稚園、小学校などで小児の集団発生も少なくない。

CBnewsより

卵アレルギー

 日本小児アレルギー学会は16日、離乳食を始めるころの生後6カ月から、乳児にごく少量の鶏卵を食べさせることで、卵アレルギー発症の予防になるとの提言を医療関係者向けに公表した。家庭で独断で実施するのではなく、必ず専門医に相談してから始めてほしいと指摘している。
 卵アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーの中で最も多く、有症率は10%といわれる。アレルギーは卵を口にした場合、湿疹や頭痛、呼吸困難などの症状が起きる。
 鶏卵を食べることで卵アレルギーの発症を抑える研究は、国立成育医療研究センターなどのチームが昨年末、英医学誌ランセットに発表。少量を食べ続けることで体が慣れ、免疫反応が抑えられたとみられる。
 学会の提言では、生後6カ月の乳児がMサイズの卵100分の1程度を3カ月間、1歳児で卵半分を取り、皮膚の状況を管理する。ただ摂取は予防のためであり、すでに卵アレルギーの発症が疑われる乳児に摂取を促すことは「極めて危険」と警告している。
 食物アレルギーはかつて、離乳早期に原因となる食品は食べさせるべきではないとされていた。近年、ピーナツアレルギーの発症予防でも、乳児に摂取を始めることで予防につながるとの海外の研究報告がある。
 同学会食物アレルギー委員会の海老沢元宏委員長は「赤ちゃんは湿疹が当たり前という誤解を払拭したい」と話していた。

産経新聞より

「寝コリ」を防ぐには

◆眠っている間に筋肉がカチコチになる「寝コリ」
「眠ると翌朝には体がスッキリ!」と過ごせていた日々は過去の話。
歳を重ねると、眠ってもコリが解消されない。それどころか、寝起きに肩周りや背中がガチガチに固まっている感じがする。そんな「寝コリ」状態になることもよくあるものです。
 実はこれを放置してそのまま過ごしていると、疲労が蓄積されて慢性的なコリとなってしまう可能性があります。どうにか手を打たないといけないのですが……そもそも、1日の疲労のバロメータともいえる筋肉のコリは、なぜ解消されなくなってしまったのでしょうか? 以下で、その原因から考えていきましょう。
◆あなたの不調の原因かも? 寝コリ度チェック
「寝コリ」というとまずイメージとして起床時の肩こりが挙げられるかと思います。まさしくそうなのですが、こうした筋肉のこり固まった自覚症状だけではなく、筋肉のコリが及ぼす体調不良も含まれます。
 次の項目で、当てはまる数が多いほど要注意。眠っていても心身リラックスができずに体に力が入り、寝コリが生じやすくなっている可能性大です!
●睡眠中にリラックスできている? 寝コリ度チェック
□睡眠時間は少なくないのに、起床後もとても眠い
□仕事をしていても午前中に睡魔に襲われることが多い
□朝の洗顔やうがい、着替えといった簡単な動作で体のどこかが痛んだり、体が固く感じて違和感がある
□怖い夢や嫌な感覚の残る夢を見る
□睡眠時、歯ぎしりを指摘されたり、歯の食いしばりの自覚があったりする
□起床後、胃腸の不調を感じることが多い
□出勤時や午前中の外出時に脚の疲労を感じる
□快晴の日の明るさは、眩しすぎて不快に感じる
□以前は違和感がなかったが、枕や布団が体にしっくりこない気がしてきた
◆眠っていても体がこってしまうのはナゼ!?
私達が日中、体を動かしたり思考をめぐらせて頭を使ったりしているとき、五感から多様な刺激を受けています。脳で瞬時にそれらを処理して、パソコンで仕事をしたり、駅まで急いで走ったりと活動状態を維持していることになります。
 眠っても体がこってしまう場合に考えられる大きなポイントは、布団に横になり重力からある程度解放されていても、力を抜くことができないというものです。よく伺うのは「体の力の抜き方がわからない」「自分では脱力しているつもりなのですが……」ということです。
 そして、睡眠中も内臓が活発に働いていたり、リラックスを促す神経系が優位にならず、活発に活動する体制のまま就寝時間を迎えていたりといったことが挙げられます。すると、質の良い睡眠をとることができず、しかも筋肉のコリが生じるほど体に悪影響を及ぼしてしまうことが起こり得るのです。
◆「寝コリ」になるNG習慣とサヨナラしよう!

