2010年12月18日土曜日

障害者自立支援

自宅で家族の介護を受けている障害者の9割が親に頼っていることが、障害者団体の調査で明らかになった。介護者の過半数は60歳以上で、障害者を支える側の高齢化が深刻になっている。こうした実態を全国規模で調べるのは初めて。
調査は、障害者が働く小規模作業所などが加盟する「きょうされん」が今年7月、3万2573人の障害者を対象に実施。親やきょうだいなどの介護者にも記入を求め、3277人の障害者と4123人の介護者から回答を得た。
主な介護者のうち、母親が64.2%と3分の2近くを占め、次いで父親が25.4%だった。年齢別では60代が33.6%と最も多い。60歳以上は過半数の53.1%に上った。
93歳の母親が、身体・知的障害がある72歳の息子と2人暮らしをしている事例や、94歳の父親が58歳の精神障害のある娘を介護している事例もあったという。介護者の半数近くは居宅支援サービスを利用せず、70代の介護者の利用率は13.7%、80代は3.1%と低い。
こうしたなか、介護者の84.5%は負担感を感じている。とくに精神的負担が68.7%と最も多く、身体的負担の52.0%、経済的負担の40.8%と続く。
障害者自立支援法はサービス選択の保障や自立支援を掲げたが、家族介護への依存と負担感を助長した。障害者とその家族の状況に応じた支援ができる制度改革が急務だ。

2010年12月17日金曜日

ヒ素で成長できる細菌

通常の生物にとっては有毒なヒ素を、生命活動の根幹となるDNAに取り込んで成長できる細菌を発見したと、米航空宇宙局(NASA)などの研究グループが発表した。
地球上の生物は、主に炭素、酸素、水素、窒素、リン、硫黄の6元素でつくられており、これらは生命活動に不可欠と考えられている。だが、この細菌はリンをヒ素に換えても生きることができるという。
現在知られているものとは異なる基本要素で生命が存在する可能性を示すもので、生命の誕生、進化の謎に迫る発見といえそうだ。
専門家らは生命を構成するのが6元素であることを前提に地球外の生命探しを進めているが、研究グループは、どのような物質を追跡の対象にするか、より真剣に考えなければならないと指摘している。
研究グループは、米カリフォルニア州にあるヒ素濃度の高い塩水湖「モノ湖」に生息する「GFAJ1」という細菌に着目。
ヒ素が多く、リンが少ない培養液で培養すると、リンが多い培養液よりは成長は遅くなるものの、細胞数が6日間で20倍以上に増え、GFAJ1はヒ素を取り込んで成長することを確認した。
細胞内の変化を詳しく調べると、DNAやタンパク質、脂質に含まれていたリンが、培養によってヒ素に置き換わっていた。リンとヒ素は化学的性質が似ているため、このような現象が起きたと考えられるが、どのように置き換わるかや、置き換わった分子が細胞の中でどのように働くかは分からないとしている。

2010年12月16日木曜日

認知症回避には・・・

仏国立衛生医学研究所は、認知症減少のために最も有効と考えられるのは、糖尿病とうつの予防、果物と野菜の摂取、そして教育レベルの改善であるとの研究結果を発表した。
認知症の正確な原因は分かっていないが、修正可能な危険因子はいくつか同定されている。それは、血管系の危険因子(心疾患、脳卒中、高血圧、肥満、糖尿病、高コレステロール)、うつの既往、食事内容、飲酒、学歴などである。
研究では、これらの危険因子のいずれの修正が将来の認知症の減少に最も効果があるかについて推計を試みた。1999~2001年に、南仏在住の65歳超の健康な男女1,433人を登録。被験者は認知機能テストを調査開始時および2、4、7年後に受けた。生涯の知性の指数として読解テストのスコアを用いた。既往症、身長、体重、学歴、月収、食事習慣、飲酒、喫煙などに関する情報を入手し、認知症の遺伝的リスクも測定した。
検討の結果、糖尿病やうつの予防、果物と野菜の摂取により、認知症の新規発症を全体で21%減少できると推定された。中でも、うつの予防がもたらす効果が10%強で最大であった。ただし、うつと認知症の間に直接的な因果関係があるかどうかについては不明のようだ。また教育レベルを高めることで、一般人口における7年以内の認知症発症が18%減少すると推定された。一方、既知の主要な遺伝的危険因子の除去によって見込める一般人口における7年以内の認知症発症の減少は7%にすぎなかった。
研究の結果から、公衆衛生上の施策としては、読み書き能力の向上、うつの迅速な治療、耐糖能低下とインスリン抵抗性の早期スクリーニングに重点を置くべきだとしている。
英国の研究では、認知症の診断後1年間の死亡率は認知症でない人の3倍超であることが明らかにされ、プライマリケアにおいて、より早期かつより的確に認知症を発見することが重要だとされている。

2010年12月15日水曜日

ビタミンE

ビタミンEの補充は脳梗塞のリスクを低下させる一方、脳出血のリスクを高めると、米ハーバード大学などのグループが発表した。
同グループは、2010年1月までに報告された論文を医学電子データベースから検索。ビタミンE補充の脳卒中への影響を1年以上の追跡で検討した試験を抽出し、解析により脳卒中全体および脳梗塞、脳出血発症への影響を評価した。
解析対象は、参加者計11万8,765例(ビタミンE群5万9,357例、プラセボ群5万9,408例)を含む9試験。うち7試験で脳卒中全体、5試験で脳梗塞と脳出血のデータが報告されていた。
解析の結果、ビタミンE補充による脳卒中全体の発症への有意な影響は認められなかった。しかし、タイプ別に分けると、ビタミンEの補充によって脳梗塞の発症が10%減少。その一方で、脳出血の発症が22%増えていた。
絶対リスクに関しては、476例がビタミンEを服用するごとに脳梗塞が1例減少。1,250例がビタミンEを服用するごとに脳出血が1例増える計算になった。
同グループは、ビタミンEの補充には十分な注意が必要であると指摘している。

2010年12月14日火曜日

掃除機内のノロウイルス

今冬、流行が本格化しはじめたノロウイルスに、掃除機内のゴミから感染する危険性が高いことが分かった。患者の便や吐物から広がる「第三の感染経路」だ。掃除機がウイルスがついた室内のほこりを吸い集めて濃縮するためとみられる。ゴミを0.1ミリグラム程度吸い込むだけで感染・発症する可能性がある。研究者は、掃除機のゴミ処理後は、必ず手洗いとうがいをと呼びかけている。
ノロウイルスは、患者の便や吐物から空気中のちりやほこりにくっついて感染を広げる性質がある。
長野県環境保全研究所感染症部の研究員らは、掃除機がほこりを集めて濃縮する機能があることに注目し、47の一般家庭で掃除機内のゴミを調べた。すると2家庭からゴミ1グラムあたり最大約50万個のウイルスが見つかった。ウイルスは18~30日間にわたって出続けた。どちらの家庭もその2~4週間前に家族が発症していた。この患者の便などから家庭内のほこりにウイルスが拡散し、掃除機で濃縮されたと見られる。
ノロウイルスは10~100個で発症する。今回の結果によると、掃除機内のゴミ約0.1ミリグラムで発症する危険があることになる。
研究によると、掃除機のゴミを不適切に処理すると感染源になる危険性が高いという。感染を防ぐポイントとして、ゴミを処理する時に(1)屋外で取り出す。できればマスクや使い捨て手袋を使う(2)すぐポリ袋などに入れて封をする(3)処理後は手を洗い、うがいをする、などを挙げている。

2010年12月13日月曜日

インフルエンザ今年の傾向

インフルエンザが流行の兆しを見せている。国立感染症研究所が全国約5000医療機関を対象にした調査では、5週連続で患者数が増加。
北海道と宮崎県は流行入りの目安となる1医療機関当たりの患者数1人を超えた。今シーズン、流行はどうなるのか。
新型インフルエンザが流行した昨シーズンは、2000万人以上出た患者のほとんどが新型によるものだった。今シーズンは今のところ、季節性のA香港型が目立っている。最近5週間では検出ウイルスの約7割を占め、南半球でもA香港型の流行が見られた。
A香港型は乳幼児に脳症や脳炎を、高齢者には肺炎を起こすなど、季節性の中でも大きな被害が出やすいため、季節性だからと言ってあなどってはいけない。
11月には秋田県北秋田市の病院で集団感染があり、入院患者8人が死亡した。A香港型が流行した1999年には、高齢者を中心に3万2000人が国内で死亡したと推定された。過去3シーズンは大きな流行がなかったので国民の免疫が低下している可能性もある。
では、新型はどうなるのだろうか。昨シーズン、新型に感染して亡くなったのは約200人。季節性では毎シーズン、数千人~数万人が死ぬのに比べて格段に少なかった。だが、日本で新型の死者が少なかったのは早期診断・治療が徹底されたためだ。海外では青壮年層の死亡も目立っており、油断すると、昨シーズン以上の被害が出る恐れがある。
今年は流行の立ち上がりが例年より早め。ワクチンの効果が出るのは接種して3~4週間後なので、今すぐにでもワクチンを接種してほしい。
ワクチンは昨シーズン、新型用と季節性用をそれぞれ接種する必要があった。今シーズンは新型と、季節性のA香港型、B型用の3種を混合したワクチンが用意され、接種は1回(13歳未満は2回)で済む。
治療薬もタミフル、リレンザに、1回投与で効果が出る点滴薬「ラピアクタ」や吸入薬「イナビル」が加わった。日本感染症学会は、できるだけ早く治療を受けることを勧める。予防には手洗いの励行なども有効だ。

2010年12月12日日曜日

新型インフルエンザ

新型インフルエンザで肺炎に至る小児患者は、発熱よりせきが先に出る場合が多いとの調査結果を、大阪医科大小児科が発表した。肺炎の兆候の早期発見につながる可能性がある。
調査は、昨年秋ごろに同大病院を受診した小児患者が対象。「38度以上の発熱より12時間以上前にせきが出始めた」という人が、肺炎を起こして入院した小児患者では13人中10人(77%)に上った。軽症患者では112人中10人(9%)にとどまった。
季節性インフルエンザは通常、発熱後にせき症状が出る。新型の場合は、ウイルスが感染初期から肺の奥に侵入しやすいため、せきが先行すると考えられるという。

2010年12月11日土曜日

肥満患者でビタミンD欠乏

スウェーデンのウプサラ大学外科の研究で、肥満患者では重度のビタミンD欠乏を来しており、カルシウム(Ca)の代謝が不良であることがわかった。
今回の研究では、肥満患者のビタミンD欠乏だけでなく、全身のCa調節系まで検討された。このような広範囲にわたる検討の結果、肥満患者がCa代謝不良であるという仮説や、同代謝不良が副甲状腺機能になんらかの影響を及ぼしているというこれまでの推論を支持する知見が得られた。
ビタミンD欠乏に至る特異的な機序はいまだ解明されていないが、おそらく肥満がビタミンD欠乏を惹起し、その逆はないと考えられるとしている。
これまでにも肥満がビタミンD欠乏につながる機序については、(1)ビタミンDは脂溶性であるため、脂肪組織に取り込まれて、身体で不足する、(2)肥満の人は屋外で過ごす時間が少ない傾向にあるため、日光に当たる時間が不十分である、など多くの仮説が提唱されている。
研究結果から、肥満患者の治療では特に骨粗鬆症リスクを視野に入れた適切なフォローアップが重要であると言える。さらに、同大学肥満症ユニットでは現在、肥満患者に多量のビタミンDを処方しているが、プライマリケアの段階で、肥満とビタミンD欠乏症に関して意識を高める必要があるだろう。

2010年12月10日金曜日

感染性胃腸炎

下痢や嘔吐を繰り返す感染性胃腸炎の患者が急増し、流行期を迎えたことが、国立感染症研究所の調査でわかった。ノロウイルスが主な原因とみて、手洗いなどの徹底を呼びかけている。
全国約3000の小児科から報告された感染性胃腸炎の患者数(11月8~14日)は、1医療機関当たり7・7人。前週の5・31人から約1・5倍に増え、4週連続の増加となった。昨年同時期の3倍以上で、過去10年では大流行した2006年に次いで多い。患者は、7歳以下が7割以上を占めている。都道府県別では、大分、山形、新潟の順に多く、佐賀を除く46都道府県で前週より増えた。
ノロウイルスは例年12月に感染のピークを迎える。同研究所感染症情報センターによると、感染予防で最も重要なのは、せっけんによる手洗いだという。吐いた物や下痢便には大量のウイルスが含まれ、子どもの間で簡単に感染が広がる。症状が出たら保育園や学校を休んでほしい。

2010年12月9日木曜日

バイリンガルで認知機能維持

2カ国語を話すバイリンガルであることが認知機能の維持と関係すると、カナダの研究グループが発表した。
社会的、精神的、身体的に活動性の高い高齢者は認知症の発症に対してある程度、保護されていることを示唆する疫学的エビデンスがある。同グループは、認知機能維持におけるバイリンガルの影響を検討した。
対象は、ほぼ確実にアルツハイマー病と診断された211例。認知機能障害の発症年齢の記録と、職歴および学歴、言語歴に関する情報を集めた。102例がバイリンガル、109例がモノリンガルであった。
その結果、モノリンガルの患者と比べバイリンガルの患者はADの診断が4.3年遅く、症状の発症が5.1年遅かった。この関係に学歴、職歴、移民などの影響はなく、男女差もなかった。

2010年12月8日水曜日

高血圧症への早期介入

米国のボストンにある病院で、正常血圧(140/90mmHg未満)の男女ティーンエージャーを対象とした研究を行った結果、正常血圧のティーンエージャーが、その後42歳までに高血圧を発症するリスクは、少女に比べて少年で3〜4倍であることが分かった。
今回の研究では、参加者2万6,980人(男性2万3,191人,女性3,789人)を対象に、青年期から壮年期までの血圧の自然経過について検討した。参加者の登録時の平均年齢は17.4歳で、42歳(平均)までの血圧値とBMIが追跡された。
その結果、追跡調査期間中に3,810例(14%)が高血圧を発症した。成人前の血圧値が正常範囲内であっても、その値が上限に近づくほど高血圧となる可能性が高まり、特に20歳代から30歳代にかけて高血圧を発症するリスクが高くなることが明らかになった。例えば、ティーンエージャー時に収縮期血圧が110mmHgであった群では、100mmHgであった群に比べて成人後の高血圧リスクが高かった。
この結果から、ティーンエージャー時の血圧値が、高血圧として定義されている値に比べてかなり低くても、将来の高血圧発症の予測因子となりうることが示唆された。
さらに、高血圧リスクには性差が認められ、17〜42歳の累積リスクは女性に比べて男性で3〜4倍であった。
また研究では、BMIと血圧との相互作用が検討された。その結果、男性では適正値と見なされるBMI(18.5〜25)も含め、BMIがどの範囲にあっても、成人後の高血圧リスクが増大していた。一方、女性では肥満のサブグループでのみ高血圧リスクが増大していた。この点については、女性ホルモンのエストロゲンは高血圧を予防する可能性が示唆されており、このことが影響したと考えられた。
さらに研究の結果、青年期に既に正常体重の上限に達し、収縮期血圧が110mmHg以上であった群では、高血圧リスクは1年当たり約1%の割合で増大する。つまり、この群の約10%は30歳になるまでに高血圧を発症することになる。高血圧、心疾患、糖尿病の予防に向けたライフスタイルの改善と介入を開始するのに早過ぎるということはない。高血圧や心疾患の予防は高齢者だけの問題ではない。血圧と体重の変化を小児科医が警告としてとらえ、できるだけ早期から予防措置を講じるべきであろう。「予防に勝る治療なし」である。

2010年12月7日火曜日

地中海料理で皮膚がん予防

テルアビブ大学は「抗酸化物質とω3脂肪酸の豊富な食事を取る東部地中海諸国では、黒色腫の発症率は極めて低く、このような食生活には皮膚がんの予防効果がある」と発表した。同大学は、帽子や日よけの上着、スポーツウエアを着て日光を遮るとともに、「ギリシャ流」の食生活、つまりオリーブオイル、魚介類、ヨーグルト、カラフルな果物と野菜をしっかり取るよう勧めている。
太陽光線は皮膚を通過し、光酸化を起こすことで皮膚と免疫系に損傷を与え、直接細胞に影響を及ぼすだけでなく生体に備わる修復機能も低下させる。
以前の研究によると、太陽の紫外線は皮膚組織の分子を励起して酸化させることで皮膚の損傷をもたらす。同大学は「十分量の抗酸化物質を摂取しておけば、紫外線による損傷を低減させることができる」としている。
またその後の研究で、食品中の抗酸化物質、特にカロチノイド(果物や野菜に含まれる色素で、トマトやスイカの赤色や、ニンジンやカボチャのオレンジ色をつくる)は皮膚に蓄積されて防衛の第一線で働き、紅斑の発現を遅らせることが分かった。紅斑は皮膚がんにつながる恐れもある組織やDNAの初期損傷の徴候である。
同大学は「今回の研究結果は、気候変動が問題視される昨今の状況では特に重要だ」と強調。気温と湿度が上昇するほど太陽の紫外線による影響は大きくなり、日焼け止めだけでは完全に予防できなくなるとしている。つまり、肌の健康促進には、日よけや日焼け止めを十分に用い、日差しが最も強くなる時間帯の外出を避けるとともに、食生活の改善も考慮する必要がある。
食生活を改善する代わりにサプリメントを多量に摂取すればよいと考えがちだが、同大学は、サプリメントは簡便だがさほど効果がないと説明。「食品に含まれる栄養成分は相乗作用を示す。食品にはさまざまなビタミン、抗酸化物質が含まれ、これらの成分は相互に作用し合って生体に備わる防御機能を支援する。このような成分の相乗作用は健康に大きく役立ち、特定の成分しか含まないビタミンのサプリメントより優れた効果を示す」と述べている。
地中海料理を求めて、わざわざギリシャやイスラエル、トルコなどに行く必要はない。これらの食材は各国の食料品店でも手に入る。同大学は「オリーブオイル、新鮮な魚介類、果物や野菜、適量の赤ワイン、全粒穀類、豆類と十分な水を買えばよい」と助言している。
また同大学は、避けるべき食品も挙げている。牛肉などの赤身肉、加工食品、アルコールは控え(飲むなら赤ワインが良い)、紫外線に対する皮膚の感受性を高めるソラレンを含む食品(パセリ、セロリ、ディル、香草、イチジクなど)は取り過ぎないよう気を付けるべきだという。

2010年10月24日日曜日

予防接種3ワクチン

厚生労働省の予防接種部会は10月、インフルエンザ菌b型(ヒブ)、小児用肺炎球菌、子宮頸がんの3種類のワクチンについて、公費で接種が可能な予防接種法の定期接種に位置づけるべきだとする緊急の意見書をまとめ、同省に提出した。
ヒブなどの3ワクチンは有効性、安全性も高く、国民の要請も強い。まずは国の補助事業として早期に接種を促進するなど、将来的な定期接種化に向けた動きを加速させてほしい。
同部会は年末をめどに提言をまとめる予定だったが、今年度補正予算の議論に反映させるため緊急に意見集約した。3ワクチンは、世界保健機関(WHO)が接種を勧告し、米、英など先進7カ国で定期接種のプログラムとして実施していないのは日本だけという。

2010年10月23日土曜日

不健康な四つの習慣

ノルウェーのオスロ大学の研究で、喫煙、運動不足、飲酒、偏った食事という四つの不健康な習慣の重複が、死亡リスクの大幅な増加と関連していることがわかった。
これまでの複数の研究で、(1)喫煙(2)運動不足(3)多量飲酒(4)重要度は劣るが野菜や果物の少ない食事—は、心血管疾患(CVD)、がん、早死などのリスク増と関連していることがわかっている。しかし、これら不健康な習慣の影響を調べた研究のほとんどは、各習慣の独立した影響を検討したものばかりである。
しかし現実には、複数の不健康なライフスタイル要因が併存している可能性がある。このような行動に対する公衆衛生上の影響を理解するには、一つの行動だけでなく、習慣の重複が健康に与える影響を調べる必要がある。
今回の研究では、1984~85年に18歳以上の参加者4,886例に聞き取り調査を行った。不健康な習慣一つにつき1点を加算して、健康習慣スコアを算出した。不健康な習慣は、(1)喫煙(2)果物と野菜の摂取が1日3回未満(3)1週間の運動時間が2時間未満(4)1週間の飲酒量が女性の場合は14単位超(1単位はアルコール8g)、男性の場合は21単位超—とした。
平均20年間の追跡期間中に1,080例が死亡したが、死因の内訳はCVD(431例)、がん(318例)、そのほか(331例)であった。
スコアが4点であった者は、0点であった者と比べて、CVDまたはがんで死亡するリスクが約3倍、そのほかの疾患による死亡リスクが4倍で、全死亡リスクは12歳年上の人と同等であった。また、不健康な習慣の数が一つ増えるごとに、全死亡と各疾患による死亡リスクが増加した。
ライフスタイルをわずかでも改善できれば、相当の効果が得られることが分かっている。今後の公衆衛生政策では、人口全体で健康的な食生活とライフスタイルを向上させるための効率的な方法について考える必要があるようだ。

2010年10月22日金曜日

乳児期の母親の愛情

米国のデューク大学の研究で、乳児期に母親から十分な愛情を受けた人は、成人後のストレス処理能力が高いことが分かった。
幼少期の経験が成人後の健康に及ぼす影響に関心が高まっているが、多くの研究は本人の記憶に頼っており、被験者を幼少期から成人期まで追跡した研究は少ない。今回の研究では、米ロードアイランド州の出生コホートにおける482例の分析を行った。
研究では、生後8カ月の定期的な発達検査において、心理学者が母親と乳児の交流の質を客観的に評価した。各セッションの終わりには、母親が小児の発達テストにどのように対処するか、また小児の成績にどのように反応するかについて質問票に記入した。母親の小児に対する愛情と注意のレベルは、「低い」から「非常に高い」までの範囲で分類した。
その後の追跡調査では、不安、敵意などの具体的な要素と全般的な苦痛レベルを示す有効な症状チェックリストを用いて、平均34歳時点で被験者の精神的な健康度を評価した。
生後8カ月の評価では、10例に1例(46例)の親子の相互反応において、母親の小児に対する愛情レベルが低いと分類された。大半(85%,409例)の母親の愛情レベルは正常と分類された。残りの6%(27例)の母親は、愛情レベルが非常に高いと判定された。
チェックリストの特定の要素を分析したところ、生後8カ月の時点で母親の愛情レベルが最も高いと評価された者は、不安、敵意、全般的な苦痛のレベルが最も低いことが分かった。
母親の愛情レベルが低い~正常に分類された者では、高いレベルに分類された者と比べて、不安スコアに7ポイント超の差が認められた。両群を比較すると、敵意スコアは3ポイント超、全般的な苦痛スコアには5ポイント超の差があった。
このパターンは、チェックリストの全要素にわたって観察され、母親の愛情が豊かであるほど成人期の苦痛レベルは低かった。
今回の研究結果から、人生のごく初期の経験が成人の健康に影響を与える可能性があるとする主張が裏付けられた。母親の高いレベルの愛情により、安心ときずなの形成が促進される可能性がある。その結果、苦痛レベルが低下するだけでなく、有効な社会的スキル、ストレス対応スキルなど生活全般にわたる処理能力を発達させることができ、成人後に安定した人生が可能になるだろう。

