2011年6月15日水曜日

ボディースキャン

米国では,多くの空港で保安検査を目的とした全身ボディースキャナー(以下ボディースキャナー)の設置が進められている。カリフォルニア大学バークリー校公衆衛生学と同大学サンフランシスコ校放射線科で,このようなボディースキャナーによる潜在的な放射線被ばくリスクについて検討したところ,利用者に有意なリスクを及ぼすことはほとんどないことが明らかになった。
背景情報によると,米運輸保安局(TSA)は,これまでに国内の78空港に486台のボディースキャナーを設置しているが,2011年末までには1,000台を設置する予定である。これらのボディースキャナーは後方散乱X線を利用しており,実際に発する放射線量は極めて低いため,有害となりうるか否かは確認されていない。しかし,たとえ放射線量は低くても,航空機の利用者は年間7億5,000万人に上ること,また個々人におけるリスク上昇はわずかでも全体的にはがん患者数の増加となりうることから,ボディースキャナーによる発がんリスクについて検討する価値はある。
こうした装置による1回当たりの被ばく量は,日常生活における自然被ばく量に換算すると3~9分間の被ばく量に相当する。また,他の放射線源と比較しても,空港でのボディースキャンで,歯科X線検査,胸部X線検査,マンモグラフィ,腹部・骨盤部CTの1回当たりの放射線量に達するには,それぞれ50回,1,000回,4,000回,20万回以上受けなければならない計算になる。
今回の検討では,空港でのボディースキャンによる放射線被ばく量を(1)すべての航空機利用者(2)高頻度利用者(週10回利用)(3)高頻度に利用する5歳女児(週1回往復)—の3つのパターンごとに定量化し,潜在的な被ばくリスクを推算した。5歳女児を検討パターンの1つとした理由は,小児は成人と比べて放射線の影響を受けやすいこと,また飛行機の頻繁利用による乳がんリスクを評価したモデルが既に存在したことによる。
推算に当たっては,すべての乗客が1回のフライトごとに照射量0.1μシーベルトの全身ボディースキャンを1回受けるとし,1億人の乗客が年間計7億5,000万回利用すると仮定した。
解析の結果,すべての航空機利用者では,空港でのボディースキャンによる生涯のがん発症数は6件と推定された。しかし,これらの乗客における生涯のがん発症数は4,000万件にも上ると考えられる。このことを踏まえた上で,この6件によるリスクを評価すべきである。
高頻度利用者(100万人)では,ボディースキャンによる生涯のがん発症数は4件と推定された。これに関しても,この集団で高高度飛行に伴う宇宙放射線によりがんが600件発症すること,生涯のがん発症数も全体で40万件であることを前提に考えなければならない。また,高頻度に利用する5歳女児ではボディースキャンにより200万人に1人が乳がんを発症すると推算されたが,この集団でも頻回飛行による乳がん発症は25万件に上り,これは同集団の生涯乳がん発症数の12%を占めるとした。
今回の知見に基づけば,全身ボディースキャンによる健康上のリスクは非常に小さく,航空機利用者はそれを理由に同検査を恐れるべきではない。放射線に対し過敏に反応し,被ばくが心配だというのであれば,一切の航空機利用を考え直すべきだろう。なぜなら,些少ではあるが実際にリスクとなるのは航空機を利用すること自体で,ボディースキャンで微々たる放射線量を受けるからではないためだ。しかし,今後も,同装置の安全性検証のための追加試験を実施していくのが望ましいだろう。

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