1.帰宅後の室内照明はなるべくリラックス色に
夕暮れ時の空はオレンジ色ですが、その頃、体は入眠に向けてリラックス状態へ移行していきます。しかし、街も帰宅時の電車内も電気が明るくなかなか夕焼け色を感じることができません。せめて、帰宅後は間接照明などを使い、目から入る光刺激も抑えることができると、リラックスを促す神経系が優位になりやすいです。リラックスして入眠することが寝コリ予防につながります。
2.パソコン・スマホを使う時の明るさ
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で夕焼け色の照明にしたとしても、その中でパソコンやスマホを使うと、部屋の明るさとのギャップで自律神経系のバランスが崩れ、睡眠の質が低下する恐れがあります。パソコンやスマホを使用する際は、書類や本の文字が無理なく読める程度の明るさを目安にしましょう。
 できれば、パソコンやスマホの画面の明るさを抑えるように設定して使用すると目の筋肉の負担も軽減され、快眠の妨げも防止できるかと思います。
3.帰宅したらひと呼吸おく時間をつくる
とはいえ、可能な限りパソコンやスマホはいじらないにこしたことはありません。明るさからの刺激で神経が休まらない以外にも、思考回路がOFFにならないために心の緊張が解けないといったことが寝コリの原因になり得るからです。
 多忙な人は、ほんの10分くらいでも良いので、なるべくリラックスできる服装、かつ姿勢(ソファでくつろぐなど)で、目を閉じてみましょう。この時、好きなアロマの香りや音楽を流したり、温かい飲み物(できれば白湯やハーブティーなど)を口にしながら気持ちを落ち着かせることができると良いですね。
4.くつろぎの飲酒・夜食にも要注意
のんびりした気分になりたい時、嫌なことを忘れたい時にお酒の力を借りるという人もいるかと思います。しかし、深酒してしまうと逆効果です。夜食にもいえることですが、睡眠中に内臓が休まらないとその反応で筋肉が緊張を起こすことがあり、それが翌朝の背中や首のコリ、胃腸の不調となって表れます。
5.合わない寝具はタオルで調整
起床時に首・肩こりを感じると寝具の影響かとすぐに買い替えを検討する人がいます。ですが、一時的に筋肉のコリが生じていることが原因かもしれないため、少し枕の高さを低くするべく重ねたタオルを代用したり、腰部にバスタオルを敷くなどほんの僅かな高さ調整を試みてみましょう。 
6.1日の中で楽しかったこと・良かったことを思い出す
ストレスが多い日々を送っている人は「今日もツライ1日だった」と思うかもしれません。ツライことがあると睡眠中に歯のくいしばり・首や肩に力が入るといったことが起こりやすくなります。
 また、悪夢を見やすくなる人は、夢の影響で身体が強張ったりもします。帰宅後、バスタイム中やその後に今日1日の中で、少しでも良かったと思えることを振り返ったり、興味ある雑誌や本を眺めてみるというように、頭の中のコリも和らげてから就寝時間を迎えるようにしましょう。

2017年6月13日火曜日

寝ぼけは認知症の始まり?

認知症とは、物忘れがひどくなる「記憶障害」、時刻や自分のいる場所が分からなくなる「見当識障害」、物や言葉などが分からなくなる「失認」、着衣などができなくなる「失行」など、さまざまな認知機能の障害が生じる疾患の総称である。これらの症状は認知症の中核症状と呼ばれている。
 認知症はその原因別に幾つかに分けられる。最も多いのはアルツハイマー型で患者の約半数を占める。次いで多いのがレビー小体型と脳血管性で、この3つで認知症の約8割を占める。つまり、レビー小体型認知症は決して稀な疾患ではないのだが知名度は高いと言えない。
 それには理由があって、レビー小体型は比較的最近発見された認知症だからである。最近と言っても日本人研究者がその存在を最初に提唱してからかれこれ40年にもなる。ところが長らく欧米で認められず、1990年代に入ってようやく国際会議で診断基準が定められたという経緯がある。
 そのレビー小体型認知症では、「レム睡眠行動障害」という特殊な睡眠障害が60%もの患者さんで認められる。一般的には中高年の0.51%でみられる程度なので、レビー小体型認知症では高率に合併することが分かる。
 レム睡眠行動障害とは何かというと、夢体験が夢の中だけに留まらず行動化してしまう睡眠障害である。例えば、誰かと喧嘩したり、何物かに襲われたり、犬に噛みつかれそうになって蹴飛ばしたり、などの夢の内容そのままに、寝言で怒鳴ったり、手足を振り回したりしてしまうのである。
 私たちは夢の大部分をレム睡眠中に見る。レム睡眠は睡眠段階の一つで、寝ついてから約90分~120分おきに現れる。レム睡眠中には大脳の活動は比較的活発で鮮明な夢を見ることが多いのだが、逆に体の筋肉は弛緩して全く動かない。
 ナゼ、レム睡眠行動障害ではレム睡眠中に激しい体の動きが出てしまうのであろうか?
 脳幹部と呼ばれる部位にはレム睡眠中に筋肉の動きをオフにするスイッチがあり、健康な人のレム睡眠中にはその「オフスイッチ」の作用で夢行動はおろか寝返りすらできない。ところが、レム睡眠行動障害ではその「オフスイッチ」にトラブルが生じているらしい。