2010年10月21日木曜日

生殖医療

「インドでの代理出産プログラムをご提供」。インターネットで「インド、代理出産」と検索すると、こんな文言の並ぶウェブサイトにたどり着くらしい。"生殖ツアー"関連業者の広告だ。費用予想約700万円。先進国の不妊夫婦らの間では"安い費用"で済むインド女性に人気があり、同国では代理出産が外貨獲得のための重要産業になっているとされる。
これを可能にした技術こそ「体外受精」。今年のノーベル医学生理学賞受賞者に、1978年に世界初の体外受精児を誕生させ、同技術を開発したロバート・エドワーズ英ケンブリッジ大名誉教授(85)が決まった。
この技術開発を機に現在に至る「生殖革命」が始まったが、今日の世界的な状況を見ると同技術は不妊治療の枠を超えて利用され、負の側面があることも否定できない。生殖革命が無秩序に進めば人類自体を変化させる恐れすらあり、各国はその影響を注視することも求められるだろう。
こうした中、日本では50人に1人が体外受精で誕生しながら、これらを規制・管理する法律が全くなく、どこまで利用可能とするかの議論も尽くされていない。野田聖子自民党衆院議員(50)も第三者からの提供卵子を使った体外受精での妊娠を公表したばかりだ。国会は法制化に向け、生殖補助医療について本格的な討議を行うべきだ。
体外受精は当初、卵管の通過性が悪いことが原因で妊娠できない女性が対象だったが、技術発展などに伴い対象範囲も拡大。第三者提供の卵子や精子を使った体外受精や、第三者の女性が妊娠・出産する「代理出産」も、もたらした。
ただ、生殖技術の利用は(1)女性の身体的リスクが大きい(2)親子関係が複雑になる-などの問題が存在するほか、海外では生殖の商品化も進行。米国の一部では人種や美ぼう、学歴などの特性を記したカタログによって精子や卵子が売買されているほか、金銭目的の代理出産も行われている。
韓国では男女産み分けのために体外受精が行われるなど「命の選別」も進む。遺伝子操作が認められれば、望みの特性を持つ「デザイナー・ベビー」を産んだり、"スーパー人類"が誕生する可能性すらある。
日本では、エドワーズ氏の成功から5年後、東北大で初の体外受精児が誕生。一部クリニックでは提供卵子の利用や代理出産も実施されている。
政府は2003年、代理出産禁止や卵子提供制限などを柱とした法案を提出しようとしたが、自民党内の反対で頓挫。代理出産を限定的な範囲で事実上容認する民法特例法案を議員立法で提出する動きはあるが、親子関係をどう規定するかも含め、政府による法整備の動きは止まったままだ。
憲法13条の幸福追求権から導き出される「産む権利」と「生命の尊厳」などとのバランスをどう図っていくのか。根源的問題も含めた議論が求められている。

2010年10月20日水曜日

カナダの禁煙法

トロント大学臨床評価科学研究所の研究で、公共スペースや職場に加えてレストランなども禁煙とする禁煙法の施行により、心血管疾患による入院が39%、呼吸器疾患による入院が33%減少したことがわかった。
これまでの研究では,禁煙法の施行が心血管疾患、特に心筋梗塞のアウトカムにどのように影響するかについて検討されることが多かった。しかし、呼吸器疾患による入院への禁煙法の影響について調査した研究は少ない。
今回の研究では、1996年1月~2006年3月の10年間にわたり住民対象研究を行い、トロントで施行された禁煙法が、心血管疾患(急性心筋梗塞,狭心症,脳卒中)と呼吸器疾患(喘息,慢性閉塞性肺疾患,肺炎,気管支炎)による入院に与える影響について調査した。
トロントでは1999~2004年に、フェーズ1~3の3段階に分けて段階的に禁煙法を施行。入院の減少が最大だったのは、公共スペースや職場に加えてレストランでの喫煙が禁止されたフェーズ2施行後3年間であった。この期間に急性心筋梗塞、呼吸器疾患、心血管疾患による粗入院率はそれぞれ17%、33%、39%低下した。
今回の結果は、受動喫煙への曝露は健康に有害なため、曝露量を減らすための法制化が必要とするこれまでのエビデンスと一致している。さらに、どのような状況下で禁煙法が最も効力を発揮するかについて、さらなる研究が必要なようだ。

2010年10月19日火曜日

花粉症

気象情報会社「ウェザーニューズ」は、来春のスギとヒノキ(北海道はシラカバ)の花粉飛散量予測を発表した。全国平均で今年の5倍、近畿だと10倍、関東は7~8倍とみている。シラカバ花粉は今年と同等か多くなる見込み。
今夏の記録的猛暑と日照時間の長さから、雄花生産量が多くなるとみられるという。花粉症は無関係と思っていた人も来春は油断できなくなりそう。早めの対策が必要なようだ。
今春と比べた各地域の予測は以下の通り。
北海道1~2倍▽東北北部5~6倍▽東北南部2~3倍▽関東、甲信、北陸、東海7~8倍▽近畿10倍▽山陰2~3倍▽山陽5~6倍▽四国6~7倍▽九州2倍。

2010年10月18日月曜日

受動喫煙

ロンドン大学の研究で、健康な成人では、受動喫煙が精神健康度の低下や精神科入院リスクと関連することがわかった。
受動喫煙が身体に有害であることを示す文献は増えている。しかし、受動喫煙のメンタルヘルスへの影響についてはほとんど解明されていない。
今回の研究では、1998~2003年にスコットランドの健康調査に参加した精神疾患の既往がない非喫煙者5,560人(平均年齢49.8歳)と喫煙者2,595人(同44.8歳)を対象に調査した。参加者に精神健康調査票(GHQ-12)に回答してもらい、スコアが3点以上の場合を「精神健康度が低い」とみなした。また、平均6年間の追跡期間中の精神科入院について記録した。非喫煙者の受動喫煙は、唾液中のコチニン(ニコチンの代謝産物で、ニコチン曝露の信頼性の高い生化学的マーカー)を用いて評価した。
その結果、参加者の14.5%で精神健康度が低かった。受動喫煙量の多い非喫煙者(コチニン濃度0.70~15μg/L)では、コチニンが検出されなかった者と比べて精神健康度低下がみられる者が多かった。
平均6年間の追跡期間中、41人が精神科に入院していた。喫煙者と受動喫煙量の多かった非喫煙者は、いずれも受動喫煙量が少なかった非喫煙者に比べてうつ病、統合失調症、せん妄などにより精神科に入院する傾向が強かった。
動物実験のデータでは、たばこはネガティブな気分を引き起こす可能性があることが示唆されており、ヒトでの研究でも喫煙とうつ病の潜在的な関係が示されている。これらの知見を考慮すると、今回のデータはニコチンへの曝露がメンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることを示唆する他のエビデンスと一致する。

2010年10月17日日曜日

HDLコレステロール(HDL-C)

タフツ大学(ボストン)分子心臓病学研究所の研究グループは、HDLコレステロール(HDL-C)値が高い人では心疾患リスクが2分の1~3分の1になるだけでなく、発がんのリスクも大幅に低くなるとの研究結果を発表した。
今回の研究は、総症例数が14万5,743例の大規模試験となり、追跡期間の中央値は5年で、発がんの報告件数は8,185例であった。
研究の結果、HDL-C値が10mg/dL高くなるごとに発がんリスクが36%低くなることがわかった。これはベースラインのLDLコレステロール(LDL-C)値や年齢、BMI、糖尿病、性、喫煙状況を含む他の危険因子とは独立したものであった。
HDL-C値を高める最良の方法は健康的なライフスタイルを選択すること、すなわち定期的に運動し、健康的な食事を取り、飲酒は適度に抑え、禁煙することである。心疾患リスクが高いとされる人には、HDL-C値を上昇させる薬剤がある。
この研究は、HDL-Cが喫煙、肥満、炎症など、心疾患とがんの双方に関与することが知られているすべてのライフスタイル・危険因子の重要なマーカーである可能性を示している。低いHDL-C値は、慢性疾患リスクのマーカーと考えられるため、そのような患者にライフスタイルの改善を強調する動機付けになるだろう。

2010年10月16日土曜日

受動喫煙

他人のたばこの煙を吸わされる「受動喫煙」が原因で死亡する人は、国内で少なくとも年間約6800人に上るとの推計を、厚生労働省の研究班が発表した。2009年の交通事故による死者4914人を大きく上回る。
受動喫煙との因果関係がはっきりしている肺がんと虚血性心疾患の死者だけを対象にしており、実際にはもっと多い可能性がある。受動喫煙でこれらの病気にかかる危険性が1.1~1.4倍に高まるとした研究や、受動喫煙にあう人の割合を調べた全国調査などから死者数を推計した。
煙にさらされる場所を職場と家庭で分けると、職場が約3600人で多かった。まずは自分で環境を選ぶことができない労働者を守る対策から強めるべきなようだ。
男女別では、非喫煙者の割合が高く、家庭での受動喫煙にあいやすい女性が約4600人と、男性より被害が大きいこともわかった。

網膜培養

光を感知する機能を保ったまま目の網膜を組織ごと培養することに、自然科学研究機構生理学研究所の研究グループがマウス実験で成功した。網膜疾患治療薬の研究などへ活用が期待できるという。
生体から取り出した網膜などの神経組織はこれまで、組織ごと培養することができなかった。細胞ごとにばらばらにすると培養できたが、光を感知する機能が失われてしまっていた。
研究グループは、通常は菌を増やす際に使う機械で培養皿を揺らし続ける方法で今回の網膜を培養。網膜は4日間健康な状態を維持したという。
光の感知が難しくなることから起きる網膜疾患の治療に向け、光を電気信号に変換できる遺伝子を、培養した網膜内に入れることにも成功した。

2010年10月13日水曜日

体重増は乳がん高リスク

20歳の時より体重が増えた女性ほど、閉経後に乳がんを発症するリスクが高いとの研究結果を、東北大の研究グループが、約2万人の女性を追跡調査しまとめた。
閉経後に、肥満が乳がん発症リスクを高めることは分かっていたが、体重増加も関係すると判明。乳がん予防には、急激な体重増加を避けて、適正な体重を保つことが非常に大事なようだ。
研究グループは1990年、宮城県内に住む40~64歳の女性2万1183人を対象に健康状態や生活習慣を調査。その後、2003年までの約13年間にわたって追跡したところ、期間中に256人が乳がんを発症した。
体重(キロ)を身長(メートル)の2乗で割った体格指数(BMI)を調査時点と20歳の時について計算。その間の体重の変化と乳がんとの関係についても調べた。
調査時のBMIが高いほど閉経後の乳がん発症リスクが高く、20歳の時のBMIが高いほどリスクは低かった。20歳の時から調査時点までに体重の増加量が多いほど、閉経後に乳がんを発症するリスクが高かった。

2010年10月12日火曜日

双極性障害(躁うつ病)

今年9月、日本イーライリリー株式会社は、双極性障害の一般市民における認知調査の結果を発表した。調査は10歳代から70歳代の一般市民に行われ、有効回答1294のうち1270サンプルを解析している。
まず、双極性障害について知っているかという質問に対し、対象者の72.9%が「聞いたことがない」と回答した。それに対し、うつ病は87.8%が「病気あるいは治療法まで知っている」と回答しており認知度の差が大きいことがわかる。
疾患の特徴については、双極性障害を「自殺の可能性が高い」「再発しやすい」と回答したのは、それぞれ19.7%、8.1%に留まり、疾患に対する正しい情報が浸透していない事がわかる。
さらに、「双極性障害の患者さんが隣に引っ越しても良い」「結婚して家族の一員なっても良い」については、それぞれ59%、54.7%が否定的な回答を示しており、市民が患者に対して社会的距離を置く傾向にあることがわかった。
疾患に対する誤解と社会的距離の拡大を引き起こす大きな要因は、情報の不足と考えられる。さらに中途半端な情報は、誤解と社会的距離の更なる拡大を示す。市民に対し、早急に適切かつ十分な啓発が必要であると考えられる。また、精神科医に対しても双極性障害治療の難易度に対応できるトレーニングが必要である。
双極性障害の生涯有病率は、0.6%であり稀有な疾患とはいえない。一方、この疾患の再発率は90%以上といわれ、生涯にわたる薬物療法等の治療が必要である。さらに、25~50%の患者が自殺を試みたとの報告もあり、そのリスクはうつ病を超えるといわれる。しかし、現在、日本で使用できる薬剤は、躁病治療薬である炭酸リチウム(リーマス)、気分安定薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケンほか)とカルバマゼピン(テグレトール)だけであり、その選択肢は狭い。有望な新薬の登場が今後待ち望まれている。

2010年10月11日月曜日

血管の若返り

若いラットの骨髄を老ラットに移植することで、全身の血管の機能を若返らせることに国立循環器病研究センターや愛媛大、兵庫医大のチームが成功し。
チームによると、ヒトに応用できれば、へその緒にある臍帯血や、若いときに採取した自分の骨髄細胞を保存することで、年をとってから血管の機能を若返らせることができる可能性がある。人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、移植する骨髄細胞を作ることも考えられる。
チームは生後4週の若いラットから採った骨髄を、生後50週の老ラットに移植。30日後、血液中の約5%の細胞が若いラット由来となり、60日後の死亡率が半分以下となった。
調べると、移植したラットでは血管の密度が増え、機能が向上。人為的に脳梗塞を起こしても障害の範囲が小さく、周囲の血管の数も移植をしていないラットに比べ約1・5倍多かった。
血管の老化が原因となる脳血管性認知症や多発性脳梗塞などの治療や予防につながり、高齢化社会を迎えている日本にとって重要な成果といえる。

2010年10月10日日曜日

心機能と脳容量

心機能を示す心係数が標準レベルかどうかにかかわらず、心機能低下と、脳容量の減少や情報処理速度の低下といった脳の加速度的なエイジングとが関連していることが明らかにされた。米国ボストン大学神経学部が、約1,500例を対象に行った調査で明らかにした。
心血管疾患を有する成人では、心機能不全が神経解剖学的および神経心理学的な経年変化と関連しているとされる。理論上、全身性の低灌流が脳灌流を途絶させ、無症状性の脳損傷を引き起こしているとされるためで、研究では、心機能が、脳MRIで認められる以前の変化を捉える指標となり得るのではないか、また虚血やアルツハイマー病の神経心理学的マーカーの代替となるのではないかと仮定し、本調査を行った。

おもな結果は 
・被験者の平均年齢は61±9歳、54%は女性だった。 
・心係数は、総脳容量と情報処理速度の間に、それぞれ正の相関関係がみられた。 
・一方で、心係数は、側脳室容量との間には、負の相関関係がみられた。 
・臨床的に心血管疾患が認められた人を除いた後も、心係数と総脳容量には有意な関連が認められた。
・事後比較の結果、心係数低値群と心係数中間値群の脳容量は、心係数高値群に比べ、有意に小さかった。

本研究より、心機能と脳容積の低下に正の相関関係があることが明らかになった。
これまで、慢性心不全患者や冠動脈バイパス術を受けた冠動脈疾患患者において、無症候性脳梗塞や深部白質病変が進行していることが知られていた。これらの無症候性脳障害が、心疾患患者の抑うつ状態や認知機能低下の背景となると考えられている。
本研究の新規性は、これらの臨床的に明らかな心疾患が発症する前の症状のない地域住民においても、心機能と脳容量に有意の関連を認めた点である。 
心機能で3群に分けたときに、最高3分位(心機能良好群)だけが、他の2群に比較して脳容積が高かったが、中間3分位群と最低3分位群では有意差がない。 このことは、心機能と脳容積に直線関連ではなく、正常範囲内においても心機能のわずかな低下が脳容積の低下と関連することを示している。
この脳・心臓器連関の機序はよくわからない。 何らかの加齢変化や合わせ持つ心血管リスクに加え、より直接的機序として、ごくわずかの心機能低下による脳血流の長期にわたる減少により、脳萎縮が進行する可能性がある。 

2010年10月8日金曜日

心外膜脂肪と心房細動

心外膜脂肪量が、発作性・持続性心房細動のリスク因子であり、心房細動の発症と強く関連していることが、米国Loyola大学メディカルセンターの研究で明らかにされた。心外膜脂肪は炎症性の性質を有する内臓脂肪組織である。炎症と肥満が心房細動に関連することは明らかになっているが、心外膜脂肪と心房細動との関連については明らかになっていなかった。
研究では、患者273例について、CTを用いて心外膜脂肪量の測定を行った。被験者の内訳は、心房細動患者197例(発作性126例、持続性71例)と、洞調律76例(対照群)だった。
研究の結果、心外膜脂肪量は、心房細動群101.6±44.1mLで、対照群の76.1±36.3mLに比べ、有意に多かった。
発作性心房細動群の心外膜脂肪量は93.9±39.1mLで、対照群の76.1±36.3mLに比べ、有意に多かった。
持続性心房細動群の心外膜脂肪量は115.4±49.3mLで、発作性心房細動群の93.9±39.1mLに比べ、有意に多かった。
心外膜脂肪量は、心房細動発症について、年齢、高血圧、性別、左房肥大、心臓弁膜症、左室駆出分画、糖尿病、BMIとは独立したリスク因子だった。
本研究は、心臓周囲の脂肪量が、これまで明らかにされていたリスクや左房負荷とは独立して心房細動のリスクとなることを示した興味深いものである。
また、異所性脂肪が周辺臓器の局所環境を変え、心血管リスクを増強する可能性を示唆している。
これまでに、心臓周囲、特に冠動脈周囲の脂肪が、肥満とは独立して冠動脈疾患のリスクになることが知られている。 心臓周囲の脂肪は内分泌・炎症機能を有し、直接的に心筋や冠動脈に影響を与える可能性が指摘されている。
これまでの疫学研究では、心房細動の新規リスクとして、内臓型肥満や炎症反応が報告されていたが、本研究では局所脂肪量を定量測定し、心房細動のリスクとの関連を明らかにした点に新規性がある。
しかし、どのような局所機序により心臓周囲の脂肪が心房細動のリスクとなるかは不明である。 
左房負荷の指標である左房系と独立して心房細動心臓周囲の脂肪量は左房径の拡大と正相関を示していることから、脂肪細胞のから直接的炎症性サイトカインの分泌が左房リモデリングを進行させている可能性があるが、今後、自律神経を含めた機序の検討が待たれる。

2010年10月7日木曜日

緑色葉菜

過去の研究を分析した結果、緑色葉菜の摂取が有意に2型糖尿病発症リスクを低下させることがわかった。世界人口の6.4%が2型糖尿病と推定され、米国でも国民の過体重が増えるにつれ2型糖尿病率が上昇している。研究者らは疾患発症に果たす食生活の役割を理解しようと努めている。
今回、英レスター大学の研究グループは、食生活と2型糖尿病罹患率についての6件の研究を検討した。その結果、緑色葉菜の摂取量が最も少なかった人(1日0.2サービング)に比べ、最も多かった人(1日1.35サービング)では、2型糖尿病発症リスクが14%低かった。毎日の緑色葉菜摂取の増加は2型糖尿病リスクを有意に低下させるようだ。
この結果は、食生活の因子が2型糖尿病リスクの減少にどれだけ大切かということを単に再認識させるもので、この点については、いかなる薬物療法よりもはるかに多くのエビデンス(科学的証拠)があるようだ。
緑色葉菜は、糖尿病だけでなくすべて慢性疾患のリスクを軽減する食生活成分の1つである可能性をもつが、緑色葉菜だけに依存するようにという教訓ではないということを忘れてはいけない。

糖尿病とアルツハイマー病

糖尿病あるいはインスリン抵抗性のある患者では、アルツハイマー病につながる脳神経変性プラークの発生リスクが上昇することが、日本の久山町(福岡県)研究で明らかになった。
報告によると、空腹時インスリン値が最も高い群では、最も低い群に比べ、脳神経間でのプラーク沈着の発生リスクが6倍高かったという。
久山町研究は、1961年に始まった世界有数の疫学調査で、40歳以上の全住民が参加している。80%で剖検が行われていることが大きな特徴で、生活習慣と疾患の影響やゲノム疫学など多くの分析が行われている。
九州大学神経病理学が行った今回の分析では、1988年の健康診断でブドウ糖負荷後2時間血糖値測定、空腹時血糖値およびインスリン値測定、インスリン抵抗性の評価が行われた住民の中で、1998-2003年に剖検が行われた135体について、アルツハイマー病の病理分析を行った。アルツハイマー病による脳組織破壊は、神経変性プラーク沈着、および神経原線維のもつれ(tangle)の有無で評価した。
得られたデータを年齢、性別、血圧、コレステロール、ボディ・マス・インデックス(BMI)、喫煙、運動、脳血管疾患の有無で調整したところ、食後2時間での高血糖および空腹時インスリン高値、インスリン抵抗性の上昇が神経変性プラークの発生のリスク増大に関連していることが判明した。神経原線維のもつれの発生と糖尿病の危険因子との間には関連は認められず、空腹時血糖値と神経変性プラークのリスク増大との関連もみられなかった。
空腹時インスリン値を低値群、中間群、高値群の3群に分けて、神経変性プラークプの発生リスクとの関連をみたところ、中間群では低値群の2倍、高値群では3倍、プラークの発生リスクが増大しており、直線的な関連が認められた。インスリン抵抗性についても、高値群では低値群の5倍、神経変性プラークの発生率が高かった。アルツハイマー病の病理的リスクは、糖尿病の関連因子との直線的な関係で増大すると言える。また別の分析で、アルツハイマー病に関わる遺伝子ApoE4と高血糖、インスリン抵抗性、空腹時インスリン値、神経変性プラークプの発生との間に最も強い関連が認められたという。
今回の結果から、現段階でアルツハイマー病の予防法については明らかになっていることはないが、2型糖尿病については予防したほうが良い理由は多数ある。2型糖尿病の大半は日常的な運動と食事で予防できるものだ。それがまた、アルツハイマー病のリスクを管理することにもつながると言える。

2010年10月5日火曜日

睡眠と寿命

十分な睡眠を取らないと、寿命が縮む可能性があるという。新しい研究で、不眠症や睡眠時間の短い男性は14年の間に死亡する確率の高いことがわかった。
不眠症は非常に重い有害作用を有する可能性がある治療の必要な疾患であり、最善の治療選択のためにもっと力を注ぐ必要があると言われている。女性にも同様の影響がみられる可能性もあるが、今回の研究では追跡期間が10年と短く、死亡率に有意差を認めることはできなかったという。
以前の研究でも睡眠の寿命に対する影響が検討されているが、今回の研究は自分がどのくらい眠っているかという被験者自身の感じ方(間違っている可能性もある)と、実際の検査室での睡眠量をともに考慮している点がユニークである。
研究では、ペンシルベニア州中心部から1,700人強の被験者を集め、男性(平均年齢50歳)を14年間、女性(平均年齢47歳)を10年間追跡。被験者は質問に回答するとともに、睡眠検査室で1泊の検査を受けた。
研究期間中、男性の5人に1人、女性の5%が死亡。この男女差は、男性よりも女性の寿命が長いことと、女性の追跡期間が短かったことによるものと思われる。睡眠時無呼吸の罹病率などの因子による誤差のないよう統計結果を調整してもなお、不眠を訴え、検査室でも睡眠が6時間未満であった男性は、「安眠型」の人に比べて14年間に死亡する確率が高かった。安眠型の男性で研究期間中に死亡したのは約9%であったのに対し、不眠の男性は51%が死亡。全体では、女性の8%、男性の4%が不眠症を訴え、検査室でも十分な睡眠を取ることができなかった。
睡眠障害が動脈血栓や免疫系の乱れに寄与するといういくつかのエビデンス(科学的根拠)があるという。今回の研究は、睡眠不足が直接的に男性の早期死亡の原因となることを明確に立証したわけではなく、他の因子が関与している可能性もある。女性の場合は寿命が長いため、さらに長期的な研究を実施する必要があるようだ。

