2011年6月16日木曜日

がんは人為的な現代病

マンチェスター大学生物医学エジプト学KNHセンターの研究で、がんは汚染や食事などの環境因子によって引き起こされる現代病で,ヒトによってつくり出された可能性が高いことがわかった。古代エジプト・ギリシャとそれ以前の時代の遺物と文献を調査した今回の研究では,エジプトミイラに対して初めてがんの組織学的診断が行われた。
数百体のエジプトミイラを調査した結果,1体からしかがんが見つからなかったこと,文献でもがんについての記述がほとんど見つからなかったことから,古代において,がんは極めてまれな疾患であったとの結論。また,がんの罹患率は産業革命以降,劇的に増加し,特に小児がんで顕著であったことから,がんの増加は単に寿命延長の影響ではないことが示唆されるとしている。
工業化社会において,がんは心血管疾患に次いで2番目に多い死因だが,古代では極めてまれであった。このことから,古代の自然環境にはがんの要因になるものは存在せず,がんは環境汚染や食事・ライフスタイルの変化が原因の人為的疾患と考えざるをえない。
古代社会に手術という治療選択肢はなかったため,古代のミイラには必ずがんの痕跡が残っている。ミイラに事実上腫瘍組織が見つからないということは,古代においてがんがまれな疾患だったことを意味している。そしてこの事実は,がんの要因が現代の工業化社会にしか存在しないことを証明している。
古代人は現代人より短命であったため,がんが発生しなかったのではないかとする説がある。この説は統計学的には正しいものの,古代エジプトや古代ギリシャの人々は,実際にはアテローム動脈硬化症,骨パジェット病,骨粗鬆症などを発症する年齢まで長生きしており,骨腫瘍などはむしろ,現代社会においても若年者で発症しやすい。
それ以外にも,腫瘍組織が適切に保存できないため古代のミイラから腫瘍が発見されないという可能性も考えられる。しかし,これに対しても,腫瘍組織の特徴はミイラ化しても保存されることを実験的研究により証明されている。実際,正常組織よりも良好に保存されることを示した。このような知見が得られ,そして世界中のすべての地域のミイラ数百体が調査されたにもかかわらず,がんが顕微鏡的に確認されたとする論文はこれまで2件しかない。またカイロ博物館と欧州の博物館に安置されているミイラでも放射線学的調査が行われたが,やはりがんの痕跡は発見されなかった。
広範な古代エジプトのデータと過去1,000年にも及ぶ膨大なデータは,現代社会に対して明確なメッセージを発信している。がんはヒトが生み出した疾患で,われわれが対処でき,そして対処すべき対象であろう。

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