 また、レム睡眠行動障害のほかにも、レビー小体型認知症では嗅覚異常や、手足の震えや筋肉が硬くなり動きが遅くなるパーキンソン症状がよくみられる。
 しかも、レビー小体型認知症では、記憶障害などの中核症状が出現する何年も前から嗅覚異常やレム睡眠行動障害が出現することが多い。パーキンソン症状も中核症状と相前後して、発症のごく早期から認められる。アルツハイマー型など他の認知症でもパーキンソン症状やレム睡眠行動障害がみられることがあるが、かなり病状が進行してから出現するのが普通だ。レビー小体型認知症でのこのような症状の出現順序は特徴的で診断にも大いに役立つ。
 確かなことはまだ明らかにされていないが、これらの特徴はレビー小体型認知症の発症の仕組みとの関係が強く疑われている。
 レビー小体型認知症では、脳内の神経細胞内にあるα-シヌクレインというタンパク質の固まりが異常に蓄積して神経変性(細胞死)をもたらす。このα-シヌクレインは脳内のさまざまな部位に蓄積するのだが、脳の「下から上に向かって」蓄積することが症状の出現順序に関連しているのではないかという仮説が提唱されている。
 その仮説によれば、まず脳の下部にある嗅球と脳幹部にα-シヌクレインが蓄積して細胞を障害する。嗅球が障害されると嗅覚異常が生じ、「オフスイッチ」がある脳幹部が障害されるとレム睡眠行動障害が出現する。実際、認知症を発症していないレム睡眠行動障害の患者さんの脳を死後に調べると脳幹部にα-シヌクレインが蓄積していることが確認されている。
 次いで、蓄積が脳の真ん中辺りにある中脳に拡がり、体の動きをコントロールする神経伝達物質ドーパミンを産生する部位が障害されるとパーキンソン症状が出現する。最終段階で大脳皮質など脳の「最上部」に幅広く蓄積すると中核症状が明らかになるというわけである。今では、α-シヌクレインの蓄積によって神経が変性死するレビー小体型認知症やパーキンソン病、そのほかいくつかの神経疾患は、共通した病因を持つ疾患としてα-シヌクレイノパチーと総称されている。
 α-シヌクレインが脳の「下から上に向かって」蓄積するという仮説の真偽は検討されている最中だが、臨床特徴ともよく合致するため幅広く受け入れられている。
 この仮説が正しいとすれば、パーキンソン病と同様に、レム睡眠行動障害もまたレビー小体型認知症と親戚のような関係にあるとも言える。ただ、レム睡眠行動障害の患者さん全員がα-シヌクレイノパチーを発症するわけではないので、レム睡眠行動障害にもα-シヌクレインの蓄積が原因のものとそれ以外のものがあるようだ。ただし残念ながら、現在の脳画像や血液検査などの診断技術では両者の区別は難しい。
 そのため、レム睡眠行動障害と診断された患者さんは将来的にα-シヌクレイノパチーを発症するのではないかととても不安になる。実際のところ、レム睡眠行動障害に罹るとその後どのくらいの確率でα-シヌクレイノパチーを発症するのだろうか。また、レム睡眠行動障害が出現してからα-シヌクレイノパチーの発症までにどれくらいの期間がかかるのだろうか。
 いくつかの長期調査が行われているが、非常に厳しい結果が出ている。レム睡眠行動障害を発症してから5年後には患者さんの1530%、10年後には4070%、10年以上では5090%が何らかのα-シヌクレイノパチーを発症すると報告されている。数値に幅があるのは調査によって結果が異なるためである。
 これらの調査は主に欧米の研究施設で行われたもので、重症例が集まったため厳し目の結果が出ている可能性がある。実際、日本国内での診療場面ではもう少し発症頻度が低いようだとの指摘もある。とはいえ、中長期的にα-シヌクレイノパチーが現れてこないか慎重な経過観察が必要であることには違いがない。
 そのためにも、悪夢を見て大声を上げたり手足をばたつかせるなどレム睡眠行動障害を疑わせる症状が何度も出てきたときには専門の医療機関に受診して正しい診断を受けていただきたい。定期的な診察を受けることで早期発見も可能となる。レム睡眠行動障害を目撃した家族は「いい年をして寝ぼけてる」などと笑い飛ばすこともあるが、レビー小体型認知症の危険信号の場合もあるので注意が必要なのである。
 オノ・ヨーコさんがレビー小体型認知症を患っていることは悲しいことだが、有名人が闘病していることをカミングアウトしてくれることで人々の関心が集まり研究分野が活発になることも少なくない。レム睡眠行動障害とα-シヌクレイノパチーの関係についての研究はまだ歴史が浅いため、今後の研究の進展に期待したい。