2010年10月4日月曜日

骨粗鬆症治療薬

ボナロンやフォサマック、アクトネルやベネットなどの骨粗鬆症治療薬を使用すると、食道がんリスクが増大する可能性のあることが、英国の研究グループにより報告された。研究を率いた英オックスフォード大学は、現在のところ、これらの薬剤の長期使用に関するリスクとベネフィット(便益)の全体像はつかめておらず、今回の結果は、そのほんの一部にすぎないと述べている。
食道癌は稀な癌であり、たとえリスクが2倍になったとしても1人当たりのリスクが低いことに変わりはない。また、この結果が真に薬剤の影響を反映するものであるとは限らない。よってこの報告がすぐに臨床現場に直接影響を及ぼすものではない。
今回の研究では、英国一般診療研究データベース(GPRD)を用いて、1995~2005年に診断を受けた食道癌患者約3,000人、胃癌患者2,000人強、大腸癌患者1万人強のデータを収集し、年齢および性別をマッチさせた上記疾患のない人と比較。その結果、上記薬剤を10回以上処方された人または5年以上処方を受けている人は、同薬を服用していない人に比べ食道癌リスクが2倍(1,000人あたり2人の割合)であったほか、胃癌および大腸癌のリスク増大もみられたという。
同じデータベースを用いたつい最近報告された別の研究では、これらの薬剤による食道癌の増加は認められなかったが、今回の新しい研究では、追跡期間が2倍長く、統計学的パワー(検出力)が得られたという。
米国食品医薬品局によると、これらの薬剤の使用により、食道内膜のただれや炎症、食道の狭窄および穿孔、食道癌などのいくつかの有害作用が報告されているという。食道癌の発症率は低いものの、同薬が慢性疾患に広く利用されていることから、この結果が裏付けられれば多数の患者に影響があるだろうと述べ、医師および患者への注意を促している。

2010年10月2日土曜日

減量薬のリスク

欧米で広く使用されている減量薬メリディア(日本では2009年承認申請却下)と、致死的でない心臓発作および脳卒中リスクとの関連が新しい研究で示された。ただし、同薬の使用により死亡率が増大することはないようだ。
リスクが高いのは心疾患または脳卒中の既往のある人、つまり初めから同薬を使用すべきでない人である。2010年1月以降、同薬には心疾患のある人は使用しないようにという警告が表示されている。
今回の研究では、2型糖尿病または心疾患のある過体重または肥満の高齢成人約1万1,000人を、メリディア群またはプラセボ(偽薬)群に無作為に割り付け、約3.4年間追跡。Meメリディア群では11.4%に心臓発作、脳卒中または心臓障害による死亡がみられたのに対して、対照群では10%とリスクは16%増加していた。また、メリディア群では非致死的心臓発作および脳卒中のリスクがそれぞれ28%、36%高いこともわかった。
減量するのは、肥満による心臓発作や脳卒中のリスクを下げるのが目的。減量薬によってそのリスクが高まるのであれば本末転倒である。従来の食事や運動による減量が有用であり、薬剤の必要性は疑問視される。

2010年10月1日金曜日

認知症

読書やクロスワードパズルなどの脳を刺激する活動について、アルツハイマー病発症後の観点に立つと賛否両論であることが新しい研究でわかった。今回の研究では、このような頭の体操を好んで行う人は加齢による思考力や記憶力の低下が緩やかであった一方、いったん認知症の徴候が現れると、急速な知能の低下がみられたという。
これまでの研究では、認知力を鍛える活動が高齢者の認知症の発症を防ぐのに有用であるといわれていた。このことについて検討すべく、米ラッシュ大学メディカルセンター(シカゴ)は、約1,200人の高齢者を12年近く追跡。各被験者が行っている脳を刺激する活動については5段階の「認知活動」尺度を用いて評価した。登録時には全被験者とも認知症は認められず、研究終了時は614人が認知力正常、395人に軽度認知障害、148人にアルツハイマー病が認められた。
この研究の結果、健常人が認知活動(ラジオを聴く、テレビを見る、本を読む、ゲームをする、美術館に行くなど)を多く行うことによって、数年間にわたり認知力低下のみられる比率が減少することが判明。認知活動尺度が1ポイント上がると、6年間の知能低下率が52%減少した。しかし、認知症を発症した人の場合は逆の結果がみられた。知能を刺激する活動を好む人は、疾患が現れた後に急速な知能低下がみられ、認知活動尺度が1ポイント上がるごとに低下率が42%加速されたと、研究グループは報告している。
この相違は、認知症患者の脳にみられるプラーク(老人斑)および神経原線維のもつれ(tangle)と呼ばれる神経変性病変の蓄積によって説明できるらしい。これまでの研究で、脳を刺激してもこのような病変の蓄積を防ぐことはできないが、病変があっても正常な認知力をいくらか長く保てることがわかっている。このため、初めて認知症と診断された時点では、知的な活動を続けてきた人ほど、実際はプラークや神経原線維のもつれが多く重症であり、その時点から急速に認知力が低下するのだそうだ。

2010年9月30日木曜日

コレステロール

日本脂質栄養学会が、「コレステロール値は高めの方が長生きで良い」とする指針をまとめた。
これまでの常識を覆す内容だが、コレステロールは下げなくてもいいのか?
コレステロールには、LDLとHDLがある。全身の組織に運ばれるコレステロールがLDL、全身から回収される余分なコレステロールがHDLで、それぞれ「悪玉」「善玉」と呼ばれる。
生活習慣病の専門家が集まる日本動脈硬化学会は、LDLが高すぎると心臓病の要因になるため、食生活の改善や薬の服用により下げるべきだとしている。
同学会は2007年、高脂血症(脂質異常症)と診断されるコレステロールの基準値を、男女ともLDL140(ミリ・グラム/デシ・リットル)以上、またはHDL40(同)未満と定めた。
これまでの国内外の研究から、LDLが高くなるにつれて動脈硬化が進み、心臓病の発症率が上がることが分かっている。心臓病を起こしやすくなるLDL140以上を妥当と判断した。
だが、日本脂質栄養学会の指針をまとめた富山大学和漢医薬学総合研究所は「心臓病だけでなく、がんや肺炎などすべての死亡原因を含めると、現在の基準値の140より高い方が死亡者が少ない」と反論する。指針では新たな基準値を示していないが、その根拠となる研究報告を複数紹介した。
神奈川県伊勢原市の男女約2万6000人を8年間追跡した研究では、男性はLDL100~160で死亡率が低く、100未満で上昇した。女性はLDLによる影響は少なかったが、120未満で死亡率が上昇した。また、全国の脳卒中患者1万6850人を調べた別の調査では、高脂血症の人の方が脳卒中による死亡率が低く、症状も軽かった。
コレステロールは細胞の膜やホルモンを作る大事な成分。食事や薬でむやみに数値を下げるのはよくないとの意見もある。
LDLの数値には、男女差もある。女性は閉経するとコレステロールが急激に上がるが、動脈硬化の進行や心臓病の発症には影響しない。少なくとも女性にコレステロールの基準値は必要ないとの意見もある。
今回の指針をきっかけに、男女の差や個人の病気のリスクに合わせた治療が必要になるかもしれない。

2010年9月29日水曜日

たばこの誤嚥

子どもが、たばこを食べてしまったら。そんなとき、どうすればいいのか。まずは、落ち着こう。たばこ1本に、乳幼児の致死量に近いニコチンが含まれてはいるが、そのニコチンが、すぐに全部吸収される訳ではない。いくつか、医学的な理由がある。
1) ニコチンは吐き気を催す作用があるため、多くの場合、胃に入ったたばこは、割とすぐ吐き戻される
2) ニコチンは塩基性なので、酸が多い胃の中では葉からニコチンが溶け出しにくいなど。
つまり、たばこを食べてしまった場合でも、胃の中にとどまっている間はそれほど怖くない。胃から腸に移動してしまうと、ニコチンの吸収がとても速まる。腸の中は酸がないため、急速にニコチンの吸収が進むからだ。
食べてしまってから、30分ぐらいは様子を見て、具合が悪くなさそうならそのまま様子を観察し、4時間以上すぎても顔色が悪い、興奮している、息が苦しそうなどの症状がないなら、まず問題はない。念のため、翌日にでもかかりつけ医に相談するといいだろう。もちろん、異常な症状がでたら、すぐに病院へ行こう。
この、様子を見る間に、絶対にしてはいけないことがある。
「水や牛乳は飲ませない!」
吐かせようとして水などを飲ませると、たばこが比較的安全な胃から、危険な腸に押し流されてしまう。動物実験でも、たばこを食べた後に水を飲むと、血中のニコチン濃度が急上昇することが確かめられている。

さらにさらに危険なのは、水に溶けたニコチン。吸い殻をジュースの空き缶に入れる喫煙者がいるが、幼い子どものいる家庭では、決してしてはいけない。吸い殻に含まれるニコチンは、30分も水につけるとほぼ全量、溶け出る。水に溶けたニコチンは、葉を食べるよりずっと吸収が速い。
子どもがジュースと思いこんで、ニコチン汁を「ぐいっ」と飲み干してしまう。こんな事故はまれではない。ニコチン汁を誤って飲んでしまったら、すぐに救急車を。大量のニコチンは、呼吸を止めてしまう。適切な人工呼吸が、命を救う決め手となる。

2010年9月28日火曜日

人間ドック

2009年に人間ドックを受診した人のうち「異常あり」という結果が出た人は90・5%と、前年に引き続き過去最高を更新したことが日本人間ドック学会の調査でわかった。
約301万人を対象に調査。異常があった人の割合が高かった項目は、高コレステロール(26・5%)、肥満(26・3%)、肝機能異常(25・8%)の順だった。人間ドックで見つかったがんの内訳をみると、胃がん(28・1%)、大腸がん(17・6%)、肺がん(7・9%)と続いた。

2010年9月27日月曜日

服薬指導

脳卒中患者の多くが薬剤の服用を途中で止めていることが新しい研究で判明した。
今回の報告では、脳卒中患者の25%が、脳卒中を起こしてから3カ月以内に1種類以上の予防的薬剤の服用を中止していることが判明。このことから、医療従事者は患者や介護者の服薬指導にもっと時間をかける必要がわかった。
研究では、脳卒中または一過性脳虚血発作で米国の106カ所の病院を受診した患者2,598人のデータを収集。75.5%は処方薬をすべて継続していたが、脳卒中から3カ月後の時点で、患者の20%は薬剤の少なくとも半分しか服用しておらず、3.5%は全く服用していないことがわかった。
服用を継続していた患者の理由としては、ほかにも重篤な疾患がある、適切な保険に加入している、薬剤の数が少ない、服用理由を理解しているなど、さまざまであった。長期的な服薬コンプライアンス(遵守)は以前から問題になっているといい、患者の教育や脳卒中患者向けの追跡プログラムの必要性を専門家は指摘している。

2010年9月26日日曜日

大脳白質病変

MRIで発見される大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクと有意な相関を示すため、その予測因子となり得ることが、イギリスSt George’s University of London臨床神経科学部の研究でわかった。
研究グループは、1966~2009年11月23日までのデータベースを検索し、MRIを用いて大脳白質の高信号域が脳卒中、認知機能低下、認知症、死亡に及ぼす影響を評価した研究や、大脳白質の高信号域をカテゴリー別に分けてこれらの疾患のリスクを予測した試験を抽出した。
46の研究が抽出され、そのうち大脳白質の高信号域と脳卒中のリスクを評価したものが12試験、認知機能低下のリスクを検討したのは19試験、認知症は17試験であり、死亡については10試験が検討を行っていた。これらの試験の内、解析は22の試験(脳卒中9試験、認知症9試験、死亡8試験)ついて実施した。
脳卒中のリスクについては、9試験の解析で、大脳白質病変の存在は脳卒中の発症リスクを3.5倍に高めていた。
認知症のリスクについては、9試験の解析で、大脳白質病変の存在は認知症の発症リスクを1.9倍に高めていた。
死亡率との関連については、8試験の解析で、大脳白質病変により死亡のリスクが2.0倍に増大していた。
大脳白質病変は、脳卒中、認知症、死亡のリスクの予測因子である。すなわち、診断中に発見されたMRI上の大脳白質病変は脳卒中のリスクの増大を示している。この研究結果が、脳卒中や認知症のリスク因子の詳細なスクリーニングに道を開くことになるかもしれない。

2010年9月25日土曜日

カルシウム・サプリメント

サプリメントとしてのカルシウムの使用により、心筋梗塞のリスクが有意に増大することが、ニュージーランド・オークランド大学の研究でわかった。カルシウムは高齢者の骨格系の健康維持を目的としたサプリメントとして一般的に用いられている。ところが、カルシウム・サプリメントは心筋梗塞や心血管イベントのリスクを増大させる可能性があることが示唆された。
研究グループは、カルシウム・サプリメントと心血管イベントのリスク増大の関連の評価を目的に解析を行った。
1966年~2010年3月までのデータを用いて、100例以上、平均年齢40歳以上、試験期間1年以上のカルシウム・サプリメント(≧500mg/日)に関する試験を抽出した。
解析の結果、心筋梗塞の発症はカルシウム・サプリメント群が143例と、プラセボ群の111例に比べリスクが有意に31%増加していた。
また、別の試験解析でも、心筋梗塞を発症した296例のうち、166例がカルシウム・サプリメント群で、プラセボ群は130例であり、リスクはサプリメント群で有意に27%増加していた。
これらの研究により、カルシウム・サプリメントは心筋梗塞のリスクを有意に増大させることが明らかとなった。この大きいとは言えない心筋梗塞のリスク増大も、カルシウム・サプリメントの使用の拡大に伴って、膨大な疾病負担をもたらす可能性がある。骨粗鬆症の治療におけるカルシウム・サプリメントの役割の再評価が急務であろう。

2010年9月24日金曜日

喫煙と結腸直腸がん

コネティカット大学保健センター総合がんセンターの研究で、喫煙は結腸直腸の扁平腺腫(前がん性ポリープ)と強く関連しており、それが喫煙者における結腸直腸がんの早期発症につながっている可能性があることがわかった。一般に扁平腺腫は、結腸直腸がんの検診時に発見される典型的な隆起性のポリープよりも発見しにくく、病理学的に悪性度が高い。
結腸直腸ポリープは、結腸または直腸の内壁に形成される腫瘍である。大半の結腸直腸がんは、腺腫と呼ばれる結腸直腸の腫瘍性ポリープから移行すると推測されている。扁平な非隆起性の腺腫は、隆起性の腺腫よりも悪性度が高いと考えられる。このため結腸直腸ポリープの切除は結腸直腸がんの予防に重要で、推奨されている。複数の研究から、ポリープ切除は結腸直腸がん発症の減少につながることが示されている。
扁平病変の半数超は、高解像度結腸内視鏡で発見されるが、その危険因子はほとんど解明されていない。いくつかのスクリーニング研究から、喫煙は結腸直腸がんの重要な危険因子であることが示されている。今回の研究の目的は、結腸内視鏡によるスクリーニングを受けた平均的リスク集団において、喫煙が扁平腺腫の危険因子であるか否かを調べることであった。
結腸内視鏡検査は、ポリープががん化する前に発見し切除できるため、結腸直腸がんの主要なスクリーニング法として推奨されている。現在、驚くほど高解像度の新世代内視鏡が開発されている。高解像度化により結腸が鮮明に描出され、より多くの情報が得られる。つまり解像度が高ければ、内視鏡医が小ポリープ、早期がん、扁平病変を発見する精度が高まる。
今回の研究は、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校医療センターで、結腸内視鏡による結腸直腸がんスクリーニング検査を受けた患者を対象とした研究。
人口統計学的データ、既知の結腸直腸がんの危険因子、投薬情報、結腸直腸がんの家族歴と食事、運動、飲酒、糖尿病、胆嚢切除術の既往が記録された。
患者は、現在または過去の喫煙、1日当たりの本数、喫煙年数、禁煙年数、過去の喫煙パターンの変化について質問を受けた。これらの数値を用いて、喫煙曝露を算出。患者600例(平均年齢56歳,男性252例,女性348例)を、(1)非喫煙者群(313例)(2)多量喫煙者群(115例)(3)少量喫煙者群(172例)―に分類した。
全患者に結腸内視鏡検査が施行され、組1人の内視鏡医が、高解像度の広角結腸内視鏡を使用してすべての検査を行った。全ポリープが写真で記録され、組織学および形態学的分類(扁平または隆起性)のために採取された。サンプルからランダムに選ばれた腺腫について、2人の経験豊富な内視鏡医が形態の決定に当たった。
全部で428個のサンプル(非喫煙者群313個,多量喫煙者群115個)が分析され、127例の患者にさまざまなサイズの扁平腺腫が1個以上認められた。扁平腺腫と関連していたのは、(1)多量の喫煙(2)年齢(3)男性―であった。さらに進行扁平腺腫と関連していたのは、(1)多量の喫煙(2)BMI(3)男性(4)赤身肉の消費―であった。多変量解析を行ったところ、結腸直腸の進行性扁平腫瘍の形成を唯一予測したのは多量の喫煙であった。
この知見から、喫煙は結腸直腸の扁平腺腫の重要な危険因子であることが示唆された。喫煙はあらゆる扁平腺腫と関連しているだけでなく、直径6mm超の扁平腺腫のみを有する患者の危険因子でもあった。これらの患者には、隆起性の腺腫は存在しなかった。このことは、喫煙者では非喫煙者よりも若年で、しかも進行した結腸直腸がんが多く発見されることの理由を説明している。
このような腺腫を発見するには、特殊な高解像度結腸内視鏡が必要となるため、今回の知見は重要。大半の腺腫は結腸の右側に発見されたことから、喫煙者の場合には、色素内視鏡などの高度な撮像装置を用いて、右側に注意することが発見に役立つと見られる。色素内視鏡は内視鏡技術の1種で、内視鏡検査時に大腸内壁に特殊な色素液または染色液をスプレーし、色覚をより向上させたものである。
さらに、今回のデータは、医師が喫煙者に対して、そのリスクや結腸直腸がんスクリーニングについてカウンセリングを行ううえでも役立つだろう。

2010年9月23日木曜日

コーヒーでがん予防

ユタ大学の研究で、コーヒーの飲用が頭頸部がんの予防につながる可能性があることがわかった。
がんリスクに対するコーヒーの効果については、一貫したデータが得られていないが、今回、ユタ大学が集めた9件の研究結果を分析した結果、コーヒーを1日4杯以上飲む人(常飲者)は、コーヒーを飲まない人に比べ、口腔がんと咽頭がんリスクが39%低いことが明らかになった。
一般に、コーヒーを飲む人は多い。また、頭頸部がんは発生率が比較的高く生存率が低いため、今回の研究結果は公衆衛生上大きな意義を持つ。
昨年12月、ハーバード大学の研究では、コーヒーの消費と致死的な進行性前立腺がんリスクが逆相関することがわかった。コーヒー消費量が最も多い男性では全く飲まない男性と比べ、進行性前立腺がんリスクが60%低かった。
また、インペリアルカレッジの別の研究では、コーヒーと神経膠腫(脳腫瘍)リスクの低下が相関することがわかった。この研究報告では、1日に5杯以上のコーヒーまたは紅茶を飲む人でがんリスクが低下した。
今回の研究では、リスク低下は口腔がんや咽頭がんに関して示されたが喉頭がんでは示されていない。このことは、コーヒーの効果には特異性があることを示唆している。今後、頭頸部がんとコーヒーの関連についてさらに研究を重ねる必要があるだろう。

2010年9月22日水曜日

魚好きな子

魚をよく食べる子供や、朝食をしっかり食べる子供ほど抑うつ的な気分になりにくいことが、長崎大病院精神科神経科の調査で分かった。
調査は、長崎県の長崎市、五島市、西海市の小学4年生~中学3年生約5000人を対象に4年前から実施。生活習慣とこころの状態をアンケート形式で尋ね、詳しい分析を進めている。
抑うつ気分は、子供自身が現在の心身の状態を3段階で評価した。元気がない、意欲がわかないなどの気分の落ち込みや、眠れない、泣きたい気分があるなど、身体的症状があるかどうかを尋ねた。
その結果、魚を食べるのが好きな子供(3246人)では、抑うつ傾向がある子供は約7%にとどまったが、嫌いな子供(1123人)では、抑うつ傾向が約12%に見られた。
野菜の好き嫌いでも同様の比較をしたが、好きな子供の抑うつ傾向は約8%、嫌いな子供は約10%で、魚の効果がより顕著だった。
青魚の魚油に多く含まれるEPAやDHAなどオメガ3系多価不飽和脂肪酸は、近年、うつ病などの気分障害に効くという研究が国際的に多く発表され、注目を集めている。うつ病の患者の血液を調べると、これらの脂肪酸の濃度が低下していたという報告もある。
今回の大規模調査でも、魚油に気分を安定させる高い効果があることが分かった。魚油は安全で副作用の心配がないため、子供や妊婦の気分障害の治療や予防に活用できるかもしれない。
しかし近年、日本では国民1人あたりの魚の摂取量は減少を続けている。特に若い世代の魚離れが顕著で、20歳未満では過去10年で20%以上も減少している。
調査では、他にも生活習慣と抑うつの関係を比較した。抑うつ傾向がある割合は全体平均で約9%だったが、朝食を週3日未満しか食べない群(86人)では約22%、インターネットを毎日2時間以上する群(82人)では約17%、携帯電話で毎日2時間以上メールをする群(156人)では約14%と、抑うつ傾向の割合が高かった。

2010年9月21日火曜日

エチゼンクラゲ

エチゼンクラゲと、越前ガニの殻から取り出される物質に放射線の一種である電子線をあてて、新しい医療・美容用素材を合成する技術の開発に、関西電子ビーム、日華化学など4社と、県立大海洋生物資源学部のグループが着手した。
たびたび漁業被害をもたらす“海の厄介者”と、福井を代表する味覚ながら食べた後は捨てるしかないごみを、有効利用するのが目的。早ければ2011年度末までに実用化のめどをつけたいとしている。
利用をはかるのは、クラゲのたんぱく質の大半を占めるコラーゲンと、カニやエビの殻を構成するキチンから作られるキトサン。
コラーゲンは保湿効果が高く、化粧品や健康食品など幅広い分野で商品化されている。キトサンも、安定した分子構造や抗菌効果といった特徴から、手術用縫合糸、衣料用繊維、健康食品などに使われている。
グループが手掛ける新素材は、コラーゲンとキトサンの特性を併せ持ったゼリー状物質「ハイドロゲル材」。やけどやけがの患部にはり付けて早期回復を促す「創傷被覆材」、肌の栄養補給やニキビ予防といった効果を狙う「美容マスク」などへの応用をはかる。
クラゲからコラーゲンを抽出する技術は、県立大などが既に開発。グループはこれらの技術を応用し、コラーゲンとキトサンを寒天状の化合物に混ぜた後、専用施設で電子線ビームを照射して固め、ハイドロゲル材を生成する研究を行う。
電子線を利用すると、加熱しなくても化学反応を早く進めることができ、減菌作用もあるという。

2010年9月20日月曜日

食べるワクチン

アルツハイマー病の原因とされるたんぱく質を含むピーマンを食べると、この病気の予防につながる効果があることが、東京大学のマウスの実験でわかった。「食べるワクチン」として臨床応用が期待されている。
アルツハイマー病の患者の脳には、アミロイド・ベータというたんぱく質が沈着・凝集し、老人斑ができている。これが認知機能の低下などを起こすと考えられている。

免疫の働きを利用し、素早く大量の抗体を作り出してこのたんぱく質を除去させるため、米国でアミロイド・ベータをワクチンとして注射する臨床試験が行われたことがあるが、過剰な免疫反応による副作用が問題となり、中止になった。
東京大学では、注射でなく食べて腸から吸収すると、副作用が起こりにくいことに着目。アミロイド・ベータの遺伝子を組み込んだピーマンを作り、その青葉を青汁にして、アルツハイマー病を発症するように遺伝子を操作したマウスに与えた。何も与えなかったマウスは発症して1年ほどで死んだが、青汁を与えたマウスは16か月以上生存、脳に老人斑は見られなかった。副作用も少なかったという。

