2011年2月26日土曜日

受動喫煙

受動喫煙は世界各国で問題となっているが、世界レベルでどの程度の健康被害をもたらしているかについては明確にされていない。世界保健機関(WHO)「タバコのない世界構想」が、2004年時の192カ国のデータを解析したところ、受動喫煙が原因で年間に推定60万人超が死亡していたことが分かった。これは、世界中の全死亡の約1%に相当するという。
今回の研究は、全世界で受動喫煙がもたらす疾病負担を評価した初めてのもの。2004年の各国の疫学データやWHOのデータを用いて受動喫煙による死亡数と障害調整生存年数を算出し、受動喫煙による疾病負担を評価した。
その結果、全世界で小児の40%、非喫煙女性の35%、非喫煙男性の33%が受動喫煙にさらされていることが分かった。また、2004年の受動喫煙に関連した全死亡数は60万3,000人と推定された。これは、全世界の死亡数の約1%に相当する。これらの死亡の47%が女性、28%が小児、26%が男性で発生していた。
同年の受動喫煙に関連した死亡で多かったのは、成人における虚血性心疾患(IHD)による死亡で、37万9,000件であった。次いで、5歳未満の乳幼児における下気道感染症による死亡16万5,000件、成人および小児における喘息による死亡3万6,900件、成人における肺がんによる死亡2万1,400件が続いた。
受動喫煙によるDALY損失は1,090万年で、同年の全世界における疾患負担の約0.7%に相当した。また、全DALY損失の61%を小児が占めていた。
受動喫煙がもたらした疾患負担で最大であったのは、5歳未満の小児における下気道感染症による負担で、次いで成人のIHD、成人と小児の喘息と続いた。
受動喫煙による小児の死亡数は特に低・中所得国で多かったが、成人の死亡数についてはすべての所得国で同等であった。
受動喫煙に起因した小児の死亡の3分の2は、アフリカや東南アジア諸国で発生している。小児の受動喫煙のほとんどは家庭内での曝露である。これらの国や地域では、感染症とたばこが小児の死亡の複合的な原因となっていると考えられる。
世界全体で見ても、受動喫煙にさらされている割合が最も高いのは小児である。小児の場合、主要な曝露源である家庭内の喫煙者から逃れるすべがない。家庭内で受動喫煙にさらされている小児は、ほとんどの国や地域で見られたが、特にアジアや中東諸国で多かった。小児は受動喫煙の害に関する強いエビデンスが得られている人口集団である。したがって、これらの事実は公衆衛生上の提言の根幹となるべきものであり、政策立案者が勘案すべき事項であるといえる。
また、受動喫煙に関連する全死亡数の約3分の2,DALY損失の約4分の1を成人非喫煙者におけるIHDによる死亡が占めていたが、職場での喫煙を禁止する禁煙法の施行により急性冠動脈イベントの数は急減している。完全禁煙法が施行されれば、施行後1年以内に受動喫煙による死亡が大幅に減少し、それに伴って社会・医療システムにおける疾病負担も減少すると見込まれる。
一方、受動喫煙による死亡数を男女別に見ると、男性に比べて女性で多かった。この原因について、(1)非喫煙者数が男性に比べて女性で多い(2)アフリカ、南北アメリカの一部地域、東地中海沿岸諸国、東南アジアでは、女性の受動喫煙リスクが男性に比べて50%以上高いことが挙げられる。
2004年の能動喫煙による死亡数は全世界で510万人と推定されており、今回明らかになった受動喫煙による死亡数を合計すると570万人超に上る。今回の研究では、喫煙者は受動喫煙によるさらなる影響は受けないとの想定の下で解析が行われた。しかし、受動喫煙の影響が喫煙者と非喫煙者で同等であるとすれば、受動喫煙による死亡数は30%多く推定される。
完全禁煙法が施行されている国の住民は世界人口の7.4%にすぎず、完全禁煙法が確実に施行されている国は数カ国にとどまる。しかし、完全禁煙法の施行により受動喫煙リスクは飲食店などで90%、一般の場所では60%低下することが、これまでの研究で示されている。また、完全禁煙法の施行は非喫煙者を受動喫煙から守るだけでなく、喫煙者の禁煙成功率も高めるようだ。
受動喫煙を削減するために、政策立案者は以下の2領域で行動を起こすべきである。まず、多くの地域で女性や小児を受動喫煙から守るには、家庭での受動喫煙曝露を減らすための補足的な教育戦略が必要になる。自発的な家庭内禁煙を促す政策は、小児や成人非喫煙者の受動喫煙の機会、さらに成人の喫煙を減らし、若年者の喫煙を減らす上でも有効と考えられる。また、低所得国では受動喫煙が多くの5歳未満児の死亡原因となっている。発展途上国では、たばこ関連疾患対策よりも感染症対策が先決であるという誤解を早急に正す必要がある。
禁煙法の施行に伴う社会的規範の変化は家庭内にも波及すると考えられるが、家庭内における受動喫煙を減らすには、その家庭独自の方法で減らせるように動機付けるイニシアチブが必要だ。たばこの煙のない家庭が普通になりつつあるとはいえ、世界的にはまだ多い。世界中の喫煙者12億人が、何十億人もの非喫煙者を疾患の原因となる大気汚染物質にさらしている。完全に取り除ける大気汚染物質源は少ないが、屋内の喫煙をなくすことは可能である。そのことにより多大な便益が得られる。

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