三島和夫先生(睡眠専門医)より

2017年6月12日月曜日

朝食を食べる習慣をつけましょう

朝食を食べない人たちは食べる人たちに比べ、学力が2~3割低く、脳出血のリスクが約4割高く、冷え性に2倍なりやすい-。こんなことが最近の調査で分かってきた。
 ■体力にも悪影響
 農林水産省が5月30日に公表した「平成28年度食育白書」は、朝食を食べないことがある子供は小学6年生で12・7%、中学3年生で16・6%もいると報告した。中学生、高校生の段階で習慣化した人も2割程度いたという。
 白書は朝食の欠食と学力や体力との関係も紹介。文部科学省の28年全国学力・学習状況調査を受けた小学6年生を、「朝食を毎日食べている」「どちらかといえば食べている」「あまり食べていない」「全く食べていない」の4グループに分け、国語A・B、算数A・Bの4科目について平均正答率を比較した。
 その結果、平均正答率は4科目全てで朝食を食べない児童ほど低く、全く食べない児童は、毎日食べる児童より2~3割低かった。平均正答率の差が最も大きかったのは算数Aで、毎日食べる児童が79・2%だったのに対し、全く食べない児童は19・1ポイント低い60・1%にとどまっていた。
 また、同省が全国で実施している新体力テストを受けた小学5年生についても同様に、体力の評価を表す体力合計点と朝食との関係を分析。こちらも学力と同じ傾向で、朝食を全く食べない児童と毎日食べる児童の差は男子で4・0点、女子で3・8点だった。
 ■空腹ストレスが一因
 一方、国立がん研究センターなどの研究チームは朝食欠食と脳卒中との関係を調べた。7年以降、全国の45~74歳の男女約8万人にアンケートし、1週間の朝食摂取回数ごとに▽0~2回▽3~4回▽5~6回▽毎日-の4グループに分類。平均約13年の追跡調査を行い、3772人の脳卒中発症を確認した。
 これを分析したところ、朝食を毎日食べるグループに比べ、週に0~2回のグループが脳卒中を発症した比率は18%高かった。脳卒中の中でも特に脳出血の発症比率は36%も高かった。
 一般的に、脳出血発症の危険性を最も高めるのは高血圧で、特に早朝の血圧上昇が大きく影響すると考えられている。空腹によるストレスなどで血圧が上昇することも知られている。
 このため研究チームは、朝食を食べない人は空腹を感じて朝の血圧が上昇し、朝食を毎日食べる人に比べて脳出血のリスクが高まった可能性があると結論づけた。
 ■冷えている働く女性
 朝食の大切さを重視する医学や栄養学の専門家でつくる「腸温活プロジェクト」は、朝食を食べる頻度が少ない女性は冷え性になりやすいという調査結果を発表した。
 研究チームは、首都圏に住む20~40歳代の働く女性を対象に、低体温と冷え、朝食についてアンケートを実施。32・5%が体温36度未満の低体温であることが分かった。低体温の傾向は若いほど高く、20歳代は37・0%に達していた。
 低体温者は、「眠りが浅い」(30・3%)、「胃腸の不調」(18・5%)、「むくみ」(42・1%)、「太りやすい」(29・2%)などの不調を日常的に感じていたという。
 「冷え」については、全体の82・5%が日常的に感じていると回答した。冷えているような感覚が常に自覚されている状態で、いわゆる「冷え性」だ。
 朝食を食べる頻度との関係を調べたところ、週の半分以上食べている人の冷え性率は27・2%だったが、週の半分以下しか食べていない人は約2倍の55・0%に達していた。
 冷えを感じる時間帯を年代別に見ると、20歳代が朝の時間帯に感じる傾向が強かった。20歳代の女性は、毎日朝食を食べる人の割合が54・0%と各世代の中で最も低い。研究チームは、働く女性は朝食抜きで体が冷えたまま1日の生活をスタートさせる人が多いためではないかと分析している。
 ■進まない習慣づけ
 これらの調査の結果を見ると、朝食の大切さを改めて感じさせられる。しかし朝食を食べない傾向は、あまり解消されていないのが実情だ。
 厚生労働省の27年国民健康・栄養調査によると、朝食を食べていない人は男性14・3%、女性10・1%だった。過去の推移をみると、ここ10年程度、日本人の朝食欠食率は、ほぼ横ばい状態が続いている。健康維持に大切な朝食を食べる人は増えていない。特に、若年層が朝食を食べない傾向が顕著で男女別の最多は30歳代男性の25・6%、20歳代女性の25・3%となっている。
 ■バランスも意識を
 そこで政府は昨年、32年度までに「朝食を取るのが週3日以下」という20~30歳代の若い世代の割合を、現時点の24・7%から15%以下に引き下げる目標を策定。食育に関して5年間で具体的に取り組む内容をまとめた「第3次食育推進基本計画」に盛り込んだ。 
 20~30歳代は「親になる世代」でもあり、少子高齢化が進む社会情勢を考慮すると、意識の改革が特に重要だ。そのため政府は、啓発の重点対象と位置づけ、積極的な情報提供に取り組んでいる。
 食育の推進基本計画や白書では、栄養バランスに配慮した食生活や、生活習慣病の予防や改善に気をつけた食生活の大切さも強調している。いくら朝食を食べる習慣をつけても、栄養や健康に配慮したものでなければ意味が薄れるからだ。
 ただ、どんな食事が栄養バランスが取れているのかを判断するのは、一般の人にはなかなか難しい。そこで国では「食事バランスガイド」の活用を呼びかけている。
 1日に「何を」「どれだけ」食べたらいいかを考える際の参考になるように、食事の望ましい組み合わせとおおよその量をイラストでわかりやすく示したもので、農水省と厚労省が共同で作成した。ホームページなどで公開している。
 その効果については、国立がん研究センターなどの調査で、ガイドに沿った食事をしている人は、していない人に比べて死亡リスクが15%低くなることを確認済みだ。同センターは「不足しがちな野菜や果物を積極的に3食規則正しく摂取し、栄養バランスを保つことが長寿につながる」と分析する。
 私たちの体を保つための食事は、きちんとしたリズムとバランスを意識することが大切。健康な生活を送るには、朝食を食べる習慣をつけることが、絶対に必要といえそうだ。