子宮頸がんワクチン

若い女性に増えている子宮頸がんの本格対策として、政府が、予防ワクチンの接種費用を、来年度から公費で助成する方針を打ち出した。
子宮頸がんは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスの感染が原因で起きる。
HPVは主に性交渉を通じて感染するが、10歳代前半でHPVワクチンを接種すれば、6-7割の感染を防ぐことができる。
子宮頸がんを予防する効果は極めて大きいと期待され、世界で接種が拡大している。日本でも昨年10月、このワクチンの安全性と有効性が政府に承認された。
公費助成により、HPVワクチン接種が国内でも広く普及するだろう。厚生労働省は今後、助成額や対象年齢などを詰め、来年度予算案に盛り込むという。
現在、HPVワクチンは任意の接種。期間を置いて計3回繰り返す接種の費用約5万円は、原則全額を自己負担する。はしか、ポリオのワクチンのように、定期接種の対象にはなっていない。
厚労省の6月末の集計では国内114自治体が、負担軽減のため公費助成している。ただ、全自治体の1割足らずだ。助成額も半額以下という所が少なくない。医学関連学会、患者団体などから、国の助成を求める声が出ていた。
子宮頸がんは国内で年に約1万5000人が発症すると推計され約3500人が死亡している。特に近年は、20-30歳代に患者が急増している。
10代前半の特定の年齢全員に接種費用を助成すると、年に約200億円の予算がかかるとの試算もある。だが、ワクチン接種で多くの女性の命が救われることを考えると、多額ではない。
ただ、どんなワクチンにも、わずかながら副作用がある。HPVワクチンの重い副作用はほとんど報告されていないが、他のワクチンと同じく、副作用への迅速な対応と、補償制度の充実策も十分詰めておくことが欠かせない。
がん検診の重要性も忘れてはならない。ワクチン接種の主な対象となるのは、10代の女性にとどまる。しかもワクチンは、がんを100%防げるわけではない。
子宮頸がんの検診を受ける人はまだ2割程度という。多くの女性が定期的に検診を受け、異変があれば、早期に適切な措置を受けられるような体制が必要。
検診費用の公的助成も一部に限られる。これも国の助成の強化を検討すべきだろう。

2010年9月18日土曜日

はしか

はしか(麻疹(ましん))の予防接種率が伸び悩んでいる。国は接種率95%以上で人口100万人当たりの感染者が1人未満になる「排除」の状態を目指している。だが、09年度の接種率は1歳の定期接種では93・6%と目標に近いものの、13歳と18歳を対象にした追加接種では、それぞれ85・9%、77・0%にとどまった。幼少期のはしか感染には、難病発症の可能性があり、はしかの早期根絶には接種率の向上が鍵を握っている。
はしかウイルスが原因で発病する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という難病がある。SSPEは特に学童期に発症することがある中枢神経疾患。一度感染したはしかウイルスが脳に潜伏後、SSPEウイルスに変異して数年後に発病。原因は不明で治療法はなく、ゆっくりと神経症状が進んで意識がなくなり、やがて死に至る。発生頻度は、はしか患者10万人に1人とされる。
国立感染症研究所によると、はしか患者は高校や大学で流行した07年に子どもだけで計3133人、08年は成人も含めて計1万1012人に上った。今年の患者数も8月4日現在計326人で、人口100万人当たり約2・7人と流行が続いている。
はしかは接触や飛沫、空気のいずれでも感染する。はしかウイルスの直径は100-250ナノメートル(ナノは10億分の1)で、飛沫核の状態で空中を飛び、それを吸い込むことで感染するため、マスクでの予防は難しい。唯一の予防方法は、ワクチン接種ではしかに対する免疫をつけておくことだ。
予防接種をしない人が増えると感染が広がる。はしかワクチンは通常、1回接種すれば95%以上の人に免疫ができる。毎年、95%程度の接種率を保てば、患者発生はほぼゼロに抑えられるという。また、はしか患者が20万-30万人いれば、そのうち数人がやがてSSPEを発病する。だが患者が1000人を切れば、この病で亡くなる人がいなくなることにつながるという。

 ■12年度までの麻疹ワクチン定期接種対象者 
第1期 1歳以上2歳未満
第2期 小学校入学前年度の1年間にあたる子ども
第3期 中学1年生に相当する年齢
第4期 高校3年生に相当する年齢
 ※第3、4期は08年度から5年間の期限付き措置
 ※定期接種期間中は無料。厚生労働省は2回接種することを勧めている

2010年9月17日金曜日

睡眠時無呼吸

中高年男性の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は心不全発症の予測因子であると、米ボストン大学などのグループが発表した。
同グループは、一般的な地域住民のサンプルとして40歳以上の男性1,927例と女性2,495例を登録。8.7年間追跡し、OSAと心不全および冠動脈性心疾患(CHD)との関係を検討した。
その結果、OSAは男性における有意な心不全の予測因子で、1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数を示す指数(AHI)が30以上の男性はAHI 5未満の男性と比べ、心不全の発症率が約1.6倍高かった。女性では、OSAは心不全の予測因子ではなかった。また、CHDに関してはOSAは70歳以下の男性においてのみ有意な予測因子で、それより高齢の男性および女性では年齢に関係なく、OSAはCHDの予測因子ではなかった。

2010年9月16日木曜日

食事による白内障予防

ウィスコンシン大学は、女性1,808例について調査を行い、ビタミン、ミネラル類を多く含む食物を摂る女性では、白内障発症リスクが低いということがわかった。
加齢とともに罹患率が上昇する白内障は、世界的にも最大の失明の原因となっている。白内障は眼病による視力障害としては、米国で最も一般的な原因である。
今回の研究では被験者の日常の食事と栄養摂取量が検討された。
対象者では核性白内障が多く、454例(29%)が少なくとも片方の眼に水晶体混濁があり、282例(16%)がいずれかの眼の水晶体を摘出したと回答した。全体では736例(41%)が水晶体撮影により核性白内障が明らかになった、あるいは水晶体を摘出したと答えている。
今回の結果から、食事指針に従い健康的な食事をしていた女性では、核性白内障の発病率が低いことがわかり、その関連は本件で調査の対象となった他の危険因子や予防要因よりも強力であることが示唆された。
健康的な食生活、禁煙、肥満の回避といったライフスタイルの改善が、米国人高齢女性における白内障手術を減らし、経済的負担を低減させるかもしれない。

2010年9月15日水曜日

規則正しい生活と安眠

ハイファ大学の研究で、退職を迎えた高齢者の不眠改善と安眠促進には、規則正しい日常生活を送ることが重要だということがわかった。
規則正しい生活とは、テレビ視聴や読書といった日常的な活動の時間や頻度、長さが安定していることである。これは、掃除、体操、社会活動など、毎週の決まった予定についても同様に当てはめることができる。
今回の研究の対象は、ロシア語を話す高齢者96人(58~89歳、平均年齢75歳、女性72%)で、82%は1人住まい、75%は普通または良好な健康状態であった。また睡眠薬の服用は週1回が5%、週1~2回が7%、週3回以上が23%だった。
日常生活における規則性は、熟練した面接調査者が評価し、96人中、89人のデータが最終分析の対象となった。
解析の結果、平均総睡眠時間は6時間、平均睡眠効率は78%、平均睡眠潜時(入眠までにかかる時間)は37.5分であった。日常生活が安定し、規則正しいライフスタイルの高齢者では、睡眠効率が高く、睡眠潜時も短かった。一方、ライフスタイルが不規則な場合には、睡眠の質が低下し、併存症も多い傾向にあった。
また、買物、公共交通機関の利用、医療受診といった動機のある活動よりも、入浴、身支度、食事といった基本的活動のほうが、睡眠の質との関連性が強かった。
今回の研究から、規則正しいライフスタイルが睡眠の質を維持するうえで予防因子となることがわかった。今後の縦断的研究によって、規則正しいライフスタイルと睡眠パターンの質との因果関係が解明されることが望まれる。

2010年9月14日火曜日

運動による脂質代謝促進効果

マサチューセッツ総合病院心臓病学・心血管研究センターの研究で、運動により血中の化学物質がどのように変化するかを測定し、運動によって産生される代謝物について調べた結果、健康状態の良好な人では、不良な人に比べ脂質代謝産物が明らかに増加していることを見出した。
運動により汗をかき、心拍を速めることは、疾患を予防し、ひいては寿命を延長させることが知られている。しかし、運動によってこうした効果が得られる理由については、いまだ解明されていない。
エネルギーを消費するすべての体内活動からは代謝物が生じる。代謝物は、血液検査により測定可能であるが、血液には何百種類もの代謝物が含まれ、これらは個人の健康状態を示す化学的情報になる。
今回の研究では、健康状態の良好な人と不良な人とでは運動後の血中代謝物変化が異なるのか否かを検討すべく、参加者がトレッドミルで身体活動を行う前後と最中に血液を採取し、血液中に含まれる200種類を超える代謝物について測定した。
その結果、運動後の血中では脂質、糖、アミノ酸の代謝物が増加し、インスリン分泌や血糖管理に重要なナイアシンアミドや、酸化ストレスの指標となるアラントインも増加していた。また、健康状態の良好な集団では脂質代謝物が98%増加しているにもかかわらず、不良な集団では60~70%しか増加していないことも明らかになった。また驚くべきことに、ボストンマラソンを完走した健康状態のきわめて良好な集団では、1,128%という顕著な増加が見られた。
以上の結果から、健康状態の良好な人では、健康状態の不良な人と比べてカロリーを効率的に燃焼することができるような生化学的変化が循環血中に認められることが示唆された。

2010年9月13日月曜日

コンタクトレンズこすり洗いの手順

ソフトレンズ
<1>清潔な手でコンタクトレンズを目からはずして保存液ですすぎ、利き手と反対の手のひらの上にレンズを載せ、クリーナーや消毒剤を数滴落とす
<2>利き手の人さし指の腹をレンズにあて、軽く押さえながら手のひらの上でレンズを一定方向にやさしく動かし、表面を20~30回こする(円を描くように動かすと、コンタクトレンズが破損する恐れがある)
<3>ひっくり返して反対側も同じように洗う
<4>最後に保存液か消毒剤でよくすすぐ

ハードレンズ
<1>清潔な手でレンズをはずし、レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ。利き手と反対の手のひらの上に、レンズの内側を上にして載せ、クリーナーを4~5滴落とす
<2>利き手の人さし指の腹をコンタクトレンズの内側にあてて軽く押さえ、手のひらの上でレンズを前後左右に動かしながら泡立てるように約30回こする
<3>利き手の親指、人さし指、中指の3本でコンタクトレンズを挟み、レンズの内側を親指の腹で泡立てるように優しく30回ほどこする
<4>レンズを水道水かすすぎ液ですすぐ

2010年9月12日日曜日

コンタクトレンズ使用上の注意

▽取り扱う前は手指を石けんで洗う
▽こすり洗いをすること
▽レンズの洗浄はレンズの使用前と後に必ず行う
▽レンズケースは毎日しっかり洗い、自然乾燥させる
▽レンズケース内の消毒液は毎日新しいものに交換する
▽ソフトコンタクトレンズのケアに水道水を使用しない(ソフトレンズは水を含むため微生物が付着しやすい)
▽化粧はコンタクトレンズを装着してから行う(化粧品は石けんで落ちにくく、化粧品を扱った手でレンズを扱うと、レンズに汚れが付く)
▽定期検査を受ける

2010年9月11日土曜日

コンタクトレンズ(2)

角膜感染症が増えている背景の一つに、ケア用品の進歩や多様化がある。ソフトレンズはかつては煮沸消毒が中心だったが、近年は洗浄、すすぎ、消毒、保存が1本でできる消毒剤が主流になっている。その為、ケア方法が簡便になることで、誤ったケアをする人が増えている。量販店には専門医がいるとは限らず、説明不足も問題となる。
消毒剤の効果には限界があり、どのレンズでも毎日のこすり洗いが重要。感染の温床になるレンズケースも毎回よく洗って乾かし、3カ月に1度の交換が必要。漬けおきタイプの洗浄液でも、こすり洗いを併用しないと蓄積した汚れや化粧品の汚れは落ちない。
全国調査では、毎日こすり洗いをする人は18%に過ぎず、毎日消毒する人も30%にとどまった。2週間で交換するレンズや1日使い捨てレンズを1カ月以上使っていた人もいた。
ケアの仕方を誤解している人も少なくない。定期検査に来ないと、正しいケア方法を知る機会も減ってしまうため、3カ月に1度の定期検査を心がけたい。また、レンズケアに自信のない人には、1日使い捨てのレンズを薦める。

2010年9月10日金曜日

コンタクトレンズ(1)

コンタクトレンズの使用者は年々増え、国民の1割を超す1500万人以上と言われる。これに伴う目の病気も増加傾向にあり、使用者の7~10%に発生していると推測されている。中でも細菌などによる角膜感染症は、重症化すると視力低下の要因にもなる。こすり洗いなど、毎日の適切なケアが大切。レンズの汚れなどにより角膜の表面に傷ができると、細菌などが入り込みやすくなる。治っても視力に影響を残すことがある。
コンタクトレンズの主流はハードレンズからソフトレンズに移り、利用者は約7割を占める。ハードレンズは目にトラブルがあると痛みを感じるが、ソフトレンズは角膜と密着しているため、まぶたの刺激を和らげ痛みを抑える効果があり、病気に気付きにくい。また、利用者は低年齢化しており、10代や20代のトラブルも増えている。
コンタクトレンズは直接目に触れるため、医師の処方が必要な高度管理医療機器。角膜を覆うため、レンズの汚れや酸素不足で、角膜に傷がつきやすくなる。
コンタクトレンズによる目の病気は、角膜の表面に小さな傷がつく点状表層角膜症、深くまで傷が達する角膜浸潤や角膜潰瘍、上まぶたの裏側(結膜)にブツブツができる巨大乳頭結膜炎などがある。
近年問題になっているのが、細菌やカビなどによる角膜感染症。目の痛みや充血などを起こし、失明する恐れもある。中でも増えているのが、他の細菌を餌にして増殖するアカントアメーバと呼ばれる微生物によるもので、特効薬がなく治りにくいのが特徴。
日本眼感染症学会などがまとめた全国調査の中間報告(07年4月~08年8月)では、コンタクトレンズ使用が原因と考えられる角膜感染症で入院した患者は233人(平均年齢28歳)。水回りなどに存在する細菌・緑膿菌やアカントアメーバが、角膜の病巣部のほか、レンズケースからも多く見つかった。

2010年9月9日木曜日

歯磨きの頻度と心疾患

ロンドン大学の研究チームが、スコットランド健康調査に参加した成人1万1,000例のデータを解析した結果、歯磨きを1日2回以上行う人に比べて2回未満の人では心疾患発症リスクが高まることがわかった。
この20年間で心疾患と歯肉疾患の関連性について関心が高まっている。身体の炎症(口腔と歯肉を含む)が血栓の形成に重要な役割を果たすことは確認されているが、今回の研究は、歯磨きの回数が心疾患の発症リスクに関係するか否かを調べた初の試みである。
今回の研究では、喫煙や身体活動度、口腔衛生習慣などのライフスタイルに関するデータを解析した。歯科の受診頻度(6か月ごとに少なくとも1回、1~2年ごと、めったに行かないか全く行かない)と、歯磨きの頻度(1日2回、1日1回、1日1回未満)を被験者に質問した。
また看護師が、同意を得た被験者から心疾患の既往歴と家族歴、血圧に関する情報を収集し採血を行った。採血の目的は、身体の炎症の程度を明らかにすることであった。インタビューで得たデータを2007年12月までのスコットランドにおける入院と死亡のデータと関連付けた。
その結果、歯科受診の頻度が6か月に1回と回答した群の62%と歯磨きの頻度が1日2回と回答した群の71%は、口腔衛生習慣がおおむね良好であった。
社会階級や肥満、喫煙歴、心疾患の家族歴などの確立された心疾患危険因子でデータを調整したところ、歯磨きの頻度が低い被験者では1日2回の被験者に比べて心疾患発症リスクが70%高かった。口腔衛生状態が不良な被験者はC反応性蛋白(CRP)やフィブリノーゲンなどの炎症マーカーも陽性であった。
今回の結果から、口腔衛生と心血管疾患発症リスクとの関連性が明らかになった。今後さらなる研究を行い、今回観察された口腔衛生習慣と心血管疾患との関連が、実際の因果関係であるのか、単なるリスクマーカーにすぎないのかを確認する必要があるようだ。

2010年9月8日水曜日

内臓脂肪と脳容積

ボストン大学神経学科の研究で、腹部の脂肪と脳の総容積低下との間に有意な関連性があることがわかった。
中年では、肥満は認知症とアルツハイマー病のリスクを高めているようだが、皮下脂肪と内臓脂肪のほうが体重よりもリスクを反映しているようである。
今回の研究では、700例超を対象に脳MRIと、皮下脂肪および内臓脂肪を定量化するための腹部CT検査を行った。
その結果、腹囲や皮下脂肪組織、内臓脂肪組織が多い程、脳の総容積は低下していた。さらに今回のデータでは、内臓脂肪が脳の総容積と最も強く関連していた。
今回の研究により、肥満と認知症の関連の根底にある機序の理解が進み、新たな予防法につながるかもしれない。

2010年9月7日火曜日

子宮移植

東京大や慶応大などの研究チームが、サルの子宮をいったん体外に出した後、移植し、再び体内で働かせることに成功した。サルで実験を重ね、将来は先天的に子宮がない女性や、がんで子宮摘出した女性も出産できるよう人での子宮移植を目指すという。
研究チームは、今年1~2月、カニクイザル2匹を開腹して子宮を取りだし、約2時間後に元のサルにそれぞれ移植した。1匹は現在も元気で、移植後すでに2回、月経があり、子宮が機能していることが確認できた。もう1匹は移植の翌日、死んだ。
カニクイザルは体重3.5キロと小さいため、子宮周辺の細い血管を結合する手術が難しかったが、最近開発された髪の毛の50分の1~30分の1の細い手術針を使い、血管の結合に成功した。今後、子宮を移植したサルに体外受精させて胎児が育つか検討するほか、他のサルの子宮を移植できるかどうかなども調べるそうだ。
人の子宮移植は、サウジアラビアで2002年に例があるが、血管の結合部に血栓ができ移植した子宮が機能しなくなったという。
今回の研究で、初めて霊長類で成功したことで、人間への応用の可能性がでてきたと言える。

2010年9月6日月曜日

友好的なウイルス

人は、腸管下部にその人独自の友好的なウイルス(friendly viruses)と呼べる集合体を有することが、新しい研究によって示された。
米ワシントン大学医学部ゲノム科学・システム生物学センターは、女性の一卵性双生児とその母親を対象とした研究で、一卵性双生児であっても腸管下部にそれぞれ異なるウイルスの“指紋fingerprint”があることを発見した。また、ウイルスの80%以上はこれまで発見されていなかった新しいものであった。
研究によれば、これらの友好的なウイルスは、自身では消化できない特定の食事の成分の消化を助けるなど多くの便益をもたらす腸内細菌の活動に影響を及ぼすと考えられた。さらに、ウイルスは疾患に立ち向かったり、治療後の回復に関与しており、消化管内の微生物叢の全体的な健康の指標として機能する可能性もあるという。

2010年9月5日日曜日

アルツハイマー病診断基準

1984年に作成されて以来、25年間で初めて改定されることになるアルツハイマー病診断基準の草案が、米ホノルルで開催されたアルツハイマー協会アルツハイマー病国際会議で発表された。
初期段階のアルツハイマー病の同定方法の開発は、この疾患の早期診断には必須であり、新しい治療法につながる可能性がある。
診断基準を改定する理由の1つには、アルツハイマー病は症状が出現する何年も前に始まるという新しい理解であり、疾患の同定が早いほど、その発現を遅らせる可能性が高まるという。アルツハイマー病の同定方法には、遺伝子解析、PETやMRIスキャン、β(ベータ)アミロイド代謝異常、脳脊髄液に認められるタウ蛋白などのバイオマーカーがある。また、アルツハイマー病とレビー小体型など他のタイプの認知症との相違に対する理解も進んでいる。
今回の改定案では、症状が出現する前のアルツハイマー病同定に有用な前臨床段階の疾患、アルツハイマー病の最初の徴候である軽度の認知障害を考慮に入れるとともに、診断に役立つ可能性のある推奨されている特定のバイオマーカーについて検討している。
アルツハイマー病の診断には除外診断法が用いられてきたが、今回の新しい診断基準は、初期のアルツハイマー病に感受性を示すバイオマーカーが実際にあるという事実に基づいたものである。

2010年9月4日土曜日

あせも

暑さが続くこの時期、あせもに悩まされるのは子供だけではない。生活環境の変化で、近頃は大人のあせもも増えているという。あせもは大量の発汗によって汗腺が詰まり、炎症を起こす症状をいう。大人にも増えている背景には、クールビズでオフィスの温度が高めに設定されていることなどがあるとみられる。
今年は特に、かゆみや炎症を抑えるクリームなど、あせもケア商品の売れ行きが好調なようだ。あせもケア用品はほかにも、スプレーやローションなど様々なタイプが出ている。ただ、効果の面では大きく分けて〈1〉主に初期症状向けでかゆみ・炎症を抑える〈2〉粉状の成分(酸化亜鉛)入りで患部を乾かして治す、の二つに分類できる。
あせもができやすい個所は、男性はワイシャツの首まわりやベルトをしている腰、女性は下着やストッキングが当たる部分など。手でかくと症状が悪化する。かゆみ止め成分の入った市販薬を塗り、かかないようにすれば、数日から1週間で治る。予防策としては、通気性の良い服装で、汗をこまめにふき取るのが一番。

2010年9月3日金曜日

妊娠ストレスと喘息リスク

ハーバード大学の研究で、妊娠中のストレスが出生児の喘息リスクを高める可能性があることがわかった。
以前の研究では妊娠中の母親のストレスが胎児の免疫系の発達に影響する可能性が示唆されていた。
今回の研究では、ストレスの多い環境下にいる母親から生まれた乳児と、ストレスの低い母親から生まれた乳児の臍帯血中の免疫機能マーカーが比較検討された。
被験者は、都市部在住の妊婦で、そのうち20%が法定貧困レベルを下回っており、父親ないし妊娠中の母親に喘息またはアレルギーの既往歴があった。家庭(家庭内暴力を含む)、地域(コミュニティーの暴力)での生活におけるさまざまなストレス因子について詳細に質問し、557家族から回答が得られた。
研究では、出産時に採取した臍帯血から免疫細胞を分離して、多数の因子(粉塵、ゴキブリなどアレルギー源、ウイルス性および細菌性刺激物質)で刺激し、さまざまなサイトカインの産生を分析した。これは、環境に対して乳児の免疫がどのように反応するかの指標となる。
その結果、所定の刺激物質に対するサイトカインの放出パターンは、母親のストレスレベル(自己報告)によって異なることが示唆された。
ストレスの高い母親の胎盤で認められたサイトカインの産生パターンにより、出生児の免疫機能が確認できるが、胎児が成長すれば,喘息とアレルギーの発症リスクのマーカーとなるかもしれない。
今回の研究の結果は、母親の心理的ストレスが児の免疫反応プログラミングに関与していることと、この影響が妊娠中から始まっていることを示唆している。
今回検討した乳児が成長すれば、これらの因子が喘息とアレルギー発症にどのように関与しているか確認することができるだろう。

2010年9月2日木曜日

ブロッコリー

米ミシガン大学薬学部製薬科の研究で、ブロッコリーに含まれる化合物が、がん幹細胞を抑制し、乳がんの予防または治療に役立つ可能性があることがわかった。
今回の研究では、乳がんのモデルマウスにブロッコリー抽出物から得られたさまざまな濃度のスルフォラファンを注入し、その後に腫瘍のがん幹細胞数を算定した。その結果、スルフォラファン投与後にがん幹細胞は大幅に減少したが、正常な細胞にはほとんど、または全く影響がなかった。
さらに、スルフォラファンを投与したマウスのがん細胞では、増殖能が低下していた。また、ヒト乳がんの培養細胞にも同様の実験を行った結果、スルフォラファンによって、がん幹細胞が減少することが示された。
今回の研究で使用されたスルフォラファンの濃度は、ブロッコリーまたはブロッコリーの芽を摂取することで得られる濃度よりも高かった。以前の研究から、ヒトはがんに影響を及ぼすうえで必要な濃度のスルフォラファンをブロッコリー抽出物から吸収することが可能だとされているが、副作用についてはわかっていない。ブロッコリー抽出物にはカプセルのサプリメントがあるが、含有濃度はさまざまであるという。
また、ヒトでの臨床試験はまだ行われていないため、現時点では患者の食生活にスルフォラファンのサプリメントを追加することは推奨されていない。
米国がん協会(ACS)によると、米国では2010年の1年間に19万4,280人が乳がんの診断を受け、4万610人が死亡すると予測されている。

