2011年6月30日木曜日

土食

故意に土を食べるという概念はほとんどの人に嫌悪感をもたらすものかもしれないが、この慣習の歴史は古く、実際、健康的なものであると考えている人もいることが新しい研究で示された。既存の研究を分析した結果、土食は、細菌や寄生虫といった侵入者から身体を守る可能性があるという。
ヒトは何千年も前から土を食べており、住民のいる全大陸、ほとんどすべての国で報告されている。土を食べる理由を明らかにするため、米コーネル大学は、土食の文化に関する報告480件以上を調べ、パターンを検討した。
研究の結果、豊富に食物があっても土を食べ(通常、最初は煮る)、満腹になるほどは食べない傾向があることが判明した。栄養については、最もよく食べられる土は粘土の一種で、ミネラルは含まれていない。実際、摂取された粘土により消化管による栄養摂取が阻害される可能性があることが判明した。
米コーネル大学は、土が寄生虫や病原菌から身体を守る、身体防御というのが最良の回答であると考えており、土食が寄生虫や細菌に特に弱い妊娠初期の女性や思春期前の小児に最も多くみられることを指摘。この理論は、土食は食物が媒介する病原菌が最も多い熱帯地方で最も一般的であり、胃腸障害が認められる場合に土を食べたがることにより裏付けられる。

2011年6月29日水曜日

リンゴの皮

リンゴの皮に含まれるウルソル酸と呼ばれる天然化合物が、加齢や疾患による筋肉消耗の予防に有用である可能性が、マウスを用いた研究でわかった。
米アイオワ大学の研究では、最初にヒトとマウスの双方において絶食に反応して変化する63の遺伝子と、絶食をした人と脊髄損傷患者の筋肉で発現が変化する29の遺伝子が同定された。次に1,300の小分子を検討し、筋萎縮を抑制する可能性のある化合物としてウルソル酸に着目した。
次の段階で、ウルソル酸により、食餌を与えていないマウスの筋肉消耗を予防することができ、正常マウスの食餌にウルソル酸を何週間も加えると筋肉成長が促されることが判明した。また、ウルソル酸を投与したマウスのほうが痩せ、血糖値、血中コレステロール値およびトリグリセリド値が低下した。
マウスでみられた健康上の便益は、筋肉のインスリンシグナル伝達の強化と、筋萎縮に関連する遺伝子シグネチャーの修正によるという。ただし、この知見がヒトを対象とした臨床試験で確認されるかどうか、通常の食事で摂取する量のウルソル酸が筋肉消耗を予防するかどうかは不明である。しかし、この知見がヒトで確認されれば新薬の開発につながる可能性がある。
ウルソル酸は興味深い天然化合物であり、リンゴの皮の成分で通常の食事の一部となっている。1日1個のリンゴは医者いらずとも言われる。筋肉消耗は疾患や加齢に伴いみられることが多く、消耗により入院期間が延長し、回復が遅れ、患者が自宅に帰れない場合もある。筋肉消耗については十分に理解されておらず、それに対する薬剤もない。

2011年6月28日火曜日

アルツハイマー病の早期発見

アルツハイマー病の早期の警告的徴候(warning sign)を検出する脳スキャンが、年内にも米国で利用可能となる見込みである。ただし、アルツハイマー病患者にとっては、まだ有効な治療法が開発されていない現状では、この診断法が有用なものとなるには時期尚早かもしれない。
アルツハイマー病は米国では死因の6番目となっており、近年、その死亡数は増加傾向にある。脳に沈着し、老化(senility)現象を引き起こすβ(ベータ)アミロイドと呼ばれる脳内蛋白(たんぱく)の徴候を検出するPET(ポジトロンCT)スキャンの有効性を示す研究結果が米国核医学会年次集会で発表された。
PETスキャナーで検出される蛋白濃度は脳における情報処理が遅い人のほうが高く、高齢者ではより高度な記憶障害に関係する。ただし、脳スキャンにより老化の徴候がみられた患者を治療するための医師の選択肢は限られている。
より正確かつ早期に診断を受けられることは、記憶力が低下し始めたときに起きている問題を知りたい人にとって重要。残念ながら、有効な治療法が見つかるまで疾患の進行を止めるためにできることはない。有効な治療法が見つかれば、本当の価値が出る。
このスキャンは安価でなく米国では何千ドルもかかるが、約90%でアルツハイマー病を正確に診断できる。医師自身が行う場合は80%になる。このスキャンにより同疾患を早期段階で検出できる。

2011年6月27日月曜日

血液検査で消化器がん発見

金沢大発の医療ベンチャー企業「キュービクス」は、簡単な血液検査だけで消化器がんを発見できる世界初の検査キットの輸出を目指し、欧州人向けの性能試験のためドイツの医療企業に検査キットの提供を始めた。
同社は、約2年前に、消化器がんの有無を血中の遺伝子の変化で判別する新技術を使い、マイクロアレイと呼ばれる検査キットを製造。
この検査キットを使えば、2・5ccの血液を採取するだけで、3日で結果が分かるといい、胃がん、大腸がんなどの消化器がんを9割の精度で発見できるという。同社によると、これまでの性能試験は日本人だけに行われてきたため、人種が違っても同様の性能があるかどうかを調べようと、ドイツの企業と共同で試験に臨むことにした。
マイクロアレイは8人分を同時に検査でき、原価が1枚約40万円。人間ドックのオプションとして需要が期待できる。

