2011年5月15日日曜日

がん患者増加

米国がん協会(ACS)は,肺がんや乳がん,大腸がんなどライフスタイルや経済発展に伴う行動様式の変化に関連するがんは,今後,広く予防策を講じなければ,発展途上国で増加の一途をたどるとの見通しを発表。全世界では,2030年までにがん患者,死亡者数が倍増すると予測している。
国際がん研究機関によると,2008年における全世界の新規がん患者数は1,270万人で,そのうち560万人は先進国,710万人が発展途上国で発生している。2008年のがん死亡者数は,全世界で760万人と推定され,内訳は先進国で280万人,発展途上国では480万人であった。世界のがん疾患負担は,2030年までにがん患者数2,140万人,がん死亡は1,320万人と,約2倍に膨らむと見込まれている。
患者数や死亡者数の増加は,人口増加や人口の高齢化など人口動態の変化によるものだけでなく,喫煙や不健康な食生活,運動不足など経済発展に伴うライフスタイルや行動様式の変化により,さらに悪化する可能性がある。
今回の報告では,先進国と発展途上国のがん罹患率の比較から,両者で発生しているがんの種類の違いが浮き彫りになっている。
先進国において,2008年に最も多く発生した上位3つのがんは,男性では前立腺がん,肺がん,大腸がん,女性では乳がん,大腸がん,肺がんだった。一方,発展途上国においては,男性では肺がん,胃がん,肝がん,女性では乳がん,子宮頸がん,肺がんだった。
発展途上国ではライフスタイルの変化によって,肺がんで死亡する患者が増加している。欧米のほとんどの国で男性の肺がん死亡率は低下しているが,中国やアジア,アフリカの一部の国では上昇しており,これらの国々では,早期からの喫煙習慣で喫煙率が上昇し続けている。
女性の肺がん率は,米国においては頭打ちとなっているが,多くの国で上昇しており,その傾向はスペインやフランス,ベルギー,オランダで顕著である。特に若年女性の罹患率が上昇していることから,これらの国々における女性の肺がんは,大規模な介入を実施しなければ,今後数十年にわたり増え続ける可能性が示唆された。
大腸がんの罹患率は米国では減少しているが,スペインや東南アジア諸国の多く,東欧諸国など歴史的にはリスクが低かった国々において,急激に上昇している。
今回の報告の中には,がんが大きな問題となっているアフリカについて,特別セクションが盛り込まれた。国際がん研究機関によると,アフリカにおける2008年のがん新規患者数は68万1,000人,がん死亡は51万2,400人だった。人口の高齢化や人口増加,さらに喫煙や不健康な食生活,運動不足など,経済発展や都市化に伴う行動やライフスタイルの変化により,2030年までに新規患者数は128万人,死亡は97万人に倍増すると見込まれている。
報告書は,アフリカでは資源不足やHIV/エイズ,マラリア,結核といった感染症など,差し迫った公衆衛生上の問題が山積していることから,がんの社会負担が増大しているにもかかわらず,がん対策の優先順位は低いと指摘している。
アフリカでは,がん検診制度などの医療サービスが欠如し,初期症状に対する市民や医療従事者の理解度が低いために,がんが進行した段階で診断されることが多い。
また,がん診断後の生存率も先進国に比べて低い。例えば,乳がんの5年生存率は,米国では90%であるのに対して,ガンビアやウガンダ,アルジェリアでは50%以下である。
喫煙は世界のがん死亡原因の20%を占め,最も予防効果の高い危険因子だが,アフリカのがん死のうち,喫煙によるものは6%にすぎない。喫煙の影響が少ないことは,アフリカではまだ喫煙がそれほど流行していないことや,女性の喫煙率が低いことを反映したものと考えられる。しかし,経済発展に伴うライフスタイルの変化や,たばこ産業によるアフリカを対象としたマーケティングの拡大などにより,多くのアフリカ諸国ではたばこ消費量が増加している。特に,10歳代の喫煙率の増加は重大な懸念材料である。
Global Youth Tobacco調査によると,アフリカの一部では,少年の喫煙率が成人の喫煙率より高い国もあるとされている。
アフリカの大半の国々は,たばこ規制枠組み条約を批准しているが,ガイドラインに沿って禁煙プログラムを実施している国はほとんどない。
2008年における760万人のがん死亡例のうちおよそ260万人,すなわち1日当たり7,300人の死亡は,喫煙や食生活,感染症や飲酒など,既知の危険因子を回避することで,予防可能であったという。
がん征圧に向けた知識を世界各国や地域の能力および経済の発展段階に応じた方法で応用することにより,次の20~30年間にがん死亡を減らすことができるかもしれない。そのためには,政府や公衆衛生機関,援助資金供給者,民間部門が,国や地域レベルでのがん征圧プログラムを世界規模で開発,導入する必要があろう。

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