2010年9月1日水曜日

熱中症対策

残暑厳しい折、熱中症患者がいまだ少なくない。体温調節機能が弱い高齢者や乳幼児の発症が目立つが、最近は、若い世代でも暑熱適応の低下がみられる。暑い所と空調の効いた涼しい部屋を行き来すると、急激な気温変化に対応するために自律神経が疲れてしまう。その結果、夏バテなどの体調不良を起こし、熱中症にかかりやすくなる。
熱中症は、高温多湿などの環境で、体が暑さに適応できないために起こる障害の総称。めまいや吐き気、だるさやけいれん、意識障害など様々な症状が出る。閉めきった暑い部屋や車中でも発症する可能性がある。
熱中症にかかりやすい、猛暑の時には、無理をせず、外出時間をずらしたり、短縮したりするなどの工夫が大切。また、炎天下の外出時には、自衛策を講じる。日差しを遮る帽子や日傘に加え、最近登場している暑さ対策グッズを活用する手もある。
水を含ませて首に巻き、首を冷やすスカーフが人気。熱中症にかかる危険性をブザーで知らせる「携帯型熱中症計」や体を冷やすスプレーもあり、親子連れからビジネスマンまで幅広い世代に売れているという。
乳幼児の外出に使うベビーカーにも注意が必要。気温35度の日には、路面の照り返しもあって、ベビーカーの座面の温度は39度にもなる。座面を路面から離して高くしたり背板に断熱シートを入れたり、暑さ対策をしたベビーカーもある。
こまめな水分補給や暑さ対策をしても、寝不足や下痢、二日酔いなど体調次第で熱中症は起こりうる。熱中症の症状が疑われる場合には、涼しい場所に避難させ、服を脱がせて体を冷やす。厚生労働省の「職場における熱中症予防対策」によると、まず、意識を確認し、「意識がない」「返事がおかしい」「全身が痛い」などがあれば、救急車をすぐに呼ぶ。意識がはっきりしても、水分を自力で取れないなら、すぐ医療機関へ。飲めるなら、水分と塩分を取らせて、回復しなければ医療機関に搬送する。
「応答が鈍い」「言動がおかしい」など中枢機能の異常は命にかかわる緊急事態。すぐ救急車を呼び、体に水をかけてあおぎ、首やわきの下、脚の付け根に氷などを置いて急いで体温を下げる。おかしいと思ったらすぐ対処することが大切。

2010年8月31日火曜日

うつ病と認知症

高齢者のうつ病が認知症とアルツハイマー病(AD)の発症リスク上昇と関係することを示すデータが、米マサチューセッツ大学などの研究グループにより発表された。
同グループは、うつ病の有無を評価した949例を対象に、うつ病と認知症およびAD発症との関係を検討した。うつ病の有病率は13.2%であった。
17年間の追跡で164例が認知症を発症した(うち136例がAD)。認知症の発症率はうつ病があった群が21.6%、なかった群が16.6%であった。年齢、性、学歴などを補正した結果、うつ病があった群は認知症とADのリスクが50%以上高かった。

2010年8月30日月曜日

腹囲とメタボ(2)

日本のメタボ診断基準が腹囲を必須とするのは、腹部に蓄積する内臓脂肪が心筋梗塞などの循環器疾患を引き起こす主因との考え方に基づいてきたからだ。ところが、日本人の循環器疾患発症の傾向を調べた解析によると、内臓脂肪の蓄積だけではなく、血糖値など一部の血液検査値の悪化や食生活によっても危険性が高まる。このため、腹囲を必須とする現在の特定健診は、やせていて循環器疾患の危険性のある人を見落とす恐れがあると指摘されてきた。
男性は40~50歳代の比較的若い世代で腹部肥満が増えており、現在の健診に意味があるとみられていた。だが、最近の研究成果では、50歳前後の男性も腹部肥満の有無と検査値悪化の明確な関係を見いだせていない。
これらの調査結果は、内臓脂肪の蓄積が循環器疾患の原因の一つにすぎないことを示しており、それ以外の要因についても等しくチェックする健診体制の検討が求められることになりそうだ。

2010年8月29日日曜日

腹囲とメタボ(1)

メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準となる血圧などの検査値の多くは、日本人男性の場合、腹囲に関係なく体重が増えれば悪化する傾向が強いことが、立川メディカルセンター(新潟県長岡市)の調査で分かった。3月には厚生労働省研究班の大規模調査で、女性の腹囲と循環器疾患発症の関連性が低いとの傾向も明らかになり、腹囲を必須とする現在の特定健診のあり方も問われそうだ。
調査の結果、血圧と血糖値は、腹部肥満の有無に関係なく、体重が増加すれば悪化した。また、HDLコレステロールは、腹部肥満がない群だけが体重増加によって悪化し、いずれも腹部肥満との関係は見いだせなかった。一方、中性脂肪は、腹部肥満がある群で体重増加との関係があった。
世界では、メタボ診断基準作りの中心になってきた国際糖尿病連合などが昨年、腹囲を必須とせず、他の血液検査値などと同列に扱う統一基準を発表した。一方、日本の診断基準は、腹囲が必須条件になっている。

2010年8月28日土曜日

パッチ・ワクチン

微小な針が多数ついたパッチを皮膚にはるだけで接種できるインフルエンザワクチンを、米ジョージア工科大などの研究チームが開発し、動物実験で効果を確認した。針は皮膚に刺さると溶け、ワクチンと共に吸収される。実用化すれば、自分でも接種でき、輸送や保存も簡便になり、接種費用が抑えられる。
開発したパッチは、生体に吸収されやすい物質でできた高さ0.7ミリの針が100本ついている。針の中に、液体ワクチンを凍結乾燥させた粉末が入っている。
人の皮膚に似た豚の皮膚を使った実験で、親指でパッチを皮膚に押しつけただけで表皮に刺さり、数分以内に溶け、ワクチンと針が皮膚に吸収されることを確認した。深く刺さらないため、痛みもないようだ。
通常のワクチンと同等の効果があり、製造費用も同程度だが、接種に医師や看護師が必要なく、注射針の処理もいらず、費用は安くなるようだ。
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2010年8月27日金曜日

野兎(やと)病

夏は野兎(やと)病と呼ばれるネコの細菌性疾患の最盛期であるらしい。この疾患は、感染したネコに噛まれたり、感染したネコの体液に暴露したりすることによって、ヒトにも伝播する可能性があるという。
ネコの野兎病リスクが高いのは夏場だが、春に生じることもある。ネコの野兎病の感染経路として特に多いのは、感染したウサギを食べるか、ウサギを噛んだダニに噛まれることによるもので、徴候としては無気力、食欲不振、発熱などがみられる。
ワクチンはなく、最善の予防法はネコを屋外に出さないことだという。ネコを室内に閉じ込めたくない場合、ダニの管理を行うのが次善の策のようだ。残念ながら、ネコがウサギを狩るのは習性であるため制御することはできず、ネコを屋外に出す場合はそのリスクを負わなければならないと言う。特に屋外で飼われているネコの疾患や死亡がみられた場合、野兎病を疑う必要がある。
稀に芝刈りによってヒトが野兎病に感染することもあるという。芝刈り機が感染したウサギの死骸に接触すると、細菌のエアロゾル化が起こるのではないかという仮説があるらしい。

2010年8月26日木曜日

腸管延長

生まれつき腸の動きを制御する神経節細胞が欠落し、重い便秘症や腸閉塞を起こす難病「ヒルシュスプルング病」で、石川県立中央病院は7月15日、2歳男児のわずかに残る正常な腸管に切り込みを入れて延長して機能を確保する手術に世界で初めて成功したと発表した。
5000人に1人が発症するとされ、この男児はこの病気の中でも重度の小腸と大腸の大半が機能しない「全腸管型」。死に至る危険も大きく、従来は小腸移植しか助かる方法がないとされていた。
男児は生まれた直後から激しい嘔吐を繰り返した。診断の結果、正常に機能するのは小腸の一部分の約20センチのみだった。正常な20センチの腸管に左右交互に切り込みを入れて蛇腹状に伸ばし、切り込んだ部分を縫い合わせて1メートルまで延長し、人工肛門につなげることに成功。男児は感染症にもかからず無事退院。体重も増えているという。
切り込みを入れるには腸管の太さも必要で、全患者に有効かは不明のようだが、自らの臓器を生かす新たな治療の道が開けたようだ。

2010年8月25日水曜日

ネットいじめ

ネットいじめ(サイバーブリー)の加害者および被害者は、ともに身体的にも精神的にも問題を抱える可能性の高いことが、フィンランドの研究で明らかになった。この調査では、ネットいじめの加害経験のあったティーンエイジャーは7%超、被害経験は5%、両方の経験があったのは5.4%で、米ミシガン大学によると、米国でも状況は類似しているという。
ネットいじめは、携帯電話、パソコンなどの電子メディアを通じて、相手に対して攻撃的な行為を意図的に繰り返すもの。
今回の研究では、13~16歳のフィンランドのティーンエイジャー2,215人を対象にデータを収集。ネットいじめの加害および被害経験のほか、全般的な健康状態についてたずねた結果、被害経験のあるティーンは、家庭崩壊、情緒、集中力および行動に問題のある比率が高く、他人との付き合いが困難、頭痛、腹痛、睡眠障害になりやすい、学校で安心感を得られないという傾向があった。
一方、加害者自身にも情緒、集中力および行動の障害、他人との付き合いの困難、多動や素行問題が多くみられ、喫煙や飲酒、頭痛、学校で安心感を得られないという傾向も強かった。加害および被害の両方の経験のあるティーンエイジャーには、上記のあらゆる問題が認められた。
従来のいじめは主に学校で起こるため、少なくとも家にいるときは安心できるが、ネットいじめでは被害者は24時間休みなくリスクにさらされており、不安感がさらに強まる可能性が高いと研究チームは指摘している。
ネットいじめには学校、親および子どものいずれにも原因がある。学校が積極的にいじめ対策を行う必要があるほか、いじめに気付いた第三者が学校に報告することも有効である。ネットいじめの元となるのは主に学校での友人関係であり、ネットではデータが残ることが対策上、1つの利点となる。

2010年8月24日火曜日

改正臓器移植法

生前の本人の意思が不明でも、家族が承諾すれば脳死での臓器提供ができる改正臓器移植法が7月17日より本格施行されている。提供数の増加を目的に提供の要件を緩和し、昨年7月に成立した。現行法では、15歳以上が書面で提供意思を示すのが条件だが、改正法では、そうした場合に加えて、提供や脳死判定を本人が拒否していなければ、家族の承諾で0歳から提供可能。拒否の意思表示は書面でなくても有効だが、提供したくない人は意思表示カードなどで意思を示す必要がある。
脳死判定は、6歳以上はこれまでと同じ基準で2回の検査間隔は6時間以上だが、6歳未満は間隔を24時間以上にする。
15歳以上が書面で意思表示した場合に、親や子ども、配偶者に優先提供を認めた改正部分は1月に施行。5月に初の適用例として、夫から提供された角膜が妻に移植された。
現行の臓器移植法は1997年施行。現在まで脳死での臓器提供は86例。日本臓器移植ネットワークによると、心臓や肺などの移植を希望し登録している患者は、6月末時点で計約1万2千人。

2010年8月23日月曜日

日本脳炎注意報

熊本県は8月18日、県内全域に今年初の日本脳炎注意報を発令した。県が16日に豚20頭に行った日本脳炎ウイルスの抗体検査で、2週間以内に感染したとみられる豚7頭が確認されたためだそうだ。

日本脳炎は、蚊(コガタアカイエカ)が媒介するウイルスで起こる感染症。夏から秋にかけて患者が発生し、発病すると5~15日の潜伏期間を経て40度以上の高熱やけいれん発作、昏睡状態などの症状が1週間ほど続くことがある。熊本県内では2009年、2007年に各1人が感染したという。

熊本県は
〈1〉 蚊の多い場所では長袖や長ズボンを着用し、虫よけ剤を使用する
〈2〉 家の周りの小さな水たまりをなくし、蚊の発生源を減らす
〈3〉 休養や栄養、睡眠を十分に取り、過労を避ける
ことなどを呼びかけている。

2010年8月22日日曜日

睡眠時間とコレステロール

思春期女子の短い睡眠時間が若年成人期の高コレステロール血症の危険因子となる可能性があると、米コロンビア大学などのグループが発表した。同グループは、1994~95年に13~18歳の男女1万4,257例を登録。18~26歳の若年成人となる2001~02年まで追跡し、睡眠時間と高コレステロール血症との関係を調べた。調査の結果、女性では睡眠時間が1時間増すごとに若年成人期に高コレステロール血症と診断される確率が有意に低下した。一方、男性では有意ではないものの、睡眠時間の増加は高コレステロール血症の診断減少と関係していた。

2010年8月21日土曜日

小児肥満(2)

非薬物治療がすべての肥満治療,特に小児肥満治療の基礎であるべきで,常に第一選択治療とされるべきだ。ある論評は,家庭に根差した行動療法プログラムにより,食習慣,身体活動習慣,思考パターンの変更を目的としたライフスタイル介入を行うことで,短期的・長期的に有意かつ臨床的に意義のあるレベルで小児と青年期の肥満を減少させることができると結論付けている。
英国などのガイドラインは,具体的なカロリー摂取量を明示せずに行動療法を強調している。
エネルギー消費による減量の奨励は,食事習慣への介入ほど注目されていなかったが,今回の報告ではテレビ視聴を制限するなど,身体を動かさない習慣を減らすことへの介入が検討され,有望であることがわかった。
食習慣の変更に関する戦略として,ニューヨーク州立大学バッファロー校が開発した食品に関する交通信号システム(摂取を控えるべき有害な食品に赤,適量を摂取すべき食品に黄色,常に摂取すべき食品に緑のマークを表示)などがある。
米国心臓協会が提唱する動機付け面接は,習慣の変更に対する準備ができていないと感じている親にとって有用だ。居住地域で肥満青少年を対象とした夏期合宿を行うことについては,短期の有効性が確認されているが,長期の影響に関してはまだ不明である。

2010年8月20日金曜日

小児肥満(1)

ニューメキシコ大学保健科学センターやブリストル大学、米国立衛生研究所の研究によると、小児肥満の原因の約90%は過食か運動不足か、またはその両者で、残り10%は内分泌疾患や先天性・後天性の視床下部障害、遺伝的症候群、食欲に影響を与える薬物の使用によると推測されている。
小児肥満はほとんどすべての臓器系に有害な影響を与える可能性があり、しばしば高血圧、脂質異常症、インスリン抵抗性や糖尿病、脂肪肝疾患、心理社会的合併症などの重大な結果につながる。ある研究によると、14~19歳の過体重と肥満は、30歳以降のさまざまな全身性疾患による死亡率の上昇と相関していた。また、小児肥満による整形外科分野の重大な合併症に内反脛骨があるが、一方で肥満は骨密度に関しても大きな影響を与えるようである。
肥満予防では、特に小児期からの予防が世界的な肥満の増加を逆転させるのに最も有効だという。予防策は、個人、家庭、施設、地域社会、医療の各レベルで講じることができる。小児では本人よりも保護者を標的とすべきで、(1)世帯や家族レベルで適切な食事量を与える(2)運動を奨励する(3)日常生活動作を高め、身体を動かさない生活を最小限にとどめる―ことを親に指導するのが、基本的な予防法と見られている。

2010年8月19日木曜日

食種とタイミング

アラバマ大学バーミングハム校公衆衛生学部疫学科の新たな研究によると、“王様のような朝食、王子のような昼食、貧民のような夕食を取れ”という昔の格言は、実際のところ、メタボリックシンドロームを予防するうえで最も優れたアドバイスのようだ。研究では、朝目覚めた後に高脂肪食を与えたマウスの代謝が正常であることを明らかにした。反対に、朝に高炭水化物食をより多く摂取したマウスでは、メタボリックシンドロームの指標である体重増加、肥満、耐糖能障害などの異常が生じるという。
今回のマウスの実験では、食物の種類や摂取のタイミングがメタボリックシンドロームの発症に影響しうるか否かが検討された。そしてその結果、目覚め時の脂肪摂取がきわめて効果的に脂肪代謝を刺激し、その日1日の摂取において、さまざまな種類の食物に対する反応スイッチが“オン”になることを見出した。
一方、目覚めたときに炭水化物を与えると、1日中炭水化物代謝のスイッチが入った状態となり、別の食物を摂取させても炭水化物代謝が優位に働くという。
1日の最初の食事が、その日の代謝系を左右するようだ。今回の実験から、炭水化物の豊富な朝食を取ると、その日の炭水化物利用が促進されるが、脂肪の豊富な朝食を取ると、炭水化物から脂肪へとエネルギー利用が移行するような代謝系へと変化することがわかった。
さらに、この研究から得られた重要な知見として、就寝前のマウスに低カロリー食を摂取させたことが、健康増進につながった点を挙げている。逆に、就寝前に高脂肪食を与えたマウスでは、体重増加、肥満、耐糖能異常、高インスリン血症、高トリグリセライド血症、高レプチン血症などを来した。

2010年8月18日水曜日

唾液(だえき)

唾液に含まれる成分を調べ、がんを発見する技術を、慶応義塾大先端生命科学研究所と米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)が共同で開発した。唾液の検査は、X線や血液の検査より患者の負担が小さく、実用化されれば症状が出にくいがんの早期発見につながる可能性がある。
UCLAが、膵臓がん、乳がん、口腔がん患者や健常者ら215人の唾液を集め、慶応大がそれぞれのがんに特徴的な物質を探した。検出された約500種類の糖やアミノ酸などのうち、膵臓がん患者はグルタミン酸の濃度が高いなど、健常者に比べ濃度が高かったり低かったりした54物質を特定した。
これらの物質の特徴を組みあわせた解析で、がん患者を対象に、がんが判別できる精度を調べた。この結果、膵臓がんの99%、乳がんの95%、口腔がんの80%を見分けられた。年齢や性別、人種の差は、あまりなかった。
膵臓がんは、早期段階では特徴的な症状がない上、他の臓器に囲まれているため見つけにくく、進行して見つかる場合が多い。実用化のためには、がんと診断されていない人を対象にした試験や、唾液の状態による影響、早期がんの患者にも有効なのかの確認など、さらにデータの蓄積と検証が必要になるという。

2010年8月16日月曜日

睡眠計

体脂肪計や尿糖計などユニークな商品の開発で知られるタニタが、今度は、人の眠りの状態をはかる「睡眠計」を開発した。「睡眠計」は、布団の下に敷き、組み込んだ圧力センサーで、寝ている間に、脈拍や呼吸の数、体の動きを測定するそうだ。専門機関の検査データをもとに眠りの深さを判定し、時系列データや点数化した総合評価を示す。日々の記録をグラフで表示し、眠りの傾向を把握することもできるという。一般家庭のほか、医療・介護施設、運転手の健康管理に使いたいという運輸業界向けに、販売を見込んでいるそうだ。

2010年8月7日土曜日

スポーツ遺伝子

東京都健康長寿医療センター研究所などのチームが、日本人の元五輪選手約140人と一般の人を比べたところ、スポーツ選手に特徴的な遺伝子型が見つかった。母親から子どもに受け継がれるDNAの個人差が、瞬発力や持久力に関係するらしい。 
運動能力は父親より母親の影響を受けるとの疫学的な研究があるため、チームは、母から子に引き継がれる細胞内のミトコンドリアDNAに注目して、調べた。
本人の了解を得て日本人の陸上長距離、短距離選手やサッカー、バレーボールなど元五輪選手139人と、DNAデータベースに登録された一般の日本人672人の遺伝子型を比べた。
日本人のミトコンドリアDNAの型は個人差によって約10種のグループに分けられるが、この中で、ある特定のグループは、瞬発力の必要な種目の選手の割合が一般の人に比べて、約2.8倍だった。別のグループでも、持久力の必要な種目の選手の割合が、約2.5倍だった。
遺伝子による選手の選抜はすべきでないが、今回の成果は個人のトレーニング方法への応用につながるかもしれない。運動能力は練習や食事など環境に大きく左右されるが、遺伝子との関係も注目されているようだ。

2010年8月6日金曜日

子宮頸がんワクチン

若い女性に急増中の子宮頸がんを大幅に減らすと期待され、昨年末から自費での接種が始まった子宮頸がんワクチンの普及が進まない。半年間に3回接種が必要で費用は5万円前後という負担の重さがネック。厚生労働省は公費助成の検討に着手したが、いつ結論が出るかは見通しにくい。性体験前の若い年齢での接種が最も有効なため、思春期の娘を持つ母親は「すぐ打つか、助成を待つか」で悩んでいる。がんの原因のヒトパピローマウイルスは性交渉で感染する。このウイルスの感染を防ぐワクチンの登場を受けて日本産科婦人科学会などは昨年10月、11~14歳の女子には公費で接種すべきだとの声明を発表した。だが、どこも財政難の行政の動きは鈍い。国の助成の検討には時間がかかる可能性があるし、娘の性体験の時期を親が予測するのも難しい。なるべく早く受ける方がいいだろう。ただ、ワクチンで防げるがんは最大でも70%とされ、検診による早期発見が制圧には不可欠。自治体検診が20歳から受けられ、早く見つければ子宮温存も可能。なのに検診への理解は進んでいない。日本の子宮頸がんの検診受診率は20%台で、欧米の70~80%に大きく劣る。このままではワクチン接種が進んでも、がんを完全にはなくせない。両方を推進する政策が期待される。

2010年8月5日木曜日

子宮頸がん

子宮の入り口付近にできるがん。国内で年に推定約1万5千人が発症し約3500人が死亡する。20~30代の発症率が過去20年で2倍以上に増え、この年代で最多のがんになった。性体験の低年齢化などが理由とみられる。

2010年8月4日水曜日

高コレステロール血症合併糖尿病

糖尿病患者における心疾患発現率は著明に高く、糖尿病患者の死因としても心疾患が多くの割合を占める。糖尿病患者の心疾患発現抑制のためには血糖のコントロールがもちろん重要であるが、しばしば困難なことが多く、血圧、LDLコレステロールのコントロールがとりわけ有用といえる。糖尿病患者の脂質管理目標は、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは120mg/dL未満を推奨しているが、コントロール不良な症例でも最低限、到達しなければならないLDLコレステロール値はどの程度か。治療薬投与例を対象とした研究では180mg/dL以上の患者群で有意な心疾患発現率を認めた。糖尿病症例では120mg/dL未満を管理目標とし、うまくコントロールできない患者においても少なくとも180mg/dLを超えないように、治療薬を増量する、あるいは他剤を併用することも考慮に入れるべきのようだ。

2010年8月3日火曜日

乳がん検診

20~30歳代の女性を対象とした乳がん検診に対し、専門家らが異議を表明している。乳がん検診は何歳から必要なのだろうか。
乳がんのため24歳の若さでこの世を去った女性のドキュメンタリー「余命1ヶ月の花嫁」。2007年にTBSで放映されるや大反響を呼んだ。08年からは、番組にちなみ、20~30歳代に限定した乳がん検診キャンペーンが展開されているが、これに対し、患者や医療関係者らが、TBS側に内容の見直しを求める要望書を出した。要望書は「20~30代の女性を対象とした検診は科学的根拠がなく、正しい情報を発信する責務があるテレビ局が行うのは問題」などと指摘。
厚生労働省の指針では、乳がん検診の対象は40歳以上。40~50歳代に患者が多いためとしている。
乳がん検診に詳しい国立病院機構名古屋医療センター放射線科は「若い世代に関心を持ってもらうための啓発は重要ですが、すべての若年者に広く検診を勧めるのは間違い」と指摘する。本来必要のない精密検査を受けることになったり、苦痛が伴ったり、といった不利益のほうが大きいためだ。
米国では40歳代を対象に含めるかどうかでも論議が起きている。09年11月、政府の作業部会が「不必要な検査や治療につながる可能性が高い」としてマンモグラフィ検診の対象を50歳以上に引き上げるよう勧告。これに対し、米国対がん協会などは40歳代でも利益の方が上回ると反論している。
TBS広報部は「詳しく説明した上で、自己責任で受けてもらっている。様々なリスクを考慮した上でも、受診機会を提供したことは一定の成果があったのではないかと考えている」などとしている。
ドキュメンタリーが感動的なだけに若い人への影響は大きい。感情に流されることなく、正しい情報を知ることが大切。まずは40歳代の検診率を上げ、早期発見、早期治療につなげることが先決かもしれない。