2011年6月26日日曜日

家庭血圧

診察室収縮期血圧(SBP)の最大値(外れ高値)が、同平均値とは別に、心血管イベントの強力な予測因子であることが最近報告されたが、自治医科大学循環器内科学部門の研究グループは、同様に家庭SBPの最大値が同平均値よりも標的臓器障害(TOD)の重症度を反映する可能性があるのではと仮定し、未治療の高血圧患者を対象に試験を行った。結果、最大家庭SBPとTODには相関関係があることが認められ、平均値に加えて評価をすることで、心臓や動脈の高血圧性TODの予測値を上げられる可能性があることがわかった。
研究グループは、2004年6月~2007年12月の間、山口県・岩国市立美和病院内科の外来で募った356例の未治療の高血圧患者(2週間以上あけた2回の受診時測定診察室血圧の平均値が、SBP値140mmHg以上かDBP値90mmHg以上、あるいは両方該当)を対象に試験を行った。
被験者は、家庭血圧を連続14日間、朝と夕それぞれ3回ずつ座位にて測定し、測定値は血圧計に記録された。
最大家庭SBPとは、毎日の朝測定3回の平均値、夕測定3回の平均値のうち最も高い値のものと定義した。
TOD有無については、心エコーにて計測した左室心筋重量係数(LVMI)、超音波検査による頸動脈内膜中膜厚(IMT)と、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を評価し測定した。
おもな結果は以下のとおり。 ●被験者の平均年齢は66.6歳、44.7%(159例)が70歳以上であった。被験者1人当たりの14日間の家庭血圧の測定総回数の平均値は79.8±7.9であった。 ●最大家庭SBPと、LVMI、頸動脈IMT、UACRとは、いずれも有意な相関関係が認められた。 ●LVMI、頸動脈IMTとの相関係数は、最大家庭SBPのほうが平均家庭SBPより有意に大きかった。 ●多変量回帰分析の結果、平均家庭血圧値に関係なく、最大家庭SBPは、LVMI、頸動脈IMTと独立した相関関係を示した。 ●最大家庭SBPを、平均診察室血圧と平均家庭血圧に加えて評価を行うことで、左室肥大、頸動脈アテローム性動脈硬化症の各予測モデルの適合性は有意に改善された。
本研究は、家庭血圧の変動性の増大が、平均値とは独立して、新規の高血圧性臓器障害の指標となることを示した貴重な臨床研究である。
昨年、オックスフォード大学の先生たちが、心血管ハイリスク群において、経過中の外来血圧の日差変動性(SD)やその最大収縮期血圧が、平均値とは独立して極めて大きな予後予測因子となることを示した。
この研究発表以降、血圧変動性が注目されているが、日差血圧変動性の増大は、外来血圧のみならず、家庭血圧でもみられる。本研究は、その日差変動性の増大と最大収縮期血圧が、平均家庭血圧とは独立して、左室肥大、頸動脈硬化、微量アルブミン尿と関連していることを示した。最大収縮期血圧は、家庭血圧平均値よりもより強く、さらに独立して、これらの臓器障害指標と関連していた。
また、最大収縮期血圧は、平均血圧レベルが130mmHg未満の血圧管理良好群においても、左室肥大や頸動脈硬化と独立して関連していた。
現在、高血圧管理において家庭血圧は不可欠である。これまで、平均値のみを重要視していたが、これからは、時々高値を示す最大血圧値にも留意して、臓器障害やリスクを評価してゆく必要がある。

2011年6月25日土曜日

手足口病

岡山県では、幼児に手足口病の感染が広がっているとして注意を呼び掛けている。県感染症発生動向調査によると、県内54の定点医療機関(小児科)の平均患者数が6月6日から12日にかけて7・31人と過去10年間で最も多かった。
手足口病は夏に流行するウイルス感染症で、発症者の80%が3歳以下。発熱があり、口腔粘膜や手足などに2~5ミリの水ほう性発しんが出る。通常は合併症や後遺症もなく1週間以内で治るがまれに髄膜炎を引き起こす。
対策は、(1)外から帰ったら手洗い、うがい(2)症状がある人とは密接な接触を避け、タオルなどの共用は避ける(3)高熱、頭痛、おう吐がひどい場合は早めに医師の診察を受ける。