産経新聞より

2017年6月9日金曜日

湿邪(しつじゃ)

梅雨前線が北上し鹿児島県では雨が続いている。この先、九州では曇りや雨の日が続くことから、65日、気象庁は九州南部と山口県を含む九州北部で梅雨入りを発表した。南部は平年より6日遅い梅雨入り、北部は平年より1日遅い梅雨入りだ。関東甲信は平年より1日早い7日に梅雨入りした。
 そもそも、なぜ「梅雨」と呼ぶのか。由来は、この時期ジメジメしてカビが生えることから、黴(バイ/カビ)に雨と書いた「黴雨(バイウ)」が、時間を経て「梅」の当て字に変化したと言われている。また、梅の実が熟す時期として梅雨と呼ばれるようになったという説もある。
梅雨は日本だけのものではない。中国語と韓国語にも梅雨を表す言葉があるように、東アジア特有の季節だ。これには“世界の屋根”といわれるヒマラヤ山脈が関係しているという。西から吹くジェット気流の偏西風が、ヒマラヤ山脈によって南と北に分断されると、ちょうど日本の北側にあるオホーツク海の上で合流し「オホーツク海高気圧」が出来る。一方、日本の南からは「太平洋高気圧」が北上してくるため、その2つが日本列島の上で衝突し梅雨前線が出来るのだ。2つの高気圧が均衡し押し合うことで、梅雨が長引くという。夏になって、暖かい太平洋高気圧がせり上がると梅雨は終わる。
 さらに、梅雨のジメジメは私たちの体調にも影響を与える。その影響は東洋医学で湿邪(しつじゃ)と呼ばれている。東洋医学に詳しい千代田漢方内科クリニックの信川益明先生は、「湿邪とは、体の余分な水分によって体の不調が生じる症状。人が長時間湿度の高いところにいると発汗作用がうまくいかず、冷えという症状が起こることが考えられている」と説明する。湿邪の主な症状としては、体のだるさや頭痛、むくみ、眠気、胃もたれ・食欲不振などがあるという。

湿邪の対処法として信川先生は「体を冷やさないことが大切。例えば冷たいものを飲むことを控えたり、冷房の温度を下げ過ぎたりしないこと。同時に、半身浴などをして体の新陳代謝を高めることも重要」と述べた。また、雨が降っているときは、窓を閉め湿気を入れないことも体調に良いという。
 AbemaTV/『原宿アベニュー』より)

2017年6月7日水曜日

認知症も早期発見、早期治療

認知症の前段階と言われる「軽度認知障害(MCI)」の高齢住民を4年間追跡調査したところ、14%が認知症に進んだ一方、46%は正常に戻ったとの結果を国立長寿医療研究センター(愛知県大府(おおぶ)市)の研究班がまとめた。
MCIと判定されても改善する例も多いことを示す結果で、近く米医学専門誌に発表する。
研究は、認知症ではない65歳以上の同市住民約4200人を2011年から4年間追跡したもの。タブレット端末を用い、国際的なMCI判定基準をもとに約150項目に回答する形で認知機能を検査すると、当初時点で約740人(18%)がMCIと判定された。
4年後に同じ検査を行うと、MCIだった人の46%は正常範囲に戻っていた。

読売新聞より

2017年6月6日火曜日

がんを抑制する遺伝子

100歳を超えるような長寿に関係する遺伝子の特徴を、東京都健康長寿医療センターや慶応大などのチームが見つけた。1千人近い長寿の人の遺伝情報を集めて一般の人と比べた。長寿の人はがんや骨に関係する遺伝子に特徴があり、成果は長寿になるしくみの解明につながる可能性がある。研究が進めば、創薬などの開発にも役立つ。成果を米国の老年医学の専門誌で発表した。