2010年8月2日月曜日

食事と小児喘息

週に3回以上ハンバーガーを食べる子供は喘息および喘鳴のリスクが高く、果物、野菜および魚の豊富な食事を摂っている子供はリスクが低いことが新しい研究でわかった。研究では、富裕国および貧困国を含めた20カ国の小児5万人のデータを収集。子どもの主な食生活および喘息の有無を親に尋ねるとともに、約3万人の小児のアレルギー検査を実施した。その結果、富裕国、貧困国ともに果物を多く摂取している小児は喘鳴が少なかったほか、富裕国では魚の摂取、貧困国では加熱した青野菜の摂取が喘鳴の予防になるようであった。これは、果物と野菜に豊富な抗酸化ビタミン類および生理活性物質、魚に含まれるオメガ-3脂肪酸によるものと考えられるという。一方、ハンバーガーを多く食べる小児は生涯の喘息、喘鳴の罹病率が高かった。なお、肉類全般による喘鳴リスクの増大は認められなかったという。今回の研究で、喘息の原因の1つが食事に関連している可能性が示唆され、抗酸化物質および不飽和脂肪酸が何らかの役割を演じているということが推測された。オーストラリアの研究グループが、高脂肪食または低脂肪食を摂取した後の喘息患者の検査を実施した結果、高脂肪食により炎症が悪化し、肺機能が低下することが明らかにされた。この研究の結果から、脂肪の摂取を減らすことが喘息管理に有用であることもわかった。

2010年8月1日日曜日

虫刺され(治療と予防)

虫刺されは市販の外用薬で対処することも多い。地域の薬局の強みは、虫刺され被害が多発している場所や虫の種類などの情報が入ること。自覚症状や刺されたと思われる状況などを薬剤師に伝えることで原因を絞り込み、適切な対処につながることもある。市販薬は抗ヒスタミン、かゆみ止め、消炎、殺菌などの成分の組み合わせ、薬の形状(液体、軟こう、クリーム)の違いによってさまざまな種類がある。薬局では薬剤師などが、かゆみなどの症状の強さ、過去に刺されたときに症状の悪化が長く続いた経験があるかなどをたずねた上で、適切な薬を勧める。かゆみなどの症状が強い場合はステロイドの入った薬を勧めることもあるが、市販薬には医療用に比べ穏やかなステロイドが使用されている。市販薬を1、2日使って症状が変わらなかったり悪化した場合は、医療機関の受診を勧められる。予防策としては市販の虫よけ剤が有効。主成分の「ディート」は皮膚に対する安全性は確認されているが、鼻や口からの吸入を避けるため、スプレー型の場合、小さな子どもに対しては大人が手に吹き付けた液体を首などに塗ってあげるとよい。

2010年7月31日土曜日

ハチ刺症の応急処置

・口で毒を吸い出さない(毒吸引器で吸い出す)
・きれいな水で患部を洗う
・患部を冷やす(毒の吸収を遅らせる)
・患部に残った針には触らない(針をつまむと残った毒を体内に押し込む可能性がある)
・(腕、足の場合)患部より上を軽く縛る
・患者を移動させるときは担架などを使う(背負うと患者の胸が圧迫されるため)

2010年7月30日金曜日

ハチ刺症

命にかかわることがある虫刺されがハチ。気分が悪い、息苦しい、体から力が抜けるなどの症状がある場合はすぐに救急車を呼ぶべきである。全身症状がなくても、複数個所を刺されたら早急に救急外来を受診しなければならない。ハチに刺されると有毒物質で痛みや皮膚の赤みが生じ、だんだん膨らみが増す。初めての場合は痛みだけで済むが、2回目以降では、刺された直後よりも2、3日後に症状が最も強くなり、1週間前後で治まることが多い。刺されたら、アウトドア専門店などで販売されている毒吸引器で吸い出し、患部をきれいな水で洗う。アンモニア水や尿にハチ毒を中和する効果はなく、患部にかけてはいけない。口内の粘膜や傷から毒が入り込む危険もあり、口で吸い出すことも避けたい。最も心配なのは、血圧低下や呼吸停止などの急性アレルギー反応「アナフィラキシーショック」。刺されて7分で死亡したケースもある。初めて刺されたときでも、一度に数十匹に刺されると何日も体内にハチ毒が残り、数日後にショックを起こすこともあるので注意が必要。

2010年7月29日木曜日

虫刺され

一口に虫刺されといっても、虫の種類や過去に刺された頻度などによって症状は千差万別。ハチはもちろん、蚊やブユでも炎症が強ければ皮膚科に相談した方が良い。虫刺されは、医療現場では虫刺症、虫咬症などと呼ばれる。原因は、①蚊やブユなどが血を吸うときに注入する血液の凝固を防ぐ物質と②ハチやムカデ、ドクガの幼虫(毛虫)などが攻撃や保身のために持つ有毒物質に大別される。家庭でも頻繁に経験するのは、蚊やノミ、ブユに刺され、かゆみやぷつんと膨らんだ赤い発疹などが出るケース。蚊などの血液凝固を防ぐ物質は有毒ではないが、人の体が「異物」と判断するため、アレルギー反応によるかゆみや赤みが起こる。一般的に、生まれて初めて蚊に刺されたときは無症状だが、何度か刺されると1~2日後に症状が出るようになる(遅延型反応)。繰り返し刺されて幼稚園~小学生くらいの年齢になると、刺されてすぐに出る症状(即時型反応)と遅延型の両方が出る。刺されて症状が出てから1、2時間程度でいったん治まったあと、再び赤みやかゆみ、腫れが数日以上続くケースだ。さらに同じ虫に刺され続けると、最後にはアレルギー反応が出なくなることがある。治療は、激しいかゆみがあるときは患部を冷やし、ステロイドの入った塗り薬などを使う。炎症が強ければ抗ヒスタミン剤なども内服する。虫刺されのように見えても実は肝疾患や血液疾患、金属アレルギーなど別の病気が原因のこともある。

2010年7月28日水曜日

肥満抑制タンパク

細胞内で脂肪のもととなる物質ができるのを妨げたり、脂肪を溶かして減らしたりする作用があるタンパク質を、東京大学疾患生命科学教室が見つけた。この研究が肥満治療の新薬開発につながる可能性がある。脂肪細胞には脂肪の貯蔵庫となる脂肪滴があり、滴の数が増えたり脂肪を蓄えて大きくなると肥満になる。研究では、「AIM」というタンパク質が体重の増減に関与することに着目。脂肪のもととなる「脂肪酸」を糖から合成する酵素の働きを、AIMが抑制していることを突き止めた。AIMは脂肪細胞の成熟を抑制、細胞外から脂肪酸を取り込めないように働いていた。脂肪細胞にAIMを加えると、脂肪滴が溶けて小さくなる。脂肪酸の不足を補うよう滴の脂肪が分解されるらしい。太り始めると血液中のAIM濃度が高まることも判明、AIMは太りすぎを抑える役割を果たし、その能力を超える脂肪蓄積が進むと肥満になるらしい。AIMはもともと人間が持つタンパク質なので副作用もない。肥満になってから投与しても効果があるという。

2010年7月27日火曜日

アレルギー抑制分子

筑波大免疫学教室は、花粉症やぜんそく、アトピー性皮膚炎などのアレルギーの発症を抑える分子を突き止めた。この分子の活動を強める薬を開発すれば、アレルギーを抑える根本的な治療につながるかもしれない。花粉やダニなどのアレルギーの原因となる抗原が体内に侵入し、「IgE」という抗体と結び付き、肥満細胞と結合すると、肥満細胞から炎症を引き起こすヒスタミンなどの化学物質が放出されてアレルギー症状が出る。研究では、この肥満細胞の活性化を抑える分子を発見した。この分子に刺激を加えると活性化し、肥満細胞から放出される化学物質は約半分に抑えられた。今回の研究では、この分子を「アラジン1」と名付けたようだ。

2010年7月26日月曜日

酒かす

かす汁など冬の家庭料理で親しまれている酒かすに含まれる成分が、肝臓を保護する効果があるということが、月桂冠総合研究所の実験で明らかになった。強い酸化力をもつ「活性酸素」が体内で増えると、臓器が傷つくなどして、様々な病気を引き起こす。特に肝臓は血液にのって活性酸素や過酸化脂質が集まりやすく、酸化を防ぐことが重要だと考えられている。同研究所は、日本酒を製造する過程で副産物としてできる酒かすの約6割を占めるたんぱく質に注目。これを酵素で分解してペプチドと呼ばれる断片にし、その働きを調べたところ、肝臓内で活性酸素を防御する働きがあるグルタチオンという物質と同様の酸化抑制作用があることを確認した。このことから研究員らは、酒かすに含まれる成分に肝機能保護や肝障害予防の効果があると結論づけた。 http://www.yamawaki-iin.jp

2010年7月25日日曜日

人口動態

女性1人が生涯に産む子どもの推定人数を示す2009年の合計特殊出生率が、08年と同じ1・37だったことが、厚生労働省の人口動態統計で分かった。06年以降続いていた上昇傾向が4年ぶりにストップ。赤ちゃんの出生数も減少し、出生数から死亡数を引いた人口の自然増減数はマイナス7万1895人で、過去最多の自然減になった。厚労省によると、出生率は05年に過去最低の1・26を記録したが、30代の出産が増えるなどしたため上昇が続いていた。09年は15~49歳の女性人口が約2653万1千人と08年に比べ約22万6千人減少。厚労省は「母親となるこの層の減少自体が出生率の横ばいにつながった」とみている。年齢別では、10~20代はいずれも08年より下降したが、30代以上は上昇。最も高かったのは30~34歳。都道府県別では沖縄が最高の1・79、次いで宮崎1・61、熊本1・58、鹿児島1・56。最低は東京の1・12で、次いで北海道1・19、京都1・20の順。国内で生まれた日本人の赤ちゃんは107万25人で、08年より2万1131人減少した。死亡数は487人減の114万1920人で、戦後の統計が残っている1947年以降では08年に次ぐ多さ。死因で最も多かったのはがんの34万3954人で29年連続首位。次いで心疾患18万602人、脳血管疾患12万2274人。自殺は3万649人で前年より420人増えた。結婚したカップルは70万7824組で1万8282組減。一方、離婚は2272組増の25万3408組だった。

2010年7月24日土曜日

メンタルヘルスケア

厚生労働省の「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム」は5月末に、企業が実施する職場の定期健康診断でうつ病などの精神疾患に関する検査項目を盛り込んだり、失業者へのメール相談事業を強化したりすることを柱とした自殺防止対策をまとめた。職場でのストレスなどに起因する精神疾患や失業による生活苦から自殺するケースも多く、早期発見で症状の悪化や自殺を減らすのが狙い。健康診断での検査方法は厚労省が既に作成している56の質問項目からなる「簡易調査票」などを使い、メンタルヘルス不調者を把握。不調者への対応が適切に行われるよう、都道府県の「メンタルヘルス対策支援センター」などの臨床心理士や精神科の医師が、産業医や中小企業の管理職を対象とした研修を実施する。ただ、不調者の把握はプライバシーの問題などで労働者が不利益を被る可能性もあるため、そうした問題に配慮しつつ効果的な方法を慎重に検討するとしている。メール相談事業の強化については、近く周知徹底のためハローワークでリーフレットを20万部配布。ハローワークに来所した求職者を対象に心の健康状態を尋ね、深刻なストレスがあった場合は専門家とメールで相談できる仕組み。厚労省の07年の調査によると、職場で強い不安や悩み、ストレスがあると回答した労働者は58・0%。警察庁調べでは、昨年の自殺者3万2845人のうち、「失業」が原因は前年度比65・3%増の1071人。

2010年7月23日金曜日

減量のための運動量

運動が健康に良いことはよく知られているが、実際に体重増加の予防に必要な運動量はどのくらいなのだろうか。この問題を調べた論文が、米国医師会雑誌に掲載された。論文によると、いったんBMI【体重(kg)を身長(m)の2乗で割った肥満度】が25以上になると、運動だけで体重を維持するには手遅れで、食事によるカロリー制限が必要となる可能性があるようだ。また、米国心臓協会などのガイドラインが勧める『週150分程度の運動』は、(心臓病や糖尿病など)慢性疾患のリスクを下げるには十分だが、体重増加じたいを予防するには不十分な可能性があると論じている。この研究の対象者のエネルギー摂取量は1日約1,740kcal程度で、日本人の50~59歳女性の1,771kcalとほぼ同程度だ。したがって今回の結果は、日本の中年女性にもある程度当てはまるのではないかと思われる。それにしても、体重増加を予防するには1日1時間以上の早歩きなどの運動が必要というのは、継続して実行するにはかなりの運動量に思える。ただ、これより少ない運動でも、多少の体重増加はあったとしても、糖尿病や心臓病の予防には有効である。

2010年7月22日木曜日

糖尿病新基準

日本糖尿病学会は5月末に総会を開き、日をあらためて2回の検査が必要だった糖尿病の診断を、1回の検査でできるように改定した診断基準を正式決定した。7月1日から施行されている。この改定が診断の間口を広げ、早期発見につながることを期待したい。これまでの診断基準は、空腹時やブドウ糖摂取後などの血糖値3項目に基準値を設定。1項目で数値が高いと再検査し、再び基準値を超えると糖尿病と診断していた。新基準は、血中の糖と結合する性質があり、過去1~2カ月の血糖状態の指標となる「ヘモグロビン(Hb)A1c」を主な検査項目に採用。HbA1c値と血糖値の同日検査を推奨している。血糖値が高く、同時にHbA1cの数値が日本で使われている「JDS値」で6・1%以上なら、1回の検査で糖尿病と診断する。

2010年7月21日水曜日

男・女の脂肪

男性と女性の脂肪組織は遺伝的に異なることがマウスを用いた新しい研究で明らかにされた。これによって、男性は腹部に脂肪が蓄積しやすく、女性は腰まわりに脂肪がつきやすい理由を説明できる可能性があるという。米テキサス大学サウスウエスタン・メディカルセンター(UTSMC)の研究グループは、この疑問を解明するために、ヒトに類似したマウスの脂肪分布パターンに着目。雄雌のマウスのほか、女性の閉経を再現するため卵巣を摘出した雌マウスの腹部および臀部の脂肪細胞から遺伝子を採取し、比較した結果、約4万個の遺伝子のうち雌雄に共通するのはわずか138個であることが判明した。男性は消化管の周辺に余分な脂肪がつきやすいのに対して、閉経前の女性は臀部、腰部および大腿部に脂肪がつきやすい。閉経後の女性では、卵巣ホルモンの値が低下するにしたがって、ウエスト周囲に脂肪がつくようになってくるという。遺伝子の差とは別に、脂肪組織にも基本的な違いがあると思われ、高脂肪食を12週間与えた雄マウスは同じ食餌を与えた雌マウスよりも体重増加が大きかった。また、雄の脂肪組織は雌よりも炎症を起こしやすい傾向があるという。一方、卵巣を摘出した雌マウスには、体重増加および雄マウスに似た炎症パターンがみられるようになった。 このような所見から、女性の脂肪が蓄積する部位については卵巣ホルモンが重要な役割を担っていることが示されると、研究チームは述べている。

2010年7月20日火曜日

カウンセリングの目的

頭がモヤモヤっとした状況の場合、多くの人が自分の過去の経験や価値観に基づいて「落ち込んでいるのかな?」などと原因についての仮説をあれこれ立てるものです。こうした「自分の過去の経験や価値観」はいつも無意識に自分の心にあります。そして、物事を見るときに、フィルターのような役割を果たすのです。カウンセリングでは、この「自分の過去の経験や価値観」の傾向について知ってもらい、自分がどのように現実を捉える傾向にあるのか検討します。たとえば、過去にたくさん人から傷つけられて辛い目にあった方は、これから先、人と接するときにも「またひどい目に遭うのではないか」と身構えてしまうでしょう。これは、人間が身を守るために身に付けた防衛策なのですが、時に現実を歪めて受け取ってしまう元になることもあるのです。すると、「私はどこにいっても、他人からひどい目に遭わされてしまう」というルールが心の中に出来上がるのです。そうなると、「偶然食事に誘われなかった」という出来事も、「私はみなに嫌われている」と捉えることになるでしょう。または、「初対面の人ととても仲良くなった」という出来事ですら、「いや、まてよ。この人も私を裏切るのかもしれない」と捉えることになるかもしれません。こう捉えた方が、自分の心の中にあるルールと出来事が一致するので、少し安全なかんじがしてしまうのです。もちろん本人は「私は今度こそ、人とうまくやりたい」と思っているのですが、心の奥底では気づかないうちに、「どうせうまくいきっこない、私は他人にひどい目に遭わされてしまうんだ」と何度も自分に言い聞かせているのです。カウンセリングでは、辛い状態を引き起こしているメカニズムについて、上のような説明をご本人と共に探って検討していきます。過去にどんな印象的な体験があって、それがどんな風な体験として自分の中で意味づけられていて、それが今の自分の価値観にどのような影響を与えていて、それで今、現実をみつめるときにどのように捉える傾向があるのか。その結果、どんなことが起こっているのか。そんな自分が今つらい原因を丁寧に丁寧に探って、紐解いていきます。その作業の中で、「なんとなくいつも人間関係が苦手でつらい」という悩みが、「私は小さい頃からひどい目に遭ってきて、そのせいで被害的な捉え方をするようになった。今もその傾向は残っていて、新しい人間関係においても"またひどい目に遭うのではないか"と構えてしまう。そのため、人間関係を築くことに臆病になって人との交流を避けるようになった。その結果、誰からも必要とされていないような気がして落ち込んでいる。」と分析できれば、心が少しだけ整理できるでしょう。もちろん、分析しただけでは、悩みは解決しません。このような分析はカウンセリングの第一歩です。しかし「なんとなく」つらいという漠然とした状況では、人は不安を感じたり混乱したりします。多少でも説明がつくと、少しだけ安心します。そして対処するための手がかりを得ることができるのです。

2010年7月19日月曜日

ヘモグロビンA1c(HbA1c)

日本糖尿病学会は、総会で糖尿病の新診断基準を決めた。従来の血糖値による診断に加え、過去1-2カ月の平均的な血糖状態を示すヘモグロビンA1c(HbA1c)を取り入れる。早期発見しやすくなり、糖尿病や合併症の減少が期待できるという。7月1日から適用している。学会によると、診断基準の改訂は99年以来11年ぶり。糖尿病患者は07年の調査で国内に約890万人いるとされ、早期の診断や治療を目指して診断基準を見直した。新基準では、慢性的な血糖状態を反映するHbA1cを補助的役割から格上げした。血糖値の基準値は変わらないがHbA1cの基準値は厳しくなった。検査は併用し、いずれも基準値を超えた場合に糖尿病と診断される。また、HbA1cの数値を国際基準に合わせる方針も確認された。7月1日から国際学会の発表などで新しい基準を使用している。ちなみに、特定検診におけるHbA1c測定は今年から必須となった。

2010年7月18日日曜日

インフルエンザワクチン

国内でインフルエンザワクチンを製造販売するメーカー4社は、現行の子どもへの接種用量を増量して世界保健機関(WHO)が推奨する用量に変更するため薬事法に基づく申請を国に提出した。審査が順調に進めば今冬の流行シーズンの前までに用量が変更される可能性がある。申請したのはデンカ生研、北里研究所、阪大微生物病研究会、化学及血清療法研究所の4社。現在承認されている用量は、1回の接種につき1歳未満は0・1ミリリットル、1~6歳未満は0・2ミリリットル、6~13歳未満は0・3ミリリットルをそれぞれ2回接種するが、効果が低いとの指摘が出ていた。WHOが推奨する用量は、3歳未満に0・25ミリリットル、3~13歳未満に0・5ミリリットルをそれぞれ2回接種する。独立行政法人国立病院機構がこの用量による臨床試験を全国の8医療機関で実施し、効果が確認されている。近年、10~11月、インフルエンザワクチン接種希望者が殺到する。年齢で細かく接種量を分けているインフルエンザワクチンは、間違いが生じないように気を配るのに一苦労だ。

2010年7月17日土曜日

1型糖尿病

イタリア北部のインスブリア大の研究チームは、主に若年層に起こる1型糖尿病の患者の83%に、腸管内で増殖する「エンテロウイルス」への感染歴が確認されたとの研究結果を明らかにした。1型糖尿病は、生活習慣病で成人に多い2型と異なり、思春期の子どもなど主に若年層が発症。何らかの原因で膵臓の細胞が破壊され、血糖値を下げるインスリンが欠乏して起こる。ウイルス感染に対し免疫細胞が過剰に反応し、膵臓の細胞まで攻撃してしまうことも要因の一つとして指摘されているが、詳しい仕組みは分かっていない。研究チームは、2~16歳の1型糖尿病患者112人を対象に、DNA検査などによってエンテロウイルスに感染したことがあるかどうかを調査、83%で感染歴を確認した。一方、糖尿病でない子どものうち感染歴があったのは全体の7%だった。エンテロウイルスは、腸の中で増殖するさまざまなウイルスの総称。ありふれたウイルスで経口感染する。感染しても大半は症状が現れないが、風邪症状や手足口病、無菌
性髄膜炎などを引き起こすこともある。

2010年7月16日金曜日

母乳

出産直後に自分の母乳だけで赤ちゃんを育てる母親が宮城県内は約65%に上り、上昇傾向にあることが、NPO法人「みやぎ母乳育児をすすめる会」の調査で分かった。全国的にも高い割合という。母乳で育てることにより、赤ちゃんの免疫が高まり、母子が精神的に安定する。子供が将来、生活習慣病になる危険性が低いことも知られている。近年は、出産直後から母親と乳児を同室にして、いつでも母乳を与えられるようにする施設が増えている。調査は、医師、助産師らで作る同会が昨年11、12月、産科、小児科を持つ延べ190施設にアンケート調査し、同49施設から回答があった。それによると、出産直後に母乳だけで乳児を育てる「完全母乳」の母親は、1999人のうち1296人と、64・8%を占めた。2005年の前回調査に比べ、4・1ポイント上昇した。母乳と人工ミルクを併用する母親も含めると、1983人(99・2%)と、ほとんどを占めた。ミルクだけとの回答は0・8%にとどまった。1歳健診時でも、完全母乳の母親は、回答した117人のうち65人と、55・6%に上り、前回の28・9%を大きく上回った。単純比較できる全国的なデータはないが、厚生労働省の2005年度の調査では、産後1か月時の完全母乳率は全国平均が42・4%だった。医学的には早期に離乳する必要はなく、自然に卒乳するのを待てばいい。(読売新聞)

2010年7月15日木曜日

認知症介護(ケース3)

「同じ事を数分おきに聞いてきて、いらだつ」

患者が繰り返し聞く内容で多いのは、日時やお金のこと。柱時計の針が読めなくなっていると気付き、大型のデジタル時計を買ってきて解消することもある。時間を聞かれたら時計を指さすようにする。少しはイラつかなくなるだろう。家族だけでは大変なので、ヘルパーやデイサービスのスタッフも含め、一日のうち誰かがじっくり話を聞く時間を作るのも効果的。1日1回でも満足な気分になると違うかもしれない。(毎日新聞) 

2010年7月14日水曜日

認知症介護(ケース2)