2011年6月24日金曜日

豊胸手術

米食品医薬品局(FDA)はこのほど,生理食塩水やシリコンジェルを注入する豊胸手術と未分化大細胞リンパ腫(ALCL)との間に相関が認められると発表した。
ALCLは非常に珍しい種類のがんである。今回のレポートによると,FDAが過去の文献をレビューした結果,豊胸手術を受けた患者ではインプラント挿入部付近の瘢痕莢膜(scar capsule)におけるALCL発症リスクがごくわずかではあるが有意に上昇していた。FDAはこの結果を受け,医療従事者は豊胸手術を受けた女性でALCLの診断が確定した例を必ず報告するよう求めている。また,豊胸手術を受ける患者がこのような潜在的リスクについて十分に説明を受けられるよう,乳房インプラントメーカーと共同で,患者および医療従事者向けの製品添付文書を改訂する予定だ。
米国立がん研究所(NCI)によると,ALCLはリンパ節や皮膚をはじめ身体のさまざまな部位に発生し,米国では,1年間に女性の約50万人に1人がALCLと診断される。豊胸手術を受けていない女性を除き,乳房組織にALCLが見つかる例は,約1億人に3人と少ないことが分かっている。
今回の通告は,1997年1月~2010年5月に発表された文献のレビュー,海外の規制当局や研究者,乳房インプラントメーカーからの情報に基づいている。
文献のレビューでは,生理食塩水やシリコンジェルによる豊胸手術を受けた後にALCLを発症した34例が特定された。症例の大半は,豊胸手術部位が完全に治癒した後に疼痛,しこり,膨張,乳房の非対称を訴えて来院した際に発見されている。これらの症状は,インプラント挿入部周囲における漿液貯留(漿液腫),瘢痕化,莢膜形成,腫瘤などによるもので,漿液や瘢痕組織を調べた結果,ALCLと診断された。
豊胸手術後にALCLを発症した女性は全世界でおよそ60例いるが(FDA調べ),正確な数は分かっていない。すべての症例が文献に報告されているわけではないし,重複して掲載されているかもしれない。豊胸手術を受けた女性は全世界で推計500万~1,000万人とされている。
FDAは医療従事者に対して,以下の通り推奨している。
 (1)豊胸手術を受けた女性がALCLと診断された場合,Medwatch(FDAの安全情報と有害事象報告プログラム)に報告すること。報告はインターネットや電話で受け付けている
 (2)患者のインプラント挿入部周囲に遅発性の漿液貯留が認められた場合,ALCLの可能性を念頭に置くこと。採取した漿液の病理検査を行い,ALCLを除外する
 (3)豊胸手術を受けた女性に対するルーチンベースでの診察や経過観察を変更する必要はない。ALCLは非常にまれな疾患で,豊胸手術を受けた女性でも発症する確率はごくわずかである
さらに,豊胸手術を受ける女性に対しても以下を推奨している。
 (4)女性は挿入された乳房インプラントの観察を怠らないこと。また,変化に気付いたら主治医に連絡する
 (5)これから豊胸手術を受けようと考えている女性は,リスクと便益について医療従事者と話し合うこと

2011年6月20日月曜日

HPV感染

性的に活発な人々のヒトパピローマウイルス(HPV)の感染率は80%を超え,HPV感染症は一般的によく見られる性感染症であるが,HPVは性交時の体液ではなく,感染した上皮細胞が剥落したものを介して伝播するため,通常の性感染症とは異なる。そのため,コンドームの使用は感染を確実に防ぐ対策にはならない。子宮頸がんだけでなく,肛門がんの予防のためにも,高リスク群にはHPVワクチンを接種することが推奨される。
近年,すべての子宮頸がんのうち約70%は,高リスク型HPVとされる16型もしくは18型の感染が原因で,低リスク型の4型や6型は性器疣贅などのリスクの低い病変を惹起するにとどまることが一般にも知られるようになった。
しかし,HPV 16型あるいは18型に感染しても,感染が持続するのは20%にとどまり,異形成に進展するのは5~10%,15年以内にがんが生じるのは1%である。ただし,1%という数を軽視してはならない。一般市民のHPV感染率の高さからすると,極めて多くのがん患者が見積もられる。
一方,肛門がんの80%強もHPV 16型によるものとされており,HPV感染は男性における肛門がんの原因としても注目されている。特に危険なのは同性の性的パートナーがいる男性で,こうした男性がHPVだけでなくHIVにも感染すると,肛門がんの発症リスクは75倍に上昇する。同性のパートナーがいる男性446例を対象とした研究では,26%で正常な粘膜であることが確認された一方,35%で中等度,35%で重度の異形成が認められ,2.5%で顕性の肛門がんが見つかったとしている。
肛門がんに対するHPVワクチンの有効性を支持する有力なエビデンスはない。しかし,免疫機能が低下している患者においても4価HPVワクチンの忍容性が良好であることが明らかにされている。
HPV 16型にまだ感染していない男性がHPVワクチンを接種すれば,肛門がんを効果的に予防できると考えられており,一定リスクがある患者にはHPVワクチンの接種が勧められる。

2011年6月19日日曜日

フィブリノゲン

医薬品開発会社の免疫生物研究所は、血液を固める作用のあるタンパク質「フィブリノゲン」を、遺伝子組み換えカイコから生産することに成功した。同社によると、カイコによるフィブリノゲン生成に成功したのは世界初。
止血などに用いられるフィブリノゲン製剤は人の血液から製造されるため、C型肝炎などのウイルスが混入するリスクがあり、一部の製剤による感染被害で薬害肝炎訴訟も起きた。カイコを使えばウイルス混入の恐れがない上、血液由来の製剤より安価な製造が期待できる。
日本製粉との共同研究で、カイコの遺伝子にフィブリノゲンを発現する人の遺伝子を組み込み、繭に分泌されたフィブリノゲンを抽出する仕組み。免疫生物研究所は、安全性の確認などで実用化には3~5年かかるとみている。今後、繭を大きくしたり、抽出の効率を上げたりして生産量の向上を図る。