 人が長生きできるかは、適度な運動や栄養といった生活習慣の要因が大きい。ただ、生まれつきの遺伝子による影響も2~3割はあるとされている。

 チームは、95歳以上の530人(大部分は100歳以上)と、79歳以下の4312人の血液などから遺伝情報を得て、個人ごとにDNAの塩基が異なる約24万カ所を網羅的に解析した。確認のため、中国人952人(うち447人が95歳以上)でも同様に調べた。

 すると、これまで指摘されていた「APOE」という遺伝子に加え、新たに「CLEC3B」という、がんの転移や骨の形成にかかわる遺伝子に特徴が見つかった。この遺伝子の特定の場所のDNAの塩基が置き換わっている日本人の割合が、一般の人たちでは19%なのに対し、長寿の人たちでは26%だった。同センター研究所の谷澤薫平・協力研究員によると、置き換わっている人は、95歳以上の長寿となる確率が通常の人に比べて1・5倍高い計算になるという。
朝日新聞社より

2017年6月5日月曜日

大人のADHD(15のチェックリスト)

発達障害は子供の病気と思われてきましたが、研究が進むにつれて、成人後も発達障害で苦しんでいる人が少なくないことが分かってきました。注意欠陥多動性障害(ADHD)もその一つです。大人の場合、どのような症状があるとADHDが疑われるのでしょうか。くどうちあき脳神経外科クリニック院長、工藤千秋さんに聞きました。【聞き手=ジャーナリスト・村上和巳】
 ◇国内の有病率は1.7%?
 私は脳神経外科とともに心療内科の診療を行っていますが、その中で時折遭遇するのが、いわゆる大人の発達障害の患者さんです。そのうちのADHDは、不注意▽多動性▽衝動性を主とする障害です。簡単に言えば注意不足、そわそわして落ち着きがなく、キレやすいというもので、その結果、仕事や学業の継続、成果達成なども含めて社会生活に支障をきたします。生まれつき脳内の神経伝達物質のバランスが悪く、その結果、中枢神経の機能に何らかの障害が発生するという説が唱えられていますが、詳細な原因はまだ解明されていません。
 症状はおおむね7歳くらいまでに出現し、学童期の有病率は3~7%で男性に多いとされています。かつては成人期になると、症状が落ち着き目立たなくなる(寛解)とも言われていましたが、現在では半数以上が成人期になってからも症状が続くということが分かってきました。浜松医科大などが18~49歳の男女1万人を対象に行った調査に基づいて算出した成人のADHD有病率は推定1.65%とされていますが、「実際にはそれよりも多い」という説もあります。
 ◇病態が極めて多様なADHD
 テレビなどで大人のADHDは、「家の中がゴミ屋敷のようになっている」「書類や資料などがタワー状に積みあがった仕事机のわずかな隙間(すきま)で仕事をしている」、など、いわゆる「片付けられない症候群」がその症状の代名詞のように紹介されることがあります。これは間違いではありません。しかし、ADHDにみられる症状は実に多様で、このように特定の症状のみに絡めてADHDを語ることは、逆にこの病気に対する誤解を助長する危険性もはらんでいます。
 私のこれまでの診療経験からADHDの患者さんにありがちな日常生活での症状を箇条書きで挙げてみたいと思います。
(1)重要なことを後回しにしてしまう。
(2)計画したことが最後まで実行できない。
(3)単純なルーティンワークにどうしてもなじめない。
(4)夜に熟睡できない。
(5)コーヒーにうまく砂糖が入れられない。
(6)はさみがうまく使えない。
(7)新しい機械の使い方を教わってもうまく作動させられない。
(8)自動車の運転中にやたらとクラクションを鳴らす、頻繁に車体をこすってしまう。
(9)運転中に車間距離がつかめない。
(10)スリッパをうまく脱ぐことができない。
(11)電気をつけっぱなしにしがちである。
(12)鍵をかけ忘れる。
(13)メールを書こうとしても文章がまとまらず何度も読み返す、送信相手を間違える。
(14)ネガティブシンキング(悲観的)になりがちである。
(15)自分を抑えることができない。
 これらのうち複数が当てはまる場合は、ADHDを疑って専門医を受診してみても良いと思います。私の診療経験から思いつく典型的な症状だけでもこれだけ挙げることができるのですが、実際のADHDの患者さんで見られる症状はさらに多様です。
 専門医では、米精神医学会が策定した「精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)」という診断基準に基づき、そこで示された合計22項目にどれだけ該当するかでADHDは診断されます。
 ◇治療を始めたら不確かな情報の遮断を
 ADHDの治療は現在、ヒトの気分や行動のもとになるものの考え方、つまり認知のあり方の修正を促す「認知行動療法」や薬物治療が中心となります。
 ADHDを疑って専門医を受診し、もし治療が行われると決定した場合、特に気をつけてほしいことがあります。それは治療を開始したら、インターネットなどに氾濫する不確かな情報をうのみにせず、むしろそれらを一定期間は遮断する覚悟で主治医の方針を順守して治療に取り組むことです。この種の病気では、腰を据えた治療が必要になります。そのうえで3カ月程度を目安に最初の治療が効果を示さなかった場合は、主治医と治療方針を再び相談しましょう。


毎日新聞より

2017年6月3日土曜日

80歳で20本の歯を残そう!