「デイサービスのない日は自宅で何をさせてもすぐ飽きる」

午前は畑仕事や草取りなどで体力を使い、午後は本人の好きなことをさせる。入浴は早めにし、一緒に入る時は小声で話すと落ち着いてきて、お互いに穏やかな気分になれるという。本人のやることを事前にリストアップ。まずは散歩で季節の移り変わりを感じ、気分転換。その後は縫い物、洗濯物の整理、ボタン付け、野菜や果物の皮むき。本人に合わせたメニュー。(毎日新聞)

2010年7月13日火曜日

認知症介護(ケース1)

「防虫剤や花、ペットの餌などを食べてしまう」
食べられないものを食べる行為は異食と呼ばれ、脳障害の進行が原因とされる。危ないものをのみ込んでしまったと思ったら、24時間対応の中毒110番に電話し、応急処置の方法や対応を仰ごう。そもそも家庭内で異食を防ぐ工夫が必要だ。危なそうなものは本人の手の届かない所に置く。ティッシュペーパー、脱脂綿、たばこ、薬品、洗剤、化粧品などは要注意。目につくところにちょっとしたおやつを用意してみるのも一案。(毎日新聞)

2010年7月12日月曜日

笑いの効果

笑うことはやはり、健康によかった。笑いが人体にもたらす効能を検証する実験をしていた吉本興業と江崎グリコ、健康食品会社ファーマフーズの3社が、ストレスや疲労感軽減などの傾向があるとの結果を発表した。実験では、20代~40代の男女18人から唾液や血液を採取。4月14、21、28日の同時刻に、計算問題を解くというストレスをかけてから、吉本興業所属タレントの演芸を見たり、ストレス軽減に効果があると言われるアミノ酸の一種「GABA(ギャバ)」を摂取したりした後に、ストレスの指標となるタンパク質の変化などを調べた。実験の結果、演芸を見ることでやる気の向上、疲労感やストレスの軽減などの効果が見られた。併せてギャバを摂取することで、より高い効果が確認されたという。ファーマフーズ総合研究所によると、ずっとお笑いばかり見るのは問題かもしれないが、仕事や勉強の息抜きとしてのお笑いは集中力回復につながると言う。

2010年7月11日日曜日

百日咳(2)

百日ぜき菌が原因で、せきやくしゃみ、接触で感染し、感染力は強い。潜伏期間は1週間~10日程度で、風邪に似た症状で始まり、次第にせきがひどくなる。息を吸い込むときに「ヒュー」という音が出たり、夜間に発作が起きたりする。定期接種で乳幼児期にジフテリア、破傷風との3種混合ワクチンの接種を4回受けるが、接種を受けるまでは感染のリスクが高く、乳幼児は肺炎や脳症など重い合併症が起きる恐れもある。大人は特徴的な症状は少ない。

2010年7月10日土曜日

百日咳(1)

感染するとしつこいせきが長期間続き、乳児では死亡する場合もあるため、子どもの流行が警戒されてきた百日ぜきで、大人の患者が急増し、今年は小児科から報告される患者の半数以上を20歳以上が占めていることが国立感染症研究所の分析で分かった。現状のまま有効な対策をとらなければ成人を中心とした流行が毎年継続的に発生し、大人から乳児への感染の増加が懸念される。現在の乳幼児期に加え、思春期などにワクチンを追加接種する方法を早急に検討すべきなようだ。百日ぜきは夏に患者が多いため、今後増加が予想される。近年は大学で集団発生が確認されるなど大人の患者が多い傾向があるが、今年は5月上旬までに報告された患者全数のうち20歳以上が56・0%で、2000年以降で大人の割合が最も高い。百日ぜきの治療には抗菌薬が有効で、早期の投与で症状を軽くし菌を排出する期間の短縮が期待できる。さらに免疫を強めるには、ワクチンの追加接種が有効という。せきが出た場合は、周囲に感染を広げないためにマスクを着用するなど、せきエチケットを心掛けることが重要だ。

2010年7月9日金曜日

経口免疫療法

食物アレルギーの原因となる食物を食べることで、アレルギーを治す経口免疫療法(経口減感作療法)が注目を集めている。治療につながる仕組みには不明な点も多いが、原因食物を食べないことしか対処法がなかった食物アレルギーを食べて治す方法として期待は高い。経口免疫療法は、最初に食物負荷試験と呼ばれるテストを行う。微量の原因食物を摂取し、食べてもアレルギーが起きない限界量を調べ、それを下回る量から徐々に摂取量を増やしていく。食べてアレルギーを治すという考え方は以前からあった。しかし長年食物アレルギーの治療は、原因食物を食べない除去食療法中心という考えが支配的。国内では08年、神奈川県立こども医療センターが、卵アレルギー患者に経口免疫療法を行った成功例を日本アレルギー学会で発表し、注目が集まった。前後して海外でも成功例が多く報告されている。同センターのアレルギー科は食べる量、回数は、アレルギー治療として行っていた減感作注射を参考にしている。現在、経口免疫療法は、国立病院機構相模原病院など各地の病院で実施されている。いずれも臨床研究として取り組んでいる段階で、摂取量を増やすペースなど手法は各病院によって違う。アナフィラキシー発症の危険もあるため、医師の監視下で行うのが大原則。成果の一方で課題も多い。一度飲めるようになりながら、アナフィラキシーを起こしたり、耐性が元に戻ってしまうケースもある。そもそも、食べることがどのように免疫系に作用してアレルギー克服につながるのか、はっきりとはわかっていない。一般的に、乳児期に食物アレルギーだった子どもでも、小学校入学時には9割ほどが自然に耐性を獲得する。相模原病院臨床研究センターは「経口免疫療法が最も適しているのは、学童以上で重度のアナフィラキシータイプのアレルギーが残る子ども。未就学児の場合は、食物負荷試験で食べられる量を決めながら、耐性獲得を待つ対応でいいのではないか」と話す。同センターは昨年度から厚生労働省研究班として、重症例に対する経口免疫療法の治療効果の解析を始めている。患者の選択や応用できる食品の範囲など、研究しなければならない課題は多いが、重症の患者を誤食の恐怖から解放できるようになることの意義は大きい。

2010年7月8日木曜日

睡眠時無呼吸症候群

NPO法人の睡眠時無呼吸症候群(SAS)ネットワークは、SASの認知や検査、治療の促進を目的としたSAS発見プロジェクトをスタートさせ、記者会見を開いた。実際にSAS患者だったタレントのパパイヤ鈴木さんが出席、「いびきがすごくて、角田信朗さんにSASじゃないかと指摘されて検査したら、重度のSASでした。以前はいつも眠かったけれど、持続陽圧呼吸(CPAP)療法を始めてからは5~6時間ぐっすり寝たらパッと目が覚めるし、体の調子もよくなった。ちゃんと病気だと認識して治療するのが大切」と呼び掛けた。SASは、睡眠中に呼吸が止まった状態が継続的に繰り返される状態で、心筋梗塞や脳卒中など数々の生活習慣病とも密接な関係があることを指摘されている。また、日中に眠気を感じるため、中等症以上の患者が交通事故を起こす確率は健康な人の約7倍に上るという。国内の患者数は推計で200万人以上ともいわれるが、肥満者だけがかかる病気という誤った認識もあり、これまでに医療機関で治療を受けたのは20万人程度にとどまっている。昼間の眠気や倦怠感などを感じる場合は1時間当たり5回以上、自覚症状がない場合は1時間当たり15回以上呼吸停止や低呼吸があれば、閉塞性SASの可能性があるという。検査でSASと診断された場合、専門の器具を使用したCPAP療法などが有効で、検査、CPAP療法ともに保険が適用される。

2010年7月7日水曜日

受動喫煙と高血圧

自分は吸わないのに、家や職場で他人のたばこの煙にさらされている女性の最高血圧は高め。東北大薬学研究科が岩手県花巻市・大迫地区の住民を対象に実施した大規模調査で、受動喫煙の害がはっきりした。研究員らは同地区の家庭に血圧計を配り、循環器の病気と生活との関係を解明する研究を20年以上続けている。このデータの中から、35歳以上で一度もたばこを吸ったことがなく、血圧の薬も飲んでいない計474人の女性を抜き出し、受動喫煙の有無と血圧の関係を分析した。この結果、高い頻度で受動喫煙の状態にある女性の最高血圧は、受動喫煙がない女性に比べ「4」(単位はミリ水銀柱)ほど高かった。最低血圧や心拍数に差はなかった。日本人全体の最高血圧が平均で『2』下がれば、脳卒中による死亡が9千人減るとされる。全面禁煙を進める価値はありそうだ。

2010年7月6日火曜日

食事とうつ症状

野菜や大豆食品、果物、海藻などをよく取る「健康的な日本食パターン」の人は、うつ症状の頻度が半分以下だった。こうした傾向を国立国際医療研究センターの研究員が見つけ、論文を発表した。食事のパターンに分けて解析した研究は欧州に2例あるが、日本では初めてという。自殺者が1998年以来年間3万人を超え、うつ症状も増えているが、食事も視野に入れ、日本食の価値を見直す時かもしれない。研究グループは2006年、福岡県の勤労者(21~67歳)521人に、1カ月間に食べたものを質問票で尋ね、それを基に食事のパターンを調べた。同時に、世界的に広く使われている質問票でうつ症状を聞いた。統計手法で「健康日本食」「肉などが多い動物性食」「パンなどの洋風朝食」の3種類について、各人の食事パターンを強、中、弱に3分類、うつ症状との関連を見た。健康日本食パターンの傾向が強い人は、その傾向が弱い人に比べ、うつ症状の頻度が44%と低かった。動物性食と洋風朝食のパターンでは、うつ症状との明白な関連は見られなかった。今回の調査は、特定の栄養素でなく、食事のパターンで解析したことに意味がある。うつ症状になった人がきちんと食べていないこともあり得るので、因果関係までは言えないが、うつの予防に日本食が役立つ可能性はあるようだ。国立国際医療研究センターのグループが今回の研究で「健康的な日本食パターン」とした主な食品は、ニンジン、カボチャ、キノコ、緑の葉野菜、キャベツ、白菜、大根、カブ、その他根菜、豆腐・厚揚げ、納豆、海藻、芋、果物、緑茶、小魚。

2010年7月5日月曜日

引きこもり

「引きこもり」に悩み精神保健福祉センターに相談に訪れた人のうち、16~35歳の184人について厚生労働省研究班が原因を調べたところ、ほぼ4分の1に当たる49人が統合失調症などの精神疾患と認められ「薬物療法などの治療が必要」と診断されたことが分かった。厚労省は「『引きこもり』とされる人の中には精神疾患と診断されず、具体的な治療に結び付いていない人がいる恐れがある」と指摘。こうしたケースを見落とさず、適切な医療支援につなげるため、相談機関や家族に向けた新たなガイドラインを策定した。調査対象となった184人は社会参加を避けて6カ月以上、自宅などにとどまっている人で、岩手、埼玉、山梨、石川、和歌山の各県にある精神保健福祉センターを訪れた。薬物療法などの治療が必要と診断された49人以外の135人の内訳は、「広汎性発達障害で精神療法的なアプローチが必要」48人、「適応障害などで心理、社会的支援が必要」51人、「特定不能な精神障害」1人、「情報不足で確定診断できず」35人だった。新ガイドラインは、引きこもり者への支援について、当初は個人的に心を開いてもらうことからスタートし、集団療法、就労、就学へと段階的につなげていくことが大切としている。

2010年7月4日日曜日

筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子

運動神経が侵され全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の新たな原因遺伝子を広島大原爆放射線医科学研究所が突き止めた。この遺伝子の変異によって、炎症などに関与する物質が過剰に活性化し運動神経に影響を与えるとみられる。研究では、両親ともに保因者の可能性が高い家族性のALS患者の遺伝子を調べ、「OPTN」という遺伝子に変異を見つけた。OPTNは「正常眼圧緑内障」の原因遺伝子として知られていたが、ALSでは緑内障とは異なる場所に変異があった。家族性ではない孤発性のALS患者でも、OPTN遺伝子に変異がある患者が見つかった。これまで知られている別の原因遺伝子の変異がある患者でも、OPTN遺伝子が作るタンパク質に異常があり、これがALSの病態に広く関与すると考えられるという。日本では1年間にALSに新たにかかる人は10万人当たり約1人で、患者は約8300人、家族性は10%程度とされる。

2010年7月3日土曜日

自閉症治療

自閉症患者が「オキシトシン」というホルモンを服用すると症状が改善したとの臨床結果を、金沢大などの研究グループが発表した。3歳から自閉症とされてきた20代男性で、会話ができず、人と交流ができずにいた。両親が2008年、スイスからオキシトシンの点鼻薬を輸入し服用すると、男性は診察で担当医の目を見て笑い「はい」「いいえ」と答えるようになり、担当医が驚いたという。男性は10カ月以上服用を続けた。オキシトシンは視床下部などで作られるホルモンで、男性は血中のオキシトシン濃度が低かったことが判明。これまでアスペルガー症候群などに効果があった例は海外で報告があるが、重度の知能障害がある自閉症患者が長期間服用し、改善が確認されたのは初めて。オキシトシンは母乳を分泌させたり、出産で子宮を収縮させる働きがあるという。信頼感を強める機能があり、人が社会で活動するために必要なホルモンと指摘する研究者もいる。自閉症の治療薬としては認められておらず、男性の点鼻薬は母乳分泌用だった。

2010年7月2日金曜日

妊婦のインフルエンザ治療

日本産科婦人科学会は、新型インフルエンザに感染し、治療薬のタミフルやリレンザの投与を受けた妊婦と、その妊婦から生まれた赤ちゃんに、先天性の異常などの副作用がないかを調査すると発表した。全国約500施設で、昨年9月以降に登録した妊婦らが対象。計1万人が目標で、赤ちゃんは2歳になるまで追跡する。こうした大規模調査は世界でも例がないといい、学会は年内に一定の結果をまとめ、公表するとしている。胎児に対するタミフルの安全性は、国立成育医療研究センターが約90人を対象にした調査で「安全」とするデータしかなかった。昨年新型インフルエンザが流行した後、海外で感染した妊婦の死亡例が相次いだことを受け、学会は妊婦へのタミフル投与を推奨した。同学会は「学会として積極投与を勧めた責任があり、きちんと検証する。しっかりしたデータが得られ、問題がなければ、今冬の流行時にも積極的に使える」と話している。また、同学会は、国内で妊婦の死者が出なかった理由を、厚生労働省研究班で検討する考えを示した。重症化して入院した妊婦74人について、タミフル投与の有無や投与時期、妊娠段階との関係などを調べる。

2010年7月1日木曜日

若年性パーキンソン病

40歳までに発症する家族性の「若年性パーキンソン病」は、遺伝子の変異によって細胞内に「異常なミトコンドリア」がたまるのが原因だとの研究結果を、東京都臨床医学総合研究所の研究チームが発表した。ミトコンドリアは、細胞内でエネルギーを生産する小器官。高齢者のパーキンソン病も同様の仕組みで発症すると考えられている。異常なミトコンドリアの除去を促す薬が開発できれば、治療につながるかもしれない。研究チームは、若年性パーキンソン病患者で変異があることが分かっている2種類の遺伝子「Parkin」「PINK1」の機能を研究。両方の遺伝子が正常な場合は、異常なミトコンドリアを「PINK1」が選別、「Parkin」が除去しやすい形にすることで、協調して排除していることを突き止めた。遺伝子に変異があると異常ミトコンドリアがたまってエネルギーが生産できなくなる上、有害な活性酸素も出て、神経細胞が影響を受けパーキンソン病につながるのではないかという。パーキンソン病は明確な原因は不明だが、神経細胞が失われ、手足の震えや運動障害が起きる。日本の患者は約15万人と推定され、若年性は10%程度とみられる。

2010年6月30日水曜日

医療制度満足度

日米中など先進、新興22カ国を対象にした医療制度に関する満足度調査で、手ごろで良質な医療を受けられると答えた日本人は15%にとどまり、22カ国中最低レベルであることが分かった。日本は国民皆保険制度があり、長寿社会を誇っているが、高齢者の医療保険の財源確保で苦労している。自国の医療制度に満足している人の割合が高いのはスウェーデン(75%)とカナダ(約70%)で、英国では55%が「満足」と回答。韓国、ロシアなどの満足の割合は30%以下だった。国民皆保険制度が未導入で、オバマ大統領による医療保険制度改革の議論で国論が二分した米国は、回答者の51%が手ごろな医療を受けられると回答した。
日本の満足度が低いのはなぜか? 身近に感じるのは、認知症があると診療を断られるケースが多い。また、超高齢者の、いわゆる老衰を診てくれる医療機関が少なすぎる。

2010年6月29日火曜日

流行性角結膜炎

流行性角結膜炎はウイルスで起こる急性の結膜炎のことで、別名「はやり目」ともいわれ、感染力が強い。学校保健安全法上の学校感染症の一つで、感染の恐れがなくなるまで登校禁止となる。また、児童に限らず成人が感染した場合でも原則的に出勤停止となり、特に医療従事者の感染は時に患者への二次感染を引き起こす。

原因・症状
主にアデノウイルス8型により引き起こされるが、19型・37型によっても引き起こされる。以前はプールでうつる夏の病気だったが、近頃では一年中見られるようになった。1~2週間程度の潜伏期の後、発症する。結膜炎+角膜炎を起こすため、角結膜炎と呼ばれる。また全例ではないが、耳前リンパ節の腫脹を伴う。

結膜炎
・充血し、眼脂(めやに)が出る(ひどいときには「めやに」で目が開かないくらいに    
 なる)
・片目発症後、4~5日後に反対側の目も発症する場合が多い
・涙目になったり、まぶたがはれることもある
・視力が少し低下する場合がある
・症状が重くなると、耳前リンパ節が腫れて触ると痛みを伴う
・症状が強い人の場合は、まぶたの裏の結膜に白い膜ができ、眼球の結膜に癒  
 着をおこす
・症状が治まるまで約2~3週間かかる

角膜炎
・透明な角膜に点状の小さな混濁が生じ、眼痛を感じる
・眩しさやかすみを感じる
・視力障害を感じることもある
・黒目の表面がすりむける角膜びらんを伴い、目がゴロゴロしたり、眼痛がひどく       
 なる
・症状が数ヶ月~丸一年に及ぶこともある

診断・治療
結膜炎の原因はウイルス性の他、アレルギー性、細菌性などもあり、初期の段階での判断は難しい。症状や所見から当該疾患が疑われ診断されるが、現在では迅速診断法として抗原抗体反応を利用したELISAクロマトグラフィー法により、簡易キットを用いた早期段階での判断ができるようになってきている。しかし、検査で陰性であっても必ずしもEKCが否定できる訳ではなく、以下に述べる治療をしつつ数日間は経過を見る必要がある。
ウイルスに対する有効な薬剤はない。充血・炎症に対しステロイドの点眼を行い、細菌の混合感染の可能性に対しては、抗菌剤の点眼を行う。 特に新生児や乳幼児では、細菌の混合感染で角膜穿孔を起こす事があるので注意が必要。
角膜炎が強度になり視力低下や場合によっては失明の危険もあるため、早期に治療を開始する事が望ましい。

注意点
主として手を介した接触感染で、ウイルスに感染した眼を手で触れると、手にウイルスが付着し、そのまま、いろんな物に触れると、その物にウイルスが付いて、他の人がそれに触れて感染するという経路がほとんどとなる。
・手をよく洗い、手で目をこすったり、顔に触れたりしないこと。
・休養をとって体力をおとさない。
・風呂は最後に入り、その湯はすぐに捨てる。
・タオル類の共有はやめる。
・治ったように見えても、しばらくの間は外出などは控える。
・流行時には、院内感染による流行拡大もあるため、乳幼児は、診察を受けると
 き以外は病院につれて行かない。また、入院中の患者が感染した場合、急性期
 でない限り強制退院の対象となり得る。
                               <Wikipediaより引用>

2010年6月28日月曜日

シナプス

慶応大学神経生理学の研究チームは、大人の成熟した脳で神経回路が形成、維持されるのに、2種類のタンパク質の複合体が重要な役割を果たしていることをマウスの実験で解明した。この複合体は、小脳で神経細胞の接着や成熟を促すことを確認。小脳の病気による運動障害の新たな治療法開発につながるのではないかという。人間の脳は、1千億個を超える神経細胞が結合し神経回路をつくっている。細胞と細胞のつなぎ目である「シナプス」は発達に伴って形成され、大人になってからも学習によって改変されるが、大人の脳でシナプスがどのように形成、維持されるかはよく分かっていなかった。研究チームは大人のマウスを使った実験で、小脳にある顆粒細胞とプルキンエ細胞という2種類の神経細胞の間で、「Cbln1」と「GluD2」という2種類のタンパク質が複合体を形成し、細胞と細胞の間で「のり」のように働いて接着を促していることを突き止めた。これらに似たタンパク質は、記憶や学習に関係する海馬や大脳皮質にもあり、将来は、認知症や精神神経疾患の治療法開発にも役立つかもしれない。

2010年6月27日日曜日

後期高齢者健診

75歳以上の後期高齢者の健診受診率が、2009年度は40都道府県で前年度より上がり、全国平均は3ポイント増の24%になる見込みであることが、厚生労働省のまとめで分かった。後期高齢者医療制度が導入された08年度は、ほとんどの都道府県で受診率が低迷。だが制度が浸透して各地で健診の仕組みが整い、増加につながった。受診率が最も高かったのは東京の55%で、次いで富山の44%、群馬と埼玉の36%の順。愛知と熊本は前年度比で10ポイント以上の伸びとなった。受診率が最も低いのは和歌山の5%で、広島の8%、愛媛、長崎の9%と続く。東京と和歌山で10倍以上の差となり、伸び悩む地域の受診率向上が課題となりそうだ。各都道府県の広域連合が昨年12月までに受診率を推計し、厚労省に報告した。10年度については、各広域連合が老人クラブなど地域団体を通じた広報の強化や健診期間の延長を図り、前身の老人保健制度だった07年度の全国平均(26%)を上回る27%を目指す。後期高齢者を対象とした健診は「努力義務」ではあるが、糖尿病など生活習慣病の早期発見などのため、自治体ごとに受診を呼び掛けている。

2010年6月26日土曜日

あんしん情報セット

独り暮らしをしている80歳以上に、医療情報などをまとめて保管するための「あんしん情報セット」を無料配布している自治体がある。緊急時の迅速な救命活動につなげるのが狙い。専用シートに、名前や生年月日、血液型、かかりつけの医療機関、緊急連絡先などを記入。本人の写真、服用中の薬、診察券や薬手帳の写しなどと一緒に、円筒形の専用容器に入れる。容器は救急隊員らが分かりやすいように冷蔵庫で保管し、冷蔵庫の扉に容器があることを知らせる磁石式のステッカーを張る。

2010年6月25日金曜日

悪玉免疫細胞

関節リウマチや多発性硬化症などの原因となる悪玉免疫細胞を作る遺伝子を、東京医科歯科大学などのチームが突き止めた。この遺伝子の働きを抑えれば、関節リウマチなどの新しい治療法になると期待される。英科学誌ネイチャーに12日発表した。免疫細胞は通常、ウイルスなど体内に侵入した異物を探知して攻撃するが、悪玉細胞は自分自身の体も攻撃。神経細胞が傷つけば多発性硬化症、骨なら関節リウマチを引き起こす。同大の研究チームは、関節リウマチ患者の悪玉細胞で「IカッパーBゼータ」という遺伝子が働いているのを発見。マウスでこの遺伝子を働かないようにすると、悪玉細胞の数が通常の5分の1以下に減り、多発性硬化症を起こす薬剤を注射しても発症しなかった。関節リウマチは国内に約70万人、多発性硬化症は約1万2000人の患者がいる。IカッパーBゼータを狙い撃ちする薬を開発できれば、副作用が少ない治療法になるという。