2011年6月18日土曜日

買い物と死亡リスク

台湾国立衛生研究所の台湾の高齢者データベースを用いた研究から,買い物に頻繁に出かける高齢者では,あまり買い物に出かけない高齢者に比べて死亡リスクが低いことがわかった。
今回は,1999~2000年に行われた高齢者の栄養・保健調査のデータを用い,買い物の頻度と死亡の関係について検討した。解析には在宅で自立生活を送っている65歳以上の高齢者1,841人の人口動態,社会経済的地位,健康行動,買い物の頻度,身体機能,認知機能に関するデータが用いられた。認知機能や身体機能については妥当性が証明された質問票により評価し,年齢,性,学歴,民族,経済状況,雇用状況,ライフスタイルに関する因子,慢性疾患の有病率などを考慮した。
回答者のうち62%が75歳未満で,54%が男性であった。大多数が健康的なライフスタイルを保っており,4人中3人は経済的に自立していた。60%は1種または2種の慢性疾患を有していた。
1週間の買い物頻度については,48%が「全く行かない」あるいは「頻繁には行かない」,22%が「1週間当たり2~4回」,17%が「毎日行く」,残りが「1週間に1回」と回答した。
1週間に1回以上買い物に行く高齢者は,年齢がより若く,男性が多い傾向にあった。また,そのような高齢者には喫煙および飲酒の習慣があり,身体的・精神的な健康状態が良好で,定期的に身体活動をしており,夕食をともにする友人や仲間がいる者が多い傾向も認められた。
さらに,身体機能と認知機能などの交絡因子で調整した結果,毎日買い物に行く高齢者では,ほとんど行かない(1週間に1回以下)高齢者に比べて死亡リスクが低かった。なお,男女別に見ると,毎日買い物に行く女性では,ほとんど行かない女性に比べて死亡リスクは23%低かったのに対し,男性では28%低く,毎日買い物に行くことで得られる便益は女性よりも男性で大きかった。
今回の研究について,買い物行動は,地域の結束を強め,地域経済に貢献するだけでなく,個々人の幸福感や健康,安心感などをもたらす。さらに,買い物に出かけることでより長生きできる可能性もあることがわかった。
また,買い物に出かけることで新鮮な食材が入手できるため,健康的な食生活が維持され,そのことが健康増進に寄与している可能性がある。さらに,頻繁に買い物に行く習慣のある高齢者は,必ずしも毎回生活に必要なものを買い求めるために出かけるのではなく,友人や仲間との交流,運動のために出かけている可能性もある。あらたまってエクササイズをするにはそれなりの動機が必要となるが,買い物であれば気軽に出かけることができる。健康的な加齢を目的とした従来の健康増進策に比べて,買い物がより魅力的なアプローチになりうるだろう。

キャラクターが味覚に影響

ペンシルベニア大学の研究で、シリアル食品の箱にイメージキャラクターが描かれているか否かで,小児の味への評価は左右されるということがわかった。
小児向け商品には,アニメや映画のキャラクターがしばしば用いられるが,これは小児に商品を印象付け,覚えさせるための一般的なマーケティング手法である。小児は銘柄など言語的なものより非言語的な要素の方が記憶しやすいため,キャラクターやロゴなどによって視覚に訴えることで,宣伝効果を高めることができる。
今回,シリアルの箱にキャラクターが用いられること,また商品名に健康的なイメージを持たせることで,小児のシリアルに対する味の評価がどう変化するか調べた。
まず,「Healthy Bits」または「Sugar Bits」の商品名で,外箱にキャラクターが描かれているものと描かれていないものの4種類のシリアル箱を用意。小児80例(4~6歳,平均年齢5.6歳)に対し,これらシリアル箱のうちの1種類を見せた後,実際には同一のシリアルを味見させ,味の好き嫌いを5段階で評価させた。
その結果,小児のほぼ全員がシリアルを好きだと回答したものの,キャラクターが描かれている箱を見た小児の方が,そうでない小児よりも高い評価を付ける傾向にあった。また,商品名がSugar Bitsではなく,Healthy Bitsのシリアル箱を見せた小児の方が,よりおいしいと感じていた。
商品名がSugar Bitsで,キャラクターが描かれていない箱を見せられた小児では,他の小児と比べ評価が低かった。一方,商品名がHealthy Bitsの場合は,キャラクターの有無により小児の評価が変化することはなかった。
今回の研究から,食品の包装にキャラクターを用いることが,小児の味に対する評価に影響を及ぼすことが示された。健康的な食事をイメージさせるようなメッセージでも小児の共感が得られるようだが,キャラクターによって受ける影響の方が上回ることがわかった。

2011年6月16日木曜日

がんは人為的な現代病

マンチェスター大学生物医学エジプト学KNHセンターの研究で、がんは汚染や食事などの環境因子によって引き起こされる現代病で,ヒトによってつくり出された可能性が高いことがわかった。古代エジプト・ギリシャとそれ以前の時代の遺物と文献を調査した今回の研究では,エジプトミイラに対して初めてがんの組織学的診断が行われた。
数百体のエジプトミイラを調査した結果,1体からしかがんが見つからなかったこと,文献でもがんについての記述がほとんど見つからなかったことから,古代において,がんは極めてまれな疾患であったとの結論。また,がんの罹患率は産業革命以降,劇的に増加し,特に小児がんで顕著であったことから,がんの増加は単に寿命延長の影響ではないことが示唆されるとしている。
工業化社会において,がんは心血管疾患に次いで2番目に多い死因だが,古代では極めてまれであった。このことから,古代の自然環境にはがんの要因になるものは存在せず,がんは環境汚染や食事・ライフスタイルの変化が原因の人為的疾患と考えざるをえない。
古代社会に手術という治療選択肢はなかったため,古代のミイラには必ずがんの痕跡が残っている。ミイラに事実上腫瘍組織が見つからないということは,古代においてがんがまれな疾患だったことを意味している。そしてこの事実は,がんの要因が現代の工業化社会にしか存在しないことを証明している。
古代人は現代人より短命であったため,がんが発生しなかったのではないかとする説がある。この説は統計学的には正しいものの,古代エジプトや古代ギリシャの人々は,実際にはアテローム動脈硬化症,骨パジェット病,骨粗鬆症などを発症する年齢まで長生きしており,骨腫瘍などはむしろ,現代社会においても若年者で発症しやすい。
それ以外にも,腫瘍組織が適切に保存できないため古代のミイラから腫瘍が発見されないという可能性も考えられる。しかし,これに対しても,腫瘍組織の特徴はミイラ化しても保存されることを実験的研究により証明されている。実際,正常組織よりも良好に保存されることを示した。このような知見が得られ,そして世界中のすべての地域のミイラ数百体が調査されたにもかかわらず,がんが顕微鏡的に確認されたとする論文はこれまで2件しかない。またカイロ博物館と欧州の博物館に安置されているミイラでも放射線学的調査が行われたが,やはりがんの痕跡は発見されなかった。
広範な古代エジプトのデータと過去1,000年にも及ぶ膨大なデータは,現代社会に対して明確なメッセージを発信している。がんはヒトが生み出した疾患で,われわれが対処でき,そして対処すべき対象であろう。

