2011年6月12日日曜日

睡眠時無呼吸症候群

睡眠呼吸障害の進展と心血管疾患の発生は関連していることが住民ベースの試験でわかった。これまでに行われた前向き試験では、睡眠呼吸障害が心血管疾患の発生および再発のリスクを増大することはわかっていたが、その逆の、心血管疾患の発生が睡眠呼吸障害を引き起こしたり、あるいは悪化させる原因となるのかについては明らかではなかった。米国・ボストン大学の研究で、地域に暮らす多様な背景を有する中高年2,721例を5年以上追跡し明らかになった。
研究グループは、心血管疾患歴のない40歳以上の2,721人を対象に、睡眠ポリグラフを試験開始時と5年以上経過後に行い、その間に発生した心筋梗塞、うっ血性心不全、脳卒中など心血管疾患イベントとの関連を評価する「Sleep Heart Health Study」を行った。
2回の睡眠ポリグラフ実施間の無呼吸低呼吸指数変化との関連について、年齢、性別、人種、試験を行った病院、糖尿病歴、BMIの変化、頸囲の変化、仰臥位睡眠の割合、2回の睡眠ポリグラフ実施の期間について補正後、一般線形モデルを用いて分析した。
その結果 ●被験者は、平均年齢62歳(標準偏差:10)、57%が女性、23%が少数民族であった。 ●睡眠ポリグラフの1回目と2回目の間に心血管疾患イベントが認められた被験者は、95例であった。 ●心血管疾患が認められた群のほうが、認められなかった群に比べ、2回の睡眠ポリグラフ実施間の補正後平均無呼吸低呼吸指数の上昇が大きく、両群間の差は2.75回/時であった。 ●心血管疾患が認められた群では、認められなかった群に比べ、2回の睡眠ポリグラフ実施間の閉塞性睡眠時無呼吸指数の上昇は1.75回/時、中枢性睡眠時無呼吸指数は1.07回/時、それぞれ大きかった。
本研究で、心血管疾患の発症自体が睡眠時無呼吸症候群(SAS)を増悪させることがわかった。これまでは、SASが心血管疾患のリスクとなるという因果関係を示す追跡研究であったが、この逆の因果関係を明確に示したのは本研究が初めてである。
SASが全くない群においては、心血管疾患が発症してもSASの増悪は見られない。しかし、無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上の軽度SASが存在する群においてのみSASの増悪がみられている。このことは、心血管疾患自体はSASの発症ではなく増悪・促進因子であることを示している。しかしその機序はよくわからない。心血管疾患により呼吸コントロール状態が不安定化することや、夜間臥位にて下半身から上半身(喉頭周囲)への体液シフトなどが、心血管疾患がSASの病態増悪機序として考えられる。
さらに、肺うっ血による肺刺激受容体の刺激や、慢性の過呼吸と低二酸化炭素血症により引き起こされる二酸化炭素に対する化学受容体感受性の亢進が呼吸コントロールの不安定化を引き起こす鍵となることが考察されている。
本研究は、心血管疾患とSASとに悪循環が形成されることを示している。今後、心血管疾患発症後の循環動態の改善自体がSASの進展を抑制できるかどうかを検討することが必要である。

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