2010年6月24日木曜日

喫煙と肺がん

喫煙率は年々低下しているのに、肺がんで亡くなる人は増えている。たばこは多くの発がん物質を含み、がんの原因の3分の1を占めるとされる。なかでも肺がんは、喫煙と強く関係しており、喫煙者の方が男性で4・4倍、女性で2・8倍なりやすい。日本での肺がんによる死者は1960年に5000人余りだったのが、98年には5万人を超え、胃がんを抜いてがんの種類別死亡原因のワースト1になった。その後も増え続け、2008年は約6万7000人が肺がんで亡くなっている。がんは、正常細胞がゆっくりとがん化していく病気。このため、喫煙率低下の影響が表れるのには、時間がかかる。世界でいち早く、たばこによる健康被害に警鐘を鳴らし、1960年代半ばから消費量が減り始めた米国でも、肺がん死亡率が低下に転じたのは90年代に入ってから。約25年かかった。日本人男性の喫煙率は60年代半ばから年々下がり、09年は39%にまで下がった。だが、たばこ消費量全体の伸びに歯止めがかかったのは90年代半ばになってから。米国の例をあてはめると、日本で肺がん死亡率が減るには、あと10年かかる計算になる。日本人男性の喫煙率は、欧米先進国に比べると、まだまだ高いのも問題。20-50歳代では40%を超える。むしろ、たばこを自由に手に入れることができなかった戦後混乱期に青年期を迎えた1930年代後半生まれの人の肺がん死亡率は低い。ちなみに、がんで亡くなる人が増えている最大の要因は、実は寿命が延びたこと。高齢化の影響を排除した「年齢調整死亡率」でみた場合には、男性の肺がん死亡率は90年代後半から下がり始めている。ただし40年代生まれの患者が増えることで、再び上昇に転じるとの見方もある。禁煙の効果は、個人レベルではもっと早く表れる。国際機関の研究では、禁煙後5-10年以内で肺がんの危険は減り、禁煙期間が長いほど危険度が下がる。たばこの価格を継続して大幅に引き上げる、職場、公共の場所を禁煙化するなどの対策が重要なようだ。

2010年6月23日水曜日

アルツハイマー病

アルツハイマー病の特徴の一つとされる脳の老人斑(アミロイド斑)がなくてもアルツハイマー病の症状が起きることを、大阪市立大などの研究チームがマウスで実証した。このことから、老人斑を抑制するだけでは有効な予防や治療にならない可能性がある。老人斑はアミロイドベータ(Aβ)というたんぱく質が繊維状につながったもので、アルツハイマー病の原因の一つと考えられている。だが、実際の患者の症状の重さと老人斑の数が比例しなかったり、老人斑がなくても発症するケースがヒトで報告されている。大阪市立大の研究チームは、患者の脳では老人斑だけでなくAβの分子が数個~数十個集まった「重合体」も蓄積されていることに着目した。そこで重合体はできるが老人斑はできない遺伝子改変マウスを作製。8カ月ごろからAβの重合体が目立って増えた。それに伴い、記憶中枢である海馬では神経細胞が減少し、平均寿命に近い24カ月(ヒトの80歳程度)では普通のマウスの半分近くになった。プール内の休憩場所を覚えさせる記憶テストでも、8カ月の遺伝子改変マウスは同月齢の普通のマウスが1週間程度で覚える課題をこなせなかった。チームはこうした症状から、老人斑のないマウスもアルツハイマー病を発症したと結論づけた。

2010年6月22日火曜日

末梢血幹細胞移植

骨髄移植推進財団は、白血病の治療のために、健康な人の血液から、血液のもとになる造血幹細胞を取り出して移植する末梢血幹細胞移植について、これまで血縁者間に限られていた移植を、非血縁者間でも行う方針を決めた。厚生労働省の了承を得た上で、今年10月から実施する予定。末梢血幹細胞移植は、骨髄移植と違い提供者に全身麻酔をする必要がないのが利点。海外では白血病治療の主流となっているが、国内では、血縁者間に限り実施されているため、年間500件程度にとどまっている。同財団は運営する日本骨髄バンクへの登録者の約36万人の中からドナーを選ぶ考えで、年内は施設を限定して1~2件実施、来年は15~20件を実施する方針。5年後以降は160施設程度での実施を目指す。末梢血幹細胞移植を行う場合、ドナーには移植前に幹細胞を増やす薬剤を投与するが、2002年にドナーの女性が白血病を発症して死亡。厚労省研究班が、幹細胞を提供した3264人を追跡調査した結果、薬剤と白血病の関係は否定できると結論付けていた。非血縁者間の末梢血幹細胞移植の導入は今後、移植件数の増加につながるだろう。

2010年6月21日月曜日

ポリオワクチン

厚生労働省は、ポリオ(小児まひ)のワクチン開発を行っている国内4社に対し、生きたウイルスを使っておらず、予防接種による感染の恐れがない「不活化ワクチン」の開発を急ぐよう依頼する文書を出した。国内では現在、毒性は弱いが生きたウイルスを使った「生ワクチン」による予防接種を実施。生ワクチンでは数十万~数百万人に1人の割合でまひなどの症状が出ることがあるため、先進国の多くで使われている不活化ワクチンへの切り替えを求める声が患者団体などから上がっている。厚労省によると、国内4社はジフテリア、百日ぜき、破傷風に不活化ポリオを加えた4種混合ワクチンを開発中で、来年にも薬事承認が申請される見通しという。

2010年6月20日日曜日

日本人の腸内細菌

日本人の腸内細菌には北米人で見られない海藻を消化する酵素の遺伝子があることが、フランスとカナダの研究でわかった。のり巻きずしなどを食べる習慣を通じ、ノリに潜んでいた海の微生物が持つ能力を腸内細菌が取り込んだ可能性が高いという。研究グループは、日本人13人と北米人18人の腸内細菌のゲノム(全遺伝情報)を網羅的に解析。すると日本人の腸内細菌だけから、ノリの仲間を餌にしている海洋微生物が持つ、炭水化物を分解する酵素を作る遺伝子が見つかった。人間は自力では消化できない食物からも栄養を摂取するため、細菌に腸というすみかを与え、代わりに、細菌が持つ消化の力を借りている。研究グループは、腸内細菌の働きは多様だが、食べ物に付着した微生物からその機能がもたらされているのだろうと分析。地域の食文化と、腸内細菌の特性の関連を示すものだ。

2010年6月19日土曜日

環境と脳の発達

幼児期に脳の神経回路が形成される際、神経細胞が外部から刺激を受けて活発に活動することで細胞間の結合がより強化されることを大阪大と東京大のチームが突き止めた。先天的な要因だけでなく、視覚や聴覚などの五感から受ける後天的な環境も脳の発達に影響しているようだ。研究では試験管内で脳の神経細胞の配線を再現。神経回路をつくる軸索の起点となる脳の「視床」と、軸索がのびる標的となる「大脳皮質細胞」で、刺激を受けたときに出る電気的パルスをそれぞれ観察し、細胞の活動が軸索の枝分かれに与える影響を調べた。すると、視床と大脳皮質細胞のどちらか一方でも活動が弱いと枝分かれは起こらず、両方が同時に活発な場合にのみ枝分かれが促進され、神経細胞間の結合が強化されることが分かった。

2010年6月18日金曜日

認知症

認知症患者が介護保険制度開始当初の予想を大きく上回る勢いで増えている。施設不足の中、長期ケアに適さない精神科が受け皿になる現状もある。今後、認知症患者を誰がどこでみるのかが課題である。精神科病院に入院し、徘徊などの症状が落ち着いても、退院のめどが立たない。「これ以上面倒を見られない」と、家族が引き取りを拒否するからだ。介護施設はどこも満杯で入れない。医療費を滞納し、まるで家族が捨てていったような場合もある。今、精神科病院で認知症の入院患者が増えている。暴力や暴言で家族や施設が困り果て”最後のとりで”として頼ってくるからだ。症状が治まれば退院できるのに行き先はない。結果的に社会的入院を続けることになる。厚生労働省によると、2008年の精神病床の認知症入院患者は1999年に比べ4割多い約5万人に増加。長期入院患者の退院促進などで空きベッドを抱える精神科病院と介護施設不足で行き場のない利用者のニーズがマッチした形だ。精神科では重い精神症状がある患者などを治療してきたが、すべての医師が認知症に詳しいわけではない。認知症病棟ではなく、一般病棟に入るケースもあり、長期入院には適さない。認知症で要介護度が重い人や合併症のある人、低所得者などへの早急な対策が必要で、精神科病院への安易な受け入れは社会的入院患者を多く抱えた過ちを繰り返してしまう恐れがある。厚労省は、08年に「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」を開始、対策の軸足を介護から医療にやや移した。しかし対策は遅々として進まない。治療の中核として全国150カ所に設置予定だった「認知症疾患医療センター」は今年2月時点で半分以下にとどまっている。認知症を診る医師は増えてきたが、全国で千人程度との見方もある。国内でアルツハイマー型認知症の薬を販売する製薬会社によると、まだ患者の5割強にしか届いていない計算になるという。認知症患者は15年には250万人になる見通し。認知症を専門医や専門機関だけで診ていくのは今後は難しいというのが関係者の見方だ。施設以外での受け皿となるグループホームが急増中だが、防火など設備面の対策も課題となっている。介護現場からは「早期発見のための医療と介護の連携や24時間対応の見守りを可能にする包括的サービス導入が必要」などの声が上がる。認知症に特化した介護サービスの提供は制度見直しの大きな柱となりそう。

2010年6月17日木曜日

さする

打撲したり骨折したりした場合に痛む場所を「さする」という動作には、傷ついた神経回路を修復する効果があることが、群馬大大学院の研究でわかった。研究では、神経細胞にあって熱を感じるセンサーの役割を果たすタンパク質「TRPV2」に注目。マウスやニワトリの細胞を使った実験で、TRPV2があると、TRPV2をなくした細胞に比べて、刺激を伝える神経の「突起」という部分が長く伸びた。「さする」行為と同様の刺激を与えるため、TRPV2がある人間の神経細胞を載せた膜を引っ張ると、細胞が反応することを確認。TRPV2が物理的な刺激を受け止めるセンサーの役割を果たし、人間でも突起が伸びて神経が再生するのを促していると考えられるという。将来、胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞などを使った再生医療技術と組み合わせると、効果的な神経再生に役立つ可能性があるのではないかとしている。

2010年6月16日水曜日

はしか・風しんワクチン

総務省は今年3月、海外へ修学旅行に行く高校2年生も、はしかの無料予防接種の対象に含めることができるか検討するよう厚生労働省に要請した。定期の予防接種の対象は現在、1歳と小学校入学前の1年間、中学1年生、高校3年生。2008年度に修学旅行で海外に出た約17万人の高校生のうち、約9割は2年生。海外で発症した例もあり、防止のため検討する必要があるとした。要請は、行政相談を受けた総務省が、行政苦情救済推進会議の意見を踏まえ行った。このほか総務省は「薬の処方せんの使用期間は4日以内」などの広報啓発を厚労省に求めた。

2010年6月15日火曜日

朝食

内閣府が発表した「食育の現状と意識に関する調査」によると、朝食を「ほとんど食べない」と答えた人が、20代男性で24・8%となり、年代別で最高だった。女性でも20代が11・8%と最も高かった。調査は2005年に始まり今回で5回目。朝食を食べる頻度に関する質問は初めて。内閣府による調査でも男女ともに若年層ほど朝食を抜く実態が浮き彫りになった。30代男性も21・4%と20代に次いで高かった。一方、60歳以上では90%を超える男女が「ほとんど毎日食べる」とした。結婚との関係では、「ほとんど食べない」と答えた男性のうち未婚者は22・7%だったが、既婚者は7・1%。女性も未婚者11・5%、既婚者3・9%で、未婚者の方が朝食を食べない傾向にあった。

2010年6月14日月曜日

喫煙率

喫煙率は東が高く西は低い。国立がんセンターがん対策情報センターは、都道府県別の成人喫煙率を公表。最新の2007年の集計では、最も高い北海道(31・5%)と最も低い島根(21・0%)は10ポイント以上の差があった。受動喫煙防止条例を制定した神奈川のように、都道府県でも独自にたばこ対策に取り組む余地があるのではないだろうか。厚生労働省の「国民生活基礎調査」のうち、01年から3年に1回調査している喫煙状況で「毎日吸う」と「時々吸う」と答えた人数を集計、分析した。全国平均は01年に30・5%だったが、07年に25・6%になり、年に1ポイント程度のペースで下がっていると推測される。07年の喫煙率が高いのは北海道、青森、宮城の順で、低いのは島根、鹿児島、奈良の順。男女別では、男性は青森、北海道、福島など北関東以北、女性は北海道、東京、神奈川など政令市がある地域などで高い傾向があった。

2010年6月13日日曜日

手足口病

ピコルナウイルス科のエンテロウイルスの一種が原因となっておこるウイルス性疾患。病名は手のひら、足の裏、口内に水疱が発生することに由来する。原因となるウイルスに、コクサッキーウイルスA16やエンテロウイルス71などが挙げられる。本症は中等度の感染力があり、粘液や外気からの直接感染または感染者の糞便により伝染する。症状としては、発熱 や口唇周囲の紅潮 、手掌と足底の水ぶくれやただれなどがある。ただし、常に全ての徴候が出現するとは限らない。手足口病のための特別な治療はない。ただれた部位の熱や痛みといった個々の症状は、薬物を用いて緩和することができる。本症は、一定の過程を経て進行するウイルス性疾患であり、症状が重篤でない限り、薬が出さないことが多い。通常、感染症が治るまで自宅で安静にすることが病気に苦しむ子供にとって最も大切なことである。熱冷ましは高熱を下げるのに役立ち、水やぬるま湯による入浴もまた、乳幼児の熱を下げるのに役立つ。なお本症は、家畜感染症である口蹄疫とは異なる(口蹄疫の原因もピコルナウイルス科の一種であるが、ヒトにおいては発症しない)。手足口病は通常、乳幼児に感染し、病気としてはごくありふれたものである。 本症は通常、保育所幼稚園での流行として、夏季に起こるのが一般的である。

2010年6月12日土曜日

ヘルパンギーナ2

臨床症状
2~4日の潜伏期を経過し、突然の発熱に続いて咽頭粘膜の発赤が顕著となり、口腔内、主として軟口蓋から口蓋弓にかけての部位に直径1~2mm 、場合により大きいものでは5mmほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現する。小水疱はやがて破れ、浅い潰瘍を形成し、疼痛を伴う。発熱については2~4日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失する。発熱時に熱性けいれんを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈することがあるが、ほとんどは予後良好である。エンテロウイルス感染は多彩な病状を示す疾患であり、ヘルパンギーナの場合にもまれには無菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがある。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきであるが、項部硬直は見られないことも多い。後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要である。鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあげられる。

治療・予防
通常は対症療法のみであり、発熱や頭痛などに対してはアセトアミノフェンなどを用いることもある。時には脱水に対する治療が必要なこともある。無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要であるが、後者の場合には特に循環器専門医による治療が望まれる。特異的な予防法はないが、感染者との密接な接触を避けること、流行時にうがいや手指の消毒を励行することなどである。

学校保健法における取り扱い
ヘルパンギーナは学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定されてはなく、一律に「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くなり、授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさ、あるいは合併症の発生などから保護者の間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3 種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈される。本症では、主症状から回復した後も、ウイルスは長期にわたって便から排泄されることがあるので、急性期のみの登校登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行阻止効果は期待ができない。本症の大部分は軽症疾患であり、登校登園については手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。

2010年6月11日金曜日

ヘルパンギーナ1

発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性発疹を特徴とし、夏期に流行する小児の急性ウイルス性咽頭炎であり、いわゆる夏かぜの代表的疾患。その大多数はエンテロウイルス属、流行性のものは特にA群コクサッキーウイルスの感染によるもの。

疫 学
我が国では毎年5 月頃より増加し始め、6~7月にかけてピーク を形成し、8月に減少、9~10月にかけてほとんど見られなくなる。国内での流行は例年西から東へと推移する。患者の年齢は4歳以下がほとんどであり、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4、0歳代の順となる。

病原体
エンテロウイルスとは、ピコルナウイルス科に属する多数のウイルスの総称であり、ポリオウイルス、A群コクサッキーウイルス(CA)、B群コクサッキーウイルス(CB)、エコーウイルス、エンテロウイルス(68~71 型)など多くを含む。ヘルパンギーナに関してはCA が主な病因であり、2、3、4、5、6、10型などの血清型が分離される。なかでもCA4がもっとも多く、CA10、CA6 などが続く。またCB 、エコーウイルスなどが関係することもある。エンテロウイルス属の宿主はヒトだけであり、感染経路は接触感染を含む糞口感染と飛沫感染であり、急性期にもっともウイルスが排泄され感染力が強いが、エンテロウイルス感染としての性格上、回復後にも2~4週間の長期にわたり便からウイルスが検出される。

2010年6月10日木曜日

肺炎球菌ワクチン

三重大学大学院・呼吸器内科の研究グループは、これまで明らかにされていなかった、施設入所者に対する肺炎球菌ワクチンの有効性について試験の結果、ワクチン接種が入所者の肺炎発症および死亡率の低下をもたらし有効性が確認されたことを報告した。研究グループは、三重県内の高齢者施設(9病院および23の病院関連施設)から1,006名の被験者を登録し試験を行った。被験者は、2006年3月~2007年1月の間に登録され、ワクチン接種群(502例)とプラセボ群に無作為化され、2009年3月末まで観察が行われた。結果、肺炎発症が確認されたのは、ワクチン接種群63例(12.5%)、プラセボ群104例(20.6%)だった。肺炎球菌性肺炎と診断されたのは、ワクチン接種群14例(2.8%)、プラセボ群37例(7.3%)だった。全原因肺炎および肺炎球菌性肺炎の発生率は、ワクチン群よりもプラセボ群で有意に高かった。また肺炎球菌性肺炎による死亡も、プラセボ群が有意に高かった。全原因肺炎による死亡率とその他原因による死亡率については、ワクチン接種群とプラセボ群とで差異はなかった。日本では現在、施設入所者への肺炎球菌ワクチン接種は国策として推奨されていない。しかし、海外におけるこれまでの報告(施設肺炎リスクは地域の14倍、発生施設の接種率は5%、接種施設の緊急搬送の減少)、過去の実態調査(日本の高齢者施設の接種率は3%未満)および今回得られた知見は、日本の高齢施設入所者の死亡率および医療費低減のため、肺炎球菌ワクチン接種を国策として行うことの必要性を提起するものである。

2010年6月9日水曜日

妊娠糖尿病

妊娠中、特に妊娠初期(1~12週まで)における過度の体重増加は、妊娠中期(13~24週まで)から後期(25週~出産まで)の妊娠糖尿病の発症リスクを上昇させることが、米カイザーパーマネンテ研究所の研究で明らかになった。研究では、1996年から1998年の3年間に出産した女性の記録から、妊娠糖尿病345例および非妊娠糖尿病800例のデータを検討した。出産時年齢や経産歴、妊娠前のボディ・マス・インデックス(BMI)、人種などの因子を調整した結果、妊娠中の体重増加が米国医学研究所推奨範囲を超えた妊婦では、増加が推奨範囲内あるいはそれ以下だった妊婦に比べて、妊娠糖尿病の発症リスクが50%上昇することが判明した。妊娠中の体重増加と妊娠糖尿病の関連は、過体重や非白人女性において最も強かったという。研究では、妊娠初期の体重増加は修正可能な危険因子であることも明らかになった。医療従事者は、患者が特に妊娠初期のうちに適切な妊娠体重について話しを行い、妊婦の体重増加を監視していく必要がある。妊娠糖尿病は米国で全妊娠の7%に合併するとされ、早産や帝王切開、産後の2型糖尿病発症の原因になるだけでなく、出生児の将来の糖尿病発症や肥満リスクも上昇させる。

2010年6月8日火曜日

統合的ケアプログラム

慢性腰痛のため仕事ができない患者が特定のタイプのリハビリテーションプログラムを受けると、平均4カ月早い回復がみられることが新しい研究で示された。オランダおよびカナダのグループによる今回の研究では、仕事のできない状態が平均6カ月続いている18~65歳の慢性腰痛患者134人を対象に、通常の治療を受ける群と「統合的ケア(integrated care)」と呼ばれるプログラムを受ける群に無作為に割り付けた。統合的ケアプログラムでは、労働環境に適応するための調整や、患者に安全な動き方と積極的に動くことを教える運動プログラムを実施した。1年の間に、統合的ケアプログラムを受けた患者は平均88日で仕事に復帰することができたが、通常の治療を受けた患者は復帰までに平均208日を要した。疼痛の改善レベルについては両群間に統計学的有意差は認められなかったものの、統合的ケアプログラムによって患者の機能的状態が有意に改善され、自宅と職場の両方で身体障害が軽減されたと研究著者らは指摘している。

2010年6月7日月曜日

職場検診

厚生労働省は、職場で実施する定期健康診断で、血液、血圧、心電図などの検
査結果に何らかの異常が見られた労働者の割合(有所見率)が高かった事業場に対し、改善に向けた取り組みを強化するよう指導する方針を決めた。厚労省が50人以上の事業場を対象に2008年に実施した調査によると、有所見率は51・3%で9年間で約8ポイント増加。脳・心臓疾患による労災支給決定件数も08年度は377件と増加傾向にある。労働局ではこれまで事業場に健康診断の結果報告を求めるだけだったが、過労死を防止するためにも取り組み強化が不可欠と判断した。全国に300以上ある労働基準監督署が、有所見率が高いと判断した事業場をそれぞれ一つ以上抽出。労働者の作業内容の転換や労働時間短縮などの措置を確実に実施するよう指導し、保健指導や健康教育も行うよう要請する。厚労省の05年の調査では、有所見者に対し作業内容の転換や労働時間の短縮などの措置をした事業場は39%、保健指導は35%にとどまっていた。

RSウイルスチェック

RSウイルスチェック
□38度以上の熱がある
□呼吸が浅く、呼吸数が1分間に60回近くなる
□ゼイゼイせきが続く
□たんが詰まる
□発症後、数時間で急激にぐったりする
 (以上の項目に一つでも当てはまったら受診を)

2010年6月5日土曜日

RSウイルス

かぜ症状を起こす呼吸器感染症の原因ウイルスは、数百種にも及ぶといわれる。中でも乳幼児が最も感染しやすいのがRSウイルス。2歳までにほぼすべての子どもが感染し、持病があったり早産だった子どもは重症化しやすいにもかかわらず、認知度は低い。冬季に乳児が鼻汁、せきに続いてゼイゼイ言うような場合は30~40%がRSウイルス感染症によると考えられる。大人は鼻孔などの上気道の感染で済むため症状は軽いが、乳幼児は気管支などの下気道に感染するため、重症化する恐れがある。気管支炎にかかると呼吸困難のため不機嫌になったり、哺乳量が減少し、食欲の減退、嘔吐などを起こす。呼吸の度にゼイゼイ、ヒューヒューという音を伴って小鼻をピクピクさせる様子が見られ、さらに悪化すると血液中の酸素濃度が低下し、唇や顔色が紫色になる「チアノーゼ」が見られるようになる。鼻が詰まって息苦しそうな場合には、早急に小児科を受診すべきだ。RSウイルスは、感染した人のせきで生じた飛沫や気道から分泌された鼻水などに接触することで感染する。さらに鼻や口の粘膜に加えて目からも感染すると考えられている。看護する人や家族、特にかぜ症状の人はマスクをして、手を洗うことも重要になる。RSウイルスは非常に感染力が強く、ウイルスがおもちゃなどに付いて4~7時間は感染力を持つとされる。乳幼児は手近に置いてあるものを何でも口に入れたがる。家庭内にかぜをひいている人がいるときは、アルコールティッシュなどで赤ちゃんの周りのものをこまめに消毒することが大切。ウイルスはエンベロープという表面膜を持つが、せっけんや消毒用アルコール、塩素系消毒薬などに触れると、すぐに感染力を失う。また、流行する秋から春にかけては、特に小さな子どもを人ごみに連れて行かない配慮も必要。RSウイルスは感染しても持続的な免疫ができにくい。予防のためのワクチン開発は30年近く続けられているが、実用化には至っていない。抗体医薬は高価で、最善の予防法は周囲の大人も含めた手洗いなどの励行。