2011年6月15日水曜日

ボディースキャン

米国では,多くの空港で保安検査を目的とした全身ボディースキャナー(以下ボディースキャナー)の設置が進められている。カリフォルニア大学バークリー校公衆衛生学と同大学サンフランシスコ校放射線科で,このようなボディースキャナーによる潜在的な放射線被ばくリスクについて検討したところ,利用者に有意なリスクを及ぼすことはほとんどないことが明らかになった。
背景情報によると,米運輸保安局(TSA)は,これまでに国内の78空港に486台のボディースキャナーを設置しているが,2011年末までには1,000台を設置する予定である。これらのボディースキャナーは後方散乱X線を利用しており,実際に発する放射線量は極めて低いため,有害となりうるか否かは確認されていない。しかし,たとえ放射線量は低くても,航空機の利用者は年間7億5,000万人に上ること,また個々人におけるリスク上昇はわずかでも全体的にはがん患者数の増加となりうることから,ボディースキャナーによる発がんリスクについて検討する価値はある。
こうした装置による1回当たりの被ばく量は,日常生活における自然被ばく量に換算すると3~9分間の被ばく量に相当する。また,他の放射線源と比較しても,空港でのボディースキャンで,歯科X線検査,胸部X線検査,マンモグラフィ,腹部・骨盤部CTの1回当たりの放射線量に達するには,それぞれ50回,1,000回,4,000回,20万回以上受けなければならない計算になる。
今回の検討では,空港でのボディースキャンによる放射線被ばく量を(1)すべての航空機利用者(2)高頻度利用者(週10回利用)(3)高頻度に利用する5歳女児(週1回往復)—の3つのパターンごとに定量化し,潜在的な被ばくリスクを推算した。5歳女児を検討パターンの1つとした理由は,小児は成人と比べて放射線の影響を受けやすいこと,また飛行機の頻繁利用による乳がんリスクを評価したモデルが既に存在したことによる。
推算に当たっては,すべての乗客が1回のフライトごとに照射量0.1μシーベルトの全身ボディースキャンを1回受けるとし,1億人の乗客が年間計7億5,000万回利用すると仮定した。
解析の結果,すべての航空機利用者では,空港でのボディースキャンによる生涯のがん発症数は6件と推定された。しかし,これらの乗客における生涯のがん発症数は4,000万件にも上ると考えられる。このことを踏まえた上で,この6件によるリスクを評価すべきである。
高頻度利用者(100万人)では,ボディースキャンによる生涯のがん発症数は4件と推定された。これに関しても,この集団で高高度飛行に伴う宇宙放射線によりがんが600件発症すること,生涯のがん発症数も全体で40万件であることを前提に考えなければならない。また,高頻度に利用する5歳女児ではボディースキャンにより200万人に1人が乳がんを発症すると推算されたが,この集団でも頻回飛行による乳がん発症は25万件に上り,これは同集団の生涯乳がん発症数の12%を占めるとした。
今回の知見に基づけば,全身ボディースキャンによる健康上のリスクは非常に小さく,航空機利用者はそれを理由に同検査を恐れるべきではない。放射線に対し過敏に反応し,被ばくが心配だというのであれば,一切の航空機利用を考え直すべきだろう。なぜなら,些少ではあるが実際にリスクとなるのは航空機を利用すること自体で,ボディースキャンで微々たる放射線量を受けるからではないためだ。しかし,今後も,同装置の安全性検証のための追加試験を実施していくのが望ましいだろう。

2011年6月14日火曜日

医師不足でも長寿世界一

世界保健機関(WHO)は5月、2011年版の「世界保健統計」を発表、09年の日本の平均寿命は83歳で、前年と同様、イタリア中部の内陸国サンマリノと首位を分け合った。日本は、女性の平均寿命では86歳で単独首位を維持。男性は80歳でサンマリノ(82歳)に次いで2位。
WHOによると、喫煙率が比較的高い現状のままでは、日本は(平均寿命82歳の)オーストラリアに長寿世界一の座を譲るかもしれないとのこと。
平均寿命が最も短いのはアフリカ南部の内陸国マラウイで47歳。前年にいずれも42歳で最も短かったアフガニスタン、ジンバブエはそれぞれ48歳、49歳と大きく改善した。
また、00~10年の人口1万人当たりの医師の数では、日本が20・6人。欧州各国のほとんどが30~40人台であるのと比較すると医師不足が深刻といえる。米国は26・7人だった。
データが得られた国の中で、一番多かったのはキューバで64・0人、一番少なかったのはアフリカのタンザニアとリベリアで0・1人。世界の平均は14・0人だった。