口の中の定期点検とクリーニングというメンテナンスのために、歯科医に通う人が増えてきた。長年、虫歯や歯周病など、何か問題が起きた時に受診する人が多かったが、歯を守っていくためには、それだけでは不十分だという認識が広がっている。とはいえ、まだ、習慣にしていない人も少なくないので、歯科メンテナンスの意義をおさらいしておきたい。歯に問題が起きてから歯科に行くのは、歯を失う道と言わざるを得ない。小さな虫歯なら、ちょっと削って詰める。深く進んでいたら、神経まで取ってクラウンをかぶせる。治療した詰め物、かぶせ物の寿命を調べた岡山大学の森田学教授(予防歯科学)の研究がある。平均すると、10年もたない。詰めた物 が外れる、かぶせた クラウンの下が虫歯になる、根の下に病変ができるといったトラブルが発生するからだ。この研究は10年余り前のもので、その後材料や接着剤などが改良され、もっともつようになった可能性はあるが、治療をすれば大丈夫というわけではない点に変わりはない。虫歯をつくるミュータンス菌や歯周病菌は、口の中で容易に増殖する。歯磨きやフロス(糸ようじ)、歯間ブラシで細菌や食べカスを取り除いても、取りきれない細菌が残る。また、歯は熱いもの、冷たいものという温度差にさらされ、食べ物をかむときに圧力が加わる。厳しい口内環境の中で、詰め物やかぶせ物と歯の間に隙間ができたり、これらの人工物が外れたり、傷んだりする。二次的な虫歯で再治療になれば、さらに歯は削られて小さく なる。神経を抜いた歯はもろくなる。歯の喪失に一歩ずつ近づいていく。こうした悪循環に陥らないため、日ごろのセルフケアや定期的な歯科メンテナンスが重要なのだ。日本人の多くが長年、「治療→再治療→歯の喪失」というサイクルを経験してきた。歯は上下合わせて28本あるが、厚生労働省の歯科疾患実態調査(2011年)によると、失った歯の本数は、50歳代前半の平均で2.6本、60歳代前半で5.9本、70歳代前半で11.0本になる。80歳の時に20本の自分の歯を残そうと、日本歯科医師会や厚労省は「8020」運動を主唱しているが、達成しているのはほぼ4割。80歳で残っている歯は平均で半数の14本だ。一方で、世界には「8020」を達成している国もある。歯科衛生の先進国と言われるスウェーデンだ。この差はなぜ生まれたのだろう。スウェーデンの予防歯科で知られる歯科医、アンダース・スコグルンドさんによると、1960年代末に歯科衛生士 の教育が 始まり、予防処置が行われるようになった。21歳以下は無料で歯科医療を受けることができ、幼いころからメンテナンスが習慣になっているという。22歳になると、メンテナンスに1回1万5000円程度かかるが、スコグルンドさんがいるカールスタッド市では、市民の9割が継続しているそうだ。治療費が日本の自己負担分と比べてかなり高いこともあって、予防重視の姿勢が徹底されている。それが残る歯の多さにつながっている。そんなスウェーデンに負けない予防歯科医療を実現しようと、昨年3月、東京港区に一軒の歯科診療所が生まれた。「日吉歯科診療所汐留」院長の熊谷直大(なおた)さん(37)は、「メンテナンスをしていれば、ほとんどの人が歯を失わないで済む。治療と違ってメンテナンスの後は、爽快感があって気持ちがいいので、頭を切り替えていただければ、もっと普及する」と意欲的に取り組んでいる。初診では、口腔内の写真や歯のエックス線写真を撮影し、歯周ポケットの深さや歯茎の出血、唾液に含まれる細菌、唾液の量の検査をして、口の中の状態を把握する。ほとんどの初診患者が虫歯や歯周病を持っているので、治療をしてからメンテナンスに移る。メンテナンスの頻度は3 か月に1度。担当の歯科衛生士が1時間かけて、口内のチェックとクリーニング、歯を強くする高濃度フッ素の塗布、生活習慣や全身の状態の確認をし、記録とアドバイスをまとめる。画像やコメントは、インターネットで確認することができる。熊谷院長は新潟大学歯学部を卒業後、米国のタフツ大学大学院に進み、資格要件が厳しい米国歯科補綴(ほてつ)ボード認定専門医の資格を取得した。補綴とは、かぶせ物や入れ歯を専門にする分野だ。治療の専門資格を持つ熊谷院長だが、自分の診療所で実現したいのは、治療を必要としない予防歯科。「メンテナンスで歯を守れる」と言い切る自信は、父が積み上げ、自分も引き継いできた実績があるからだ。