2014年7月8日火曜日

A群溶血性レンサ球菌感染症

A群溶血性レンサ球菌は、上気道炎や化膿性皮膚感染症などの原因菌としてよくみられるグラム陽性菌で、菌の侵入部位や組織によって多彩な臨床症状を引き起こします。日常よくみられる疾患として、急性咽頭炎の他、膿痂疹、蜂巣織炎、あるいは特殊な病型として猩紅熱がります。これら以外にも中耳炎、肺炎、化膿性関節炎、骨髄炎、髄膜炎などを起こします。また、菌の直接の作用でなく、免疫学的機序を介して、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を起こすことが知られています。さらに、発症機序、病態生理は不明ですが、軟部組織壊死を伴い、敗血症性ショックを来たす劇症型溶血性レンサ球菌感染症(レンサ球菌性毒素性ショック症候群)は重篤な病態として問題です。ここでは、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べます。
<疫学>
 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎はいずれの年齢でも起こり得ますが、学童期の小児に最も多く、3歳以下や成人では典型的な臨床像を呈する症例は少ないです。感染症発生動向調査のデータによると、冬季および春から初夏にかけての2 つの報告数のピークが認められています。近年、全体の報告数が増加する傾向にありますが、迅速診断キットの普及などで診断技術が向上したことによる可能性もあります。
 本疾患は通常、患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに起こりやすく、家庭、学校などの集団での感染も多いです。感染性は急性期にもっとも強く、その後徐々に減弱します。急性期の感染率については兄弟での間が最も高率で、25%と報告されています。
<症状>
潜伏期は25日ですが、潜伏期での感染性については不明です。突然の発熱と全身倦怠感、咽頭痛によって発症し、しばしば嘔吐を伴います。咽頭壁は浮腫状で扁桃は浸出を伴い、軟口蓋の小点状出血あるいは苺舌がみられることがあります。
 猩紅熱の場合、発熱開始後12 24 時間すると点状紅斑様、日焼け様の皮疹が出現します。針頭大の皮疹により、皮膚に紙ヤスリ様の手触りを与えることがあります。特に腋窩、ソケイ部など皮膚のしわの部分に多く、これに沿って線が入っているようにみえることもあります。顔面では通常このような皮疹は見られず、額と頬が紅潮し、口の周りのみ蒼白にみえる(口囲蒼白)ことが特徴的です。また、舌の変化として、発症早期には白苔に覆われた舌がみられ、その後白苔が剥離して苺舌となります。1週目の終わり頃から顔面より皮膚の膜様落屑が始まり、3週目までに全身に広がります。
 合併症として、肺炎、髄膜炎、敗血症などの化膿性疾患、あるいはリウマチ熱、急性糸球体腎炎などの非化膿性疾患を生ずることもあります。
<治療・予防>
治療にはペニシリン系薬剤が第1選択薬ですが、アレルギーがある場合にはエリスロマイシンが適応となり、またセフェム系薬剤も使用可能です。いずれの薬剤もリウマチ熱、急性糸球体腎炎など非化膿性の合併症予防のために、少なくとも10日間は確実に投与することが必要です。
予防としては、患者との濃厚接触をさけることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も励行します。接触者に対する対応としては、集団発生などの特殊な状況では接触者の咽頭培養を行い、陽性であれば治療を行います。
本疾患は適切な抗生剤治療が行われれば、ほとんどの場合24時間以内に他人への伝染を防げる程度に病原菌を抑制できることもあり、登校登園については、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断すべきであると考えられます。


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