2011年6月13日月曜日

中学生以下は窓口1割に 

社会保障と税の一体改革で、民主党の「社会保障と税の抜本改革調査会」がまとめた医療・介護制度の最終原案が明らかになった。医療機関の窓口で支払う自己負担割合について、中学生以下の場合は現行の2、3割から1割に軽減するなど、若者や現役世代に配慮した制度を構築するとしている。
民主党は、政府の「集中検討会議」がまとめる社会保障制度改革案に反映させるため、検討会議に提案する。年金や子育て分野などの議論も詰める。
最終原案では、医療費の自己負担割合の見直しを提起。中学生以下は1割とし、20歳未満は3割から2割に引き下げる一方で現在、暫定的に1割となっている70~74歳の負担を2割に戻すと例示している。20~69歳までは3割、75歳以上は1割とし、現行と同じ負担を求める。
窓口負担が限度額を超えた場合に払い戻しを受ける「高額療養費制度」については、高額で長期の療養が必要な場合、保険者の機能として負担軽減策を講じる。この機能を高めるため、(受診時に一定額を上乗せする)受診時定額負担制度の導入についても検討が加えられる。
介護保険制度では、保険料を支払う年齢を現在の40歳から引き下げることを提案。また、長く健康を保った場合、保険料を優遇するなどのインセンティブを考慮するとした。

2011年6月12日日曜日

睡眠時無呼吸症候群

睡眠呼吸障害の進展と心血管疾患の発生は関連していることが住民ベースの試験でわかった。これまでに行われた前向き試験では、睡眠呼吸障害が心血管疾患の発生および再発のリスクを増大することはわかっていたが、その逆の、心血管疾患の発生が睡眠呼吸障害を引き起こしたり、あるいは悪化させる原因となるのかについては明らかではなかった。米国・ボストン大学の研究で、地域に暮らす多様な背景を有する中高年2,721例を5年以上追跡し明らかになった。
研究グループは、心血管疾患歴のない40歳以上の2,721人を対象に、睡眠ポリグラフを試験開始時と5年以上経過後に行い、その間に発生した心筋梗塞、うっ血性心不全、脳卒中など心血管疾患イベントとの関連を評価する「Sleep Heart Health Study」を行った。
2回の睡眠ポリグラフ実施間の無呼吸低呼吸指数変化との関連について、年齢、性別、人種、試験を行った病院、糖尿病歴、BMIの変化、頸囲の変化、仰臥位睡眠の割合、2回の睡眠ポリグラフ実施の期間について補正後、一般線形モデルを用いて分析した。
その結果 ●被験者は、平均年齢62歳(標準偏差:10)、57%が女性、23%が少数民族であった。 ●睡眠ポリグラフの1回目と2回目の間に心血管疾患イベントが認められた被験者は、95例であった。 ●心血管疾患が認められた群のほうが、認められなかった群に比べ、2回の睡眠ポリグラフ実施間の補正後平均無呼吸低呼吸指数の上昇が大きく、両群間の差は2.75回/時であった。 ●心血管疾患が認められた群では、認められなかった群に比べ、2回の睡眠ポリグラフ実施間の閉塞性睡眠時無呼吸指数の上昇は1.75回/時、中枢性睡眠時無呼吸指数は1.07回/時、それぞれ大きかった。
本研究で、心血管疾患の発症自体が睡眠時無呼吸症候群(SAS)を増悪させることがわかった。これまでは、SASが心血管疾患のリスクとなるという因果関係を示す追跡研究であったが、この逆の因果関係を明確に示したのは本研究が初めてである。
SASが全くない群においては、心血管疾患が発症してもSASの増悪は見られない。しかし、無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上の軽度SASが存在する群においてのみSASの増悪がみられている。このことは、心血管疾患自体はSASの発症ではなく増悪・促進因子であることを示している。しかしその機序はよくわからない。心血管疾患により呼吸コントロール状態が不安定化することや、夜間臥位にて下半身から上半身(喉頭周囲)への体液シフトなどが、心血管疾患がSASの病態増悪機序として考えられる。
さらに、肺うっ血による肺刺激受容体の刺激や、慢性の過呼吸と低二酸化炭素血症により引き起こされる二酸化炭素に対する化学受容体感受性の亢進が呼吸コントロールの不安定化を引き起こす鍵となることが考察されている。
本研究は、心血管疾患とSASとに悪循環が形成されることを示している。今後、心血管疾患発症後の循環動態の改善自体がSASの進展を抑制できるかどうかを検討することが必要である。

2011年6月11日土曜日

70-74歳医療費に税金

税と社会保障の一体改革に関し、厚生労働省は、大半を現役世代の保険料で賄っている70~74歳の医療給付費(約3兆円)に、税金を投入する方向で検討に入った。当面は給付費の15%分を入れ、現役の負担を軽減する。新たに約3800億円(13年度)が必要となるため、民主党や財務省と調整し、政府が社会保障改革案への盛り込みを目指す。
75歳以上の後期高齢者医療制度には給付費(10年度予算、11・7兆円)の5割に税金が充てられている。しかし、65~74歳の前期高齢者医療(同5・3兆円)には直接税を投入する仕組みがなく、厚労省は税を入れる制度改革を目指してきた。
しかし、財源を調達できるメドが立たず、対象を前期の中でもより医療費がかかる70~74歳に絞ることにした。制度を分断する形で、特定の年齢層だけに税を投入するのは異例のことだ。それでも財務省との調整は難航する可能性がある。
一体改革で厚労省は「現役と高齢世代の負担の公平化」を打ち出した。前期医療は、大企業の健康保険組合などが支払う納付金で大半を賄っているが、健康保険組合連合会によると、11年度予算では健保組合全体で前期医療に1兆4621億円を払う。後期医療への支出も含めると保険料収入の45%を占め、保険料率アップや健保組合の解散を招いている。
このため前期医療について、70~74歳だけでも税を投入し現役の負担を軽くすることにした。08年度の1人当たりの給付費のうち保険料で賄った額は75歳以上が約39万円なのに対し、70~74歳は約46万円。水準をそろえるには70~74歳の給付費の15%に税を充てる必要があると判断した。
高齢者の医療費について、現役の会社員らは従来もOB向けに「退職者給付拠出金」を負担してきた。しかし、08年度の医療制度改革ですべてのお年寄りを支える仕組みに変わり、支払いが急増した。