熊谷院長の父の崇さんは、山形県酒田市の「日吉歯科診療所」で、メンテナンスを基本にする歯科診療を37年前から実践してきた日本の予防歯科のパイオニア。酒田市の人口は約10万5000人で、そのうち約1万人のメンテナンスを日吉歯科が担っている。20年以上メンテナンスを受けている人が失った歯は、全世代で平均0.9本。5歳以前から通う人の80%は20歳まで虫歯がゼロ。親子3代でメンテナンスに通う利用者も多い。直大さんは米国から帰国した2009年から、父とともに酒田で診療をしてきた。詳細な診療データを蓄積しており、メンテナンスを徹底することで歯を守ることができるのは実証済みだ。父の実践は、NHKの「プロフェッショナル―仕事の流儀―」(2014年10月放送)やテレビ東京の「カンブリア宮殿」(16年1月放送)で取り上げられ、大きな反響を呼んだ。メンテナンスのためにわざわざ東京から酒田まで通う患者も現れた。そこで、「酒田でやってきたことを東京に輸出して、国際標準のメンテナンス歯科を日本で確立したい」と、東京に予防歯科の拠点診療所を開業したのだ。東京の診療所でもメンテナンスは自費診療。1回1万5000円(1時間)を設定している。それでも開業から1年で800人余りが受診し、500人がメンテナンスに移行した。日吉歯科汐留の診療は口コミでも広がり、患者は日に日に増えている。メンテナンスへの関心は広がっている。このように日本でもメンテナンスのために歯科に通う人は増えている。長年、普及しなかった理由のひとつは健康保険制度にありそうだ。比較的少ない自己負担で医療を自由に受けることができる日本の健康保険制度は優れた制度だが、歯科では必ずしも良いことばかりではない。健康保険は病気やけがの「治療」を保険でカバーするもので、「予防」は対象にならない。だから、治療後の歯科メンテナンスは、本来、自費負担になる。人間ドックと同じである。「保険でメンテナンスやってもらっている」という人もいるだろう。その場合、虫歯や歯周病の治療などの名目で保険扱いにしているのが実態だ。国は一昨年、虫歯や歯周病に罹患(りかん)していない場合、「予防処置に保険給付しない」という見解を改めて公表している。それを受け、自費に移行した診療所もあるようだ。歯周病は成人の8割にあり、口内のクリーニングは「治療」項目のひとつ。歯周ポケットの検査や画像診断は保険で可能だ。しかし、歯周病はきちんと治療をすればほとんどの場合は治るので、治療として予防診療を行うことの不適切さは否めない。歯科医としては、メンテナンスを行おうとすると、自費受診を患者に理解してもらうか、健康保険上の“綱渡り”をするかという壁に突き当たる。そうした歯科メンテナンスのポジションが普及のブレーキになってきた。健康保険は治療を後押しする制度でもある。提供した医療に対してお金が支払われるので、削って詰めてかぶせるという作業を多くこなすほど収入が増える。患者にとって最良の診療を心がける歯科医も多いに違いない。しかし、保険上の個々の治療単価の設定が比較的安価なこともあって、短時間で多くの歯に手を加える方が経営の安定につながる面がある。一度治療が必要になると、歯の喪失へのサイクルに入ってしまう。日本とスウェーデンで残る歯の数に差がついているのは、治療中心の制度と、予防を重視する制度をそれぞれ作った国の違いのようだ。とはいえ、日本でも残る自分の歯の数が年々増えているのは喜ばしいことだ。6年に一度行われる歯科疾患実態調査によると、80歳の残歯数は2011年は14本だが、その前の2005年の調査では10本だった。今年の調査ではもっと増えていることだろう。歯科メンテナンスを国民全員のものにするため、どのような制度を作ればいいのか。その議論は置くとして、今のところ、メンテナンスを受けるには、自費での負担を受け入れなければならない。熊谷院長は言う。「美容院に費やす費用を思い浮かべてみてください。一生自分の歯を使い続けるために、3か月に一度、自費で歯科に通うのは、割の合わない負担でしょうか」口の中に細菌がはびこっていると、歯だけではなく、心臓血管疾患、糖尿病、リウマチ、認知症、肥満など、全身の健康に影響することがわかっている。高齢になって飲み込む力が低下すると、口の中の細菌が唾液とともに誤って気管に入り、誤嚥(ごえん)性肺炎を引き起こす。肺炎は80歳以上の主要な死因で、誤嚥性肺炎がその7割以上を占める。口内の衛生管理は、全身の健康や寿命をも左右する。そう考えると、歯科メンテナンスを習慣にしない手はない。
読売新聞より