2011年6月10日金曜日

抗てんかん薬服用中の母乳哺育

抗てんかん薬(AED)服用中の母親から母乳で育てられた乳児では,認知発達になんらかの影響が及ぶのではないかと懸念されている。エモリー大学(ジョージア州アトランタ)神経学の研究では,母乳哺育中に母親がAEDを服用しているか否かにより,小児のその後の知能指数(IQ)に有意差が生じることはなかった。
今後、より大規模な集団で検討する必要はあるが,今回の研究結果は,乳児を母乳で育てたいが,AEDの服用を継続する必要のある女性にとっては朗報である。
今回の研究では,子宮内でのAED曝露が胎児の認知機能に長期的に及ぼす影響が多施設で検討された。対象は1種類のAEDを服用していた妊婦から生まれた小児199例で,対象児が3歳になったときにIQ試験を実施した。
対象児の42%が母乳で育てられていた。IQ試験の結果,母乳哺育を受けた小児と受けなかった小児でIQスコアに差は認められなかった(母乳哺育群99点,非母乳哺育群98点)。
母親が服用していたAEDはカルバマゼピン,ラモトリギン,フェニトイン,バルプロ酸であり,最近の新しいAEDの影響に関しても,今後調査が必要だ。
米国神経学会のガイドラインでは,出生障害リスクと認知機能への影響のため,妊娠中のバルプロ酸の服用を避けるよう推奨している。また,複数のAEDの併用は,単剤のみの投与より出生障害リスクが高くなることから,妊娠中に複数のAEDを服用することを避けるよう推奨している。
今回の研究は,AED服用中の妊婦の母乳哺育に関する初めての大規模試験といえるだろう。こうした薬剤の影響に関する情報がないため,これまで多数の女性が母乳を与えないよう指導されている。母乳哺育により母親と乳児は感情面で多大な便益が得られるほか,乳児で心疾患・糖尿病・肥満リスク,母親で乳がん・子宮がんリスクが低下するなどさまざまな効果がある。
また、今回の研究により,AEDが母乳に及ぼす長期的な影響については,さらなる研究が必要だと分かった。

2011年6月9日木曜日

大うつ病性障害

ピッツバーグ大学内科・小児科の研究で,ティーンエージャーを対象に各種メディアの利用と大うつ病性障害リスクとの関連を検討。音楽をよく聞く青少年では大うつ病性障害リスクが高い一方,本や雑誌などを読むことが多い者では同リスクは低かった。
今回の研究では,携帯電話を用いて,各種メディアの利用状況が調査された。
具体的には,各被験者に電話を計60回かけ,そのときに(1)テレビや映画(2)音楽(3)ビデオゲーム(4)インターネット(5)雑誌,新聞,書籍などの活字媒体—のいずれかを利用していたかどうかを尋ね,これまでの連続的な生活様式の指標とした。対象は青少年106例(大うつ病性障害46例,健康対照60例)で,2カ月にわたる調査期間中の5回の三連休を利用して電話がかけられた。
多変量解析の結果,音楽の視聴と大うつ病性障害リスクに正の相関が認められた。一方,本など活字媒体の利用との間には負の相関が見られた。それ以外のメディアとの間には有意な関連は認められなかった。
現在のところ,うつ病患者が現実から逃れるために音楽をより多く聞くようになるのか,音楽を多く聞くことで抑うつ状態に至るのかなどの因果関係については分かっていない。今回の研究結果はメディアとうつ病との関連性を理解する上で役立つだろう。読書が大うつ病性障害リスクの低下と相関することが示されたことも重要だ。米国では全体的に読書量が少なくなってきている一方,それ以外のメディアに関しては,ほぼ使用が増えている。
大うつ病性障害は,臨床的うつ病または大うつ病ともいわれ,世界各地で障害の主因となっている。米国立精神保健研究所によると,青少年期に大うつ病性障害を発症することは珍しくなく,ティーンエージャーの12人に1人が罹患すると考えられている。

2011年6月8日水曜日

末期がん患者のQOL

末期がん患者に対する化学療法では、医師はこれを継続することで良好な健康状態を維持しようとするのに対し、看護師は継続に疑念を示し、余命の有効活用を優先する傾向があることが、オランダ・アムステルダム大学の調査で明らかになった。がん治療の進歩により有効な治療法が増え、末期がん患者に対する化学療法薬投与の決定は繊細で複雑なプロセスとなっているが、最近の調査では末期がん患者への化学療法施行は増加し、「がん治療の積極傾向」と呼ばれる状況にある。医療従事者は患者の利益となる治療を提供する義務があるが、患者の自律性に重きが置かれる社会では患者利益は先験的に明らかなわけではなく、化学療法の利益と負担に関する医療従事者の考え方もほとんど知られていないという。
研究グループは、末期がん患者に対する化学療法施行時の医療従事者の経験およびその姿勢について、主に治療者としての考え方を引き出すことを目的に、面接に基づく質的調査を行った。
2010年6~10月に、オランダの大学病院および一般病院の腫瘍科に所属し、転移性がんの治療に当たる医師14人(平均年齢41歳、女性8人)および看護師13人(同:40歳、11人)に対し半構造的面接を行った。
医師と看護師は、不良な予後や治療選択肢について患者に十分な説明を試みたと述べた。また、化学療法の効果と有害事象を十分に考慮し、場合によっては治療を続けることが患者のQOLに寄与するか疑わしいこともあったと答えた。
医師、看護師ともに、患者の健康状態を良好に保つことが重要と考えていた。医師は化学療法を継続することで患者の健康を維持しようとし、患者がそれに従うことが多い傾向がみられた。これに対し、看護師は化学療法の継続に疑念を表明する傾向が強く、患者が残された時間を最大限に活用できるように配慮するほうがよいと考えていた。
治療上のジレンマや治療に対する患者の意向に直面した場合、医師は「では、もう1回だけ試してみませんか」などの妥協案を提示することを好んだ。化学療法施行中に、患者と死や臨終について語り合うことは、患者の希望を失わせる可能性があるとして、治療とは矛盾する行為と考えられていた。
末期がん患者に対し化学療法を継続する傾向は、患者と医師の「あきらめない」という態度の相互補強、および患者QOLに関する医師の広範な解釈の仕方で説明可能と考えられ、これは「治療を控えることで患者の希望を奪うのは危険」との考え方が元になっていると推察された。生命予後とQOLのバランスを取り戻すには、医師以外の医療従事者、とりわけ看護師の意見の導入が必要と考えられる。

2011年6月7日火曜日

子どもの車内事故

子ども連れでドライブに出かける機会が多い夏は、車内での事故に気をつけたい。春から初夏にかけての季節でも、車内は高温になることがあり、熱中症の危険がある。子どもだけにしないなどの注意が必要だ。
日本自動車連盟(JAF)は、「子どもの車内事故」について、インターネットで調査した。アンケートは昨年12月から今年1月にかけて行い、全国の車の利用者7048人が回答した。
「12歳未満の子どもだけを残して車を離れたことがある」と答えた人は28・2%いた。
理由は、「子どもが寝ていて、数分で終わる用事だった」「子どもが嫌がって降りようとしなかった」「わざわざ降ろすとまたチャイルドシートをするのが面倒」などが挙がった。
外が涼しく感じる季節でも、熱中症に気をつけねばならない。
JAFは2007年4月末、早朝からの車内の温度変化を調べた。最高気温は23℃だったが、昼前には運転席の温度は40℃に達した。午後2時過ぎには48・7℃になった。
短時間で戻るから、子どもが眠っているからといって、置き去りにするのは危険。
長時間屋外に駐車した後は、チャイルドシートの金具部分が熱くなっていることがある。やけどしないよう、まず大人が触ってみてから子どもを座らせるようにする。
また、アンケートでは、「子どもが車内でけがをしたり危険な目にあったりした経験がある」と答えた人が28・3%いた。
「少しの距離だからと子どもを助手席に立たせたままにしていたら、ダッシュボードに体をぶつけた」「車から降りるとき、子どもが追いかけてきたのに気づかずドアを閉めてしまい、指を挟み骨折した」「停車中に子どもが自分でサンルーフの開閉スイッチを押してしまい指を挟んだ」といった例があった。ドアやパワーウインドーに挟まれる事故が目立つ。
車内では、子どもに声を掛けたり、バックミラーで見たりして、こまめに様子を確認しよう。

2011年6月1日水曜日

腸内細菌叢

瞳の色や血液型と同じように、腸内に繁殖する細菌によってヒトを分類できることが新しい研究で判明した。研究グループによると、ヒトの腸内細菌叢(bacterial flora)には3つの型があり、存在する細菌種とその比率によって区別できるという。
研究によると、ヒトの腸には500~1,000種の細菌が生息しており、それぞれがミクロの生態系の中で互いに競合や協力しながら宿主である人体と共生的関係をもちバランスを保っている。微生物は単独ではなくコミュニティとして活動しており、宿主であるわれわれの食べるものなどにも適応しなくてはならない。
今回の研究では、ヨーロッパ諸国(デンマーク、フランス、イタリア、スペイン)居住の2人から便検体を採取し、DNAを抽出して細菌種を判定。さらに、日本人13人および米国人2人の過去のデータ、別のデンマーク人、米国人154人のデータを追加した。分析の結果、細菌叢を3つのカテゴリーに分類できることが判明。例えば、タイプ1はバクテロイデス(Bacteroides)属の比率が高く、タイプ2はバクテロイデス属が比較的少なくプレボテラ(Prevotella)属の比率が高かった。タイプ3ではルミノコッカス(Ruminococcus)属が多かった。さらに多くのデータを検討すればサブタイプ(亜型)が見つかる可能性もあるようだ。
腸内細菌叢がヒトの健康に重要な役割を果たすことが理解されはじめて以来、どれほどの細菌が存在するのかが課題となっていた。もし無限にあるのならば、その情報を利用するのは不可能である。今回の研究は、細菌叢のバリエーションが無限ではないことを明らかにする上で大きな飛躍にとなるものだ。研究グループによると、年齢、性別、体重などの特徴と腸内細菌叢の型に相関があるとの証拠は得られなかったが、検体をすべて検討すると年齢、性別、体重と細菌の特定の遺伝子マーカーとの間に相関がみられ、いずれはこのような情報から、疾患や疾患になりやすさを知る上で活用できる可能性があるという。